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 スーザンが初めて生誕祭に参加したのは彼女がまだ歩けるようになってあまり時間が経っていない頃のことだった。

 兄のジュードの肩に乗せられて村中を見て回った。村のいたるところに飾られたオーナメントを指差してはあれがほしいだのこれがほしいだの目を輝かせてワガママを言ってはジュードを困らせた。

 そのころの記憶はスーザンには残っておらず、家族や村の人たちから聞く思い出に顔を真っ赤に染めて恥ずかしがった。

 そして2度目の生誕祭。

 その年はまだ麦が収穫できないうちから楽しみにして、大樹の下まで行っては毎日実が赤くなるのを楽しみにしていた。いつ祭りが始まるのかとそれだけを考えて過ごしていた。

 けれど祭りの開催が決まる直前にリールが村からいなくなった。当然のように一緒にいくものだと思っていたスーザンはふて寝を決め込み、部屋はおろか布団からすら出てこなかった。

 いくらマリーがお菓子で釣っても、カウロがドアの外でしつこく呼びかけても、ジュードが綺麗なオーナメントをもらってきても出てくることはなかった。


 スーザンは赤く熟れた実はおろか7年前にあれだけ欲しがったオーナメントさえも見ることなく、年を越していった。

 3度目の生誕祭が行われる頃にはいくつもの仕事をこなせるようになっていて、生誕祭の手伝いをするようになっていた。書類の作成についてはこの年に教えてもらったのだ。とはいっても書類をただ写すだけで特に大変だというわけでもなく、スーザンはすぐに手持ち無沙汰になって何かしたいとスローンに頼み込み、オーナメントの作り方を教えてもらった。

 生誕祭に飾るオーナメントの形は様々で、好きなものを作るといい。そうスーザンに教えたスローンの手の中には雪の中に咲く大輪の華のように繊細なオーナメントがあり、スーザンはそれを作りたいといった。

 スローンは「お嬢、これは結構難しいぞ?」といいつつも最終的にはスーザンの意向を尊重して熱心に作り方を教えては手直しをしてくれた。

 けれど残念なことにスーザンはあまり手先が器用ではなかった。完成した雪の華はスローンのものとは並べてしまうのが恥ずかしいほどの出来で、所々がよれていたり、かけてしまっていた。

 気を落とすスーザンにスローンは「星なんてどうだ?」と星の作り方までも教えてくれたが、やはりうまくはいかず、ボコボコと表面にくぼみを作ってしまっていた。

 そんな最悪な出来栄えのものでもカウロはせっかく作ったのだからと生誕祭が終わってからもしばらくの間、玄関に飾っていたものだった。

 スーザンの雪の華と星は綺麗なものではなかったが、村にでれば玄関などに飾られている様々な形のオーナメントはどれも美しく、大樹に下げられているスローンの作ったものはその中でもやはり群を抜いていた。

 自分のものとは大違いだが、今度迎える生誕祭には上手に作れるものだろうかとスーザンは7年後の自分に期待しながら見上げた。


 7年に一度の生誕祭は誰もが浮かれていた。

 娯楽の少ないこの村で一番活気が満ちるのが収穫祭と生誕祭、二つの祭りだ。

 その片方が久しぶりに行われるとなればここまで浮かれるのも無理はないのかもしれない。


 見回り中に出会うのは観光客も少しだけ混ざってはいたもののほとんどが村の見知った人ばかりであった。彼らは大切な人と7年に一度の特別な日を楽しんでいる。そんな中でスーザンには一緒に祭りを楽しんでくれるような相手もおらず、広場に長居することは憚られた。


 帰る前にスローンの作ったオーナメントを見ていこうと思い、大樹に向かった。

 あの真っ白な糸で紡がれた華はさぞ大樹の緑に映えることだろうと足取り軽く。小さなオーナメントがポツポツと見えてくると、その下にいるよく知った、昨年結婚したばかりの夫婦も目に入った。夫の方が妻に向かって膝をつき、何やら懇願していた。


 その光景を初めて見たスーザンだったがすぐにああとその意味を思い浮かんだ。



 この村にはいくつかの言い伝えがあるのだ。

 その一つに生誕祭の日に大樹の下で愛を誓いあった男女は生涯仲睦まじく過ごせる、という言い伝えがある。

 豊穣の神ラドーラの加護が受けられるということから生誕祭が行われない7年の間に結婚した夫婦であったり、ラドーラを信仰している村の外の人がこぞってラドーラの元で永遠の愛を誓い合うのである。


 そんな相手などいないスーザンはてっきりそのことを忘れ、オーナメントを眺めにきてしまった。だがここに独り身の自分がいてしまったら邪魔になってしまうだろうし何よりも心に開いた風穴にびゅうびゅうと勢いよく風が吹き抜けて行くような感覚に襲われてしまうだろう。そうなる前にスーザンはそそくさとその場を後にした。



 家の近くまで帰ると子どものようにはしゃぐカウロとその手を離さぬように固く握りしめるマリーの姿があった。

「お父様、お母様、どこかへ行くんですか?」

「うん!ラドーラ様の元までね!」

 それだけ言って、繋いだ手を揺らしながら2人は大樹の元へと歩き出した。

 きっと2人も先ほどの夫婦のように誓い合うのだろう。


 見回りを終えたスーザンは2人とは対照的に1人、家へと入って行く。


 次の生誕祭ではラドーラに誓えることを夢見て。



 ――と思ったのはもう7年も前のこと。忙しさで駆け回っているうちに光の速さで訪れた人生4回目の生誕祭はまた独り身で迎えることとなった。

 もうマリーがスーザンを産んだ年齢よりも年をとったというのに、スーザンは生涯を共にする相手どころか生誕祭の間だけでも隣を歩いてくれるような相手すらいない。

 ついこの前まではこの年にもなれば結婚して子どもも抱いていると漠然と思っていたのだ。売れ残ることなど、微塵も頭にはなかった。

 そして抱くのはスーザンの子ではなく、他の人たちとの間に生まれてきた子ども。もちろん村に新しく仲間が増えて、愛おしいことに変わりはないがやはり何か違うのだ。


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