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人鳥恋路  作者: 高坂喬一郎
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ぺんぎんと神

 先ほどの祭事に触発されたせいか帰路の際、神について色々と思考した。枯れ尾花が幽霊に見えたりすることと同じで珍しい現象を思考停止して神の技と信じてしまっただけだろう。家に着くころにはやはり神などいないと結論付けていた。神様の正体見たり枯れ尾花。


 ただいまと、誰もいない部屋へ投げかけた。習慣とは恐ろしいもので実家にいた頃の癖が半年経った今でも抜けていない。


 部屋の明かりをつけてほっと一息ついた所で、こたつ机の下に何かいることに気付いた。もぞもぞとぬいぐるみのような黒いものが動いている。一体なんだと机の下を覗きこむとその黒いものと目があった。


 堅そうな嘴に抵抗が少なそうな流線型の体、手なのか羽なのか分からない二等辺三角形の部分をパタパタと動かしている。机に頭を当てない様に前傾の姿勢でヒトデのような足をポテポテと交互に動かし僕の方へ歩み寄って来る。ペンギンが机の下から出てきた。


 あまりに非日常的な出来事にその場に立ち尽くしてしまう。


「おかえり、遅かったじゃないか」


 耳を打つ言葉。ペンギンの口が開いたり閉じたりして、いかにも喋っているように見える。ペンギンが人間の言葉を話すはずもなく、冷静に辺りを見渡した。これはドッキリに違いない。誰かが隠れてほくそ笑んでいるはずだ。クローゼットを開けたりベッドの下を確認するが誰もいない。


「八幡、ここにはお前以外人間はいないぞ」


 またペンギンがしゃべったように見えた。このペンギンにスピーカーか何か付いていてそれから音が出ているんじゃないか。ペンギンの体を隈なくチェックするけれどそれらしきものは何も見当たらない。それよりも毛皮の感触や動物的な温かみが本当に生きているとしか思えなかった。


 床に崩れ落ちるように座る。選択肢に入れたくはなかったけれどどうやら僕は疲れて幻覚と幻聴、それに幻触まで患っているようだ。


 可愛らしく歩み寄って来るペンギンを撫でながら弱弱しく溜息を吐いた。カプッ、指先に激痛が走る。見ると指がペンギンに噛まれているではないか。ペンギンごと思い切り引っ張りすぽんと抜ける。引っ張った勢いでペンギンは宙を舞い机の上に見事な着地をする。体操選手のような綺麗な着地だ。


「少しは自分の目を信用したらどうだ。私はここに存在しているぞ」


 これだから人間は、そう言って呆れたように首を振る。ペンギンであることを除くとその態度は老人が若者に苦言を呈するようにも感じる。


 一度大きく息を吸ってゆっくりと吐く。危機的状況に陥った時その人の本質が見えるという。取り乱すな、落ち着け。そう思いながら三度ほど深呼吸を繰り返すと少しずつではあるが冷静さを取り戻せた。


 難しい問いに直面したらまず仮定しろ。高校の頃、数学教師が言っていた言葉を思い出す。こいつはちょっと賢いペンギンでそれ以上でもそれ以下でもない。


『その通りですよ。人間は木から下りて進化していったんですよ。高さというアドバンテージを捨てたことで脳が発達したんです』


 頭の中の岩水寺が主張する。彼の影響を強く受けていることを認めざるを得ない。


『ペンギンも同じです。空というアドバンテージを捨てることで知能が発達したはずですよ。ペンギンたちは人間がテクノロジーの上に胡坐をかいていることを羽を咥えてただ見ているだけではありませんよ。反乱の時を今か今かと待っているんです』


ペンギンの群れを想像する。群れの中ではこそこそと人間の隙を突く情報の交換が行われている。平和的な光景が一転、不気味な光景に変わり、おののく。


 能あるペンギン、言葉を隠す。


 実際に人間の言葉を話すペンギンが目の前にいる。もうどうにでもなればいい。自暴自棄になりつつあった。常識に囚われたら負けだと腹を括ると思考がさらにおかしな方向へ走り出す。


 聖書の中では蛇が話すことができたなと思い出す。


 確か蛇にそそのかされたアダムとイヴは知恵の実を食べてしまい追放されたって話だったはず。このペンギンも僕を騙そうとしているに違いない。狂った頭がたたき出した解答はやはり狂っていた。


「それは違うぞ」


 口に出していないのにペンギンが反応する。頭の中を覗けるのだろうか。背筋が凍るような不気味さを覚える。


「それも違うぞ。表情と経験からおおよそのことは読み取れる。人間という種である以上すべからく思考手順は似通ったものになるからな」


 自分がパターンに当てはめられたようで気に食わない。


「八幡を騙す気はない。むしろ味方と言っていいだろう」


「詐欺師があなたを騙しますとは言わないでしょうに」


 ペンギンと向き合い普通に会話している自分に驚く。落ち着いて考えると僕の苗字を知っていることも不思議だ。


「あなたは一体に何者なんですか。なぜ僕の家にいるんですか」


 私は、言葉を区切ってペンギンはペンギンの体をまじまじと観察した。


「私はなんだ。これはなんという動物だ」


 ペンギンは自らに驚き後ずさった。その姿が愛くるしく嫌になる。


「僕の知る限りではペンギンですね。ただ僕の知っているペンギンはしゃべりませんけどね」


 ペンギンと言うのか、腕を上げ足を上げ自分の体を確認するように動かす。


 馬耳東風。僕の皮肉はまるで聞いていない。


「それで私が何者かという話だったな」


 ペンギンは机から飛び降りて僕の前まで歩いてきた。相手が愛らしい鳥類であるのに身構えてしまう。


「私は神だ」


 胸を張りたかったのだろうがバランスを崩してゴテンと後ろに転んだ。

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