第55話 凪の肌
スウスウ…。聖君の寝息を聞きながら、朝を迎えた。何時だろう。まだ、凪も寝ている。
聖君の腕の中で朝を迎えるって、いいなあ。そんなことを思いながら、しばらく聖君の胸に顔をうずめていた。
聖君って、なんで肌がこんなに綺麗なんだろうか。にきびとかできないし、かさついてる様子もないし。私は冬なんてかさかさになっちゃうんだけどなあ。
それに足、すぐに冷えちゃうんだよね。聖君がびっくりしていたっけ。
それで、聖君の足に私の足をくっつけて、あったまりながら寝ていたっけなあ。
スウ…。
聖君の寝息が髪にかかる。う、幸せだ~~~。この時間をこのまんま切り取って、冷凍保存して、たまに解凍して味わいたい時に味わっていたい。
「ん~~~」
あ、起きた?
「おはよう、聖君」
「…ん~~~、おはよう」
聖君は寝ぼけながら、そう答えた。
「……桃子ちゃんが、朝から俺を襲ってる?」
「襲ってないよ」
変な夢でも見てたんじゃないの?
「じゃ、なんで俺の布団に裸でいるの?」
「え?昨日のこと、覚えてないの?」
「う~~~~~~ん」
聖君はうなりながら、またスウって寝息を立てた。まさか、今、本気で寝ぼけてた?!
「やべ。また寝ちゃうところだった。今、何時?」
聖君はまた目を開け、体を起こして時計を手に取った。
「なんだ。まだ6時半か~~~。もうひと眠りしちゃおうかな」
聖君はそう言うと、もそもそっと布団に入り込み、私に抱きついてきた。
「桃子ちゅわん。思い出した。俺、裸のまんま寝ちゃったんだっけね」
「そうだよ。私が襲いに来たわけじゃないからね」
「で、桃子ちゃんもそのまんま、裸で俺の布団で寝ちゃったの?」
「うん」
「でへへ」
でへへ?
「朝から、桃子ちゃんに抱きつける~~~」
……。朝から、スケベ親父全開モード?
「う…」
ん?
「う~~~」
「あ、凪、起きたみたい」
私は上半身を起こして、パジャマを羽織った。
「…なんだ。桃子ちゃんといちゃつく時間、もうおしまいか、ちぇ」
聖君はそう言って、残念がっている。
凪が本格的に泣き出す前に、凪を抱っこしておっぱいをあげた。
「凪。おはよう」
聖君は凪の頬を指でつっつくと、しばらく凪のことを見ていた。
「凪、頭になんかできてるね」
「黄色いのでしょ?」
「顔もぶつぶつができてる」
「乳児性湿疹っていうのかもしれないなあ」
「…ふうん。なんかクリームとか塗ったほうがいいのかな」
「わかんない。病院に行ったほうがいい?」
「どうだろ……。母さんに相談してみるか」
「うん」
聖君はそう言ってからも、凪のことをじいっと見ている。
「俺があれかな」
「え?」
「凪のほっぺにキスしまくってるからかな」
「それは関係ないと思うけど」
「…ほんと?」
「…わかんない。でも、あんまり湿疹がある時は、キスもどうかな」
「ぐっすん」
「え?」
「凪にチュウができないの、寂しいなって思って」
「じゃ、その代わりに私のほっぺで…」
「うん!」
え?即答?って言ってるそばから、私に聖君はキスをしてきた。
「桃子ちゃんのほっぺも、凪と一緒で柔らかいよね?マシュマロみたいだよね?」
「……」
もう~~。朝から何を言ってるんだか。
「さて、もう起きようかな|
聖君はそう言うと、また全裸で平気で布団から出て、カーテンを開けに行ってしまった。
「聖君。外からもし人が見ていたら」
「え?」
わあ。全裸のまま、こっちに体を向けないで。
「外から見えてるかもしれないよ?」
「うちの中が?見えないでしょ。レースのカーテンはしてあるんだし」
「でも…」
「なんで?」
「なんでって。聖君、今、素っ裸なんだよ?もし、見られたら」
「…変態がいるって思われちゃう?」
「そうじゃなくって。えっと…」
もし、相手が女性だったりしたら…。聖君の裸、見られたくないし。
「見えていたとしても、見たい奴なんかいないだろうし、安心して?」
いるかもしれないじゃ~~ん。
「でも、ほら、美術部の人、聖君にモデルをしてもらいたいって言ってたよ?ヌードの…」
「ああ、あんなの、俺じゃなくたっていいんだよ。きっと」
「そんなことないよ。きっと聖君を描きたかったんだよ」
「……」
聖君は私の後ろに来て、私を抱きしめた。
「わかったよ。気を付ける」
「え?」
「他の人には見せないようにする」
「……え?」
「俺の全裸。桃子ちゃんにしか見せないから安心して?」
「だ、だから!別に私に見せなくてもいいから」
「…え?」
聖君はキョトンとした声を出した。
「私の前でも、ちゃんとパンツくらい履いて」
「なんで?」
「なんでって、目のやり場に困るから」
「ああ、だからさっきからずっと、俺のことを見ないで話していたの?」
「そうだよ~~~」
「あはは。俺だったら、逆にじいっと見ちゃうのになあ」
「何を?」
「桃子ちゃんの全裸」
「え?!」
「目のやり場に困ることなんかないなあ…」
「スケベ親父!」
「あはは!」
あははじゃないよ、もう~~~~。
「じゃ、パンツくらい履こうかな」
聖君はようやくパンツを履いて、それからTシャツも着ると、部屋を出て行った。
あ、またあんな恰好で下に行くの?お母さんが怒らない?
それにしても、ほんと、聖君って無邪気って言うかなんていうか…。
「凪がもの心ついたら、パパに素っ裸で歩き回られたくないよね?」
そうだよ。ほんと、私の前でも、素っ裸で歩き回るのは、やめてほしい。見られて恥ずかしいってないのかな。
……。そんなことを聞いたら多分、またキョトンとした顔をして「なんで?」って聞いてきそうだな。見ている方が恥ずかしいのにな。
でも、たまにお風呂に一緒に入っていると、聖君の腕や胸の筋肉にうっとりしてしまう時がある。あと背中やお尻も。
我に返って、きゃ~~って自分で恥ずかしがってるんだけど。うっとりと見ているの、きっと聖君にはばれているんだろうなあ。
だって、色っぽいんだもん。つい、見惚れちゃうんだよね。
だから、本音を言うと、カーテンを開けて朝日が入ってきたまぶしい光の中に聖君が全裸でいると、まぶしくって、ついうっとりと見入ってしまいそうになって、視線をそらすんだ。
そんなことを言ったら、聖君、どん引きするよね。桃子ちゃんのエッチって言われそうだ。
エッチどころか、変態?
あ、でも、聖君だって、私の全裸、じっと見ちゃうって言ってたから、十分に変態か…。
「あ~~~~」
凪がおっぱいを飲み終わり、私の胸を触ったり、おしゃぶりをして遊びだした。
「オムツ替えて、着替えして、下に下りようか?」
にこ!凪が笑った。
凪のオムツを替えてあげた。するとお尻も赤くなっていた。
「あ、お腹にも赤いぷつぷつ」
もしかしてあせも?最近、ぐっと気温が上がってきたからなあ。
「昼間、汗をかくくらい暑かったら、シャワー浴びようか、凪」
生まれてからしばらくは、凪の肌はかさかさしていた。でも、だんだんと綺麗になって、ずっともちもちの気持ちのいい肌だったのに。
「ほっぺも赤いね…」
赤ちゃんの肌って、きっとデリケートなんだね。気を付けないと…。
私も服を着て、凪と一緒に一階に下りた。そして凪を抱っこしたまま、お店に行った。お店では聖君がカウンターに座っていて、その隣でお父さんもコーヒーを飲んでいた。
「おはようございます」
「ああ、おはよう。凪ちゃんも、おはよう。よく眠れた?」
お父さんは凪の顔を覗き込むようにして聞いてきた。
「凪、湿疹が出てきちゃったんだよね」
横で聖君がそう言った。
「オムツかぶれもしてたの。それにお腹にもぷつぷつできてた。あせもなのかな」
私が暗い顔をしてそう言うと、キッチンからお母さんがやってきて、
「大丈夫よ。暑くなってきたからむれたり、あせもができたりしただけで、ほっぺの湿疹もきっと、乳児湿疹よ。そんなに心配することじゃないから、安心して?」
と優しく言ってくれた。
「病院行かなくても平気ですか?」
「そうねえ。大丈夫だと思うけど。オムツかぶれはひどかった?一昨日、お風呂からあがった時には、綺麗なお尻だったけど」
「ちょっと赤いくらいで、ひどくはないんですけど」
「じゃ、ウンチをした後には必ず、これからはお尻を洗ってあげることにしましょうか」
「はい」
「あせもも、昼間、シャワーで汗を流してあげたりして、なるべく汗をほっておかないようにしましょう」
「はい」
「大丈夫よ、桃子ちゃん。聖や杏樹も、乳児湿疹もあせももできたわよ」
「え?」
聖君が?今、すんごく綺麗な肌してるのに。
「聖は、そういえば、外で遊んで日焼けするようになってから、肌が丈夫になったわね」
お母さんがそう言うと、
「そうなの?」
と聖君は他人事のようにお母さんに聞いた。
「だけど、凪ちゃんの肌は、桃子ちゃんの肌質を受け継いだかもね。白くって、きめが細かくって」
「……冬になるとかさついちゃいますか?」
「そうねえ。桃子ちゃん、冬、かさつくの?」
「はい」
「乾燥肌なのね。じゃ、秋になって乾燥し始めたら、クリーム塗ったりしてあげましょう。でもこれからは、汗をかく時期だから、あせもに注意しないとね」
「はい」
ああ、お母さんがいてくれて、本当に助かる。なんだか、心強いな。
あ、そうだった。うちにも肌のプロがいるんだった。私の肌があんまりかさつくと、私の肌もマッサージしたり、クリーム塗ったりしてくれるんだよね。我が家のエスティシャンは。
今まで、順調にきちゃったから、ちょっと何かあっただけでも、心配になっちゃう。初めての子って、わからないことだらけだし。きっと、これからも、いろいろとあるんだよね。
そうだよ。熱出したりとか、風邪ひいたりとか。…そんな時、どうしたらいいんだろう。
聖君、凪を病院に連れて行ってくれるのかな。病院苦手だもんな。聖君が…。
いや、産婦人科だって来てくれるんだから、大丈夫だよね?
「じゃあね、凪。行ってきます」
大学に行く準備を整えた聖君は、凪のほっぺにキスをしそうになって、
「あ、ほっぺにキスは駄目だったっけ」
と直前で気が付き、おでこにチュッてキスをした。
「桃子ちゃん、行ってくるね」
そう言うと、聖君は私のおでこにもキスをした。そして、颯爽とお店を出て行った。
か~~~。お店にはお母さんもお父さんもいて、しっかりとキスされたところを見られてしまい、私の顔はほてってしまった。
「さて、凪ちゃん、リビングで爽太パパと遊ぼうか」
そう言うと、お父さんは凪を受け取った。
「じゃ、私、お店の手伝いをします」
私はキッチンに入って、スコーンを焼く準備に取り掛かった。
「桃子ちゃん、もし凪ちゃんのことでちょっとでも心配事があったら、私や爽太に聞いてね」
「え?はい」
ジャガイモの皮をむきながら、お母さんが私にそう言ってくれた。
「私も、聖が生まれてからわからないことばっかりで、爽太のお母さんが、いろいろと教えてくれたの」
「おばあさんが?」
「そうよ。お父さんは仕事で忙しかったし、爽太もあの頃、たまに職場に缶詰状態になったりして、家にいないこともあったから。一人だと不安で不安で。でも、お母さんがちょくちょく私と聖のことを部屋まで見に来てくれたり、熱出したときには一緒に病院に行ってくれたり…」
お母さんはしばらく手を止め、懐かしそうな目をして宙を見つめた。
「聖、夜泣きも大変だったし、お母さんと交代で抱っこしてあやしたりしたっけ」
「え?夜泣き?」
「何か月の頃だったかなあ。泣き止まない時には、お父さんや爽太が、海まで連れて行ってくれたり、ドライブに行ったり。車に乗るとすぐに寝ちゃうから、車に乗せるのが一番だって言って…。その辺回って、10分もしないで帰ってくるの。そうすると聖、すっかり寝ちゃってて…」
「へえ」
そうだったんだ。聖君は育てやすい赤ちゃんなのかと思ったな。
「一人で抱え込むことだけはしないでね。それから、みんなに迷惑かけるとか思って、遠慮することもやめてね」
「え?はい」
「核家族が増えて、母親一人で子供を見ることが多いでしょ?旦那さんは仕事だからって、あまり世話もしてくれなかったり」
「はい」
「それで、育児ノイローゼになったり、中には虐待なんてことをしちゃう親もいたりするけど、精神的にまいってきたら、心も壊れてきちゃうんだと思うの。虐待してる親を、一方的に責められないわよね」
「……」
「あれって、紙一重だと思うのよね、誰でも…。助けてくれたり、頼れるところがあったら、心を休める時があるだろうけど、一人っきりで子育てしてたら、きついこともあるもの」
「そうなんですね」
「私は、みんながいてくれたから、そんなことにならないですんだけど。あ、そうそう。春香ちゃんも本当によく、聖や杏樹の世話をしてくれたっけ…。それに、あの頃はまだ、聖のひいおばあちゃんも、たまにだけど、顔を出してくれたり」
「みんなで、聖君や杏樹ちゃんを育てたんですね」
「桃子ちゃんのお母さんは?」
「うちの母は、大阪にいる頃私を産んで…。もしかして、大変だったのかなあ」
「一人で桃子ちゃんを?じゃあ、お父さんが協力してくれたのかな?」
「さあ?父、もしかすると忙しかったかもしれないし」
どうなんだろう。母に聞いてみようかな。おばさんやおばあちゃんに反対されて結婚したんだし、世話をしてくれた人なんていなかったんじゃないのかなあ。じゃあ、一人で大変な思いをして育ててくれたんだろうか。
そんなことを思うと、なんだか、母に感謝の気持ちが湧いてきちゃうなあ。
世の中のお母さんたちは、いろんな大変な思いをして子育てをしているのか。
…ふと、小百合ちゃんを思い出した。どうしてるかな。最近連絡取っていないけど。
「桃子ちゃん」
「はい」
お母さんは、野菜を切り終え、コンソメスープを作りながら、私に聞いてきた。
「聖は、ちゃんと凪ちゃんの面倒を見てる?」
「はい。そりゃもう、しっかりと」
「夜、さっさと寝ちゃったりしない?あの子、すぐに寝ちゃうでしょ?凪ちゃんが泣いていても、ぐーすか寝てたりしない?」
「いいえ。凪、あんまり夜中起きないし。それに寝かしつけるのはいっつも、聖君がしてくれてます」
「そう。そっか…」
お母さんは、表情を和らげた。
「あの子、けっこう抜けてるところがあるから、大丈夫かなってちょっと思っていたのよね」
「大丈夫です。聖君、本当に凪の世話をするのが、楽しいみたいで…。オムツを替えるのも、私よりも手早いかも」
「そういえば、そうね。ちゃっちゃと替えてるわね」
「爪だけは切れないみたいですけど」
「あら、やだ。そこは爽太と同じね。爽太も指を切りそうだって怖がって、できなかったのよね~~~」
そう言ってお母さんは笑った。
「じゃ、大丈夫ね」
またお母さんは安心したように微笑むと、コンソメスープの味見をして、鍋にふたをした。
「さ、ホールの掃除をしてきちゃおうかな。桃子ちゃん、スコーン焼けたら、リビングに戻っていいからね」
「はい」
お母さんは、鼻歌交じりにお店の掃除を始めた。しばらくそんな聖君のお母さんの後姿を見ていた。
聖君のお母さんも、いろいろと子育てで大変な時もあったのかな。
でも、おばあさんや、おじいさん、そして聖君のお父さんがそばにいてくれたから、乗り切ってきたのかもしれない。
私も、私だけじゃないんだ。だから、一人で抱え込んだり、悩んだりする必要はないんだね。みんなを頼ったり、信頼して、凪を育てて行こう。
そしてまた、ふっと小百合ちゃんのことが思い浮かんだ。どうしてるかな…。
スコーンが焼き上がったので、私はリビングに行った。凪は聖君のお父さんの膝の上にいて、きゃっきゃきゃっきゃと、声を立てて笑っていた。
「あ、スコーンできた?」
お父さんが聞いてきた。
「はい」
「そっか~~。いや、凪ちゃんが遊んで、遊んでって言うから、つい、遊んじゃってた」
「遊んでって?」
「あ~~~、う~~~~~って目で訴えるんだよ。ね?凪ちゃん。でも、クロも遊びたそうにしているし、そろそろクロに返そうか」
そうお父さんが言うと、クロは尻尾を振って喜んだ。
凪をお父さんは座布団に寝かせた。凪はちょっとぐすりそうになったが、クロが凪の横に寝転がると、クロを見て凪は嬉しそうな顔をした。
クロのことを凪はどう思っているのかなあ。もしかすると、面倒を見てくれる一人の人とか、家族とか、そんなふうに思っていたりするのかなあ。
「さて。仕事もそんなに忙しくないし、店の手伝いでもしてくるかな」
お父さんはそう言うと、リビングに行ってしまった。
お母さんの手伝いをするんだね。仕事が忙しくない時には、ちゃんとお父さんが店の手伝いをしているみたいだ。
仲のいい夫婦だよね、本当に。
私はクロと凪と一緒に、2階に上がった。ゆりかごに凪を寝かせ、クロはその横に座った。そして器用にクロは、ゆりかごを揺らしてくれる。
子守犬だよね。ここまで犬が赤ちゃんを子守してくれるって知らなかったから、ちょっと感動だな。
私はその間に、洗濯物を干した。今日はちょっと曇っている。でも、午後には晴れるって天気予報で言ってたし、暑くなりそうだし、すぐに乾いちゃうかな。
凪の小さな産着も干した。ああ、可愛いなあ。この産着を買ったころは、まだお腹の中にいたんだよね。なんだかそう思うと、不思議な感じがする。
もう生まれた頃に比べたら、体重もぐっと増えたし。もっともっと、どんどん凪は成長していくんだね。
また、私は小百合ちゃんのことを思いだし、洗濯物を干し終えてから、凪のほうを見ながらベンチに座り、携帯で小百合ちゃんに電話をした。
ブルル…。ブルル…。8回鳴らして、出ないから切ろうかと思った時に、小百合ちゃんが電話に出た。
「小百合ちゃん?」
「あ…。桃子…ちゃん?」
「ごめん。寝てた?」
「ううん。起きてたよ」
小百合ちゃんの声は、まったく元気がなかった。ど、どうしたんだろうか。
「元気なさそうだけど、何かあった?」
そう聞くと、しばらく小百合ちゃんは黙り込んでしまった。
ああ、これは何かあったんだな。小百合ちゃんのことが気になって仕方なかったのは、虫の知らせっていうやつかもしれない。なんて思いながら、小百合ちゃんが話し出してくれるのを私は待っていた。