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国境よりパンをあなたへ  作者: 神代 風
2/2

2話


まだ読まれていない方は、


[国境よりパンをあなたへ(短編)]


をご覧になってからおすすみください。


https://ncode.syosetu.com/n7881ew/


  「ねえツキくん」

  

  「なんだ」

  

  「そもそも私達、まだ付き合ってないんですけど」

  

  「一年前から気持ちはお互い分かってたんだから、同じようなものだろ?」

  

  「んんんん… ぜんっっっっぜん違う!」

  

  昨日、ツキが衝撃のウルトラビッグ爆弾を投下してきて、アーリは戸惑ったなんてレベルじゃないくらいに慌てふためいたが、正直な所、ほんとにぶっちゃけた話をしてしまうと、「ツキくんと結婚、ふむ、本望」と思う自分がいてしまい、そうなるたびに恥ずかしさで自分をぼかぼかと殴ってしまう。

  

  「とりあえず返事はまだ待ってください! 心の整理がつくまでは、今はまだ恋人でお願いします」

  

  顔の頬を熟れたりんごのように赤くしている、何故か敬語のアーリをからかうように、

  

  「へえ、いつの間にか【恋人】にまで昇格してたのか」

  

  と、横を通り過ぎる時に耳元で囁きながら、そろそろ焼けたであろうパンを取りに裏のベーカリーまで戻ろうとしたその矢先、

  

  「つきくんの、ば!!か!!」

  

  ゴン。と、後ろからパンを持っていく鉄製トレイで彼女の持てる力10割の打撃を後頭部に喰らう。

  

  「ば、ばかやろう、俺でなきゃ、まじで死ぬ、ぞ…」

  

  「ああ、あ、ごめんなさい!つい避けると思って…」

  

  「避けても良かったが、俺も悪かったしな… 分かった、とりあえずこの話は保留で」

  

  「…ありがとう。」

  

  

  こんな調子で、今日の朝からアーリはずっとそわそわのほっぺまっかっかで、こんな状態がまさか1週間も続くとは、この時のツキは思いもしなかった。

  

  

  

  そんなこんなで平和な時期はかれこれ1ヶ月ほど続き、珍しく[人助け屋]としての仕事も全くこない。愛剣の[ポチ]の出番も勿論来ないので、流石に寂しいだろうと思い、最近は素振りをする時にこいつを振ってやっている(いつもはただの木刀)。

  

  

  「ねえねえつきくん、やっぱりポチってかわいそうだよ。もっとかっこいい名前にしてあげようよ。なんなら私が名前つけてあげるよ!」

  

  「絶対に嫌だ。アーリのネーミングセンスはあまりにも酷すぎる」

  

  「魔剣にポチなんて名前つける人には言われたくありませーん」

  

  

  

  

  この剣の真の名前は[オールイレイサー(all eraser)]。俺が元いた世界、つまり2億年前の表記で、英語で書かれていた。

  

  ちなみにだが、1度人類が全滅する前の代物で、俺と同じで世界滅亡を乗り越えた、数少ない古い友とも言えるだろう。とは言っても元の世界では1度も見たことさえ無ければ、存在さえ知ることは無かったが。

  

  

  この剣[ポチ]と相対したのは霊龍戦争の前で、正直な話をすれば、こいつがいなければ確実に霊龍暴走事件は龍側の圧勝で、世界は幕を閉じていただろう。

  

  

  

  

  「いいかツキ、今回行く遺跡は前情報ではあまり危険な場所では無いらしいが、油断はするなよ。資料を見た限り、ここは只者ではないような気がしてならん」

  

  ベルス師匠はそう念を押して俺を見送った。丁度霊龍暴走事件の2ヵ月ほど前の出来事。アーリとはよく話すが、勿論一緒に住んだり、今のように軽い話ができるほどの仲では無かった。俺が人としての心を持って、師匠と一緒でなくてもこの世界での生活ができるようになって、少し経ったくらいの時だった。

  

  いつも行く遺跡は、いかにも遺跡といった感じで、石が積まれていたり洞窟だったりで古典的なのだが、今回ばかりは違った。入りの見かけは確かに洞窟。しかしいざ中に入ってみてみると、どう頑張ってもこの世界の技術では加工しきれないであろう合金の壁。確かに砂埃は少々目立つが、それでも形は依然としてそのままらしい。そして入口の扉に刻まれた英語。元の世界にいた俺がよく見たその文字は、確かに母国語では無かったが、28ヶ国の言葉を操る身としては、その文字は日本のそれよりも多く触れているような気がする。

  

  入って少し入ったところまでずっと金属の壁が両脇に続いており、洞窟から人工的な階段へと変わっていく。そのまま足で地を踏む度に舞い上がる砂埃だらけの階段を降りて行くが、途中で行き止まりとなってしまった。

  

  なるほど確かに調査が必要なわけだが、しかし行き止まりで何も無いとなると、前情報の危険ではないという情報は確からしい。ここまで通ってきた道になにかいいものがあったのだろうかと考えて、行き止まりで通せんぼしている壁を見ていると、ある事に気付く。

  

  「砂埃で隠れてるが、これは機械のドア…! しかも生体認証か… まさか2億年も経ってシステムが生きてるなんて事ないだろうに、ご丁寧に閉まってやがる」

  

  人類が1度滅んだ後の世界では、科学はあまり発達しておらず、代わりに魔力を応用した魔学でそれらは置き換えられている。なのでこういった機械仕掛けの扉を見るのは本当に久しく、「2億年ぶりか」としょうもない事を考えている時に、

  

  「生体認証実行。コード00-998.認証成功。ロックを解除します。」

  

  と急にどこからか語りかけてきて、ついでにドアもひとりでに開いたので、俺はうおおとみっともない声を出してしまうハメになった。

  

  

  「2億年経った施設が生きてるなんて、嘘だろ…?」

  

  俺は不思議に思いながらも、ひとまず俺の為に開けてくれたのであろう、機械仕掛けの扉の先へと入っていくことにした。夏の真っ最中だったが、自然とその中はひんやりとしていて、すずしィー快適ィーと思えるくらい平和なこの場所が、数時間後には命懸けの死闘を繰り広げるバトルフィールドになろうとは、この時の俺は思ってもいなかった。

  

  

  

  


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