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祝勝会で

「それじゃあ、自己紹介も終わった事だしかんぱーいっ!」

『かんぱーい!』


武尊たちは学校の近隣にあるファミレスに来ていた。

少し洒落た雰囲気のある、個人経営のファミレスだ。

夕方と学校終わりなどの学生たちで賑わっており、店員たちも忙しなく動き回っていた。


「それにしても武尊くんがあんなに強いなんて予想外だったよっ!」

「そうね。嬉しい誤算と言えばそうだけど、当初はあたしたち三人で何とかする予定だったから、助かったわ」

「いや、俺から見てもお前らの実力なら最低でもAクラスは狙えただろ?なんでEクラスに……」

「あ、それ僕のせいなんだよね……」


出そろった料理に舌鼓を打ちながら智樹は気まずそうに手を上げる。


「僕の【水鏡】ってどちらかというと戦闘じゃなく索敵能力だから、学園の判定基準だとD判定なんだよね。僕学力はそれほど高くないし、総合でEランクに………」

「あたしたちは智樹一人だと不安だから学園に直談判してEクラスに入ったってわけ」

「なるほどな」

「あ、武尊くんはどうしてEクラスなの?」

「俺の幻想器は【無銘】だからな。どうしてもE判定通り越しF判定だ。学力、戦闘技能で何とか入学したって感じだな」

「へぇー、でも戦闘技能でもA判定はあるんじゃない?」


痛いところをつかれた。

武尊は少し考える。そう行くと最低でもC、うまくいけばBクラスにはなれる。


「まあ、入学から一年経つし、努力したってことだよ」

「すごいねっ!そんなに強いなら来月からSクラスってのもあり得るかもっ!」


実際のところ異世界にシフトしたことで武尊の身体能力は大幅にアップしていた。

もしもその現象がこの世界に来た時も起きていたとしたらーーー。


「あまり期待しない方がいいと思うけどな」

「そうだね。期待しすぎてダメでしたってあるかもしれないし」


武尊と智樹の意見に明日香は不満そうにする。


「盛り上がりに欠けるなー。エリスさんはどう思う?」

「え?あ、えっと私はタケルさんと一緒のクラスになれたら嬉しいなって……」


エリスは顔を少し赤くして武尊を見る。


「ん?そりゃあ、一緒のクラスになれたいいけど、あまり期待するのもな」

「そ、そうですよね………」

「うわー」

「ないわー」

「?なんでだよ」


加奈と愛奈から武尊にダメ出しがとぶ。

ちなみに武尊は鈍感ではないーーーと思っている。

実際気配などには敏感だし、会話に機微にも聡い。

だが、恋愛事となると一気に鈍い男になる。それが武尊という男だ。


「ねえねえ、おにい。試験でコツとかないの?愛奈明日が試験なんだけど、ちょっと不安で」

「コツはないだろ。実力に自信があるかないかで立ち回りも変わるだろうし、俺の場合は負けることは無いって自身があったから、見晴らしがいいところにいたわけだしな」

「わお、自信家だー」

「そりゃあ、あれだけ強かったらそうなるだろうけど……アンタ実力を隠したいんじゃないの?」

「いや、そんなつもりはねぇよ。下のクラスに居てもメリットはそんなにないしな」


剣聖学園の就職率などメリットが大きいのは当然成績の良いクラスになる。

下のクラスにいれば就職は困難。そのまま進学するしかないが、上のクラスに居れば好待遇での就職が待っている。

それだけ能力値の高いものは需要が高いのだ。

だが、幻想器が主体のこの世界で無銘というのはそれだけ不利な状況に立たされている。


「そういえばエリスさんの幻想器ってどんなの?」

「わたしですか……?わたしは杖型の幻想器ですよ」

「へぇー、どんな能力なんだろー」

「ふふっ内緒です」

「えぇー。あ、そういえば武尊くんとはどんな関係なのっ?」

「え、あの……それは………」


エリスと明日香は楽しそうに談笑している。

武尊はいい感じに馴染めてきているエリスを見て微笑む。


ーーーこの世界に来てよかった。


エリスは前の異世界では冷遇されていた。

第二王女という立場ではあるが、勇者を召喚する媒体としか見られておらず、莫大な魔力を持つエリスはほぼ幽閉という形で過ごしていた。

武尊とエリスが本格的に二人で活動し始めたのも、武尊が異世界に来てから半年後の事だ。

それまでのエリスは感情を表に出すことなく、完全に閉ざして生きてきた。


武尊は少し感傷に浸りながらコーヒーに口を付ける。

そろそろお開きにしようと口を開こうとしたときーーー


ドオンッ!!!


「きゃーーーーーっ!?」

「っ!?」


身体に響くような低い音が鳴り響く。

武尊はその異常な身体能力をフルに使いテーブルを窓側に蹴り上げ、周りにいたエリス達を机の裏に避難させた。

衝撃でファミレスの窓は割れ、店内の生徒や従業員の人達は呆然としている。


「なんだ……?」


武尊は外の状態を確認する。

外は夜の帳が落ち始めており、薄暗い中に燃え盛る炎が確認できた。

どうやら向かい側の建物が爆発したようだ。

そして燃え盛る炎の中に仕事帰りなのだろう、スーツ姿の若い男性が目に入る。

その男性が持つ黒く淀んだ禍々しい大剣に武尊は見覚えがあった。


「あれは………【邪剣】か?………なんでこの世界に……」

「じゃけん………?何言ってるの武尊くん……?」


明日香はまだ頭が追いついていない状態のようだ。

周囲を見ると、エリスだけが周りの被害状況を確認している。


「いや、なんでもない。あの男が原因みたいだからな。ちょっと行ってくる」

「え、危ないよっ!それに許可なく学園外で幻想器は………」


全て聞く前に武尊は飛び出した。

手にはいつの間に具現化したのか片刃の直剣が握られている。

通常ならば視認すら難しいであろう速度で迫る武尊に、剣を持つ男は見事に反応して見せた。


「がああああああああっ!!!!」

「ぐっ!?」


獣のような雄叫びを上げながら手に持つ剣を一振り。

武尊は飛び出した勢いも乗せて打ち込んでいるにも関わらず、優勢なのはスーツ姿の男性だった。


「嘘っ!?」


加奈の声が聞こえてくる。

Sクラス相手にもほぼ無傷で完勝した武尊の一撃を一般の男性が受け止め、あまつさえ押し込んでいるのだ。

それの状況がどれほど異常なことなのか、加奈たちには理解できてしまった。


「がああああああああああっ!!!!」

「なっめるなあああぁぁぁっ!!!!」


雄叫びを上げる男性に武尊も負けじと声を上げる。

徐々に押されていた力が拮抗する。

つばぜり合いの状態になる二人。だが、すぐに拮抗は崩れることになる。


「ああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「がはっ!?」


男性の持つ剣から禍々しいオーラのようなものが武尊横薙ぎに吹き飛ばす。

勢いよく真後ろに吹き飛ばされた武尊は、先ほどまでいたファミレスまで吹き飛ばされた。


「タケルさんっ!」

「おにいっ!」


エリスと愛奈は武尊に駆け寄る。

店まで吹き飛ばされてきた武尊だが、その身に怪我はほとんど見られない。


「間違いない………あれは【邪剣】だ」

「そんな………っ!?あれはタケルさんが………」


異世界では対になるように勇者の持つ【聖剣】、魔王の持つ【魔剣】と存在している。

聖剣は人間の崇拝する女神の祝福により、魔剣は魔族の崇拝する男神の祝福により創造されたとされている。

だが、女神や男神以外にも別の神が存在する。それが邪神だ。

武尊は異世界で幾度も戦ったことのある邪剣に遭遇し、焦燥に駆られていた。


―――――確かに邪神教団は殲滅したはずなんだがな………。


邪神を崇拝する【邪神教団】は女神や男神を崇拝している人間や男神を崇拝している魔族と敵対している。

時に戦時の最中に割り込み、時に権力者を誑かし、時には暗殺まで行う違法集団だった。、


異世界では邪神教団を根絶したはずだった。

しかし、なぜかこの世界に邪剣が存在している。

なぜかとは今考えている暇はない。


ーーーこんなところで聖剣は使えない………。


邪剣に対抗できるのは聖剣か魔剣のみだ。

しかも一本一本が強力な力を持つ邪剣を相手にするときは全力で行かないとどうしても破壊することは困難だった。


だが、周りにはまだ避難しきれていない人たちがたくさんいる。


ーーー奴は俺を標的にするはずだ。ならーーー


武尊が勢いをつけて飛び出そうとしたとき、邪剣を持つ男はーーー


「がああああぁぁぁぁっ!!!」


ファミレスいや、正確には武尊へととびかかっていた。


ドゴオオオオオォォォォォンッ!!!


およそ常識では考えられない衝突音。

異常なまでのスピードと、邪剣によって強化された男の膂力によるものだった。

だが当たったのは武尊ではない。


「なんとか間に合ったみたいね………」


加奈は肩で息をしながらつぶやく。

いつの間に具現化したのか、男がぶつかった先にはコンクリートと金属によって作られたゴーレムが腕を交差して立っていた。

すでにボロボロの様相、いやこれはもともと継ぎはぎだらけの欠陥ゴーレムだったのか今にも崩れそうだ。


「やあっ!!!」


気合一閃。


衝撃により困惑している男へと明日香の大振りの一撃が襲う。

あらん限りのオーラを纏った一撃は暴風を伴って男へと迫る。


「があっ!!」


咄嗟のことだろう。

男は邪剣を急所を守るように構えわずかに後ろへと跳んだ。

衝撃はほぼ通らず、男を正面の道路まで吹き飛ばしただけに終わる。


「うそー………もうオーラが……」

「あたしももう………」


崩れ落ちる明日香と加奈。

2人とも咄嗟のこととはいえ、己が武器を構え最善の行動をとったと言える。


「いや、十分だ」


武尊は再び直剣を下段へ構え、とびかかる為前傾姿勢を取る。


「おにい、ダメだよ……。危ないよ」

「愛奈……」


武尊の袖をつかみながら、涙目の愛奈は言う。


「あとは警邏の人に任せようよ……おにいが戦う必要ないもん……」


目の前の男に今の状況で勝てる術はない。

愛奈はわがままなところもあるが、才能は本物だ。

周りの状況を確認し、対応ができないと判断している。

その状況でわざわざ義兄を死地に向かわせようとは思えなかった。


「守れ、癒せ水鏡!」


今もなお智樹は自らの幻想器を使い負傷者の治療や、不足の事態に備えた防御にオーラを回している。

すでに智樹も限界だ。

その証拠にその顔には大粒の汗が滲んでいた。


ーーーどうする………。


もうこのままやるしかない。

そう武尊が判断したときーーー


「お待たせしました。こちらの準備は整いましたよタケルさん」


エリスの凛とした声が武尊の耳へと届いた。

いつの間にかエリスの手には色とりどりの宝石がちりばめられた神秘的な長杖が握られており、武尊へと微笑んでいた。


ーーー相変わらず頼りになるな。


「りょうかいだ……俺も本気でやる」

「おにい……?」

「武尊くん?」

「武尊?」


三人の疑問に不敵な笑みで返すと、武尊は直剣を霧散させた。

三人は何を……といった表情になる。この状況で自ら武器を霧散させるなど、あきらめたとしか思えないだがーーー


『担い手たる霧埼 武尊が命ずる』


唱えた瞬間武尊の身体から光り輝く莫大なオーラーーー否魔力が吹き荒れる。


「な、なにっ!?」


愛奈たちが驚愕に目を見開く。今までに見たことの無い莫大な力の奔流。


「せ、ぜいげん………ぐうううぅぅぅ……」


邪剣を持つ男が呻く。

邪剣から力の正体が伝わってきているのだろう。男は血走った眼を武尊へと向け、涎を垂らしながら叫ぶ。


「ゆ、ゆうじゃあああああぁぁぁぁぁ!!!!!」


瞬間爆発的な加速。

一足で武尊との距離を詰め、手に持つ邪剣を振り切る。

だがーーー


『幻想の果てより』


いつの間に動いたのか。

武尊は男の後ろへと悠然と立ち、手を前に突き出していた。


「がああああぁぁぁっ!!!」


振り向きざまの一閃。

勢いこそあれ、分かり易い弧を描く剣を武尊は軽やかに後ろへと飛び退き回避する。


『我が前に顕現せよ』


瞬間爆発的に高まる魔力。

愛奈たちは思わず顔を庇ってしまう。

武尊の前には莫大な魔力の塊が浮かんでいる。

それに武尊は迷わず手を突き入れた。


『その名はーーー【デュランダル】!!!』


眩い極光が辺りを照らし出す。

全てを包み込むかのような莫大な魔力は今までにない上昇を見せ、光り輝いた。


光が収まると武尊の手には一振りの直剣が握られている。

黄金の柄が印象に残る片刃の直剣だ。


「さあ、ここからは俺のターンだ」


不敵な笑みを浮かべた武尊は直剣を肩に担ぎながら悠然と一歩を踏みだす。瞬間ーーー武尊の姿が掻き消えた。


「よっと」

「ぐ、がああああぁぁぁぁぁっ!?」


軽い調子で放たれた下段からの一撃、それは道路のコンクリートを巻き上げながら男を空中へと打ち上げた。


「おいおい……まさかとは思うが見失ったとか言わないよな?」

「ぐがっ!?」


武尊の姿はすでに上空へと打ち上げられた男の後ろにあった。

さらに上段からデュランダルを叩きつける。

男はものすごい勢いで地面に叩きつけられ、あたりを土煙が覆った。


「すごい……」

「あれが勇者タケルの力です。心配ないでしょう?」

「うん」


微笑むエリスにうなずく愛奈。

明日香たちは自分たちの力が通用しなかった男を圧倒する武尊に呆然としている。


ーーー弱すぎる………


武尊はエリスたちの心境とは真逆に油断なく土煙の中心へと目を向けていた。

異世界で戦った邪剣は少なくとも今の男よりも強かった。

どれもこんな軽い調子で倒せるような相手ではないのだ。


「ぐ、ああ………」


ふらふらとした足取りで立ち上がる男。

手に持っている邪剣には罅が入っており、最早満身創痍の状態だった。


「安心しろ……今助けてやる」


デュランダルへと光が集約される。

まばゆい輝きを放ちながら武尊は男の持つ邪剣へと剣を振り下ろした。


キィンッ


「ぐ、おああああぁぁぁぁっ!!!!」


澄んだ音とともに半ばから断ち切られる邪剣。

それとともに溢れ出す怖気を走らせる闇が男の体から上空へと解き放たれ、全身から力が抜けたように男が地面へと倒れる。


「取り敢えずは解決ってことでいいのかね………」


これから来るであろう面倒ごとに武尊は憂鬱な気分になるのであった。

こんばんは。


これからの更新予定について


原則二日おきには登校したいと考えています。

土日更新は少し難しそうです。

ですが、できる限り二日おきの投稿を心がけますので、これからもよろしくお願いします!

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