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迷宮散策、現在魔物をたおしました

 そんなこんなで私達、五人で迷宮に潜り込んだ。

 初めは普通の洞窟のように土の壁が連なっているが、途中から規則正しく石が並べられた通路に変化している。

 上部が半円状のアーチになっているのが、人工的な証だ。


 だがそこに人が日常的に通るのを目的としていたのかというと、疑わしい。

 なぜなら飾りげのないツルツル……であっただろう、今は表面が風などで風化して凸凹している灰色の石が使われているからだ。

 人がここを歩いたりするのなら、美的な物を想起させる模様か何かがあっていいと私は思う。


 けれどここには何もない。

 となるとそういったものではなく事務的な場所であるのかもしれない。

 そして大抵のこういった迷宮は、こういった作りになっている。


 しかも本などが封印されたり宝物が見つかる特別な場所は、芸術的な模様が施されていることが多い。

 それも含めて考えると、こういった場所には人が配置されるのは目的とされておらず、侵入者の排除も兼ねて魔物がいるのかもしれない。

 そんなことを考えているとわ足達の前に魔物が現れる。


 蝙蝠のような魔物。

 獰猛な鋭い牙をこちらに向けて、ばさばさと音を立てながら近づいてくる。

 それほど強くはない魔物で、この程度は容易に私は倒せるのだがそこでミトがシオリを庇うように動き、未だに魔物退治に慣れていないシオリは魔物を見つけて小さく悲鳴を上げる。


「ひいっ」


 震えるシオリを安心させるように、魔物とシオリの間に入りこんだミトが微笑みながらシオリに、


「大丈夫、シオリちゃんは僕が守るから」

「あ、えっと……はい」


 そこはかと無く甘い雰囲気を漂わせるシオリとミト。

 町中であったならニマニマして見送るところだが、ここは危険な迷宮である。

 なのでイラッとしながら私は、二人だけの世界が形成されようとしている空間に向かって叫んだ。


「ちょっと、ミト、手伝いなさいよ!」

「無粋だね。こういう時は黙るのが……」

「敵に襲われているのにそんな事をしているほうがおかしいでしょう!」


 叫ぶ私を尻目に、そこでカイが即座に走りだし、剣を使い俊敏な動きで三体ほど切り裂く。



ギアッ


 そんな断末魔のような悲鳴を上げて、真っ二つにされた蝙蝠が黒い塵となり蝙蝠の牙や羽の欠片が地面に落ちる。

 その黒い塵は空気に溶けて消える。

 魔物のよくある最後である。


 魔物。

 基本的に既存の動物に似た形をしているが、違いは"人"だけを狙う事。

 理由は分っていないが、その魔物達は"人"を喰らう事に特化している。

 一説には"人"の持つ魔力に、魔物が必要とする何かが含まれているからだという。


 そんな魔物だが、その存在を維持できなくなる程度に体を破壊、もしくは存在の本体である核を破壊する事で黒い塵となり倒す事ができる。

 ちなみに核のある魔物は特に強い力を持っている。

 また倒した時に生じる黒い塵だが、闇の魔力として迷宮内を漂っている。


 その黒い魔力がやがて濃く濃密に何らかの理由で集まり、再び魔物を形成することがある。

 なので定期的に、魔力の集まっている場所を光属性の魔法で浄化という名の消毒が行われている。

 だがそれだけでは魔物を全て駆除しきれないのも、迷宮の厄介なところだ。


 その理由となる有力な説は、こういった迷宮は異界との接点が多いのに起因しているという説である。

 その接点を介して異界から闇の魔力が流れてくる事によって、魔物が生まれると言われているのだ。


 ただこれは有力なだけであり、他にも色々な説がある。

 実は、これらの説があるのは、まだ証明できるような証拠が見つかっていないことによる。

 とはいえ、倒せばどういうわけか牙やら羽やら毛皮やらが残り、それは魔法道具の材料としても使える事が経験的に分っていたので、多くの人の本音はその魔物がどのように生まれるか、という事にあまり興味は無かった。


 さてさて、そんな蝙蝠の魔物をカイは剣でいとも容易に凪いで倒していく。

 カイの持っている剣は"紅蓮の剣"という、炎の魔法が付加された細身の剣だった。

 それを舞うように巧みに使い魔物を倒していくが、見るものが見ればその見事さに簡単の息をついたであろう、そんな技術を持っていた。


 更にいうなれば、カイは最小限の動きで敵を倒し、息一つ乱れていない。

 そんなカイが次の標的を定めた所で、私がその蝙蝠をぼこっと杖で叩いた。

 思いのほか衝撃が強かったらしく、その黒い蝙蝠は塵となり牙を落とす。


 カランと乾いた音が響いてようやくすべての蝙蝠の魔物が倒されたわけだが、そこでカイがどこか諦めたように、


「杖で殴るなよ、魔法を使おうよ、フィーネ」

「今回は耐久テストも兼ねているの。前みたいに杖が壊れたときのために」

「……杖が無くてあれだけの事が出来るから十分だと思うんだが」


 以前あった悪夢のような出来事に、カイは目をとろんとさせる。

 そんなカイに私は、


「備えて置いて損はないし、その内新製品を作って売れれば、魔法特許使用料が取れるし」

「……なんか、いやいい。牙や羽が手に入ったから……いるだろう?」


 カイはこれ以上私に何かを言ってもしかたがないと思ったらしく、それ以上は何も言うのをやめたようだ。

 なのでニコニコと笑いながら私はその材料を拾って入れるための袋をカイに渡す。

 それを受け取り、カイが魔物落とした羽やらを拾って袋に入れる。


 私も遠くに飛んでいったその材料を拾いに行く。

 魔法の材料はこういった現地調達が必要な材料も多い。

 だが、近年魔法合成技術の発達で代替材料が大量生産されつつある時代に突入している。


 なのでこういった材料も安価で安全に原材料を手に入れられて、魔道具造りに必要な材料が足りてしまうため、魔法使いといえどそう頻繁には迷宮に潜らなくなった。

 加えて、代替材料により調達してきた材料の値崩れも起きていた。

 なので場合によっては、天然ものも安価に購入も出来る。


 ちなみにこの蝙蝠の魔物の牙もそうだ。

 それでも全部きちんと拾って行くのは、私が、貰えるものは貰っておく主義なのに他ならない。

 そして戦闘が終わると同時に、私は未だにシオリとほのぼのしているミトに食って掛かった。


「ちょっと、せめて入場料分くらい働きなさいよ」

「うん、シオリちゃんを守るので精一杯だったんだ」

「……まあ、それでも良いんだけれどね」


 ミトのその言葉に大きく嘆息する私。

 シオリは異世界から来たと言っているのもあって、一般人とそう変わらず戦闘の能力があまりない。

 性格にはなれていない。


 けれどその異世界は彼女にとっては大事なもののようで、その理由はわからないけれど、その異界との接点に関するものが知りたいならばこの迷宮が一番だ。

 とはいえ、シオリを友人として私は、手を打っているとはいえあまり危険な状況には置きたくない。

 だからミトが守ってくれるならそれはそれで十分だった。


 そんな私の言葉にミトは面白そうに笑って、


「へぇ、随分とシオリを大事にしているんだね」

「友達だし、ここに連れて来ているのも、シオリが異世界の住人だって言うからなんだけれどね」

「信じているの?」

「信じるわけないでしょう、異世界の人なら言葉が通じないはずだもの」


 私の言葉にしゅんと俯くシオリ。

 それに気づいた私が慌ててフォローする。


「別にシオリを信じていないとか……私が信じられないだけなんだけれどね、だから、えっと……」

「すみません、私、いつもフィーネに迷惑ばかり……」

「いやそんな事ないって。シオリの作る異国の料理も美味しいし、掃除も手伝ってもらえるし大助かりだわ」

「でも……」

「それにシオリの優しい性格は好きだもの。友達になってくれて嬉しいし、友達なら手伝いたいと思うのは当たり前よ」

「そう、かな」

「そうそう、それに力も強いから、色々魔法道具を持ってきてもらえるし」


 シオリの背を見ると大きな黄色いリュックがある。

 色々な魔法道具やシオリを守るための防御が施されているが、如何せんとても重たい。

 以前ならもっと小さいリュックをカイに持ってもらっていたのだが、シオリが来てからは、異様に力のあるシオリに頼んでしまった。

 そこでミトが私の頭を撫ぜた。

 

「フィーネは良い子だな、友達を利用する道具だって見ないんだ」

「そういう関係って嫌いなんです、私」

「面白いな。これだから、君達についていくのが止められない」


 楽しそうなミトだが、私としては言いたい事がある。つまり、


「……だったら入場料も払ってください」

「良いじゃん、図書館から費用が出るんでしょう?」

「月間魔道図書館ランキングで、この前利益で、2シールの差で魔道図書館スティアに負けたんです! その僅かなお金が命取りなんです!」

「あー、あそこか。でもどうしてそんなにあそこを目の敵にするんだい?」


 一応いうなれば巨大な魔道図書館でそれを敵視している理由を、ミトは仕事の意味でも問いかける。が、


「私は一番がすきなの!」

「……それだけ?」

「そうです!」


 単純な答えに肩透かしを喰らいながらミトは、その程度のどうしようかと思っていると、カイと目が合った。

 カイは意味深に笑う。

 それにミトは探るようにじっと見て、けれどカイが答える気がないと分るとすぐに私の方を向いて、


「まあ、危険過ぎる魔道書などが手に入ったら、すぐに没収もできるのも君たちについていく理由では有るのだけれどね」

「……この前没収されたあの魔道書の恨みは未だに根に持っています」

「はは。一応最近は緩和されたとはいえ、危険のレベルが高すぎるものは国のほうで管理しないとね。そういったものを求めて、危険な輩が襲ってくるかもしれないし……それなら警備の厳重な所で保管しておいたほうが良いだろうし」

「理屈はわかりますけれど、いいもの手に入った、目玉商品! と思った所で没収されたんですよ。それもギリギリのラインの危険レベルで……あと少し、あと少しだったのに!」

「残念だったね」


 少しもいたわるような様子のないミトが、そう言って笑うのを見ながら、そのうちこっそり危険な道具やら魔導書をゲットしてやると心に決めた。

 さて、そんなこんなで更に進みつつ途中分かれ道もあったので私は迷宮マップを取り出す。

 人がよく通る迷宮なので地図も充実していて安価なのが魅力的だ。


 それをじっと見つめつつ歩いているとそこでカイ、


「それで、今回は何処に行くんだ?」


 なので私はマップを指差して、


「えっと、迷宮マップだとこういう風になっているんだけれど、ちょっと気になる事があって」


 そう私が示したのは道に囲まれた空白の空間。

 通路のみが描かれているのでこういった空間はそこまで珍しくはない、はずなのだけれど……。

 そこを指で丸くなぞりながら私は、


「ここに隠し部屋があるんじゃないかって、私は睨んでいるの」


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