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マウントリバージャスティスメン  作者: ぱんぶどう
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エピローグ

「チェンジだ。」ボブがトランプを5枚引いた。

「俺は一枚チェンジだ。」

「おうおう。お強気なことでえ。」

「チェックか?」

「ほいほい。チェックで。」

「Aと8のツーペア。」

「かぁ。ブタだよ。ブタ。」ボブはトランプを投げ出した。ラジオのニュースは今夜の野球の情報を流している。PM13:45。いつもの昼下がりの光景だ。

「もうやめだ。やめ仕事に戻ろうぜ。ディラン。」

「仕事っつたって何をするんだよ。」

「まあな!共和党の大統領に変わってからというもの俺たちの仕事はめっきりなくなっちまったよな。最初こそディアスポラになっちまわねえかと心配した奴らがあれよあれよと殺到したもんだったけどよ。今や入国しにくるやつすらいねえ。」そういうと彼は缶ビールの蓋を開けた。

「おい、酒は…。」

「なんでえ。構うもんか。どうせ今日も誰も来ないに決まってらあ。それにお前だってタバコ吸ってるだろうが。タバコは良くて酒はダメなのかよ。」

「俺の分はないのか。」

「交換だ。タバコ一本と。」タバコを渡すとボブは足元の冷蔵庫から冷えたビールを取り出した。「ああ。」ボブがタバコをふかしながら言った。

「仕事を始めた頃はよお。誇り高き入国管理局職員だったのによお。今じゃ国中の嫌われ者だぜ。こうやって昼からタバコとビールを楽しめてほんと共和党様様だぜ。」

「おい、ボブ。」

「構うもんかよ。母ちゃんなんてよ。俺がこの仕事についた時そりゃ喜んだんだぜ。自慢の息子だってな。それが今じゃ連絡もくれねえし好物のチェリーパイも送ってくれねえしよ…。」

「おいボブ!」

「なんだよ!俺は屈しないぞ。アメリカ万歳!星条旗よ永遠に!」

「そうじゃない。誰かいる。」

そこには男が立っていた。細身で青白い顔をした中国人のようだった。

「客…か?」

「おい客なんて何年振りだ。へいそこのお兄ちゃん!ちょっとおしゃべりしてけよ。俺がボブ。あっちのクリスティーナロナウドに似てるのがディラン。いやあ何しろ久しぶりだからな。」

「は、はい。」男は歯切れ悪くそう言ったかというとパスポートを差し出した。俺はビールを横の机に置いた。

「おいおいおいおいお兄ちゃん。ディランの方かよ!そいつは厳しいぜ。変に真面目だからよう。俺の方にしとけって!俺だったらすぐにスタンプあげるよ。」ボブが囃し立てるのを聞き流しながら俺はパスポートを開いた。AKIRA SENDA 。国籍は日本となっている。その間センダは体をずっとふらふらと揺らしていた。怪しい。見るからに。顔を覗き込むとこちらにはにかみ返してきた。ボブも何かを感じたのか顔を曇らせている。一応聞いておくことにする。「名前は?」

「せせせ千田晶。」

「国籍は。」

「に…ジャパン。」少し詰まった。やはり怪しい。追い討ちをかける。

「なんの目的で。」その質問を飛ばした瞬間だった。その男から謎のプレッシャーじみた物を感じた。さっきまでのふらふらとした細身で色白の男のイメージとは真逆の代物だ。みると彼の目が変わっていた。さっきまでとは違う。何か覚悟を決めた男の目だ。

「…正義のため…。」正義?ボブと顔を見合わせる。こいつは危険人物か。アイコンタクトでボブに尋ねる。ボブが頷く。こいつは危ない。正義。その言葉はこの国ではもはや危険だ。そしてこの雰囲気も危ない。早い所応援を呼ばなければ。

「そして。」男がいきなり発した言葉にびくりと体を震わす。こちらの思惑を見透かされたのかと思い冷や汗が垂れる。センダが言葉を発した。

「そして、愛のため…。」俺とボブは顔を見合わせた。ボブが頷いた。俺はパスポートをめくりスタンプを押した。

「いい一日を!」

「アディオス!」2本指を立て彼は通った。

「真剣だったな。」ボブが言った。

「ああ。」

「俺たちも真剣にやるか。」彼が座り直した。

「ああ。」

「じゃ配るぜ。」

「おう。」

彼がカードを配る。配られた手は揃っていない。ブタだ。

「フルハウス。」勝手に降りてくれないかとなんとなく口に出してみる。

「残念だな。フォーカード。」彼がカードを返した。

ハートの3にスペードのJ。それにクラブ、スペード、ダイヤのAが出揃った。

「なんだスリーカードじゃないか。」

「プラス1だ。」ボブが親指で後ろを指す。

「ハートのAだ。」ボブが微笑む。

「ハートのAか…。」正義と愛。そう言って国境を超えた彼の顔を思い出した。彼が今までどんな道を歩んできたのかわからない。ましてこれからどんな苦難が待っているのかわからない。何を思って、どうしてこの国に来たのかもわからない。けれどもその言葉には力強さがあった。いまのこの国が失ってしまっていた力強さが。

「今夜はお前の奢りだな。」ボブがケラケラ笑った。

「それよりも酒はまだ残ってるか。」

「ああ、まだ残ってるけどよ。」缶を軽く振りながら彼がいった。

「じゃあ乾杯しよう。」

「いいけど何にだ。俺の勝利に。それとも合衆国?そんなのごめんだね。」

「正義と愛に。」

「それなら歓迎だ。」

「正義と愛に…。」

「正義と愛に…」そして幸運に。彼の行く末に幸あれ。

ラジオが14:00を告げた。いつもの音楽番組が始まる。

「へい!今日は懐かしのナンバー特集だ!早速行ってみよう!アースウインドアンドファイヤーで『セプテンバー』!!」


最後まで読んでいただきありがとうございました。

「ダメ人間」をテーマに書こうと思ったのが2年前のこと。主人公、山河義人とその友人、S山のモデルとなった人たちと食事をしていた時のことです。この人たちを小説に出せたら!と思ったのがきっかけでした。最初は大学や会社での日常のコメディにしようと考えていたのですがいつの間にやらファンタジーコメディに。しかし一環としてテーマは「ダメ人間賛歌」として書くことができたと思います。

この物語のテーマ「ダメ人間賛歌」。冒頭でお借りした漫画家荒木飛呂彦先生は自身の作品『ジョジョの奇妙な冒険』のテーマを「人間賛歌」だと語りました。人間の美しい生き様、精神的な高潔さ、生きるということの素晴らしさを自身の作品の中で表現しています。

主人公、山河義人はなんというか「もってない」人です。間が悪い、空気読めない、マニアック…端的に言えばダメ人間なのです。多くの人がそう思う事でしょう。しかし私はそここそがこのキャラクターの最大の魅力であると考えています。というより人間というのは基本的にダメ人間だと考えているのです。それは客観的事実というよりかは本質的な部分においてです。それゆえ人間は悩み、それゆえ、愛され、それゆえ生きていく。もし、自分のダメさを悲観的に見ている人がいるならばその人にこそこの物語を送りたいと思いました。

最後になりましたが、勝手にモデルにさせていただいた方々ありがとうございます、御免なさい。あなた方のおかげでこの物語を書くことができました。

たくさんの方々に批評をいただきたいと思い投稿させていただきました。よろしければコメント等よろしくお願いいたします。


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