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マウントリバージャスティスメン  作者: ぱんぶどう
14/23

13

エレベータを降りるとそこは廊下だった。いかにも大企業です。と主張しているような廊下だ。その一本道の奥にはこれまた主張の激しい巨大な茶色の扉。あそこだ。と確信した。

「行くわよ。」ナカガワはそう言うと平然と歩いて行く。

「ちょ…ちょっと。」

「何?」俺が焦っている間もナカガワはずんずんと進んで行く。

「もっと慎重にしたりした方がいいんじゃないですか。」

「どっちも一緒よ。こそこそ歩いたって、堂々と歩んだってあそこにたどり着かなきゃどっちだって一緒。」

いや、でも。と出そうな言葉を飲み込んだのは彼女の目を見たからだ彼女は真っ直ぐに前を向いている。それを見た瞬間今の彼女に何を言ったって無駄だと悟った。ならば俺にできることは一緒に歩くことだけだ。そうこうしている間に扉の前にたどり着いた。近づいて見ると本当に大きい。来るものを威圧している。まるで地獄の門だ。思わず、“ここに入らんとする者一切の望みを捨てよ”などと書かれていないかを探してしまう。

いよいよよ。彼女が口だけで言った。俺は頷く。彼女が手に力を込める。扉が、開いた。


中は映画館のように薄暗かった。床は鉄板で作られているようで少しの音がよく響く。

コツコツと誰かの足音がした。見ると明かりがついている。

「どんなものかね。」嗄れた声が言った。

「インストールは8割がた終了しました。」紳士的なその声は聞き覚えがあった。

「もうすぐで完了ですよ。」

「ついにか。」もう一つは知らない男の声だ。

「全て君に任せてよかったよ。Dr.ペッパー。」Dr.エリック・ペッパー。アパートをゴリラと一緒に襲撃してきたあの男だ。と言うことはもう一人の方は。

「いえいえ。あなたがいてこそですよ。月極殿。」思わず自分の口を押さえていた。本人だ。日本を飲み込もうとする諸悪の権化。この計画の首謀者。月極がここにいる。すぐそこにいる。

「ウホウホホ。」ゴリラもいる。

「ルートビアもよく頑張ってくれました。彼女があのアパートでUSBを見つけてくれなかったら計画は何年も遅れることになっていましたから。」

「ああ、素晴らしい成果だ。報酬は前払いだったな。」そう言って彼はカゴに入ったバナナの房を渡した。

ゴリラは興奮気味に吠え猛り早速バナナを剥き皮をあたりに放り投げている。隠れている俺のところにもバナナの皮が飛んでき、顔面をかすめそうになる。突然のことに小さく悲鳴をあげそうになりナカガワに嗜められた。

「ルートビア。いつも言っているだろう。もう少し上品に食えんか。こんなに散らかして。」

「そのままで良い。Dr.ペッパー。この畜生もこの時の熱に浮足立っているのだろう。かく言う儂も寄せても来る興奮の波を隠せずにおるわ。」老人は低く笑った。

「もう少しだ。もう少しで我が悲願がなされる。」

「ええ。私としましても自分の理論が形を成し世界を変えることでこの理論の正しさが証明されるのは科学者冥利につきますよ。」

「それそのものがもたらす結果よりも理論そのものに生きる。科学者とは酔狂な生き物だな。」老人は高笑いした。

「いえいえ。月極様ほどでは。」今度は二人とも笑った。「あとはもう心配はほとんどない。邪魔さえ入らなければな。」ナカガワが突然俺の肩を叩いた。思わずびくっとする。自分を指差し「いどう」そして俺のことを指し「たいき」と口だけで言った。頷くとナカガワはタイミングをはかり物陰に隠れながらスルスルと移動して行く。どうやら相手の後ろに回り込むつもりのようだ。

「してネズミは見つけたのかね?」と月極が言う。

「いいえ。未だ逃亡中で行方をくらましております。しかし大丈夫でしょう。万一ここに現れたとしてもタワーの下には多くの部下を待機させてあります。人っ子一人入れませんよ。」その部下達サボってバーベキューしてますよ。

「そうか。しかしネズミというものはどんな小さな隙間も縫って侵入してくるからな。油断は禁物だ。」

「ご安心を、各フロアに膨大な罠を仕掛けてあります。そして万が一ここまでたどり着いたとしても私とルートビアがおりますので。」

「盤石という訳だな。」

視界の端で何かがひらひらとはためいた。

彼女だ。ナカガワが手を振っている。背後に回りきったのだ。合図があったらすぐに作戦開始だ。ここにはいって以来早くなっていた心臓の鼓動がより一層早まる。さあ大詰めだ。緊張が走る。心なしか大気からピリピリと音が聞こえてくる様な気がする。というか実際にピリピリと言う音が聞こえている。俺のズボンのポケットから。携帯の着信音だ。


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