母親との邂逅
武尊とエリスの二人は愛奈の発言によってリビングに降りてくることになった。
目の前には黙ったままの母親と楽しそうにしている愛奈の姿が………。
ーーー愛奈覚えとけよ………。
ニコニコしている愛奈を見て武尊はちょっとイラッとしてしまった。
「………まずは、初めまして………かしら?」
「は、初めましてっ!!!わ、私エリス・フォン・グランベルクと申しますっ!」
「外国の方かしら……?それよりも二人のその格好は?」
「あ、あぁ、あれだよ。コスプレっ!最近、学校でも流行ってるみたいでさっ!!ははっ………。」
「コスプレ………?」
母ーーー霧埼 涼子ーーーはそんな二人に訝しんだ顔をする。
武尊の母霧埼 涼子は見た目でいえば20代前半で通用するほど若く見える。
当然妹の愛奈を見ているとわかる通りグラマーな美人だ。
普段はとても優しい母親だからこそ、こういった状況の時は怖くなるものだ。
武尊とエリスは冷汗が流れるの自覚する。正直、無理のある言い訳だと思う。
何せ、2人の格好は先ほどまで魔王たちと戦っていた時と同じ格好だ。ダメージこそなぜか回復しているがそれまで受けていたダメージの分、所々破損が見られ、さらには泥や多少焦げた跡が見受けられる。
「そうっ!ちょっとリアルな感じにするのが流行ってるんだよっ!」
「まぁ………それはいいわ。それよりもエリスさん………でいいかしら?」
「は、はいっ!え、えっとリョウコさん。」
「武尊とはどういったご関係かしら?」
「え、えっと………それは、その………。」
エリスは顔を赤くしてチラチラと武尊の顔を伺う。
武尊はそんなエリスに任せておけと頷いた。
「エリスは大事な友達だ。今一番信頼してるって言っても過言じゃないよ」
「武尊………。」
「おにい……。」
「と、友達ですよね………はぁ………。」
「お、おいっ!?なんでそんな残念なやつを見るような目で見てくるんだよっ!?」
涼子と愛奈は残念なものを見たといった表情、エリスはだいぶ落ち込んでいた。
そんな二人を見ていた涼子はふと笑みを浮かべる。
「まぁ、2人の関係はわかったわ。まずはエリスさん。」
「は、はいっ!」
「愛奈とお風呂に入ってきなさい。分からないことがあったら愛奈に聞いてくれていいから。着替えは………愛奈のじゃちょっと小さいかもだから私のお古ね。」
「お、お母さんっ!確かにわたしのはまだそんなに大きくないけど、ひどいよっ!これでも同年代では大きい方………。」
「はいはい。わかったからお風呂に行ってらっしゃい。」
「っもう!いこ!エリスさん。」
「え、え、え……?」
エリスは目を白黒させながらドナドナされていった。
そうして武尊と二人になった涼子はーーー
「武尊、正直に言いなさい。本当はなんなの……?」
「何って…………っ!?」
武尊は咄嗟に飛びのいた。
なぜなら今までの場所に座っていたら確実に頭が飛んでいたからだ。
武尊は涼子の持っているものを見て驚愕に目を見開く。
「そんなもんどっから出したっ!?てか、危ねぇだろっ!?」
「どこから………?それよりも今のを避けれるってことは武尊。あなた………。」
涼子が持っているもの。それは一振りの刀だった。所謂大太刀と呼ばれるそれをいとも簡単に片手で降ったようだ。
「なんだ………?俺は帰ってきたはずなのに………なんでこんな………。」
武尊は考える。
なぜ、母親の涼子が突然あんなものを取り出せたのか。
なぜ、大太刀なんてものを振り回せるのか。
「まさか…………。」
ーーーパラレルワールドってやつなのか………?
武尊は混乱した頭で考える。
なぜ、涼子は大太刀を振り回しているのか……。どこからそんなものを取り出したのか。
ーーー隠せるところもないしな………。
この時点でパラレルワールドであることが確定している。
「武尊………いつの間にそんなに………。一体あなたに何が………?」
「母さん、とりあえず落ち着いて話そう。そんな物騒なものはしまって………。」
武尊は苦笑しながら涼子に言う。
涼子はそんな武尊に訝しんだ顔をするが………
「そうね…。まずはあなたの話を聞きましょうか。」
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「そう………そんなことが………。」
「まあ、そういうわけで俺とエリスは仲間………親友ってところだな。」
涼子はまだ信じられないって顔をしている。
それもそうだ。異世界に召喚され勇者として魔王と戦ったなど、普通は信じられるものでもない。
逆に武尊の方こそ聞きたいことがある。
だが、今話したことの中にまだ言っていないこともある。
それは武尊が別の世界、パラレルワールドから来たという事だ。
話している最中にテレビを少し盗み見たが、武尊が召喚されてからちょうど二年経っている。
だが、涼子も愛奈もまるで昨日も一緒にいたかのような対応だ。
つまり、この世界の武尊と、今いる武尊が入れ替わった可能性があるということ。
ただでさえ、異世界から帰ってきたという大きな問題を抱えているのだ。これ以上混乱させるのも酷だろうと武尊は話していない。
「まだ信じられないけど………武尊が強くなっているのは確かだから話の辻褄は合うわね……。」
「あぁ、向こうの世界で二年戦ってからさすがに強くもなるさ。伊達に勇者やってたわけじゃないし。」
「そういえば、あなた勉強は大丈夫………?そんな状態で学園に戻ったらまともに勉強できないんじゃ……」
「そこはまあ、復習してなんとかするよ。わからないところはまあ、調べるし。」
「それならいいんだけど………。」
涼子は心配そうな声で呟く。
武尊の頭は確かに平均的だった。
だが、勇者になってから体のスペックが上がっているのか、記憶力も昔に比べると格段に上がっている。
頭の回転も戦闘を繰り返していたことで、速くなっているのも確かだ。
だからこそ、武尊は基礎さえ覚えれば大丈夫だろうと、楽観視していた。
問題となるのはーーー
ーーーやっぱりさっき母さんが使っていた力のことだよな………。
そう、先ほどの大太刀だが話をしようと持ち掛けた後、小さな粒子になって霧散していた。
隠したわけだはなくあれは具現化。まるで武尊が使っている能力のように……。
「まあ、部屋にパソコンもあるしなんとかなるよ……。愛奈には一応秘密にしといて。」
「あなたはまた………。愛奈に心配かけたくないのもわかるけど………後が怖いわよ?」
「わかってる。もしばれた時は正直に謝るさ。」
ーーーもちろん母さんにもね………。