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ぼんっ。
突然響いた間の抜けたような爆発音により現実に帰還。我に帰り前方を見た。すると前に停車していた車群が白い煙で覆われていた。煙はだんだんと広がりこちらの方まで迫ってくる。これはなんだ?なんでこんなことに?四方からクラクションの音やら、ざわざわと話す声や怒号のようなものが聞こえる。異常な事態に周りもパニック状態のようだ。俺は煙を凝視した。するとその中から黒い影が迫ってくる。人影だ。そう思った次の瞬間、煙の中から何者かが抜け出してきた。女だ。なぜそうわかったのかというとレザースーツから見える谷間に目を奪われたからだ。向こうもこっちの車に気がついたようで避けて脇を走ろうとした。したようだ。そうはならなかった。なぜなら彼女はこの車の横を通過中に派手に転んだからである。
「ぶぎゃっ!」潰れたヤモリが出すような感嘆詞。これが俺が聞いた初めての彼女の発言だった。発言というよりは発音だ。
「えと、大丈夫ですか。」俺はシートベルトを外し車を降りた。彼女はクルマのすぐ横で蹲っていた。
「いたたたた…大丈夫!」キリッとそう言いながら座ったまま彼女が振り向いた。整った顔立ちだ。かなりの美人なのだろう。ただし鼻血さえ出ていなければ。
「あの鼻血…。」俺は車においてあった箱ティッシュを差し出す。
「あ、え?」一瞬困惑した表情を浮かべるがはっとして受け取り鼻血をふく。そしてさらに目の周りの涙も吹いている。俺はその女の姿をまじまじと見つめた。奇妙な格好だ。と言うよりかはいかにもな格好、と言った方がいいのかもしれない。映画に出てきそうなレザースーツ。これを着こなせるのはスパイか怪盗だけであろう。
「ありがとう!」彼女はすくっと立ち一瞬だけちらっと後ろを振り向き走り去っていった。
謎の異常事態にあっけにとられ固まっていた。目線を落とすと彼女がうずくまっていたあたりに何かが落ちているのを見つけた。車から降りてそれを拾い上げる。USBメモリだ。彼女が落としたものだろうか。油性のマジックかサインペンで書かれたような字で大きく「極秘」その下に小さく「超重要機密」と書かれている。
「ごほっごほ。何事や?」
その声に反応して振り返るとドアが開けっ放しになってそこから車内に煙が入っている。煙は車内に充満しているわけではなかったが空調の関係か寅さんに直撃していた。
「排気ガスかあ?義人窓閉めてえや」ごほごほと咳をし、大粒の涙をこぼしながら寅さんが言った。
「ああ!すみません。」俺は咄嗟にUSBを上着のポケットに滑り込ませ車に乗りこみドアを閉める。
「何事やねんほんま。」寅さんがタオルで顔を隠しながら言った。泣き声だ。
「いやあもう何が何だか。」俺はポケットに手を突っ込みUSBに触れた。