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第6話 頼ってもいい

 凪におっぱいをあげながら、幸せをかみしめていると、看護師さんがまたやってきて、話しかけてきた。

「榎本さん、これから、胸が張ったり、痛くなるかもしれないから、授乳の時間以外でも、搾乳したりしましょうね。その仕方も教えるし、乳首のマッサージもして、赤ちゃんがおっぱいを吸いやすくしておかないとね」

「はい」


「マッサージは今までもしてた?」

「まだ…」

「じゃあ、オムツ替えが済んだら、教えるからね」

「はい」


 ちょっとしてから、看護師さんはまた凪をひょいと持ち上げ、逆向きにして、私の右のおっぱいのほうに凪を向けた。

「じゃ、今度はこっちのおっぱいね」

 そう言われ、私は凪の口におっぱいを含ませた。あ、でも、なかなか吸ってくれない。


「陥没しちゃってるのねえ」

「え?」

「右のおっぱいよ。これだと吸えないのよね」

 そうなの?

「これもね、マッサージしたら出てくるようになるから。こうやって」


 痛い。うそ。こんなに強く~?

「はい。もう一回、口に入れてみて」

 凪の口にもう一回、おっぱいを含ませると、どうにか凪は吸ってくれた。


 授乳が済むと、看護師さんがオムツを替えるのを教えてくれた。それにしてもさっきから、看護師さんはひょいひょいと軽く凪を抱っこするけど、私は怖くて手に力が入ってしまう。

 だって、小さくて、ぐにゃってしてて、首もすわってないんだもん。


 オムツを交換するのも、オムツを開けたら思い切りウンチをしていて、うわって私は思わず、引いてしまった。

 でも、看護師さんはさっさと、説明をしながら、

「はい、やってみてね」

と私に軽くそう言ってきた。


 凪の足はすごく細く、湾曲している。うわ。こんなに曲がってて平気なの?と隣の赤ちゃんを見ると、おんなじだった。

 看護師さんは、凪の両足を片手で持って、ひょいとあげた。それを私にもしろと言うんだけど、それすら、おたおたしてしまう。


 どうにか両足を持って、お尻をあげ、お尻をふいてあげた。あ、すごい。紫色。これ、蒙古斑だ…。

 それから、オムツをしてあげたんだけど、お尻も足も小さいから、やけにオムツもおむつカバーもでかくって、変な感じだ。


 凪はお腹もいっぱいになり、お尻も綺麗になったからなのか、すごく満足そうな顔をしている。

 聖君が色が白いと言っていたけど、赤みがかかっていて、真っ白ではない。

 髪は聖君が言っていたように、ほしょほしょだ。

 

 手はめちゃくちゃ小さい。その手をずっと握りしめている。指もほそっこい。爪の先は、伸びているようだが、すごく柔らかそうな爪だ。

 はあ。どこそこ、小さい。だけど、手に抱くと、ずっしりと重さを感じる。この重いのが、つい数時間前まで、私のお腹の中にいたんだよなあ。


 凪は目を閉じていた。もしかすると、すでに眠っちゃったのかもしれない。

「では、ベッドに寝かせましょうか。そのあと、またこちらに来てくださいね。おっぱいマッサージをしますからね」

「はい」


 私はベッドに凪をそっと寝かせた。ああ、まだ抱っこしていたかったな。凪の寝顔、めちゃくちゃ可愛いし、ぬくもりもあったかいし、何よりもこのふにゃふにゃした感じがたまらない。

 それに、授乳をしている時って、至福の時かも。


 ベッドに置いてから、窓ガラスの外を見た。すると、聖君はいなかった。

 あれ?部屋に戻った?それとも、帰っちゃった?


 私はそれからまた、隣の部屋に入った。椅子に腰かけ、何人かの人が、まだ赤ちゃんにおっぱいをあげ、何人かの人は、看護師さんにマッサージをしてもらっていた。


「いたた」

 一人の人は、顔をゆがめている。

「痛いでしょう?こんなに張っちゃって」

と、看護師さんが言っている。え?張って痛いの?


「榎本さん、ここに座って」

 さっきとは別の看護師さんが私を呼んだ。ネームプレートを見ると、その人は助産師さんだった。

「あの、胸が張っちゃうと、痛いんですか?」

「そうよ。ほっておくと、乳腺炎にもなったりするから、気を付けないとね」

「え?」

「マッサージはしっかりしないと。そういうのも教えるし、退院してからも母乳マッサージは受けたほうがいいわよ」

「はい」


 それから私は、その人にマッサージをしてもらったんだけど、

「い、いった~~~~」

「こんなに固くちゃ、赤ちゃん、吸うのが大変よ。ほら、赤ちゃんのためにも頑張って」

と言われ、泣く羽目になった。


 痛い。痛い。痛い。めちゃくちゃ痛いんですけど!!!!

 は~~~~。何、これ。おっぱいをあげるのも、こんなに大変なの?うえ~~ん。聖君。今すぐにでも、泣きつきたい。

 ああ。結局こうやって、私はすぐに聖君に甘えたがっちゃうんだな。


 やっと、マッサージを終え、私は病室に戻った。それにしても、病室にも聖君はいないし、帰っちゃったのかなあ。

「凪ちゃんに会ってきたの?」

 ベッドに寝ようとすると、カーテン越しに小百合ちゃんが聞いてきた。なんだ、起きてたんだ。私はカーテンを開けた。


「うん。おっぱいあげて、オムツ替えてきたよ」

「どうだった?可愛かった?」

「うん。すごく。おっぱいも吸ってくれたの。嬉しかった。でも…」

 私はそのあと、言葉を濁した。でも、これから小百合ちゃんも経験するんだもんね。


「おっぱいのマッサージをしてくれたの」

「え?」

「乳首。私の固いんだって。それで、助産師さんがしてくれたんだけど、これが痛くて」

「ええ?」

 小百合ちゃんがびびっている。


「あ、でも、私、一応自分でもしてたんだ」

 小百合ちゃんがそう言いだした。

「そうなの?」

「母親学級で言われてたじゃない?」

「うん。この産院のでしょ?私、あまりまじめにそういうのやってなかったの。それに、やるとすぐにお腹張ったから怖くって」


「私も、臨月に入ってからだよ」

「そうだったんだ。ああ、どうしよう。あんなに痛いの。それにね、胸も張っちゃうから、ちゃんとマッサージしないとダメなんだって。隣りに座った人がしてもらってたけど、すごく痛がっていたんだ」

「本当に?」

 小百合ちゃんがまた、青くなった。


「輝樹さんにしてもらおうかな」

「へ?」

「あ、乳首のマッサージはしてもらってたんだけど」

 ええ?!ま、まじで?


「は、恥ずかしくなかった?」

「うん。なんで?赤ちゃんのためだし、恥ずかしいなんて言ってられないでしょ?」

「そうだよね」

 うわ。じゃ、私も聖君に…。

 でも、そんなこと頼むのも恥ずかしい。


 でも、でも、でも。こういうのもちゃんと言うべき?

「あ、そういえば、聖君、帰っちゃったのかな」

「一回、戻って来てたよ。誰かと一緒だったけど?」

「ほんと?」

 誰とかな。


「オムツ替えも大変?」

 小百合ちゃんが、ちょっとこっちに顔を近づけ聞いてきた。

「うん。だって、抱っこするだけでも、緊張したんだよ?」

「そうだよね。赤ちゃんって、きっとぐにゃぐにゃだよね」

「うん。でもさ、看護師さんは片手でひょいなんだよね」

「そうなの?」


「だけどね、可愛かったよ。小さくって、ふにゃふにゃで。ああ、聖君が抱っこしたら、離さなくなっちゃうんじゃないかな」

「生まれてから、聖君、抱っこしたの?」

「うん。喜んでた」

「いいな」

「え?」

 なんで?


「輝樹さん、抱っこしなかったみたい」

「どうして?」

「僕はいいですって、遠慮したらしい」

「なんで?!」

「怖かったみたい」

「…そ、そうなんだ」


「はあ。輝樹さん、本当に赤ちゃん、産んでほしいって思ってたのかな」

「だ、大丈夫だよ。これから徐々に、お父さんになっていくって」

「うん、そうだよね」

 小百合ちゃんは、力なく微笑んだ。


 そっか。そうなんだ。そういう男の人もいるんだね。聖君みたいに、生まれたらすぐに父親になって、もうすでに親ばか発揮する人ばかりじゃないんだ。


 トントン、ノックをして、聖君が顔を出した。

「あ、桃子ちゃん、戻ってた」

 そう言うと、にっこりと笑い、部屋に入ってきた。

「菜摘のお父さんが、仕事早めに切り上げて、来てくれたんだ」

「え?そうだったの?」


「うん。今、桃子ちゃんが授乳をしてるんですって言ったら、ちょっとお茶してからまた来るって言うから、俺も付き合ってた」

「そうだったんだ」

「で、今、凪のこと2人で見てきたよ。気持ちよさそうに寝ていたね」

「菜摘ちゃんのお父さんが、わざわざ?」

 小百合ちゃんが不思議そうに聞いてきた。


「うん。だって、凪のおじいちゃんだし」

「え?!」

 小百合ちゃんが、すごく驚いたが、

「あ、そっか。聖君の血のつながったお父さんなんだっけ」

と思い出したかのように、そう言った。


「可愛いって言ってたけどさ、でも、お父さん、どこか実感がないみたいなんだよね」

「実感?」

「自分と血がつながっているってこと。エコーの写真も見せてたんだけど、やっぱ、なかなか孫だとは思えないよね」


「凪ちゃんだって、おじいちゃんが3人もいたら戸惑っちゃうわよ。いいんじゃないの?孫だと思えないならそれはそれでも」

 小百合ちゃんがそう言うと、聖君はちょっと首をかしげて、

「でも、俺にとって、やっぱりお父さんだから、凪にとってもおじいちゃんなんだよなあ」

と独り言のようにぽつりと言った。


 そこに夕飯が運ばれてきた。小百合ちゃんはあまり、食欲がないと言っていたけど、私はしっかりと食べてしまった。

「母乳のためにも食べないとね」

と聖君がにこにこした。

「聖君も、お腹空いたでしょ?もういいよ?帰っても」

「追い帰す気?」

 聖君が今度は、おっかない顔をした。


「ち、違うよ。でも、疲れてるでしょ?」

「大丈夫。それに今帰っても、まだ夕飯できてないよ」

 時計を見たら、6時半だった。

「そっか…」


「ね、どうだった?」

 聖君は私が食べた食器を片づけに行き、戻ってきてからにこにこして聞いてきた。

「え?」

「初授乳」

「うん。凪、ちゃんとおっぱい吸ってくれたよ。嬉しかった」

「そうなんだ」


「それにオムツも替えてきた」

「大変?」

「大変!」

「そっか~~。俺にもできるかな」

「慣れたら、きっと大変じゃないんだよね」


「…いいな。抱っこしてきたんでしょ?」

「うん」

「いいな~~」

 聖君がやたらと羨ましがっている。

「聖君」

 小百合ちゃんが声をかけてきたので、聖君は小百合ちゃんのほうを向いた。


「桃子ちゃん、マッサージが大変だったんだって」

「なんの?」

「おっぱいの」

「え?」

 聖君が驚いている。私もびっくりだ。小百合ちゃん、何を言い出すの!


「私は臨月に入ってから、一応していたんだ。おっぱいが出やすいように、乳首を柔らかくするの」

「…」

 聖君は目が点になっている。

「輝樹さんも、してくれてたの」

「え?」


 ますます聖君が固まった。

「つまっちゃうとね、おっぱいでないし、乳腺炎になっても大変だしね」

「…知らなかった。桃子ちゃんはしてたの?俺になんにも言ってくれなかったよね?」

 聖君が私を見た。

「あまり、してなかった。お腹張っちゃうといけないかなって思って」


「これからも、そういうの、ちゃんとしていかないとダメなんだって」

 小百合ちゃんがそう言うと、聖君は小百合ちゃんと私を交互に見て、

「わかった。協力する」

と真剣な目でそう言った。


「え?」

「輝樹さんもしてるんでしょ?」

「うん」

「俺も、ちゃんとするよ。あ、もしかして、そういうの言いにくかったの?桃子ちゃん」

 図星。

「だから、代わりに私が言っちゃった。でも、おせっかいだったかな?」


「ううん。小百合ちゃん、教えてくれてサンキュー」

 聖君はそう言うと、本当に真剣な目で私を見た。

「なんでも言ってって、言ってるじゃん」

「ごめん。だけどね、えっと」

「ん?」


 すごく痛いんだよ、これもまた。だから私、また泣きついちゃうよ…?なんて言えない…。

「ここにいる間は、助産師さんがしてくれるから、大丈夫」

 私は聖君にそんなことを言ってみた。

「…うん。わかった」

 聖君は真面目な顔で、うなづいた。

 あれ?なんでそんなに真面目な顔?


「でも、俺もちゃんと頼りになるように、勉強もするし、頑張るから」

 へ?

 あ、うそ。聖君が頼りにならないって思ってるわけじゃ…。そうじゃないけど…。逆に甘えすぎちゃうかもって思ってたのにな。

 でも、何も私は言うことができなかった。


 小百合ちゃんを見ると、ベッドに横になり、逆側を向いていた。もう、2人の会話には入らないから、2人で話してねって、背中が言っている。

「小百合ちゃん、休むの?」

 聖君が気が付き、そう聞いた。

「うん。カーテン閉めてもらってもいい?」

「うん」


 聖君がカーテンを閉めた。そして、そっと私のベッドに腰を掛けた。

「桃子ちゃん」

 聖君は寝ている私の顔に思い切り近づき、聞こえるか聞こえないかくらいのかすかな声で、

「もっと俺のこと、頼ってね」

と優しく言った。


「うん」

 私は小さくうなづいた。聖君はそっと私にキスをして、それから優しく頬をなでたり、髪をなでたりしている。うわ。その優しさにとろけそうだ。

「俺、そろそろ帰るね。桃子ちゃん、ちゃんと休んでね」

「うん」

 聖君はベッドから静かに下り、そして、静かに部屋を出て行った。


 し~~~ん。しばらく部屋が静まり返った。小百合ちゃん、寝てるのかな。

「聖君は、本当に優しいね」

 ぽつりとそういう声が聞こえた。あ、なんだ、起きてたんだ。

「輝樹さんだって、優しいでしょ?」


「…私、ちょっと不安」

「え?」

「輝樹さんもきっと、赤ちゃんが生まれたことを不安に思ってる。私も、すごく不安。これからちゃんと育てていけるのかな」

「お母さんたちと一緒に住むんでしょ?」


「しばらくはね。でも、アパート借りて2人で住むようになると思うよ」

「大丈夫だよ。きっと、お母さんも、あの理事長も、いろいろと助けてくれるよ」

「桃子ちゃんは強いね。不安じゃないの?」

 あれ?そういえば、全然不安じゃないかも。


「私は、うちの両親も、聖君の両親もいるからかなあ。それにあの、聖君がいてくれるし」

「頼りにしてるんだね」

「…頼りって言うか…。聖君って、本当に凪のこと可愛がりそうだもん。あ、私のことなんか、ほっておかれちゃうかもっていう不安はあるかな」


「いいなあ」

 よくないでしょ?

「子供好きな旦那さんで」

 あ、そういうことか。

「輝樹さんだって、わからないよ?」


「うん。そうなんだけどね」

 小百合ちゃんはそう言うと、またため息をした。そしてそのあとは、黙り込んでしまった。

 そうだよね。親になるんだもんね。私、そういう自覚が少し足りてなかったのかな。すっかり聖君だったり、周りの人に頼ろうとばかり思っていたし…。


 そのあと、小百合ちゃんのお母さんと理事長がやってきて、私にもフルーツやジュースを持ってきてくれた。そして理事長は意気揚々と、赤ちゃんを見に行き、戻ってくると、突然、

「名前は、和樹!顔を見てぴんときた」

と言い出した。


「筑紫和樹。あら、いいじゃない?ねえ、小百合」

 小百合ちゃんのお母さんもそう言って、喜んだ。小百合ちゃんも、一緒に喜んでいたけど、でも、時折、暗い表情になっていた。

「理事長も、お母さんも、和樹君と小百合ちゃんが退院したら、和樹君の世話をしてあげるんですよね?」

 私が思わずそう言うと、理事長も小百合ちゃんのお母さんも、もちろんよと言い張った。


「本当に楽しみ。孫学級にだって参加したし、沐浴だってできますよ」

 理事長が、目をキラキラさせてそう言った。ほら、大丈夫だよって、私は小百合ちゃんの顔を見ながら、目で合図をした。

 小百合ちゃんはそれに気が付き、

「本当に、頼ってもいいんですか?私」

と2人に聞いた。


「何を言ってるの!当たり前でしょ?家族ですよ。家族に頼る。家族なんだから、助けてもらうって言ったのは、あたなですよ?」

 理事長がそう言うと、小百合ちゃんは嬉しそうにうなづいた。

「大丈夫よ、小百合。お母さんもお父さんも、赤ちゃんの世話がしたくてうずうずしてるし、輝樹さんだって、最初は戸惑うだろうけど、そのうちに立派なパパになってくれるから」


「うん。そうだよね」

 小百合ちゃんはお母さんの言葉に、うなづいた。

「そうですよ。男の人はね、女の人よりもなかなか、親になったっていう実感がわかないものなんですよ。でも、大丈夫。彼はすごく真面目だし、いいパパになりますよ」

 理事長も、小百合ちゃんにそう言ってあげた。

 2人とも、小百合ちゃんがなんとなく不安になっていることに、気が付いたんだろうか。


「小百合が生まれた時も、お母さん、やっぱり不安だったなあ」

「あなたが生まれた時もそうでしたよ。女性も子育てしているうちに、だんだんと母親になっていくんです」

「そうだわね。小百合、子育ては親育てだっていう、そんな言葉があるのよ。桃子ちゃんも聞いて。母親になるのは初めてなんだもの。不安なこともあるだろうし、わからないこともたくさんあって当たり前なの。でもね、子供と一緒に親も成長していくのよね」


「本当にそう…。大丈夫。わからないことがあっても、私たちを頼りにしなさい。昔はそうやって、大家族で住んでいて、なりたてほやほやの母親も、いろんな人に助けられ子育てしたものですよ。今は核家族になっちゃって、そうもいかなくなりましたけどねえ」

 理事長がしみじみとそんなことを言った。


「そういえば、校長や他の先生も、生まれたって連絡したら喜んでいました。そのうち、手紙でも書いて、高校に送ったらどう?」

 理事長がそう言うので、私も小百合ちゃんもにこりとうなづき、そうしますって答えた。


 そして、理事長と小百合ちゃんのお母さんは帰って行った。

「子育ては親育てかあ」

 小百合ちゃんがぽつりと言った。

「うん。本当にそうなんだろうね」

 私も、天井を見ながら答えた。


 凪、あなたが生まれたことで、私も聖君も、また成長していくんだね。それに、ますます家族の絆が深まるような、そんな予感もしているの。

 大変なことはきっと、いっぱいあるだろう。でも、大丈夫。私には支えてくれる人が、たくさんいるから。


 小百合ちゃんを見た。小百合ちゃんも私を見た。もう、小百合ちゃんの目は、不安の色がなくなっていた。





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