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どうやら操られてしまったようだ

 しばらく狭い場所を歩いていたせいか、目の前に広い場所があるとくらくらするなと思う。

 しかも眩しい。

 特別な場所だからこの部屋には明かりが灯るのかもしれない。


 この現れた広い場所は、全体が昼下がりの部屋のよう明るい。

 人がいることが想定された場所なのだろうか?

 ただその“人”が私達が思い描くものとは“違う”かもしれないが。


 そう思いつつ、私は中には入り込み、周りを見回した。


「さてと、うーん、どうしようかな」


 見上げた天井は球のよう。

 どうやら私達がいる部屋全体の大まかな形は、円柱に球を半分に切ったものを乗せた形であるようだ。

 その天井の球の部分は、鍋らかな曲線の壁を支えるように、わん曲する石の柱が八本ほど空に伸びて、その見上げた円の中心部……そう、私達のいる場所から最も高い場所で一つにまとめられている。


 その曲線を描く天井は深い濃紺で彩られ、夜空の星々らしきものが散りばめられている。

 その星々は金色の輝きを帯びながら光を放っており、その星の中でも特に大きく輝く星を結び、動物?が描かれている。

 いわゆる星座というもので、その役目は方角を知るものも含まれる。

 つまり何か方向を示す空であり、この場所の存在を明確化する象徴として示されているのだろう。


 その星の形は細長く首をもたげた蛇のように見える。

 それを見ながら私はうーんと唸って、


「首が三つ生えた足のある蛇? 確かそんな魔物も、前にここに入った時に見かけた気はするけれど……ここにある星座は、私の知る限りこの世界のものではないわね。とりあえず撮っておきましょうか」


 シオリに私は、"魔法映像複写機"を渡してもらう。

 四角い紋様の彫られた木枠に、透明なガラスよりも軽い、魔力繊維が幾重にも渡ってはめ込まれており、これの場合は159枚までその場の映像を保存できる代物だった。

 とりあえずは、上に広がる星空を撮っていく。


 よくよく見れば人らしきものがその怪物に襲い掛かろうとしているものもある。

 何かの英雄譚をこれは示しているのだろうか。

 そんな描かれた絵に込められた物語に思いを馳せながら、私は全体を映していく。


 そしてそれを全てを画像としておさめた所で、気づけばシオリが壁に描かれた文字をじっと見ていてた。


「シオリ、あそこに書いてあるものが気になるの?」

「え? あ、フィーネちゃん、写真撮影は終わったんだ」

「"シャシン"?」


 聞いたことのない言葉に私は首を傾げる。

 もっとも、この"魔法映像複写機"自体が高級品なので、必要な仕事についている人かマニアくらいしかいない。

 そして、マニアがそういった大切な機械に“愛称”をつけるのも私はよく知っている。


 ただそれにしてはシオリの私が持っている道具をそういった“愛称”で呼ぶことが多い。

 閉鎖的な場所なので、本邦初公開と言って何か変な名前でもつけていたのだろうか?

 それをシオリは信じているのかな、でも他にもおかしな所がと私は思っているとそこで、訝しそうな私に気づいたらしく慌てたように、


「あ、えっと、私の世界の、映像を写す装置です」

「そうなんだ……でもこの原理が発明されたのはそこまで昔じゃないから、多分、その頃にはシオリのいた場所とも交流があったと」


 私がぶつぶつ呟くも、その言葉にシオリはしゅんとする。


「やっぱりフィーネちゃんは、私がい世界の人間だって信じてくれないんですね?」

「う、で、でもあまりにも色々な概念やら何やらが似すぎていて、信じられないの。……ごめん」

「そう、か。そうだよね。話している言葉も通じちゃっているしね」


 そう、そんな風にシオリと私の、否、私達の言語は通じてしまっているのである。

 それで、ワレワレハイセカイジンダ、と言われてしまっても非常に困るのだ。

 夢見がちなことを言っていても良さそうな年齢はもうとっくに過ぎているだろうし。


 だが私が信じられないと言ったためかシオリは悲しげだ。

 そこでシオリの頭を安心させるようにミトがなぜて、私に、


「フィーネ、あまりシオリをいじめないでくれるか?」

「う、そういうつもりは……」

「きっと、シオリは異世界人だよ。"チキュウ"の"ニホン"に住んでいた、それで良いじゃないか」

「それは……そうね。ま、棚上げが一番良いかも」


 そこが私の妥協点だった。

 ミトはシオリが好きだから全面的に支持するが、私は確かに友達としては好きだが、彼女の言う事を全面的には信じられないのである。

 むしろ異なる世界から来た一般人がいきなり自分達と同じ言語をしゃべるなど、ご都合主義も良い所だ。


 その人がそう認識しているだけで実態が異なることなど幾らでもある。

 シオリが異世界だと思っているのはこの世界の一角であり、あまり外部と接触のない場所、それこそ島国なのかもしれない。

 かなり昔のことではあったけれど、人が集落を作っている時にこの森の向こう徘徊に繋がっていると信じられていた時代があったらしい。


 そんな封建社会がどうして崩れ落ちたかについては歴史の教科書を読み解くのをおすすめする。

 それでもまだまだこの世界が広いので、そういった場所が“無い”とは完全に否定出来ない。

 とはいえシオリは私の友達である。


 シオリが何者か。

 それをシオリ自身が知りたいのだから、シオリの望む形でなくともその答えを見つけるのには協力するつもりだ。

 何しろ私にとって、初めての同年代の友達だし、シオリはいい子だから協力したいと思う。

 そこで、ぽんぽんと私の肩をカイが叩いて、


「いつもの話に落ち着いたみたいだから、次はどうする? とりあえずあそこの中央の大に刺さっている剣が、俺には気になるんだが」


 そういえば、カイは剣士だったなと今更ながら私は思い出して、そのカイが指し示す剣を見る。

 金と銀に彩られ、赤や緑の大きな宝石――おそらくは魔力の結晶である石だろう、それがはめ込まれた、輝く剣である。

 細やかな細工や、光のなかで時々魔法の緻密な模様が浮き出てくるあたりでも、これは高度な魔法道具であることは確からしい。


 正直、魔法道具を作ったりしている立場の私も惹かれるには惹かれる。

 見ているだけで惚れ惚れとしていそうな美しい剣。

 だが、それをあえて無視した理由が私にはあるのだが。

 とはいえ、幼馴染のカイが望むのであれば何とかしたいと思うのも私の心情で、


「カイはあの剣が欲しいの?」

「見ていてあの強さが分らないのか?」

 

 カイのその問いかけに、私は首をかしげる。

 それはただの一般的な力を持った綺麗な剣にしか私には見えないのだが、


「あれは素晴らしい剣なんだ。その力は素晴らしいんだ。大切な事なので二回いいました」

「……そうなの? 私には普通の剣にしか見えないけれど」

「そうなんだ」


 言い切ってしまうカイ。

 陶酔したように、うっとりとカイはその剣を見つめている。

 いつもとカイの様子が違い、私は戸惑う。


 何かに妙に執着するような様子。

 しかもどこか一人がぼんやりとして恍惚としているように見える。

 なので私は、ああ……“魅了”されているなと、しかもカイだけかと思いつつ自覚を促すように、、


「カイ、大丈夫?」

「何がだ?」


 カイには自覚症状がないらしい。

 その簡単に引っかかってしまっているカイの様子に、普段からそういう事やっているからいざという時にこうなるのよ、と私は思う。

 カイ自身上手く隠せているし、周りも皆騙されている。


 そしてカイ自身も私に気づかれていないと思っているし、それをカイ自身がそこはかとなく望んでいるのを私は感じ取っていた。

 なので私はそちらに関して突っ込まずに、


「剣にはまず手を触れないで。あんな怪しい所に怪しい物がある時点でどこからどう見ても“罠”でしょう。魅力的なものの側に“罠”を仕掛けるのは有名な話だしね」

「だが……」

「もし剣に手出しをするならまずこの周辺を調べるのが先決よ。まずは、壁の古代文字と、あの編の本棚を確認しましょう。入り口の扉にあったレリーフは"眠りの王"の神話だから、(仮)古代文明"蛇の都市"のもの。その言語はすでに解読されていたはず」

「でも俺は読めないぞ? それに時代ごとに言語は変わるだろう?」

「その時はその時、諦めるしかないわ」

「……無理やり引き抜くのは駄目か?」


 危険には敏感はずのカイだが、揺さぶりをかければ戻ると思ったが、完全にダメそうと気づく。

 そして妙に剣に執着している。

 昔からあまり色々なものに執着しない……というよりも、どうでもいい事は諦めてしまいがちなカイなのだが異様に執着をみせている。


 剣自体が本来の目的ではないし、カイにはすでにお気に入りの剣がある。

 そんなカイはこう見えて、やると決めたらやるし譲らない心の強さを持って入るのだが、この場合は違うように思える。


「やっぱり何かの魔法にかかったか。それも強い魔法」


 私がカイを見ながら小さく呟く。

 軽い魔法かと思えばかなりどっぷりと使っているカイ。

 そして剣への異様な執着。

 そこから考えるに、強い"魅了"の魔法が、カイにはかかっている可能性が高い。


 ちらりと見ると、シオリは特に変化はなく、ミトはどうやら気づいていたらしく、にやっと笑う。

 気づいていたなら教えろ、と私は思うもそれを言ってカイが、無理やり剣を引くよう操られてはたまらない。なにせ、


「この右上の天井見てみて」


 私が指差すそこは、その部分だけ塗料が剥がれ落ちて、壁の石がむき出しになっている。

 しかもその部分は、薄くなっているように見える。


「あの部分が薄くなっているから、ここの中で爆発があったりすれば、あそこからその威力を逃すのかも」

「そうなのか?」

「うん、わざと弱い部分を作っておいて、爆発があった時に少しでも周りに影響が出ないように、弱い部分を作っておいてその威力をそちらに出して、内部への影響を軽減させる……そういったものが、古代文明の遺跡であったはず」


 私が説明すると絵画なるほどと頷いて、


「下手に引っ張ると危ないか、そうだよな。剣がその衝撃で壊れても嫌だし」

「そうそう。それに地面に突き刺さった剣を引き抜くと、剣が悲鳴を上げて、その声を聞くと死ぬって言うし」

「何処の怪談だよ」

「私の読んだ本では、そういった話があると書かれていただけだから真偽は定かじゃないけれど、どの道、危険だから無理やりやるのはよくなさそうね」


 そう私がカイと話して、カイの手を握り本へと向かう。

 どういうわけか大人しくカイは連れて行かれていたが、私は暴れださなくて良かったと思っていた。

 何分魅了の魔法なので、思い余ってどう行動するか分らないのだ。 


 ここで下手を打って、やっぱり無理やり俺は剣を引っこ抜いてやるんだぜ、となる可能性だってあるのだ。

 そんな危険性の面で、幼馴染のカイを私は心配しての行動だった。

 ちなみに、私が手を引っ張っていたので、そのすぐ後ろをカイが歩いていたので気づかなかったのだが、手を繋がれてカイは顔を耳まで赤区していたのだった。


 それをミトとシオリが見ながら、けれど指摘するのは可哀想だったので、ただにまにましながらその様子を見送ったのだった。


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