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 スーザンは夢を見ていた。


 幼い頃お気に入りだった若草色のドレスに身を包み、足にはリガルドからもらったガラスの靴を履いて舞踏会の会場を歩いている夢だ。

 周りの人たちはスーザンと、スーザンをエスコートする、金色の髪が目を引く優男の行く道を開いてようにして左右に散る。

 周りの人は口々にスーザンの隣に立つ男を「王子」と称した。

 きっと王子様なんて来ないと夢に落ちる直前に口にしてしまったからだろうとこれが夢であると割り切っているスーザンは冷めた視点でそれを見ていた。

「スーザン」

 王子様はスーザンの耳元で愛おしそうに名前を呼ぶ。だがちっとも嬉しくなんてならない。

 王子様と結婚したいだなんて幼い頃言っていたスーザンではあるが、彼女は王子を、王子という役職を、リールとともに過ごすための脚台か何かにしか思っていなかったのだ。

 幼いということは、知らないということは恐ろしいと今になってスーザンは思う。今ならそんなこと思いはしないのに、とも。


「スーザン」

 王子様はもう一度スーザンの名前を呼んだ。だが先ほどとは声が明らかに違う。

 これはスーザンのよく知ったリールの声だ。先ほどの優男の、愛おしい女を呼ぶ声ではない。幼い頃に靴屋の親父さんの自慢の工房で何度も聞いた声だ。

 この声が色んなことを教えてくれた。その名前を呼ばれるたびに心は踊り、そしてずっと彼と一緒に居られるのだと幻想を抱かせた、懐かしい声。


「スーザン」

 そして今度はリガルドの声だ。

 リールの時よりも低くなった声は、会えなかった時の長さを表しているようで途端に悲しく思える。


「リール」

 もういっそリールが誰のことを思っていてもいい。


「……会いたい」

 ただその願いを叶えてくれさえするのならば。

 ああこんなにも自分は諦めが悪いのかとスーザンは自分自身が可笑しくなって笑えてきた。


「スーザン」

 しつこく名前を呼び続ける隣立つ王子様の顔を見上げるとそこに金髪の優男の王子様はいなかった。


「リール……」

 そこにいたのは会いたいと願ったリガルドで、夢の中であっても会えたことにスーザンの感情は抑えられなかった。


「会いたかった、会いたかった」

 戸惑うリガルドに抱きつくとそこは夢なのに確かな体温があった。温かい、リールの、リガルドの温度だ。

 ……だがその温かさは途端にリガルドの手によって引き剥がされることとなったのだ。


「わかったからとにかく起きろ!」


 目の前の、煌びやかな舞踏会には似つかわしくない怒号によって。


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