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とある図書館でのプロローグ

 図書館というと、何を思い浮かべるだろう。

 沢山の蔵書に囲まれた場所。

 書物という名の異世界に呼び込まれる、そんな場所。


 私、フィーネ・ローズもそんな場所に魅了された一人だった。

 新緑を日の光に透けさせたような明るい緑色の瞳に、風に揺らめく絹糸のように艶やかな亜麻色の長い髪。

 それを私は白いレースのヘアバンドで留めている。


 レースのヘアバンドの横には、ピンクと青の宝石の付いた魔法道具のブローチを付けている。

 これは男勝りな私に僅かな華が添えられた感じだと以前、カイが笑っていっていたなと思いだした。

 だがこれは、髪に付けていたのはおしゃれのためなどではなく、魔道具を手で持つのが面倒なのと髪が前に垂れて邪魔なのを一度に片付けられる画期的な方法だからと言い返した記憶にある。


 あの時のカイの表情は未だに私は忘れられない。

 さて、それはいいとして私は呻いた。


「ふーむ、どうしよう。今日は、うん、そうしよう」


 私はそう、今日は何をしようかと決めて図書館内の赤いカーペッドを歩き出す。

 世の中にには、“天才”というものが存在する。

 その内の一人は、私です! ……とこのまま言うだけだと、私の人格が疑われそうなので更に補足説明をしてみる。


 飛び級で魔法の大学院を卒業した私。

 その時点で、“天才だ”と騒がれたけれど、私はそのことについてあまり興味がなかった。

 その賞賛は、私にとって特に興味のある対象ではなく、好奇心を追求した“結果”でしかなかったので、はっきり言おう……周りがなにか騒いでいるなくらいしか思わなかった(ドヤ顔)


 もちろん、これを言ったら絶対反感を買うと分かっていたので言わないが。

 そんな私には男性の幼馴染がいる。

 よく恋人だの内縁の夫だのと言われるが、何故すぐに異性と一緒にいるだけで恋話になるのかが私には分からない。


 多分一番しっくりと来る私の彼への感覚は、“家族”のような親しい存在だろうと思う。

 一緒にいると居心地がいいのだ。

 なので私は、彼を道連れにした。


 つまり、幼馴染でもあるカイも飛び級して卒業させたのである。

 いや本当に二人っきりで夜まで、カイに“鬼教官”と言われるまで仕込んだかいがあった。

 二人っきりでそれをやったと他の人に話した時、やけに何かあったのかと聞かれたがカイが、『何もなかったんだ……』と呟いた時、他の人達が痛ましそうな目でカイを見ていたのが印象的である。


 さて、そんな飛び級をして卒業した私は、引く手数多の就職先を蹴りあげて、現在、過当競争気味な魔導図書館の司書となった。

 もちろんカイも道連れだ。

 初めはなんでそんな天才が二人もといった嫉妬やら媚びる輩、排除するように動く者達もいた。


 だがそんなものにめげる私ではなかった。当然だが。

 全員、表と裏で、ありとあらゆる手を尽くして、直接、または間接的にボコボコにしておいたために、敵対する者達は皆辞めてしまった。

 そのくらいで済ませたのも、私の優しさである。


 結果として嫌な雰囲気を作る性悪がいなくなったため、逆にの図書館内の雰囲気は良くなった。

 やはり嫌な相手は私だけにやっているのではなく他にも……なので、そんな感じである。

 それもあってか、皆、私に対して優しいし、カイにも優しい。


 ただカイに優しいという点に関しては、それとは少し違う気が私はする。

 もともとカイは人当たりが良く、巻き込まれるという意味で苦労性な面もあったのだが、どこか生暖かい目で見られているのは何故だろうと私は思う。

 特に、私に関しての事で、カイは他の人によくエールを送られている。


 私にはこないのに。

 納得がいかない。

 さてさて、そんなこんなで戦闘能力有り、相手を言いくるめる能力有り、本を並べたり管理の仕事も早い超有能で、美少女という才色兼備な私、フィーネ・ローズは新しい本の収集をしようか迷いながら、カイとシオリがいそうな場所を探し回っていたのだった。









 まずは逃げられないように、思いつきで行動するのが大切である。

 そう思いながら額に手を当てて、私は周りを見回しながら、


「さーて、シオリは何処かな」


 そう私は図書館の受付あたりから図書館内部を見回した。

 左右対称に広がる階段に本棚、その本を読むためのガラス張りの部屋が上へと広がっている。

 全体的に開放的な雰囲気で、下から図書館の大まかな部分を一望できるよう吹き抜けになっていた。


 なので、どの階でも本を探す人々もそこかしこに見られるが……ここから見える光景の範囲内では、図書館二本を読みに来ている一般市民よりもここの図書館の職員の方が多い。

 何故職員がこんなに色々な場所に見られるか。


 実は、今の時間は元々図書館に訪れる人が少ないので、整理をしたり、戻ってきた本を本棚に戻すといった作業をするにはもってこいなのであるある。

 そんなわけで司書見習いであるシオリは、確か本棚の状況をチェックして順番通りに直す作業をしているはずだった。 


「んー、確か黒髪で……いた! 三階の、西の国の童話のあたりだわ」


 そう、私は呟いて、目的の人物をへと駆け足で階段を上っていく。

 年代ものの階段には赤い絨毯がひかれて、手すりは年月を経て深みを増した飴色の木で彩られ、所々に兎といった可愛らしい彫刻が施されている。

 それを私は小兎が跳ねるように軽やかに駆け上がっていく。


 兎というより暴れイノシシとカイが言いやがった時は、しばらく追い掛け回してやった記憶がある。

 そう思いながら、先日、16歳になったばかりなのに、いまだに子供っぽいなとカイに言われたのを思い出して私は、もう少し言いようがないかと思う。

 それにカイが、


「少し女の子らしい体つきになってきて胸も膨らんで……という風になってきているんだからもう少し、行動をだな」

「いいじゃない、私は私だし」

「……そうだよな、それがフィーネだよな。フィーネのやらかす行動が……オブラートに包めば随分と活発だし」

「何がよ」

「……そうだな、うん、そもそも他の人達もそちらを意識する余裕が含めて周りの誰にも無いし、まあ、うん。それはそれでもしや俺に都合がいいのか?」


 と言ってカイが真剣に悩み始めたが、何を悩んでいるのかは私にはさっぱりわからなかった。

 そういえばその時カイが、


「皆が天才天才というけれど、俺にとってはフィーネはフィーネだから」


 と言ってくれた。

 何となくそう言ってもらえたのは嬉しかった気がする。

 いつも一緒にいた彼は、ある意味で私の一番の理解者だったのかもしれないとふと思う。


 そういえば、そんな私はその優れた才能から、誰からも将来は、この世界をひっくり返すような魔法研究学者になるだろうと思われていたらしい。

 だが私は、司書になってしまったが。

 嘆く者は多かったのも私は知っている。


 そして現在は、16歳という若くて遊びたい盛りだし、暫くすれば飽きて帰ってくるだろうという事と、どうせ司書をやりつつ勝手に次の研究ネタを仕入れてくるだろうとで、放っておかれていたりする。

 そんな色々な思惑が絡みあいつつある中、私、フィーネは魔道図書館の女性司書を満喫していた。


 さて、そんな私は茶色い長い髪をなびかせながら、嬉しそうにぺリドットのような明るい緑色の瞳を瞬かせた。

 ここに探している人物がいるからだ。

 確かこの辺りと思って周りを見回して……見つけた。


「シオリ、ここにいた! 今、何をしているの?」

「フィーネ……えっと今本棚の整理をしているのだけれど、どうしたの?」


 首をかしげる、黒曜石のような深く透き通る黒髪黒目の、可愛らしい、大人しそうなショートカットの少女はシオリ・クサカベという。

 奇妙な服を着てふらふらしている所を不審に思った私が保護あいたのだ。

 シオリを役所に連れて行って聞いてみると、本人曰く、チキュウという世界のニホンという国出身らしい。


「異世界なのに、何で言語が通じるの?」

「さあ?」


 問いかけたフィーネに、シオリは困ったように首をかしげけたのはついこの前の事。

 私が見ている限りでは、シオリは嘘をついておらず、本当に分らないようだった。


「よほど閉鎖的な所に住んでいたのかな? シオリは」


 ポツリと考えるために一言、私は呟く。

 閉鎖的な場所で暮らしてきて、それゆえに発展してきた独自の世界観を持っていたと仮定をすれば、この服装やら、彼女の話すその話も納得できるだろうと、そう私は結論付けた。

 閉鎖的過ぎれば言語に関しては説明がつかないが、元々このような言葉が通じる人達が作った閉鎖的な村かなにかなのかもしれない。

 とはいえ、どうして彼女がここに来たのかは、彼女自身謎だが。


「一応、役所で行方不明者を調べてもらっているから、何か分れば教えてもらえるかも」

「あの……私、多分異世界からきたと思うんです」

「はいはい、それで今日は何処に泊るの?」

「いえ、泊る場所……ないです」

「ええ! 仕方がないな、じゃあ近くの宿を紹介するわね」

「お金、ないです」

「……どうやってここに来たの」


 そこで、シオリが泣き出して、行く場所がないし、どうやってもとの世界に戻れば良いのか分らないと叫ぶものだからあまりにも気の毒になってしまって、


「なら、私の部屋に来る?」

「え? フィーネさんの、ですか?」

「うん、ちょっと大き目の部屋で、前の住人がいらないからと置いていったベットが一つあまっているし……二人で丁度良いから、家に来なよ」

「本当ですか! ありがとうございます!」


 といった経緯から、私の部屋にシオリは間借りして、シオリの帰る場所を、帰り方を探す事にした。

 そして生きていくためにはまず働かないといけないので、私が仕事を紹介して同じ魔道図書館の司書見習いとして働いているのだ。

 司書の試験はまだ半年の余裕があるので、どういうわけかシオリは文字の読み書き所かある程度の教養は備わっていたようなので、後は概念の暗記だけだった。


 ちなみに本人が言うに16歳で、私と同い年だった。

 飛び級した私なので周りが皆自分よりも年上だったため、同い年の同性の友達は私にとって貴重な存在だった。

 しかも性格もいいし、結構私のほうが面倒を見てもらっていたりする。


 そんな馴れ初めを思い出しながら私は、三階まで駆け上がり、右へと走っていく。 

 連なる本棚の横の道を走り向かう場所。

 確かこの辺だったかなと思って進むと、いた。


 そこでシオリは木製の梯子に上りながら、巻数が順番どおりに並んでいない本を並べなおしていた。

 ついでに水色の布で本の埃を本人の気質をよく表すように丁寧に取ったり、修繕が必要な本を分けてカートにおいている。

 よくよく見るとカートには本が山積みされており、この本全部の修繕費が材料費だけでどれくらいかなと私は計算しつつ、図書館内の人達で直せそうな物ばかりねと再び見て思った。


 そこで私はシオリを探しに来た理由を思い出す。

 そう、それはこの魔道図書館リザの順位に影響が出るような本を、魔道図書館スティアが発表した事に起因する。

 お陰であちらに人が流れてしまい、こちらの魔道図書館リザに来る入館料が減ってしまっている。

 そんなわけで負けず嫌いな所もあると自覚している私は、そろそろ目玉の一つや二つを更新しないとまずいわね、と警戒を強めていたのである。


 そもそも、魔道図書館とは何か。

 ようは、魔法に関する本から一般書籍まで、置かれている図書館である。

 昔は国が経営していたのだが、魔道図書館同士で購入本を水増し請求してその差額で私腹を肥やすといった行為が横行した事や、その分本を高くすることによって、魔法研究にかかる本代が高くなり魔法研究が遅れる現象が起きてしまった。


 また、結果として魔道図書館の権力が異常に高くなる、ある種の利権となってしまい、魔道図書館同士が裏で繋がっている事もあり、魔道図書館の偉い人に睨まれると研究すら出来ない状況になっていた。

 それを如何にかする面と、予算の側面から、魔道図書館同士を一部を除いて私営化し競争させる事となったのである。


 それによって研究用の本の価格低下、及び、印刷技術の向上によって安価に手に入れられるようになり、その波及効果として手軽にそういった文献が手に入れられるようになった事から、魔法研究がここ近年飛躍的に上昇し、その魔法産業が発達する事で様々な製品が作られて国が豊かになり、最終的には国の予算の赤字が少しずつ減少している状況になった。


 そんな中で、魔道図書館は私営のために、まず人を集めないといけない。

 そのために興味をそそるイベントや、高額で貸し出しできる書物の収集が必須だった。

 何処の図書館も手を変え品を変えて、色々なイベントを起している。

 その中でも、1、2位を争うのが、この魔道図書館リザと魔道図書館スティアだった。


 なので負けてなるものかと、私は闘志を燃やしながら、本の埃を払っているシオリに、


「そろそろ新書の発掘に行こうかと思って。だからシオリとカイを探していたの」

「ええ! この前行ったばかりじゃない!」

「この前は結局見つからなかったからね。まったく、どうしてあんな変な場所に魔法の書を隠すかしら、昔の人は」


 そう毒づく私。

 昔から、異界からの書物であったり、古代の魔法使いの記した書であったり、そういったものは危険が伴うため封印もかねて、迷宮の奥深くに封じ込めるのが一般的だったらしい。

 迷宮とは自然に出来たような、迷路状の洞窟といった自然の産物から、人工的に作られた廃墟まである。


 その中で迷宮と呼ばれるものは、様々な魔法道具や魔道書の眠る場所で、ただの洞窟などとは区別されている。

 それらは一括で、国の支配下にある人物が管理を行っている。

 そうしないと、中にある魔道具や本等によっては国を滅ぼしかねないため、国の管理の元に行わないと危険であるといった防衛の意味がある。


 そんな大人の事情は寄せておいて、ただ封じただけでは、どうして迷宮の奥深くにはあまりにも多くのそういったものがあるかが説明つかない。

 それらも含めて迷宮には未だに謎が多く、一部の説によれば、その迷宮自体が、ある日突然消えてしまった古代文明の跡地ではないかと言われている。


 それゆえに、どこかに自動でそういった魔道具を増産する設備があり、遺跡にばら撒いているだの、実は伝説の古代人たちの子孫がいるだの、様々な憶測を呼んでいる。

 けれど、古代人の作った説は、それらを否定する迷宮も多々含まれているため、実態は良く分っていない。

 また、迷宮には、人を喰らう魔物やら危険な罠もあるため、ある程度力の強い者達しか行く事が許可されていない。のだが。


「この前幾つか魔法道具渡したし、使えるから良いでしょう?」

「うう、仕方がないな、もう」

「ありがとう、シオリ! 後は、カイを探すだけね!」


 そんな機嫌の良さそうな私にシオリは微笑みながら苦笑して、


「じゃあ私は先に着替えくる。それなりの装備が必要だし。もう……フィーネはいつも突然なんだから」

「善は急げって言うでしょう?」

「急がば回れ、とも言うけれど、仕方がないや……」


 歩き出すシオリ。

 それを見て私もこの図書館にいるカイを探しに、再び走り出したのだった。





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