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スーザンの朝は、太陽の日差しによって閉じた瞼が開かれることも、小鳥のさえずりでいい朝だと実感することもなく、いつも通り正確に刻まれた体内時計によって始まる。
最近王都で発明された、定時に鳴り出す目覚まし時計を購入する必要も使用人によって起こしてもらう必要もない。
太陽が山の隙間から顔を覗かせれば自然と目は開くのだ。
鳥の巣のようになった髪にブラシをねじ込み引っ張って、まっすぐに伸ばして行く。
夜にどんなに綺麗にとかしたとしても3日に一度はこの状態になってしまうのだ。
特別寝相が悪くて朝起きると頭の位置が逆さまになっていることはないというのに不思議なことだ。
だがこれはスーザンにとっての1日の始まりに行われる、日常の一つに過ぎない。顔を冷たい水で洗ったり歯を磨くのとなんら変わりのないことで面倒だとはあまり感じなかった。
10分ほどかけて伸ばし終わると、寝ている間に用意された服へと手を伸ばす。パンツを履いてブラウスのボタンを上から順番に閉じて行く。そして一番上に置いてあった細いリボンを首元にシュルシュルと巻きつけて結ぶ。
後は母屋に移動する前に玄関付近にある洗面台で顔に水をバシャバシャとかけて、歯ブラシを口の中で上下左右に動かせば朝の準備は終わりを告げる。
一般的には女の子は準備に時間がかかるものらしいがスーザンが起床してから離れの入り口のドアノブに手をかけるまでわずか十数分の時間しか必要としない。それも起きぬけで髪が乱れていなければ数分でことは済むのだ。
その日もいつもと同じように食堂へまっすぐ進み、用意された食事をとる。
今日は三日月型のパンとトウモロコシのスープ、そして朝採れたばかりの卵を軽く炒めたものだった。
スーザンはそれらを時間をかけて咀嚼する。
去り際にごちそうさまと使用人に伝えてカウロの書斎へと向かう。
椅子について机の中から万年筆とそろばんを取り出すと、ドアを三度ノックする音が聞こえてくる。
「はい、どうぞ」
返事を返すとスーザンの予想通り山になった書類を抱えた使用人がやってくる。
いつもこんなに多いわけではない。年納めのこの時期だからこそだ。
こればかりはあのカウロでさえも机にしまいこむことは一度だってしたことがない。なにせ一度止めてしまえばそれからは増える一方で、望まぬ供給を止めてくれることなどない。そのため期限付きのそれらを滞りなくこなして行くしかないのだ。
それでも窓の外に並ぶ緑の山々が恋しくなった時には、カンザス家のような下級貴族でこんなにもあるのだから公爵家くらいになるともっと大変なのだろうと思うことにしている。上の者達を見上げては自分たちはまだマシだと、そう思わなければやっていられないのだ。
昨日と同様に右手で新しい書類をとっては見てサインをし、処理済みの箱へと入れていく。物によってはカウロが帰って来たときに目を通してもらうように左手側の箱に入れて行く。
集中しているとドアが開く音にはやはり気がつかないが、昨日のように使用人達に心配をかけないようにキリが良いところでちょくちょく書類から目を離して時計を眺めるようにした。
気をつけていればお昼を食べ損ねることも、ドアの外で使用人達がソワソワすることもなかった。
白い山もだんだんと姿を消していき、新しく築かれる山も今までほどは高くない。そうすれば自然と崩すのにも時間がかからなくなる。
するといよいよまた一つ年が終わるのだとしんみりとした気分になる。
けれどまだ感傷に浸る余裕はない。生誕祭はほとんどを頼んでしまっているとはいえまだ始まってすらいない。それに最終の確認には参加するつもりだ。
それに年末、最大の仕事が残っている。
今年の支出チェックと来年の資金についてだ。
これはカウロが居ようが居まいが関係なくスーザンの仕事であり、むしろカウロがいない分途中で休憩をいれることなく集中できるのだ。
今年は豊作だったため、資金繰りについてはあまり頭を悩ませる心配はないが支出の数字だけはしっかりとしておかなくてはならない。
来年の分の数字を叩き出すのは計算が得意なスーザンの役目だが、配分を決めるのはカウロだ。
少な過ぎるのがいけないのはもちろんのこと、多過ぎてもカウロが全てを配分してしまうからだ。
それだけカウロはスーザンのことを信頼しているのだと思えば顔はにやけ、それでももう少し考えてほしいものだと頭を抱えた。
途中でついかの書類を持って来た使用人はそんなスーザンを見て、疲れているのかといつもよりも数枚多めにクッキーを皿に乗せて持って行った。
何も知らないスーザンは好物のクッキーがおやつに出されたことに機嫌をよくし、いつもの倍のスピードで処理して行った。




