第67話 崩れるイメージ
翌日、日曜日。朝から快晴。聖君はどうやら、目覚めが良かったようで、カーテンを開けると外を見て、元気に、
「あ。すげえ、いい天気!」
と喜んでいた。
「桃子ちゃん!」
私が布団に座り、凪におっぱいをあげていると寄ってきて、
「凪と3人で、海まで散歩に行こうよ」
と、にこにこしながら言ってきた。
「クロは?」
「あ、クロも」
「うん、いいよ」
「やった~」
聖君は喜びながら、部屋を出て行った。
今朝も、よれたTシャツとパンツ、そしてはねた髪のまま一階に行っちゃったなあ。あれで、お店まで出ちゃうのかな。
凪がおっぱいを飲み終わり、オムツを替えた頃、聖君がバタバタと階段を上って戻ってきた。
「あ~~。びびった」
「どうしたの?」
「こんなに朝早くから、やってきた」
「?誰が?」
「絵梨ちゃん」
「お店に?どうして?手伝い?」
「いや…。散歩ついでにって…。犬の散歩だよ。コーギーって犬、連れてた」
「もしや、クロと一緒に散歩がしたいとか?」
「そうみたいだけど…」
「聖君も一緒に行こうって?」
「うん、誘われた。でも、今日は家族で行くからって断ったんだけど、母さんが、絵梨ちゃんも一緒でいいじゃないって。ほんと、母さん、もうちょっと家族水入らずの時間を作ってくれてもいいと思わない?」
そう言いながら、聖君はよれたTシャツを脱いで、綺麗な真っ白なTシャツを着て、ジーンズを履いた。
なんでもないTシャツとジーンズ。それだけで、いつものかっこいい聖君に…、なってなかった。まだ、髪が飛び跳ねてる。だけど、そんな無造作の髪型までがかっこよく見えちゃう。
「パンツ、絵梨ちゃんに見られた。母さんがそんな恰好で店に出てくるなって怒ってたけど、絵梨ちゃん、ちょっとびっくりしてたなあ」
そりゃ、びっくりするよ。パンツで現れたんじゃ。
「顔、引きつってたもんなあ。あれ、引いたかなあ」
「がっかり?」
「え?」
「絵梨ちゃんが、聖君を見て引いちゃったとしたら、聖君、がっかり?」
「なんで俺ががっかりなの?」
「今、気にしてたから」
「あ、俺?違うよ。逆だよ、逆。俺への気持ちが、冷めてくれたら助かるのになって思っただけで」
本当に?
「…ああ、そっか。ダサダサなところを見せたら、絵梨ちゃん、もっと冷めてくれるかな。このまんまの髪型で、散歩も行くか」
そう言って、聖君はもうオムツも替え、ご機嫌な凪を抱っこして部屋を出て行った。
う~~ん。その髪型も、無造作ヘアにしてあると思えば、そうも見えるからどうかな。真っ白なTシャツと、その髪型で、爽やかに笑われたら、クラッときちゃうと思うけどな。
私も着替えをして、部屋を出た。すると、聖君は凪をゆりかごに入れ、その横に立って歯を磨いていた。
私もその横に並んで、歯を磨きだした。
「くすくす」
なぜか聖君は笑い出した。
「なあに?」
「なんか、こうして並んで歯を磨くのもいいね」
聖君は、歯ブラシを口から出してそう言った。
確かに。並んで歯を磨くことなんて、今まではなかったな。
先に口をゆすいで、聖君は髪型を整えることもなく、そのまま凪を連れ、一階に下りて行った。
私も顔を洗って、髪をとかしてから下に下りた。
「おはようございます」
「あ、桃子ちゃん、おはよう。桃子ちゃんも散歩行くんでしょ?帰ってきてから朝ごはんにする?」
お母さんがコーヒー豆を挽きながら、そう聞いてきた。
「はい」
コーヒーの香りはお店だけでなく、リビングにまで広がっていた。
お店では、絵梨ちゃんがお父さんと笑いながら話をしていた。絵梨ちゃんの足元には、可愛いコーギーがちょこんと座っていて、ちょっと離れたところから、クロがコーギーをじいっと見ていた。
「じゃ、クロ、散歩に行くぞ」
「ワン!」
聖君はクロの首輪にリールをつけた。凪は私が抱っこをした。
「行ってきます」
絵梨ちゃんもそう元気に言って、一緒にお店を出て歩き出した。
「聖君がいつも、クロの散歩に行ってるの?」
「いや。ほとんどが杏樹」
「聖君って、妹さんと仲いいね」
「ああ、まあね」
聖君はどこかぎこちない。会話も続けようとしないし、自分から絵梨さんに話しかけようともしない。
「聖君、今日、髪型違うのね。パーマでもかけたの?」
「え?!」
聖君はびっくりして絵梨さんのほうを向いた。
「これ、寝癖だけど?」
「え、そうなの?ふふふ。可愛いのね。寝癖ができちゃうんだ。それも、そのままにしておくの?」
「……」
聖君の顔は、ああ、失敗したっていう顔だ。
「でも、寝癖に見えないわよ。その髪型カッコいい。これからそれで、お店でたら?」
「出ないよ」
聖君はムスッとしてそう答えた。
あ、怒った?でも、本当に似合ってるんだけど。いつもは後ろのほうが、一方向に流れちゃうんだけど、今日は、なんとなく無造作にかき分けたっていう、かっこいい寝癖のつきかたしているし。
「クロは、人見知りしない?」
「うん」
「犬見知りは?さっきから、うちのチェリーちゃんに近づこうとしないんだけど」
「…そう?じゃ、あんまり仲良くなれそうもないんじゃないの?」
出た。時々、聖君は冷たい物の言い方をする。今のもどうかなあ。ちょっときつい言い方じゃないのかなあ。
「他の犬とは仲いいの?」
「…たまに散歩に行って会うと、仲良くしてるけど?」
「……」
絵梨さんは黙り込んでしまった。
海辺に近づくと、なぜか凪が喜びだした。
「うきゃきゃきゃ」
「凪は海が好きだね?」
聖君はそんな凪を見て、目じりを下げた。
「ワン!」
クロも尻尾を振って喜びだした。
「クロ、浜辺を競争するか!」
聖君はクロのリールを外した。そして、一気に海までクロと走り出して行ってしまった。
ああ、相変わらずだなあ。ほんと、元気だよねえ。
「…走って行っちゃった」
隣で絵梨さんが、ぼ~~っと聖君を見ながら、つぶやいた。
「あ、あの。いつものことなんです」
私はそう言ってから、石段に座った。凪は私の腕の中で海を見つめ、目を細めている。まぶしいのかな。
「…凪ちゃんっていったっけ。聖君、可愛がっているの?」
「え?はい」
そりゃもう、親ばかなんてもんじゃないくらいに。
「…聖君って、いつも家ではあんな恰好?」
「Tシャツとパンツ?」
「そ、そう…」
絵梨さんも私の隣に腰かけた。その横にチェリーちゃんは座ったが、自分も走りたいのか、時々立って、ワンワンとクロのほうに向かって吠えた。でも、絵梨さんに注意され、また絵梨さんの足元に座った。
「朝、起きると、起きたまんまの格好でお店に行っちゃうから、いつもお母さんには怒られてます」
「起きたまんまっていうと、あの恰好で寝てるの?」
「はい」
「…桃子さんと一緒に?」
「え?」
「一緒の部屋で寝てるの?」
「はい。親子川の字になって寝ていますけど?」
「……そ、そう。親子でね」
絵梨さんはそう、顔を引きつらせて言った。
「ちょっと意外」
「え?」
「お店ではいつもきちんとしているし、聖君って几帳面な印象があったから、あんな恰好でまさか家をうろつくとは思っても見なくって」
「がっかりしましたか?」
「え?…がっかりっていうか、イメージと違ってたっていうか」
「…きっと、絵梨さんがイメージしている聖君と現実の聖君では、いろんな面で違うところがあると思います…けど?」
「たとえば?」
絵梨さんが興味津々って顔で聞いてきた。
「いえ。たとえばって言われても、どんなイメージなのかわからないから、例は挙げられないですけど」
「じゃ、なんで違うと思うってわかるの?」
「な、なんとなく。聖君を美化してるかもなって思って」
「あ!もしかして、結婚して一緒に住んで、桃子さん、がっかりしてるの?こんなはずじゃなかったとかって、聖君の嫌な面が見えて、嫌いになってきちゃったとか」
「まさか。嫌いになるなんて、そんな…」
慌ててそう言うと、絵梨さんは私を見て、
「嫌いにはなっていないのね?」
とちょっとがっかりしながらそう言った。
なんで、がっかりするの、そこで。何を期待したの?私と聖君が別れることとか?
「聖君を美化している…かあ。それはないと思うなあ」
そうかな。
「じゃあ、聖君ってどんな人だって思っているんですか?」
「そうね…」
絵梨さんは波にじゃれついてる聖君とクロを見ながら、腕を組んだ。チェリーがまた立ち上がったが、絵梨さんが座りなさいと注意して、またチェリーはおとなしく座った。
「けっこう無邪気っていうか、子供っぽいところもあるのね。私、もっといつもクールなのかと思っていたわ」
海水にジーンズの裾を濡らしながら、クロと走り回っている聖君を見て、絵梨さんは言った。あ~あ、あんなに楽しそうにはしゃいじゃって。可愛い聖君全開じゃないか。あれを見て、ますます絵梨さんが聖君に惚れたらどうしよう。
「何があっても動じない、そんなイメージがあった。あ、ねえ。恋するカフェって知ってる?漫画」
「え?はい」
「あの聖一って、聖君に似てると思わない?」
「さあ?」
ドキドキ。似てるも何も、聖君がモデルだもの。でも、ばらせないよな、さすがに。
「あんな感じだと思っていたの。聖君は私よりも年下だけど、大人で、スマートで、なんでもそつなくこなして、それも、あっさりと」
ああ、そうそう。聖君はなんでもあっさりと、こなしてしまう。運転も、スポーツも、勉強も。
「あんなふうに、犬とじゃれ合ったりするイメージは、まったくなかったなあ」
絵梨さんはそう言うと、聖君から目線を移し、私を見た。
「あなたは?聖君ってどんな人だと思ったの?」
「私ですか?私は、あんまりイメージとかしていなかったから」
「付き合う前よ。いろいろと想像したりしなかった?」
「はあ…。あんまり…」
「そうなの?私はいっぱいしたけどな」
「そうなんですか?」
「ええ、もちろんしたわよ。未来の旦那って思っていたし。デートや、プロポーズ、新婚旅行」
そうなんだ。具体的にイメージしたんだな、きっと。
「もう、劇的な再会をするわけ。町でばったりと。聖君はすごくかっこよくなっていて、私を見てすぐにわかるの。絵梨ちゃんだねって」
あ、もう、妄想の世界の中なのね。
絵梨さんは私から目線を、宙に移した。その辺に絵梨さんの妄想の世界は繰り広げられているんだろうか。
「私もすぐにわかるわ。そして近くにあったカフェに二人で入るの。そこで、2人で思い出を懐かしんでいるうちに、お互いがずうっと思い合っていたってことを、告白するわけ」
すごい。でも、聖君って、絵梨さんと別れたの、確か、5歳くらいじゃなかったっけ?
「で、そこからお付き合いが始まるの。聖君はいっつも素敵なレストランとかに連れて行ってくれるの。そりゃ、スマートで、会話も大人で」
会話が大人って、どんな会話?
「聖君はクリスマスには、ダイヤの指輪をくれるのよ。それも、豪華なレストランのフルコースを食べた後。それから、2人でナイトクルージングに行くの」
「はあ」
ああ、目がどっかに行っちゃってるなあ。それにしても、何やらやけに豪華なイメージなんだなあ。
「そこで、プロポーズされるの。ずっと絵梨のことを思っていた。結婚しようって」
どひゃ~~。そんなセリフ、聖君、言うかなあ。
「結婚式は、教会で二人だけで挙げて、新婚旅行はギリシャ。エーゲ海を2人で見に行くの」
どへ~~~~。
「あ、結婚式はどこで挙げたの?」
絵梨さんが聞いてきた。
「まだです」
「まだなの?なんで?」
「赤ちゃんが生まれて、落ち着いたらって言ってて」
「あ、そうか。できちゃった婚だものね」
絵梨さんはそう言うと、ちょっと眉をしかめた。
「そういうのも、イメージしてなかった。まさか、こんなに早く結婚しているなんて思っても見なかったし、まさか、あの聖君ができちゃった婚をするとも思ってなかったし」
あの聖君って、どの聖君なわけ?
「じゃ、もちろん新婚旅行もまだ?」
「はい」
「どこにも行かないの?」
「いいえ。凪も連れて、沖縄に行こうかって言ってます」
「ふうん」
絵梨さんは、まったく興味のなさそうな相槌を打った。
「聖君って、冷たくない?」
「はい」
「お店でお客さんには愛想いいけど、まったくの営業用って感じよね」
「そうですか?」
ちょっと今、カチンときたな。前に、聖君も自分で営業用だって言ってたけど、それでもお客さんに対しての心づかいはちゃんとしているし、心のこもった接客をいつも心がけてるって思うけどな。
「あなたにも冷たい?横柄な態度とかもしかしてとってる?」
「いいえ」
そんなことあるわけないよ。冷たかったことなんて、一回もないもん。
「なんだか、冷たいっていうか、壁を感じるんだけど」
「それは…。聖君は女性、苦手だから」
「うそ」
「…嘘じゃなくて」
「じゃ、なんであなたと結婚したの?」
「……」
「なんかの拍子で、あなたのこと抱いちゃったとか?」
「ま、まさか~~~!!!!」
言っていいことと、悪いことがあるよ!もう、なんなの、この人。
「私、いろいろと空想してみたのよ。あなたと聖君」
「え?!」
私は頭に来ていて、どすの利いた返事をしてしまった。すると、絵梨さんはちょっとびっくりしていたが、また話を続けた。
「いろんな出会いを想定してみたわけ」
勝手なことしてるなあ。ほんと。
「たとえば、聖君は実は、かなりの悪で、ある日、お店に来た自分を好きな女の子を、遊びのつもりで手を出しちゃったら、その子に子供ができちゃって、その子の親や周りから責任を取れって言われて、仕方なく結婚した」
「そう見えますか?」
ムカッとしながら聞いてみた。すると、絵梨さんは、くるくると首を横に振り、
「見えないわ。仲いいんだもの、あなたと聖君」
とそう言って、溜息をついた。
「ちょっと悪い聖君も、面白いと思ったんだけど」
なんで、面白がってんの~~。
「じゃあ、実は誰かと付き合っていて、その子と別れて、やけになって抱いちゃった女の子に、赤ちゃんができて」
「それ、さっきとあまり変わらないと思いますけど」
「違うわよ。遊んでじゃなくって、やけになってっていうところが。聖君は一筋にその相手の子を思っていたわけ。だから、つい、はずみで」
「そう見えますか?」
「見えないわね。聖君、あなたといると、顔つきまで変わるし。子供のこと本当に可愛がってるみたいだし」
じゃ、なんで、素直に、普通に恋愛して結婚したって思ってくれないのかな。
「付き合い、長いんだっけ?あなたたち」
「はい。3年になりますけど」
「…あなたが、高校1年で、聖君が2年?」
「はい」
「聖君ってモテたでしょ?」
「はい」
「やっぱりね。モテないって言ってたけど、モテるわよね。お店にも聖君のことが好きなんだろうなって子が、いっぱい来てるもの」
わかるんだ。そういうのは。
「でも、あなたのことを選んだのね」
「……」
「聖君、浮気は?」
「したことないです」
「それも不思議。すごくもてそうだし、ちょっとプレイボーイに見えるのに」
「そんなことないです。さっきも言ったけど、聖君、女性苦手だから」
「…なんであなたとは付き合ったの?」
「それは…。うまく言えないですけど。聖君に聞いてみてください」
「教えてくれないわよ。私にあんまり、話をしてくれないもの」
なんだ。そういうことも、わかってたんだ。
「あ~~あ。お店での聖君、かっこよくって、爽やかで、私にはクールで…。あんなじゃ、私、もっと好きになっちゃうわよね」
「え?」
クールだと好きになるの?なんで?
「手が届きそうで届かないって、一番欲しくなるじゃない」
この人の発想、怖いよ。
「一緒にいる聖君はどう?優しい?」
「え?は、はい」
「大人?」
「………いいえ」
ここは、素直にばらしちゃう?
「大人じゃないの?でも、一個上よね」
「…大人じゃないです。あの通り、無邪気で」
聖君は、クロと一緒に座り込み、休んでいる。でも、クロに抱きついたり、クロが聖君のほっぺを舐めたりして、
「くすぐって~~」
と大騒ぎをしている。
「…」
それを見て、絵梨さんは黙り込んだ。
「喉乾いた~~」
聖君はそう言って、立ち上がり、クロと私たちのところに来た。
「あ~~。水、持ってくりゃ良かった。その辺の自販機で買おうかな。ちょっと買ってくる。クロ、ここにいて」
聖君はクロにリールを繋ぎ、私にそのリールを渡してきた。
「うん、クロ、待っていようね」
クロは、はあはあと息を切らしながら、私の横に座った。すると凪がクロのほうに手を伸ばし、クロは凪の手を舐めた。
「うきゃ!」
凪は嬉しそうにはしゃいだ。
「あっつ~~~」
あっという間に聖君は戻ってきて、私の横に座ると、水をゴクゴクと飲みだした。
「うっめ~~!」
そう言って、聖君は口から垂れる水を腕で拭うと、クロにも水を分けてあげた。
そんな姿を、じいっと絵梨さんが見ていて、
「なんだか、爽やか青年なのね。聖君って」
とつぶやいた。
「はい」
私は思わず、うなづいてしまった。
「凪、こっちにおいで」
聖君は、絵梨さんの声が聞こえなかった様子で、にこにこしながら、凪を抱っこした。
「天気いいね、凪。7月には一緒に海で泳げるかな」
「え?凪が?」
「うん。海デビュー。俺は7か月で初めて海で泳いだけど」
「凪はまだ、4か月だよ。早くない?」
「どうかな。海でちゃぷちゃぷくらい、できるかもよ?」
「でも、紫外線強いし」
「ああ、肌ね。Tシャツ着てたら、そんなに焼けないんじゃない?朝早くとか、夕方にしたらいいかもしれないし」
「そうだね」
つい心配になっちゃった。私、心配性かな。
「ね?凪。パパと泳ぎに来ようね?」
そう言って聖君は立ち上がり、凪を揺らした。凪は高い声で、
「きゃきゃきゃ」
と嬉しそうに笑った。
「凪~~。可愛い~~~」
聖君の目は垂れ下がり、口元は緩んだ。
「…」
そんな聖君を見て、絵梨さんは目を点にした。
ああ、もしや、絵梨さんの中で、聖君像が崩れ出しているんじゃないのかな。
「桃子ちゃん、俺、疲れた。帰ってしばらく寝てもいい?」
「いいよ。お店の手伝いは私がしておくね」
「サンキュ。凪、一緒に寝ようね?」
「凪は寝るかな」
私がそう言うと、聖君は、
「パパに添い寝ちてくれまちゅよね~~~?な~~ぎ」
と赤ちゃん言葉まで使ってしまった。
「え?」
隣で絵梨さんが、体を硬直させ、顔をしかめた。
ああ、思い切り、引いてるかもしれない。
スマートで、クールで、かっこいい聖君のイメージは、きっと今、ガラガラと音を立てて崩壊しただろう。