第90話 ラブラブモード復活?
聖君はその日の夜、凪を連れて2階に行くとくっついてきて、布団を敷き、
「なんだか、いろいろとあったな」
とそう言って、布団の上にあぐらをかいて座った。
「大丈夫?」
凪を布団に寝かせてから、聖君に聞いた。凪はもうすでに眠ってしまっている。
「……ちょっと、頭パンクしそう」
だよね。
「はあ」
聖君はため息を吐くと、しばらく下を向いて黙り込んだ。
ああ、前だったら私を抱きしめて来たのにな。私だって、聖君を思い切り抱きしめてた。でも、今はどうやって元気づけていいかがわからない。
「聖君」
そっと近づいてみた。すると聖君は私を、力のない目で見て、
「ほんのちょっとだけ、抱きしめてもいいかな」
と聞いてきた。
「うん。いいよ?」
そう言うと聖君は、そうっと私を抱きしめてきた。
もっと力を入れて、ギュッてしても大丈夫なのに。だけど、聖君のほうが大丈夫じゃないのかなあ。
「桐太…。びっくりした」
「うん」
「前の俺は、そんな桐太のことも友達として受け止めたんだよね」
「うん」
「…そのへんが、ちょっと。今の俺には無理みたいだ」
「………。うん」
そうだよね。あの時は、桐太が初めて聖君に心開いて、本音を言って、それで聖君も受け止めようってなったんだもん。
「そんな桐太と仲良くなってる桃子ちゃんは、すごいね」
「そんなことないよ…。別にすごくないの。ただ、桐太の本音を聞いたら、なんだか桐太もあったかい優しい人なんだなあって、そう思っただけで」
「そうなの?」
「うん。聖君のことだって、大事に思っているし。私のこともいろいろと助けてくれていたし」
「……俺、やきもち妬いてなかったのかな」
「妬いてた。桐太に桃子ちゃんには近づくなっていっつも怒ってた」
「あ、そうなんだ」
聖君はまだ、私を抱きしめている。そうっと抱きしめられているのも、なんだかドキドキしちゃうものなんだなあ。
「桃子ちゃん」
「え?」
「桃子ちゃん」
「…うん?」
「…桃子ちゃんって、すごいね」
「え?」
まだ、桐太のこと?
「こうやって抱きしめてるだけで、すげえ俺、癒される」
「…」
か~~。顔が熱くなっちゃった。
聖君は少しだけ私から離れると、今度は顔を近づけてきた。
私は目を閉じた。聖君はまた、私の唇に触れるか触れないか、ぎりぎりのところで唇を止めた。そして、顔を離してうつむいた。
「………」
聖君はそのまま、黙ってうつむいている。
ウズ。
なんだ?この「ウズ」は。まさか、欲求不満とか?
い、いや。違うみたい。どっちかっていうと、聖君が恋しいと言うよりも、愛しい。ギュって私の胸に抱きしめたいって言うそんな衝動にかられた。
でも、そんなことしたら、聖君はびっくりしちゃうよね。じゃあ、そっと抱きしめるくらいならいいかな。
私は聖君の背中に両手を回して、そっと抱きしめてみた。聖君は一瞬驚いたようだ。でも、そのまま私の腕の中でじいっとしている。
もうちょっと、力を入れてもいいかなあ。
私はもう少し、聖君を抱きしめる腕に力を入れた。
ギュ…。
聖君はまだ、そのままじいっとしている。
ああ、なんだか、思い切り愛しいかも。
「も、桃子ちゃん」
「うん」
「………」
聖君の口から、微かに「駄目だ」という声が聞こえた。と思ったら、突然私は押し倒されていた。
うわ?!
聖君が思い切り熱い目で私を見ている。そして、私にキスをしてきた。
そうっと触れるか触れないかのキスじゃない。思い切り唇をふさがれた。そして聖君は、一回唇を離すと私の顔を見て、かなり驚いている顔をした。
な、なんで?なんでそんなに驚いたの?
「…桃子ちゃん」
「え?」
「い、色っぽすぎる」
へ?私が?
そしてまた、キスをしてきた。
うわわ?なんだか、ものすごく熱いキスだよ?うわ~~~~~。そのキスは、とろける。たた、大変!
聖君は唇を離すと、首筋や耳に今度はキスをしてきた。そして、手は胸を触っている。
まさか。聖君、我慢ができなくなっちゃったんじゃ…。さっきの駄目だっていうのは、理性を保っているのが駄目だっていうことだったりして。
スルスルスル。聖君は、いとも簡単に私の服を脱がしていく。ブラジャーのホックですら、片手で外す。
ま、まさか。手が覚えていたりして。感覚だけは残っていたりして?
「……桃子ちゃん」
聖君は、私の顔を見た。そして熱い視線で私を見ると、
「……いいの?」
と聞いてきた。
「…うん」
私がうなづくと、聖君はまた熱いキスをしてきた。
そのキスは、私の知っているとろける、熱くって長いキス。
聖君の胸に顔をうずめた。聖君の匂い、鼓動、ぬくもり。久しぶりだ。でも何も変わっていない。
「……駄目だ」
「え?」
「俺、ちょっと放心状態」
「…」
本当だ。顔を見たら、天井を見上げたまま、聖君はぼけ~~っとしている。
「やばい」
「え?」
聖君は私を見た。そしてまた、キスをして、それからムギュウって抱きしめてきた。
うわ。嬉しい。こんなに思い切り抱きしめてもらえるのも、久しぶり。
「やばい」
また、言った。やばいって何が?
「桃子ちゃん、可愛い」
あ、それで、やばい?
「俺、舞い上がってる」
「え?」
「天に昇ってる。やばい」
ああ、初めて結ばれた時にも、そんなふうになっていたよね、聖君。
「桃子ちゃん、すげえキス、上手」
「わ?私?!」
「うん」
「私じゃなくて、聖君だよ」
そう言うと、聖君は私の上に覆いかぶさり、私の顔に顔を近づけた。
「俺かな?」
「うん」
「俺、自分であんなキスするとは思わなかった。内心、驚いてた」
「そうだったの?」
「俺、いっつもあんなキスしてた?」
「う、うん」
「そうなんだ」
聖君は真っ赤になった。でも、真っ赤になりながらも私の髪を撫で、またキスをしてきた。
わ~~~~。また、とろけるようなキス…。
「…」
聖君は唇を離すと、私の顔を熱い目で見つめた。
「…駄目だ。やっぱり俺、おかしくなってる」
「へ?」
「舞い上がってるなんてもんじゃない」
え?
「桃子ちゃん」
「うん」
聖君は、私の胸に顔をうずめてきた。そして胸にキスをして、私の指に指を絡めた。
「ごめん」
「?」
なんで謝ってきたの?
「もう、一回、いいかな?」
あ、そういうことか。
「……うん」
私はうなづいた。すると聖君は顔をあげ私を見つめると、またあっつ~~~いキスをしてきた。
どうしよう。おかしくなっているのは私のほうかもしれない。聖君にキスしてもらって、触れてもらって、抱きしめてもらって、嬉しすぎて…。
私も聖君をギュって抱きしめた。ああ、愛しい。
聖君の全部が愛しい…。
そして、私たちは裸のまま、抱き合って眠りについた。
翌朝、凪の「あ~~~、う~~~」という声で目が覚めた。
あ!
聖君の素肌が目の前にある。それから寝息…。
聖君の寝顔を見た。可愛い。あの、可愛い寝顔の聖君だ。
嬉しい!聖君の腕の中で朝を迎えるなんて、嬉しすぎる。
私はしばらく、じ~~んとその喜びをかみしめ、それからそうっと聖君にキスをした。
「う、うん?」
聖君は目を覚ました。そして私を見ると、いきなり真っ赤になった。
「あ、あれ?」
聖君は天井を見たり、私を見たりしている。
「あ、あ、そうか」
どうやら寝ぼけていたようだ。
「おはよう。聖君」
「うん、おはよう、桃子ちゃん」
そう言うと、聖君はまた赤くなった。
「あ~~~~」
「あれ?凪、起きてるの?」
「うん。ご機嫌みたい」
聖君は上半身だけ体を持ち上げ、私の後ろで寝ている凪のことを見た。凪は自分の手で遊んだり、おしゃぶりをしたり、あ~、う~と話したり、なんだかとってもご機嫌だ。
あ、もしかして、パパが同じ部屋で寝ていることが、嬉しいのかなあ。
「くす。可愛いね」
聖君はそう言うと、また私の横に寝転がり、私の顔を見た。
「桃子ちゃんも、可愛い」
「…え?」
「やばいっ!やばすぎる!」
「?」
「朝起きたら、隣に裸の桃子ちゃんが寝ているなんて!」
ええ?
「やばい~~。嬉しい~~」
聖君は足をバタバタと動かしてから、私を抱きしめてきた。
ああ、もう。何だって聖君はこんなに可愛いんだか。
「桃子ちゃん」
「うん?」
「桃子ちゅわん」
……え?!
「今なんて?」
「え?」
「い、今、桃子ちゅわんって言わなかった?」
「言ってないよ?」
うそ。そう聞こえたのに、私の空耳?そう言ってほしいから、そう聞こえた?
「これから、毎日、桃子ちゃんの隣で寝てもいいかな?」
「もちろん。だって、いつも聖君はこの部屋で寝ていたんだし」
「そっか。そうだよね。川の字になって寝ていたんだよね?」
「うん」
「そっか~~~~」
聖君はそう嬉しそうに言うと、むふふって笑った。
あ、あれ?今も、思い切りにやけた。
「嬉しいな。ああ、やばいな。顏が締まりがなくなってる。どうしよう」
聖君はそう言うと、でへって笑った。
あ、今のも!
なんだか、19歳の聖君に近づいて行っている気がする。
「あ~!」
凪がいきなり大きな声を出した。聖君はそれに反応して、パンツを履いて、Tシャツも着ると、凪の布団のすぐ横に行って、凪に話しかけた。
「おはよう、凪。パパのこと呼んだ?」
凪は嬉しそうに聖君を見た。そして聖君が顔を近づけると、聖君の顔をぺちぺちとたたいた。
「きゃは!」
「あはは。ご機嫌だね、凪」
「パパが同じ部屋にいるのが嬉しいんだよ」
「え?」
「きっと、嬉しいんだよ」
私がそう言うと、聖君は嬉しそうに目を細め、
「じゃ、凪。これからはずっと一緒だよ」
とそうつぶやいた。
嬉しい。今日からずっと、また川の字で寝れるんだね。
それに、聖君に抱きしめてもらえるようになるんだ。
嬉しすぎる~~~!!!
そして聖君はというと、その日、勉強もせず、ずうっと家事を私としたり、凪を抱っこしたり、時々私を後ろから抱きしめたり、キスをしたりして、そして赤くなってにやけていた。
案の定、仕事もミスばっかりしていた。そして時々キッチンにいる私のところに来ては、顔をにやけさせ、
「桃子ちゃん」
とびとっとくっついてきた。
そんな様子を見て、お母さんはなぜか嬉しそうだった。でも、ホールにいた絵梨さんは、機嫌が悪かった。
それもそうか。今日は全くと言っていいほど、聖君は絵梨さんと話もしないで、暇になればキッチンに来ているんだから。
「バカップル復活?」
リビングでも、聖君は私のすぐ横にいて、顔をにやけさせていた。そして時々私の顔を見ると、
「は~~~~」
となぜか、嬉しそうにため息をつく。それを見て、聖君のお父さんがそう言った。
「うっせえよ、父さん」
聖君は真っ赤になった。
「お風呂も2人で入って来ちゃえば?」
「…俺は凪を入れるから」
「いいよ、俺が凪ちゃんはいれてあげるから、桃子ちゃんと2人で入ってきたらいいじゃん、聖」
「い、いいって!」
聖君はもっと赤くなった。
「なんだ。そこまでは復活していないのか」
お父さんはそう言うと、にやにやしながら2階に行ってしまった。
「ああ、まったくもう」
聖君は赤くなってうなだれた。
「聖君、凪をお風呂に入れるの、気を付けてあげてね?」
「え?」
「ね?」
「うん。わかってる。それはもう、ちゃんとする!」
聖君はそう言って、先にお風呂場に行った。そして、
「いいよ~~」
という声が聞こえたので、凪をお風呂場に連れて行った。
「はい」
聖君に凪を渡した。聖君はしっかりとタオルを腰に巻いていた。
そしてしばらくすると、
「出るよ~~」
という声がして、私は凪を受け取りに行った。
聖君はやっぱり、しっかりと腰にタオルを巻いていた。
って…。バスタブの中でも、タオルつけてたの?よっぽど私に見られるのが恥ずかしいのかな。
その辺はまだまだ、16歳の可愛い聖君なんだね。