20
それは宴会も佳境に入ったところだった。全員が酒に、もしくは雰囲気に酔い、心を開いていた。私の周りには多くの部下が集まり普段できないようなプライベートな話までしていた。部下の一人が言った。
「リーダー。聞いてください。俺またフラれたんすよ。今年に入って3人目っすよ。」
「お前またその話かよ。いい加減諦めろって。」別の部下がそう言った。
「何が悪いんすかねえ。リーダー。」
「顔だよ、顔。」
「うるせえ。俺はリーダーに聞いてんだよ!」二人ともだいぶ酔っているようだ。
「何も悪くない。」俺は言った。
「ええ。でも3人にもフラれてるんすよ。」
「悪くない。悪かったのは相性だけだ。」
「そんなこと言ったてなあ…。」
「お前はすごいよ。今年に入ってもう3人に思いを伝えたんんだろ。それはすごいことだ。」
「全部フラれましたけどね。」
「違う。たまたまその時じゃなかっただけだ。いじけるな。次に出会いがあるチャンスだ。」
「そっすかねえ。」
「そりゃもちろんフラれりゃ傷つく。自分がダメなのかと思うし、何がダメだったのだろうかとなるだろう。しかしだ。それで変わらなきゃいけないほどお前はダメな人間じゃない。一緒に働いてよく知ってる。お前は気が良く回るし自ら率先して場を盛り上げる。時には自分を犠牲にしてでも。そんなお前は絶対いい人が現れるよ。俺が保証する。」「リ、リーダー。」男は泣き始めた。
「泣くな。自信を持て。俺たちバイトも色々大変だけどよ、頑張って行こうぜ。」
「うう、リーダー。じゃあ時給あげてください。」
「わかったわかった。エリックさんに頼んでおくよ。」
「リーダー!」花火師の資格を持っている部下がこっちに駆け寄ってきた。
「花火の準備できましたよ!」
「よし!それじゃ最後にいっちょやるか!」俺がそう言って立ち上がった瞬間だった。頭上で轟音が鳴り響いた。誰もがが上を見上げた。
「だれだ!花火をあげたのは!」誰かが叫んだ。
「リーダー!」花火チームの一人がやってきた。
「どうした!」
「花火に火が!」次の瞬間、幾つものグラデーションの線を描いて四方八方に花火が上がった。
突き破られた側の壁はほとんど崩壊し外の景色が一望できるダイナミックパノラマへと変貌していた。
ダレダーハナビアゲタノワ。下の方からざわざわとした声が聞こえてくる。
リーダーハナビガ!ハナビニヒガ!パチパチと言う音やそれぞれの独特な破裂音が聞こえ、その頃にはざわざわは悲鳴に変わっていた。おそらく装置の爆発で引火したのであろう。下で花火が暴発しそれさらに他の花火に火をつけ連鎖した。上からみるとなかなか綺麗な光景だったがあの爆発の中にいるものたちは溜まったものではないだろう。
下を覗いているとしたから光の玉が上がってくるのが見えた。風切り音とともに近づき目の前で爆発した。緑色の光が広がって爆散する打ち上げ花火。それを皮切りに様々な色や種類の花火が上がっては目の前で爆発した。何発も何発も。次々と。
「綺麗ね…。」いつの間にかナカガワが隣にきていた。
「これで終わりでしょうか。」
「そうね。」ナカガワが言った。
「とりあえずBGMはセプテンバーで決まりね。」彼女がニヤッと笑った。
「ベト7ですよ。」
「どっちでもいいわね。今は。」つられて俺も笑った。彼女越しに見る花火は今まで見たどんなものよりも輝いていた。




