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「それじゃあ、馬の用意してくるから」
連れて行ってくれとスーザンが頼んでからの二人の行動は早かった。
スーザンはつい先日、棚の奥にしまい込んだばかりの靴を取り出した。ボロボロに履き潰した靴ではなく、リガルドにもらった靴だ。
やはりスーザンの足にピタリとはまる。リガルドがリールとわかった途端に彼が自分のために作ってくれたのだと思えるのだから不思議なものだ。
それはスーザンが特別だから、なんてことではなく、ただ単純にリールは足に合わない靴を履くことも、履かせることも極端に嫌っているからなのだが、それでも良かった。
そしてジュードは数日間の外出に備えて必要最低限のものを揃え、スーザンは数日分の着替えをカバンに詰めてからしばらく家を空けることを両親と使用人に説明した。
つい先日もカウロが突然の外出を決めたこともあってか誰もスーザンとジュードを止めることはなかった。
「お土産はこれがいい!」
その代わりにカウロとマリーはそれぞれ先日ジュードが買って帰ってきた物の中から気に入ったらしいお菓子の外箱を持って来てはスーザンに主張した。
「え、またそれにするの?」
準備が終わったらしいジュードはスーザンの後ろからひょっこりと顔を出すとその顔をしかめた。
「そこ、結構人気の店で並ぶんだよな……」
「スーザンの留守中もちゃんと仕事するから!」
頭をポリポリと掻くジュードにそうやって頼み込むカウロ。
これではどちらが親かわかったものではない。それにそもそも仕事をするのは領主として当たり前のことだ。
そう思いはしたものの、面倒くさくなりそうな予感がしたので口を一文字に閉じて、カウロとジュードのやり取りを傍観することに決めた。
「うーん、まぁ……時間あったらでよければ買ってくる」
「うん!」
ようやく交渉が成立したらしいジュードはスーザンの手を引いた。
「ほら行こう。何でも早いほうがいい」
「行ってきます」
「行ってらっしゃ~い」
箱を抱えたまま手をユラユラと左右に振る両親に背を向け、ジュードが屋敷の前に用意していた馬へと乗った。
「落ちるなよ!」
馬と自分との間にスーザンをガッチリと固定したジュードは馬に出発の合図を送ると同時にスーザンに喝を飛ばした。
そう言うだけあって馬はすごいスピードで走り始める。
後ろから支えられているとはいえこれは気をつけていないとまずいと思ったスーザンはすぐにジュードの握る手綱を掴んだ。
馬が地面を蹴るたびに身体は上下に揺れる。
「はぁ……」
山を下るのとほぼ変わらないスピードで山を駆け上がるジュードの愛馬には感嘆のため息しかでない。
「スーザン、寒いのか?」
「大丈夫」
「そうか? ならもう少し飛ばすぞ」
「え?」
スーザンは耳を疑った。
これでも他の馬よりうんと早い。
時計は持ってきていないから正確な時間を確認できはしないけれど、屋敷を出発してまだ一刻も経っていないのだろう。だというのにもうすでに二つの山を越えているのだ。
これ以上早くなりようがあるのだろうかと思ったものの、すぐにジュードのその言葉が偽りでも何でもないことに気づいた。
頬には冷たい風が当たり、進む速度が速すぎるせいか風を顔でかき分けているような感覚になる、スーザンの頬はピリリと痛む。
だからといってその頬に手を当てることはできない。
いくらジュードが支えてくれているとはいえ、手綱から手を離すことなど恐ろしくて出来るはずもないのだから。
馬の上でスーザンにできることはただじっと前を見据えて落ちないように細心の注意を払うことだけだった。




