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私が気づいていないと思っているの?

 ダンジョンナンバー34『緑の編み籠』。

 実は都市近郊で、都市からも場所が見える巨大な迷宮である。

 入り口はつるで覆われており、それが幾重にも編まれて空高く伸びている。


 もともとは、ある日、何もない空間から大きな種が何粒も落ちてきて、それからまたたく間に成長したという。

 それを見て我々人間側も何者かがこの世界の侵略を考えて送り込んできたのでは……といった話になり、このつる自体を消し去ろうとしたらしい。

 けれど異界から来たこの植物がやわなはずは無く、びくともしなかった。


 また植物なので接した地面から栄養を吸いとい周りが砂漠化するのではと言われていたが……そんな事は無かった。

 結局その植物にしばらく我々人類は警戒していたが、何も起きなかった。

 むしろつるの周りや中には奇妙な動植物が生えたり魔物が生息したり不思議な物が現れたりと、他の迷宮と同じ状況になっていた。

 

 なのでここも利用しましょうという事になり、現在では普通に管理されている。

 そしてどうやらここに異界の門があるらしい。

 という事は、このカイの持つ剣と妖精、その二つと同じ出身地なのだろう。


 そんなこんなで、暇そうな入口のお兄さんにいつもの様に紙を書いて渡す。

 そして進んで行くとそこで、丁度中に入る場所でシオリがそのダンジョンを見上げ、茫然と呟いた。


「都市から見えていたあの緑色の雲の上まで伸びたつるが、これだったんですね」

「うん、晴れた日には雲の中に隠れている花が見えるのよね。あの花も採ると魔法の材料になるし、いい匂いの香油も取れるし、蜜だって高級品なんだよ。よし、ちょっと回収していこう」


 若干目的が変わった気がするが、そんな情熱を燃やしているわたしにシオリが再び見上げて、


「本当に初めてあれを見た時、ここはどこだって私は思いましたから。巨大なつるが天に向かって伸びるさまは、異世界のイメージそのものでしたし。童話に出てくる、豆の木かと思ったな……そして、どうして自分がこんな所にって思いました」

「……戻れるように私が頑張るから、期待していてね?」

「フィーネが約束を守る人だって知っていますから、信じています」


 シオリはいい子だ。

 しかも手助けしてくれるし、確実にそのうち変える方法を見つけ出そうと私は決意した。

 だがその前に今はやることがある。

 なので、そこで私がそのつるの入口部分のぽっかり開いた部分を指差して、


「じゃああそこから入りましょう。それと剣の妖精、ミル!」


 カイの剣の妖精を呼ぶと、淡く剣が光ると同時に小さな音を立てて妖精のミルが現れる。

 なんでも普段は楽なので剣の中に隠れているらしい。

 と、気楽そうな感じで現れた妖精のミルが、


「はーい、なんですか―。おお、異界の門の気配がすごくしますね、頑張ってください」

「そう言って何で剣の中に消えようとするのよ……」


 その私の問に、ひょこっと自分の体と同じくらいの本を妖精のミルは取り出して、


「いえ、先日、皆さんの根城である図書館に行った時に幾つか本を失敬してきたのです」


 などと供述しており、けれど私はその本が何なのかに気づいた。


「それ! この前ようやく集めた全シリーズ物! しかも異界の文書で、そこそこ貴重なもので、幾つもの場所から、どうにか全シリーズ集めて……」

「これ私達の世界の物語で、続きが気になっていたんですよ。だから昨日からずっと読んでいてですね、今も続きが早く読みたくてですね、えっと……」


 そこで私はミルを手で握りしめるように捕まえながら、


「妖精さん、もう少し何か仕事をしろ」


 物理的な意味でお願いをする私。

 妖精のミルは小さくプルプル震えながら、


「で、でも、私は基本、この剣の説明係で"惑う星を断ち切る剣"が変な使われ方をしないか見ているだけの簡単なお仕事だったはずなんです」

「……で、妖精さんは何が出来るの?」


 少し力を込めて、何が出来るのかを問いかけた。

 それに屈したらしく妖精のミルは、


「……多少の攻撃魔法とか治療とかです。援護がメインかな」

「そう……折角だから、灯りを持って私達の側で飛んでいなさい」

「えー、面倒臭……はい、謹んでお受けさせて頂きます」

「素直なことはとてもいいことだと思うの」


 私が手に力を込めていると、妖精のミルは素直に頷いた。

 その様子に私は手を放してから、明るい入り口へと向かっていったのだった。






 つるの中には、光り輝く白い花そこかしこに咲いていた。

 キラキラと煌くその一輪を私は手を伸ばして引きちぎる。

 そしてその摘み取られた花は、すぐにまた生えてくる。

 

「中が明るいのは良い事なのよね。ほら、これ持って」

「はーい……うう、折角良い所だったのに。しくしく」

「無料で貸出しているんだから少しくらいは手伝いなさいよ。あの本だって取ってくるのはすごく大変だったし」

「……はーい」


 渋々といったように呻く妖精のミル。

 明かり花がいくつも途中で咲いている影響と、妖精のミルが少し前方に飛んでいるおかげで見落としがしにくい。

 所々に転がった石のような魔力などの結晶や魔物を倒して素材を手に入れる。

 

 魔法の道具を作るのに使う素材は、何も魔法使いが使うだけのものではない。

 それがシオリには不思議だったらしいが、畑を耕す機械も全て魔法により動かしている。

 それらの機械を動かすのが魔力の結晶であり、それを言った時シオリは“ガソリンのようなもの”なのかなと言っていた。


 今覚えは異世界人ぽい言い方だったが、ここまで言語が通じてしまうと信用できなかったのは仕方がないと私は心の中で言い訳した。

 そうやって魔物を倒すなどして登って行くと、蔓の床をつたって私達は2つほど上の階に登ったわけだが。


「この高さであの雰囲気からすると……あと20階近く登らないといけないじゃない……」

「僕はこのへんでシオリとお茶をしていて、あとは私とカイの二人っきりで頑張るのはどうかな」


 ミトが逃げようとした。

 ここの入場料はまたも私達持ちだ。

 その料金分は働けと私は言いたかった。


 だが珍しくやる気のないようなミトを見て、ふと何かが引っかかる。

 だがそれは別として、一言文句を言おうと思った私だがそこで、カイにポンと肩を叩かれて、


「よし、フィーネ、一緒に頑張って上に行こう!」

「カイ……まぁ、危険からシオリを遠ざけたほうが良さそうだし、ね」

「シオリの事なら僕に任せたまえ」


 実際にここの迷宮は、他よりも強めの魔物がしたの方でも出てきたりする。

 それも考えると、まだこのうえのほうにシオリを連れて行くのは危険かもしれない。

 それにシオリにはミトがいるから大丈夫だろう。


 また私守る必要のある相手がいないとなれば、自由が効く。


「私の好きにしていいってことね」

「うんうん、いざとなったら蔓に穴を開けて脱出するから好きな様に暴れてくるといい」


 そうミトが肩をすくめる。

 そして私はカイに向き直るが、カイはニコニコしている。

 余裕めいた様子に全くと私は思う。


 それに、私もカイに聞きたい事があった。 

 昔からずっと、気付いていたけれど言わなかった事。

 そもそも、それをしていなければこんな風に妖精のミルに舐められる事もなく……ということはないような気がした。


 カイは、お人好しで温厚で人がいい。

 そこが私もとても気に入っているのだが、時々危なっかしく見えてしまう。

 世の中善人ばかりでないことは、私はよく知っている。

 でも、私がその分頑張ればいいだけと、私は思った。


 私にとってカイは、好きとか嫌いとかを超えた近い存在で、いるのが当たり前の相手だったのだから。

 よし、頑張るぞと思って私はカイと一緒に更に上を目指したのだった。








 5つ上の階へ行くと、大きな蝶が青い光を放ちながら花の蜜らしきものを吸っている。

 魔物の一種で、おそらくは気づかれると襲ってくる。

 だが花の蜜らしきものを吸っている間は私達に気づかないかもしれない。


 戦闘を避けられるならしておくべきだろう、そう思ってそっと避けるように私たちは歩いて行く。

 そうして足音を立てないように私とカイは、こっそりと歩いて行くが……。


パキッ


 眼の前にあった枝をなぜかカイが踏んだ。

 そしてその音でその蝶のような魔物に気づかれたようだった。

 バタパタと飛んでくる蝶の魔物を、"惑う星を断ち切る剣"ではなく、いつもの"紅蓮の剣"でカイは切りさいていった。


 それは一瞬で終了したけれど、それに不満な人物が一人。

 花の明かりを持った妖精のミルがふわふわとカイの元に飛んできて、

 

「ご主人様、私の剣は使いたいと思わないのですか?」

「思わない、危険過ぎる」

「じゃあ魅了……うぎゃ」


 私は妖精のミルを容赦なく握る。


「そういう事しないの。どの道、もうカイには魅了は聞かないだろうけれど邪魔しないの」

「そんな事ないです! ていっ!」

「あ、こら、やめなさい」


 にやっと悪い笑みを浮かべた妖精のミルが、手を上から下に振り下ろす。

 白い粉のような光がカイの方に飛んで行く。

 私はすぐさま魔法を無効化しようとするがちょっと遅くて、カイに到達してしまう。

 けれど、そこでカイは私の方を見て


「あれ、フィーネ、今、俺に何か魔法をかけたか?」

「これが魅了の魔法を」


 妖精のミルを指差すとカイ半眼になり、


「……ああ、うん」


 言葉を濁すカイだが、それに私は、


「カイも実力を隠すんじゃなくて、もしもの時のためにそれ位は魔法防御力を上げておかないと」

「え? いや、俺は別に隠してなんか……」

「本当?」

 

 私の問いかけにカイは落ち着かない様子だ。

 けれどそれはカイにとって言えない秘密らしく、私には誤魔化したままだ。

 何故頑なにそれを隠すのかは分からないが、今ここで聞き出しておいたほうが良いだろうか……そう私どちらにしようかと考える。


 ある気配が大きくなったのは、その時だった。


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