しょうちゃんの冒険
〜魔法のマント〜
ある街に、しょうちゃんと云う男の子がいました。
しょうちゃんは、とてもイタズラ好きで、街の人達は大変困っていました。
ある日、イタズラに飽きたしょうちゃんは、街を出て冒険に行く決心をしました。
そうと決まれば旅立ちの準備です。貯金箱を引っくり返し、出てきたお金で食べ物や飲み物を買いました。
大好物のチーズケーキも買いました。
冒険への期待で、しょうちゃんの心臓はバクバクのドッキンドッキンです。
その夜は、なかなか眠れませんでした。
ようやく眠れた頃、東の空が明るくなって来ました。
夜明けを知ったしょうちゃんは眠いのもぶっ飛び、ベッドから飛び起きました。
荷物を持ち、犬のタローに別れを告げ街を出発しました。
街を出たしょうちゃんは、大きな森に入りました。その森の中を何日も歩き続けたしょうちゃんは、とても疲れていました。食べ物も飲み物も、大好きなチーズケーキも残りわずかです。
早く街か村を探さなければなりません。
急ぐしょうちゃんが、やっと森から出られると思った時です。大きな木の下に1人のおじいさんが倒れているのを見つけました。
緑色のやたらと長いローブを着ていて、同じぐらい長くて白いヒゲのおじいさんです。しょうちゃんは、おじいさんの顔をのぞき込みました。
その瞬間です。おじいさんの目がパチッと開いたのです。びっくりしたしょうちゃんは、心臓が止まりそうになりました。
やっと息が出来たしょうちゃんに、おじいさんは云いました。
「腹が減った。食い物をくれ」
自分が食べられそうで恐かったしょうちゃんは、持っていた食べ物を全部あげてしまいました。
それらを 凄い勢いで食べたおじいさんは、パンパンのお腹をさすりながら云いました。
「ありがとう、お礼をしなくては。
わしを家までおぶってくれんか。ちと食べ過ぎて歩けん」
しょうちゃんは、おじいさんを家まで連れて行ってあげました。
「んしょ、んしょ」
おじいさんの家は、来た道を半分ほど戻った所にありました。
おじいさんの家の扉は、とても不思議な色をしていました。
赤色に見えたり青色に見えたりします。黄色にも緑色にも見えます。
扉だけではありません。壁も屋根も窓も不思議な色です。まるで、虹を材料に作った家みたいでした。
その扉を開けて中に入ると大きな暖炉があり、小さな猫が寝そべっています。
とてもキレイなピンク色の猫でした。
「その猫は、わししか触れん。近寄るとケガをしてしまうぞ。
お礼の品を取ってくるから、ちょっと待っていておくれ」
そう云って、おじいさんは奥の部屋へと行きました。
だけど、ふわふわの毛を触ってみたかったしょうちゃんは、猫に近づいてみました。
足音を聞き目を覚ました猫の瞳は、真っ青な空の色でした。
しょうちゃんは、猫じゃらしを使ったり小さなボールを転がしたりして、ピンク色の猫と遊ぼうとしました。
しばらく様子を見ていた猫が近づいて来ます。しょうちゃんがなでてやると、気持ち良さそうに目を細め、鈴の音のような声で鳴きました。
しょうちゃんは、このピンク色の猫が大好きになりました。
そして、戻って来たおじいさんに云いました。
「この猫が欲しいです。ダメですか?」
金貨や食べ物を用意していたおじいさんは、びっくりしました。
ですが、猫の様子を見て喜んで譲ってくれたのです。猫の分の食べ物もくれました。
「この猫には魔法がかけられている。その魔法を解く事が出来れば、きっと幸せになれるだろう。
このマントは、そのために必要だろうから持って行きなさい」
と云って、緑色のマントもくれました。
そのマントを着けると不思議な事が起きました。しょうちゃんの体が軽くなって宙に浮いたのです。
おじいさんにお礼を云って外に出たしょうちゃんは、勢いよく地面を蹴ってみました。
すると、うっそうとした森を突き抜け、青空が広がりました。
空から道を見つけ、やっと森を出る事が出来たしょうちゃんは、次の街を目指しました。
何日か歩いた後、街が見えてきました。
しかし、その街の人たちは暗い顔をしていました。
パン屋のおじさんも宿屋のおばさんも子供も、犬や鳥でさえも。
しょうちゃんは、教会に行って話を聞く事にしました。
「ああ、旅のお方ですか。いつもは賑やかな街なのですが、実は…」
話を聞いたしょうちゃんは、大変びっくりしました。魔王が現れて、この国のお姫様をさらって行ったのです。
国の兵士が魔王城に向かいましたが、誰1人帰って来ません。
王様もお妃様もショックで寝込んでしまいました。
わくわくドキドキが大好きなしょうちゃんは、魔王退治に行く事にしました。
神父様に頼んで剣や盾を用意してもらったしょうちゃんは、ピンク色の猫を預けて魔王城へと向かいました。
山を越え谷を渡り、やっと魔王城に着きました。しょうちゃんは、たくさんの魔物をやっつけて、どんどん上を目指しました。
そして、魔王のいる部屋の扉を開けました。魔王は、とても大きくて、とても強そうです。
でも、しょうちゃんは全然恐くありません。だって、わくわくドキドキでいっぱいだったから。
大きく息を吸い込んだしょうちゃんは、剣を振りかざし掛け声とともに魔王に向かって行きました。
魔王は炎を吐いてきたり、鋭い爪で攻撃してきます。しょうちゃんも負けずに剣を振り回します。
どれだけの時間が立ったでしょうか。
魔王もしょうちゃんも立っているだけで精一杯のようです。
しょうちゃんが息を切らして倒れそうになった時、魔王が襲いかかってきました。
しょうちゃんは思わず目をつぶってしまいました。けれども次に聞こえたのは、凄い音と魔王の悲鳴でした。
そーっと目を開けると、魔王が倒れていました。
まぬけな魔王は、自分のローブを踏んづけて、すっ転んでしまったのです。
笑いをこらえたしょうちゃんは、魔法のマントで空を飛び、魔王の背中めがけて剣を投げました。
剣が命中した魔王は、大きな悲鳴をあげて灰になり消えてしまいました。
魔王との戦いが終わったのです。魔王の悲鳴は、きっと王様のいる城まで聞こえたでしょう。後はお姫様を探して連れて帰るだけです。だけど、どこにもお姫様はいません。
しょうちゃんはガッカリしましたが、とにかく街に帰る事にしました。
街に帰ったしょうちゃんを待っていたのは、喜びでいっぱいの人たちだけではありませんでした。
神父様が、悲しい顔をしているのです。
ピンク色の猫が倒れて目を覚まさないと云うのです。息はしていますが、何をしても起きてくれません。
しょうちゃんは、とても悲しくなって泣いてしまいました。せめて寒くないようにと、マントをかけてあげました。
すると、マントから光の粒があふれ出てきて、ピンク色の猫が目を覚ましたのです。
それだけではありません。
ピンク色の猫が女の子に変わったのです。ふわふわのピンク色の髪の毛と空色の瞳の可愛い女の子です。
実は、その女の子が行方不明のお姫様だったのです。魔王の魔法でピンク色の猫にされたお姫様は、運良く森のおじいさんに拾われたのでした。
お姫様の無事を知った王様とお妃様は大喜び。王様は、しょうちゃんをお姫様のおムコさんに決めました。
もちろん、街の人たちも祝福してくれました。
その後、しょうちゃんとお姫様は何度も森に行きましたが、不思議な家もおじいさんも見つかりませんでした。
おじいさんから貰った魔法のマントは、魔王を倒した剣や盾と一緒に国の宝にしました。
しばらくして、しょうちゃんとお姫様に1人の愛らしい女の子が生まれました。
女の子は皆の愛情を受けて、すくすくと育っています。
こうしてイタズラ好きの男の子は、勇者になり王様になりパパにもなりました。
そして今は、愛娘のイタズラに悩まされているものの、幸せに暮らしています。
おわり