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なんか無理やり異世界へ行くことになったんだけど  作者: 玉本綜
第一章  いざ、異世界へ
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プロローグ ――悲劇の始まり――

 季節は春。

 桜の名所では満開の桜の木が立ち並び、静かに寒い時期を過ごしていた虫達も動き出す、そんな季節(シーズン)

 俺、文月(ふみづき)りんは、自室からぼんやりと窓の外を眺めていた。

 外からは鳥の鳴き声が聞こえ、春の訪れを知らせている。

「はぁ……」

 心地よい気温のせいで軽い睡魔に襲われる中、俺は机の上に突っ伏した。

 机の上には、俺の大嫌いな数学の教科書とノートが広げられており、俺が今まで数学を勉強していたということを物語っている。

 とは言っても、勉強を始めてから、実は一時間も立っていないのだ。

 今の俺にとって一番重要なことは、勉強だ。これをやらなければ、何も始まらないのだ。 俺は現在、中学三年生。言い換えれば、受験生なのである。……一生の中でも、かなり忙しい時期といえよう。

 そして俺は、周りの奴らより数倍もの努力をしなくてはいけないのだ。 その理由は……自分で言うのも何だが、俺の学力が高いからである。

 俺は今まで八年間の学校生活を送ってきて、今年で九年目になるが、勉強で困ったことはあまりなかった。別に、ちょっと頑張れば普通についていける、そんな感じだった。

 定期テストでも必ず学年のトップ5に入り、周りの奴らからは注目されていた。

 別に俺は、このことを誇りに思ったり、勉強が出来るから上の高校を目指そうなんて思ったりはしなかった。俺はごく普通の高校に無理なく進学し、そこでも今と変わらない、ごく一般的な学生生活を送れれば、それでいいと思っていたのだ。

 しかし、俺の頭の良さを知った親父とお袋は、俺を上の高校へ進学させようと、急に張り切り出したのだ。何もそんな面倒なことしなくていいのにな……。俺からすれば、いい迷惑である。

 俺はもちろん反論したのだが、お袋がその話を担任にまで話しちまったせいで、

「それはいい考えですね。私も文月君の学力は、素晴らしいと思っていたんですよ」

 担任までもがお袋の意見に賛同し、俺の進学高は絞られてしまったのである。

 そんなこんなで、今俺は上の高校への進学を果たすために、ほぼ一日中部屋にこもって机にかじりついているのである。

 そんな大げさな、と思うかもしれないが、決して大げさではない。本当にそうなのだ。

 いくら俺が勉強が出来るといっても、目指すのは国でも一番とか、そういうところだぜ? そりゃあ、死ぬ気で勉強しないと駄目だろう。

 ったく……、こうなるのが嫌だったから、俺は周りの奴らが行くような、近場の高校で良かったのに……。

 それなら、こんな受験の一年近くも前から必死こいて勉強したり、変な期待をされたりせずに済んだのに……。

「はぁ……」

 意識しなくても、自然とため息が漏れてしまう。

 しかし、それはもう決まったことだ。ここで俺がだらけたり、抵抗したりしたところで、何が変わるなんてことはないのだ。

 俺は半ば無理やり割り切って、また数学の勉強を再開しようと、伏せていた上半身を起こした。

 その時だった。


「随分と頑張るんだな」


「だっ、誰だっ!」

 聞き覚えのない女の子の声が後ろから聞こえ、俺は瞬時に振り向いた。

 するとなんと、俺の背後には、見たこともない女の子が立っていた。

 窓から差し込む陽光によって光る、肩下までの長さの金髪。日本人には持つことの出来ない、青い宝石のような瞳。整っているのだが、感情があるのかないのか分からない顔つき。

 彼女は灰色に近い銀色のワンピースを着用し、その上にはオレンジのカーディガンを羽織っていた。

「お、お前は……?」

「私か? 私はラゴン。ストウミィから、お前を迎えに来た」

 ずいぶんと偉そうな喋り方をするが……年は俺よりも小さそうに見えた。

「ストウミィ? 迎えに来た? ……一体お前は、何を言っているんだ」

 彼女――ラゴンの言っていることが半分も理解出来ない俺は、情けなくもそう尋ねることしかできない。そんな俺を見たラゴンは、呆れたと言わんばかりにため息をついた。

「今時の人間だというのに、そんなことも分からないのか、これだからただの人間は……」

「ただの人間って、なんだよ」

「まぁいい、説明してやろう」

 ますます訳が分からなくなっていく俺を前に、ラゴンは説明とやらを始めた。

「私が住んでいる……いや、今となっては『住んでいた』が正しいか。……私が住んでいたのは、惑星アースにある、ストウミィという国だ。惑星アースには他にも様々な国があるんだが……まぁ、地球みたいなものだ。そして、惑星アースに生まれた人間には、それぞれに能力が与えられる。例えば、炎や水を操る能力だったり、植物や物の心を読み取ることができる能力だったり、人間ではない生き物と友達になれる能力だったり、いろいろだ」

 ここですでに、俺の頭はパンク寸前になっていた。しかし、ラゴンは構うことなく説明を続ける。

「惑星アースには全部で百を超える国があると言われているが、国同士の諍いも滅多になく、どの国も平穏な日々を過ごしている……はずだった」

 ラゴンはそこで、声のトーンを落とした。

「ある日、私の故郷であるストウミィに、ある来訪者が訪れた。それはストウミィに隣接する国のブワック国の、一番偉いとされる人間、ブワック国の大統領だった。最初は国民全員で、大統領を歓迎していた。大統領は優しく、自分を歓迎してくれるストウミィの国民達に、愛想良く手を振ったりしていた。しかし……突然、彼はこう言ったんだ」

「何て言ったんだ?」

「『今からこの国を、我がブワック国の一部にする』……それは、ラジオやテレビで放送される番組で、なんの予告もなしに突然突き付けられた言葉だった……」

 ラゴンは悔しそうに、肩を震わせながら語る。俺はその続きが気になって、そこでは口を挟めなかった。

「ストウミィの国民達は、そんな要求を受け入れるはずはない。もちろん、国民全員で反対した。だが……そんなのは、相手にしてもらえなかった。大統領はそれだけ言うと、演説会場を出ていってしまった。……それから、大統領の姿は国内では確認されていない。きっと、国へ帰ってしまったんだろう。我々ストウミィの人間は、どうしていきなりこんな事態になってしまったのか、どうすればあの大統領から、情報を聞き出せるのか……夜も眠らずに考えたんだ。そしてその末、一つの案を思いついた」

「その一つの案ってやつが、俺を連れていくってやつなのか?」

「その通りだ。私も詳しくは知らないが、とにかくストウミィの人間では、ブワック国に近付くのもままならないだろう。そこで、我々のことを何もしらない、別の惑星の人間に、この任務を遂行してもらうことになったのだ。むろん、お前一人でとは言わない。私もついて行く。ストウミィの人間とはいえ、私はまだ未成年だからな。乗り込んで行っても、あっちも舐めてくるだろうからな。……これなら、ストウミィの人間が軍を作って乗り込んでいったり、ストウミィの大統領が危険を侵しながらあっちへ行くより、効率的だろう?」

 ラゴンの話を聞く限りは、彼女の言い分や国の人達の考えには頷ける。だがしかし……。

「その任務を遂行するのに、なぜ俺が選ばれたんだ?」

 するとラゴンは、無表情のまままるで小川の流れのように、サラリと言い放った。

「ストウミィの大統領が、まずはくじで惑星を決め、選ばれた惑星……地球の中から、まずまずの学力と体力がありそうな子供を何人か選び、その中からまたくじで選んだ結果、お前になったんだ」

 その話を聞いた俺は、一気に協力する気をなくした。ラゴンの話を聞いて、そういうことなら助けてやってもいいかなと思った俺が馬鹿だったのだ。

 俺はラゴンに向けていた体を、再び机へと向け直す。

「どうした?」

 俺の行動に気づいたラゴンが聞いてくるが、俺は無視してやった。

 くじなんかでたまたま選ばれただけで、得体の知れない星なんかに行くかよ!

 俺だけじゃなく、同じ目にあった奴なら、きっと誰もがそう思うだろう。

 そんな俺の意図に気づいてしまったのか、ラゴンはため息と共にとんでもないことを口走った。

「やれやれ……そうなってしまっては、無理やり連れて行くしかなさそうだな」

「……え?」

 ラゴンの言葉が耳に届き、反論しようと振り返った時には、俺の部屋はまばゆい光に包まれていた。


 まさかこの事件が、俺のこれからの人生を大きく揺るがすなんて、この時は思ってもみなかった。

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