敵を一人捕縛
涙目なシオリをちらりと見つつ私は、
「何が目的なのかしら」
「もちろんその本に決まっているだろう。あちらの方はリドルに先を越されてしまったが、こちらにリドルはいないからな」
「あーはい、なるほど。私達ならどうにかなるって思ったと」
「そうだ、この程度の世界の人間ならば私一人でどうにか出来る!」
と言っているのを聞きながら私はどうしようかと迷う。
一番楽な方法は、あの檻からミトがシオリを連れ出すことなのだが。
「ミト、助けを待つより自分から脱出したいと思わない?」
「思わないかな、疲れるし」
「よし、シオリにいい所見せたくない!」
「うーん、それは真剣に検討してしまいたくなるね。ちょっと時間をくれるかな」
などと告げて、ミトが真剣に考えるように顎に手を当てながらその場で行ったり来たりしていた。
それを見てて考える時間はそんなになさそうねと私は判断して魔法で檻を壊そうとするが……そんな私の横を、カイが走っていく。
そして硝子のようなものの檻に向かって剣を凪ぐ。
カラカラと乾いた音を立てて、硝子のような檻が細切れになり地面に落ちた。
「な、馬鹿な……あれを破壊したと!? なるほど、惑う星の剣か……その力を持ってすれば、あの程度の檻はたやすく壊せるか」
といったように彼は納得してくれている。
だが、すぐ側の剣の妖精のミルがどことなく冷や汗を垂らしているのに、彼は何も気づいていないのだろうか?
今のはあの剣としての力ではなく剣にまとわせたカイの魔力による効果なのだが……。
おそらくは、カイあのミルの剣が強力なのでそれを使わずにただの剣として使用したのだろう。
そして一見、ミルの付いている剣の能力にも見えてしまうという、自分のじつrョクを隠すのにちょうどいい手法なのだろう、カイにとって。
もう少し自身の実力を出してもいいのになとカイに対して私は思うが、とりあえずは現在は目の前のこの小物な敵をどうにかする事から始めようと思う。
「それで人質は開放されてしまったけれどどうする?」
「く、これは計算外だ。だが、私の直ぐ側に本さえあれば目的は果たせる!」
「はあ、そうなのですか……」
だったら人質なんて取らずに私達が戻った所でそれを使えばよかったのではないかと私は思わなくはない。
けれど気づいていないらしい彼には、ただ煽っているだけにすぎない効果しかなさそうなので、私は放置する。
そこで彼は何やら呪文を唱えた。
「“……、………、……”」
「早すぎて聞き取れないわね。あら……本が光りだしたわね。危険そうだから投げておこう」
というわけで私が本を投げると同時にちょっと離れた所で本が白く輝き、その光が溢れていったかと思うと大きな白い“門”のようなものになる。
閉じてしまっているそれを見ながら私は、とりあえず杖を用意した。
杖は魔法を増幅する力が有るのだから。と、
「ふはははは、これでここでの役目は終わりだ。私は逃げるがな!」
「え~、もう少し遊んでいきましょう(棒)」
「誰が貴様らなんかと……え?」
「あなたにできることが、私に出来ないなんて……どうして思ったのかな?」
私は笑って、そこで小さく呟く。
同時にその、敵らしい人物は光の魔法陣に拘束された。
「な、何をする。この、こんなものなんか破って……破れない、だと?」
焦る彼の声を聞きながら、ふむ、新しい魔法だけれど効果は抜群ねと思う。
そこで、シオリが近づいてきて、
「フィーネ、何か来るよ」
「じゃあ、ミト! シオリをよろしくね」
「分かったよ。とばっちりを受けないようにしておけば良いのかな?」
戦うのではなくそういうミトにやや私は半眼になりながらも、
「少しはお手伝いしてほしいけれど、まあいいか。今回はちょっと強そうだし。しかも複数いそうだし」
「フィーネ、来るぞ」
そこで、カイの何処か切羽詰まったような声が聞こえたのだった。
強い魔力を感じる。
今までとは比べ物にならない怪物のようだと私は思う。
ぎぃと、鈍い音を立てて扉が開く。
そこにいたのは、細長い棒のようなものに、だらんと垂れ下がった手足がついたような物体だった。
それを認識すると同時に私は杖を振り上げるが、そこで悲鳴が聞こえる。
「な、なんで事だ“軟体の悪魔”が現れるなんて」
聞いたことのない魔物だが、この異世界人が恐れるほどの怪物であるらしい。
でも、私の敵じゃないと思い一気に吹き飛ばそうとするも、その前にカイが踊りでた。
いつもの様に容易に切り裂き……ではなく、その魔物を切り裂くと同時に“何か別の白い物体”に変えてしまう。
私にもよく分からない魔法。
今まで見たことがない、そう私が思っているとカイが振り向いて、何処か不安そうに私を見る。
それを見て私は……何をやっているのだと思った。だから、
「カイ、伏せて!」
「え? ちょ、うわぁあああああ」
カイが悲鳴を上げて伏せると同時に私の杖から、青い炎が放出されて、カイの頭上を通りすぎて……先ほどの魔物が新たに現れそうになった所で消滅する。
カイはそれを見てから、
「えっと、フィーネ」
「何?」
「いまのが倒せるくらいフィーネは強かったのか?」
「当たり前じゃない。天才って言われているもの。一緒にいたのにカイは気づいていなかったの?」
「……はい」
そこでカイはクスクスと笑う。
それはもう、楽しそうに。
私はそんなカイの様子を見て、まあ良いかと思った。
そしてこの門は今の二匹を召喚して終わりのようだった。
扉は消える。
意外に根性がないなと思っているとそこで、
「ば、馬鹿な……あの“軟体の悪魔”が瞬殺……下位世界の住人が……」
「そんな風に馬鹿にしていると足元をすくわれるわよ。まあ、貴方はあのリドルとか言うのにつき出すけれどね。というわけでちょっと気絶していてね」
「うごっ」
そこで私は殴って、その敵らしき男を気絶させる。
その男は買いに連れて行ってもらうことにして……。
「使った本でも大丈夫なのかな」
私はそうつぶやき水色の本を拾い上げたのだった。




