忘却日記
忘れたいものがあった。
それは甘い記憶、彼と過ごした優しい記憶。
それは苦い記憶、一人過ごした悲しい記憶。
それは記憶、私を縛る過去の記憶。
そんな記憶を消したくて、私は私を綴った分厚い記憶の束である日記を取り出した。
そこには幸せなあの頃も、辛かったあの日々も、苦しかったあの時も、全てが記されていた。
さようなら私の記憶、私の思い出、私の過去。
私を日記をびりびりと破いた。
それなのになぜ…。
破いても破いても破いても破いても破いても破いても、私の記憶は消えてくれない。
私は虚しくなって床に散った紙切れをまとめ、静かに燃やした。
きっとこれから私は日記に書かれたたくさんのことを忘れていく。
それでも消えてはくれないのだろう。
結局、私は望まぬ記憶を失い、後悔の記憶をひとつ増やしただけなのだろう。
悲しいなぁ、あれから日記などつけてはいないのに、私はこの記憶も忘れることができないでいる。