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女の子の手料理には夢がある

 朝日が眩しいなと思いながら、私はベットの上をごろごろしていた。

 ベッドの上、布団の中というのはどうしてこんなに心地の良い場所なのだろう。

 あまりの心地よさに私は、しばらくこの状態でいたいと思った。


 よくひなたぼっこをしている猫が、気持ちよさそうに、ごろにゃんと鳴きながら転がっているのを見ると私は、ああ、猫になりたいと思ったものだ。

 そして今はこうやって温かくて優しい眠りの世界に吸い込まれるのを感じる。

 眠い。とても眠い。


 寝てしまおう。

 自身の欲求には素直になるべき。

 そう徹底的に自分を甘やかすことに決めた私はそのまま寝ようとした。


 だがそんな私の眠りを妨げる愚か者がいる。

 ゆっさゆっさゆっさ。

 体を揺すられるのを感じながら私は、我が眠りを妨げるものに鉄槌を~、などと思う。


 そこでシオリが更に私の肩のあたりに手を当てて、強く揺さぶって、


「フィーネ、起きてよ。もう時間だよ!」


 シオリが焦ったように私に呼びかける。

 時間か、時間、時間……ぐぅ。

 だがそんな私の睡眠を邪魔するかのように揺さぶられて、なので私はいつもの様に、


「うーん、シオリ、後五分。ぐー」

「ご飯も作ったから、起きてよ。今日は朝から、カイ君やミトさん達と待ち合わせでしょう?」


 そういえばなにかそんなような約束をしないでもなかった気がする。

 異界の門関係で色々と、というか、カイの抜いてしまったあの剣が問題であって、でも実は関係ないとかなんとか。

 それを確認したいのは山々なのだが……。


「うーん、何だか暑くて良く眠れなくて……もう少し」

「フィーネ! 寝ちゃ駄目、起きて!」

 

 シオリが必死になって揺さぶるも、私はいやいやと首を振る。

 だってこんなに気持ちが良いのに起きるのなんて嫌だ。

 だから寝るお!


 そもそも現状では私がかぶっている毛布をめくれば良いのだ。

 そうすれば寒くて私は起きるだろう。

 ただそういえばあれだったなと私は思い出して、それなら毛布は無理だよねと私は思った。


 よし、これならば毛布を引き剥がされない。

 寝よう。

 そう、私は堂々と眠ることに決めたのだがそこで、カイの声が聞こえた。


「おーい、フィーネ、シオリ、迎えに来たぞ! あれ、開いてる?」

「カ、カイ……ちょ、ちょっと待って、フィーネが……」

「フィーネは朝が弱いからな。任せろ! そういう時の叩き起こし方を俺は知っているから!」

「ま、待ってください! 来ちゃ駄目です! 本当に駄目!」


 焦るシオリの声を聞きながらも、足音が聞こえる。

 カイが部屋に上がってきたのだろう。

 シオリがダメダメ言っているのが聞こえる。


 そういえば何で玄関が開いていたのだろう?

 あ、シオリが外に一回でたのかも、新聞をとりに……そう思った。

 それに部屋も掃除をあまりしていなかったなとふと思い出して、まあ、カイだから一家と思った。


 やがてカイとシオリの声が近づいてきて、


「おーい、フィーネ、朝だ……」

「だ、だからダメですってばぁぁぁぁ!」


 焦るシオリの声とカイの声。それに私は、


「ううーん、カイ、うるさいなぁ……」


 と言いながら、ごろりと私がベットを横に転がる。

 毛布がはだけて胸の辺りが涼しい。


「カイ、見ちゃ駄目ー!」

「う、うんそうだな、俺もあっちに行っているから」


 シオリが叫び、カイが慌てて去っていくのが聞こえる。

 うむ、眠りを妨げる邪魔者は消えた。

 でも何だかもう眠る気がしなくなったなと私は思いながら、ゆっくりと目を開く。


 そこには怒ったようなシオリがいて、


「フィーネもはしたないよ! ほら、もう起きて服を着て! カイも来ているんですから」

「うぅ、分ったよ。大体、カイの事はそんなに気にしなくて大丈夫だよ……。ああ、そういえば私、裸だった。昨日暑くて良く眠れなくて……」


 ブツブツ呟いていると、シオリが嘆息して私に、


「ほら、フィーネ、服! というか、カイだって男の人なんだから……」

「うんうん、わかってる」


 答えながら、昨日の内に用意しておいた今日の服をシオリが手渡してくるので、私は受け取る。

 それを広げてのろのろと手を通しながら、


「ありがとう、シオリ。でも、カイはそういう所はちゃんとしているから、襲ってきたりしないよ。そういうカイの真面目な所も私は好きだけれどね?」

「……なんだろう、この凄い生殺し感。カイが気の毒に思えるくらいの絶妙さ加減……フィーネ、もう少し言い方を変えた方がいいと思うのだけれど」


 その言葉にぼんやりとした私の頭はくるくる回転して出した結論というと、


「なんで?」

「……私は考えるのをやめた。以下略」


 そんなシオリと私の会話があったのだが、その時は、カイは私に真面目な正確がすきって言われた、と、ぼんやり幸せな気持ちになっていたので、その後の会話はまったく耳には言っていなかった。

 そして支度をした私がシオリと共に現れて、


「わ、今日はこれかぁ。美味しそう!」

「……人参とジャガイモのスープと、トマトジュース、目玉焼きです。カイもいかがですか?」

「あー、えっと朝食は食べてきたからその、スープだけでいいや」

「そうですか。分りました、すぐに器に盛りますね」


 そう答えるシオリを見ながら、スープに口をつける私。


「相変わらずシオリは料理が上手いわね。でも、こんな色初めはありえないなんて言っていたものね」

「こんなに美味しいのに? 色だって見るからにいい色じゃないか」

「でも異世界人だとすると、似たものが違う色なのかも」

「なるほど、そうか……でもこれからは遺跡、迷宮散策でもシオリの力が役に立ちそうだな」

「まあね。あの翻訳能力は最高だわ。……後は異世界に来た事で、シオリの体にどういう変化があるのか一度精密検査を受けておいたほうがいいかもね」

「あの怪力も、こちらに来た影響とか?」

「それはありそうね……体に妙な負荷がかかっていないかも、調べておいたほうがいいかもね」


 そこでトマトジュースに手を出す私にカイが、


「トマトって何となく果物な気がするんだよな、甘いモノは甘いし」

「一応野菜の分類だっけ。関税の関係で」

「“トマトマ事件”だったか。貿易の関係で野菜には関税はかかるが果物には関税がかからない、と」

「そうそう、まあ、トマトは地面から生えているしね。そう分類すれば野菜だね。ん、このトマトジュース、甘い。今が旬だからかな?」

「そういえば山盛りでトマトを売っていたな、市場で。俺も後で買って帰ろうかな……」


 そんな会話をカイと私がしていると、シオリが温かいスープを持って現れる。


「はい、人参とジャガイモのスープです」

「美味しそうだ、いただきまーす。うん、美味しいな、シオリは料理の天才だ!」

「ありがとうございます。喜んでもらえると、つくりがいがありますね」


 そう、シオリはほほ笑んだのだった。









「裏切り者」

「……ミトさん、俺は偶然そうなっただけで……」

「シオリの手料理。シオリの手料理。シオリの手料理。シオリの手料理。シオリの手料理」

「五回も言わないでくださいよ! そんな恨めしそうな声で」

「裏切り者」


 そうミトがにたぁとカイの方を見て笑う。

 何か良くないことを思いついた、そんな顔に私は見えたのだがそこでシオリが、


「もしよろしければ、そのうちミトさんにもご馳走しましょうか?」

「本当ですか! ぜひ、ぜひお願いします!」


 ミトが嬉しそうな声を上げて、元気を取り戻した。

 それを見て、うむ、シオリの手料理がカードになるわねと密かに私は考えていた。

 そこでカイの剣から、妖精のミルが現れて、


「ご主人様、今日はお楽しみでしたね」


 などと言い出した剣の妖精だが私にはよく分からない。

 そしてそんな妖精にカイが冷たい目で、


「……それを言うために出てきたのかお前は」

「と、言うのは冗談でして。やだな、怖い顔で見ないでくださいよ。ここに異界の門があるみたいだから頑張って下さい」


 これから向かう場所を地図で確認していたカイだが、彼の持っている地図にふわりと妖精が飛んでいってその場所を指差す。

 ここからそこそこ近い。

 そう私がそう覗き込みながら考えていると、カイがその妖精のミルに、


「……強いやつがなだれ込んでいないだろうな?」

「……一応設定上は弱い魔物です」


 ニパッと笑った妖精のミルだが、カイが半眼でそれを見つめる。

 私にとっても、この妖精が腹黒どころか真っ黒なので、本当に弱いのか甚だ疑問だったので、


「カイ、いざとなったら遺跡ごとぶち壊して倒しちゃえば良いのよ」

「私……この剣で?」

「私の魔法でも良いけれど?」


 実際に私の魔法でそれは出来るし、昔、誰も知らない遺跡に潜り込んだ時とても恐ろしい怪物にあって……あの時カイは私を助けようとして……私が、カイが良い所を見せる前に一撃で倒してしまったのだ。

 よし、何も問題無いわねと私は納得した。そこでミトが困ったように、


「……この前の遺跡が天井吹っ飛ばされて、その事後処理の書類が大変だったのだけれど……止めてくれないかな?」

「別にすきで遺跡を破壊しているわけじゃないですよ? 私達」

「そうなんだけれど……ま、いっか。命には代えられないし」

「そうですよ。さて、早速なので、列に並ばずにこの迷宮、ダンジョンナンバー34『緑の編み籠』に行きましょう! そしてさっさと異界の門を壊してしまいましょう!」

 

 そう叫ぶ私に続いて、カイ達も遺跡の迷宮に入っていく。

 そんな彼らを見つめる人影に、私達はまったく気づいていなかった……ように見えたのだった。



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