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「はぁ……」
いつも通りカウロを部屋から追い出して仕事に励むも全く進まない。それどころか仕事嫌いなカウロに
「スー、休んでて。働きすぎは身体によくないよ。後は僕がやるから、ね?」
言われてしまった。
「でもお父様、計算は苦手でしょ? だからいっつもこんなに溜めて……」
山になった紙の束をペシペシと叩くとカウロはおっほんとわざとらしい咳払いをしてから顎に手を当て部屋を歩き回った。
「うちももうすぐ家族が増えるからね、計算が苦手なんて言ってられないよ~」
「え?」
聞き捨てならない言葉に思わず聞き返す。
聞き間違えかと。
ジュートはもう長らく家を空けていて、スーザンには夫はおろか交際している相手もいない。ならば残るは……弟か妹でもできたのか。
マリーもカウロも結構な年ではあるものの、都市部に比べればこの村は結婚も早ければ出産も早い。
高齢出産の枠組みには入るかもしれないが不可能ではない。
まだスーザンに聞かされていないだけなのかと思った。
「え?」
だがそうでもないらしく、カウロも不思議そうな顔でこちらを見ている。
「えっとお父様? 家族が増えるのよね?」
聞き間違えという可能性を初めに潰すためにスーザンの耳に届いた言葉が正しいか質問する。
「え、そうでしょ?」
なぜか質問に疑問系で返すカウロ。
スーザンの頭の中ではどんどんはてなマークが増殖している。
だがとりあえずカウロが発した言葉は『家族が増える』で間違いがないことは確認できた。
ならばその増える『家族』が一体どんな人物なのか順に聞いて行けばいいだけだ。
スーザンはもうすっかり悩みのタネのことなど忘れて腰を据えてカウロから聞き出すことだけに専念した。
「私の妹か弟が産まれるの?」
「え?違うよ。マリーと僕に子どもだなんてそんな……。あ、スーザンは下に妹か弟が欲しかった……とか?ジュートは騒いでいたけどスーザンは何も言わないから……。あ、でも無理とかじゃなくてね、今からでもマリーと相談すれば何とか!」
「ちょっと待ってお父様。ストップよ、ストップ」
興奮し、顔を赤らめながらヒートアップするカウロの肩をがっしりと掴んで無理やりに席に座らせる。
「え?でも……」
未だ何か言葉を紡ごうとする口に手を当ててから
「お父様、私は別に下に兄弟が欲しいわけではないわ。いいわね?」
というとカウロはフゴフゴと口を動かした。それを確認し、スーザンはカウロの口から手を外すと
「スーザンもたまにはワガママ言っていいんだからね!」
とキラキラとした目でスーザンに訴えた。
スーザンはため息を漏らしながらも
「あ、うん。今度、ね。考えとく」
と適当に返すと、その返事に納得したのかカウロは
「待ってるからね!」
とおもちゃを買ってもらう約束を取り付けた子どものようにはしゃいだ。
これではどちらが親かわかったものではないと呆れ果てていると
「スー、おやつ食べに行こう」
とカウロはスーザンの手を取った。
「はいはい」
カウロの力に抗うことなく進んでいくスーザンの頭からはすっかり悩みのタネとカウロの口から出て来た謎は消え去り、かわりにおやつを食べ終わったら机の上のものを処理しようという確かな決心があった。