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第51話 自慢の奥さん?

「よう、榎本。その子誰?妹?」

 また、カフェでそう言ってきた男の人がいた。髭の生えてるむさくるしそうな人だ。

「奥さんだよ」

 聖君はちょっと眉をしかめてそう答えた。


「まじ?うそ。なんで奥さん連れて来てんの?お前」

「いけない?」

「っていうか、可愛いじゃん」

 その人が私に近づいてくると、聖君が私を後ろに隠した。


「榎本君の奥さんなんだ」

「あの、大事にしてるっていう奥さんなの?」

 ああ、またいろんな人がやってきた。

「女の子を連れて歩いてるから、浮気でもしてるのかと思った」

 そう言ってる人までがいた。


「するわけないだろ。俺が」

 聖君がそう言うと、

「確かに。こんなに可愛かったら浮気する気も起きないよなあ」

とその男の人はぼそって言った。


「桃子ちゃん、帰るよ」

「え?奥さん、もう帰っちゃうの?」

 髭の生えた男の人が残念がっている。

「うん。お前みたいなのが寄ってくると大変だし、もう連れて帰るよ」

「なんだよ。俺をばい菌みたいに」


「ああ、ぴったりだ、それ」

「榎本。てめ~~。一個下のくせに生意気なっ!」

「学年は一緒だろ?」

 あ、そうなんだ。聖君より一個上なんだ。それにしたって老けてる。


 聖君はその人に、はがい締めにあっている。しばらくそうやって、2人はふざけあっていた。私はその間、ちょっと離れてカフェを見回していた。


 やけにおっさん臭い人、真面目そうな人、髪を染めててチャラそうな人。いろんな男の人がいるけど、聖君を超える素敵な人って、全然いないんだなあ。

 それから聖君を見た。ああ、可愛い笑顔で笑っている。なんだか、聖君の周りだけは光っている気さえする。


「あ~~あ。また、榎本君、高木君とふざけあってるよ」

「本当だ。榎本君って、なんだか無邪気だよね。笑顔可愛いし」

 ギクギク。そんなことを言ってる女の人がいるよ?

「黙っていたらかっこいいよね」

「話すとたまに、きついけど」


 そ、そうなんだ。

「ねえ、榎本君の奥さん」

 ドキ~~~。その人たちに声を掛けられちゃった。

「はい?」


「榎本君って、家だとどうなの?やっぱり、あなたにもきついこと言ったりする?」

「え?全然…」

「じゃあ、どんななの?クール?それとも」

 …言えない。ばらせないよ、そんな…。


「えっと、や、優しいです」

 それだけ言って、私はその人たちから離れ、すすすっと聖君のすぐそばまで行った。

「聖君、帰ろう」

 聖君の腕をくいくいとひっぱると、ようやく聖君は気が付き、

「あ、そうだね。うん、帰ろう」

とにこりと微笑んでくれた。


「わ、ちょっと見た?榎本君、もしかして、奥さんにでれでれ?」

「頭あがんなかったりして」

 う…。聞こえてるよ~~。


 聖君はそんな言葉を全く無視して、私の背中に手を回し歩き出した。

「奥さん、またね!また遊びに来てね!」

 さっきの髭の生えたおっさん、えっと、確か高木さんがそう言って手を振っている。

「うっさい、うっさい!もう連れてこないよ」

 聖君はそう笑いながら、高木さんに言った。


「なんだよ、そんな可愛い子、独り占めにしやがって!」

「独り占めにしていいんだよ。奥さんなんだから!」

 聖君はそう言い返し、また私と前を向いて歩き出した。


「ひゃ~~。榎本君、あんなこと言ってる~~」

「奥さん一筋って本当なんだ~~」

 う。だから、聞えてますってば。ああ、顔が熱い。


 駐車場に行き、私たちは車に乗り込んだ。

「さて、帰りますか」

「うん」

「もうおっぱいは大丈夫?張ってない?」

「うん」


「?どうかした?桃子ちゃん、やけに静かだね」

 聖君は、私にシートベルトを締めてくれながらそう言った。

「ううん。ただ…」

「ん?」


「大学でね」

「うん」

「聖君が一番かっこよかったなって思って、今、浸ってたの」

「…何に?」

「だから、かっこいい聖君に」


「……また、わけのわかんないことを桃子ちゃんが言ってる」

 聖君は呆れたって言う顔をして、車を発進させた。

「聖君がモテちゃうのわかる」

「は?俺、モテてないよ?」


「嘘だ。大学中の女の人が、きっと聖君の名前を知ってるよ」

「あはは、まさか」

「男の人まで知ってた。ほら、あの、ナンパ野郎も」

「ああ、なんで俺のこと知ってたのかな。う~~~~ん」

 聖君はしばらく黙り込み、何かを思い返している。


「あ!思い出した。あいつ、どっかで見たことあるやつって思ってたけど、あいつだ」

「誰?」

「前にね、麦ちゃんにちょっかいだしてたんだよね」

「え?」


「そうだ。そんときにも、あの辺にいて、麦ちゃんに声をかけてた。麦ちゃんがあの辺で迷子になった時だ」

「うそ。私みたいに?」

「そう。そこにたまたま、俺と木暮が通りかかって…。あそこ、そんな滅多に行かないけど、部室に行く時、近道なんだよね。ただ、俺でも迷う時あるから、木暮は方向強いからさ、木暮と一緒の時しか通らないんだけど」


「そんなに入り組んでいるところだったの?」

「うん。で、多分、麦ちゃんも近道をしていこうとしたんじゃないかな。迷子になって、あいつにとっ捕まっていて…」

 そんなところになんであの人いるのかな。もしかして、わざといるの?


「そうだ。思い出した。そんで、俺と木暮が麦ちゃんを助けたんだ。木暮、中学時代、柔道やってたらしいし、俺と木暮でかなり強気で、脅したんだ」


 え~~~~!

「そ、それであの人、聖君を怖がってたの?」

「ああ、なんだか怖がってたね、そういえば」

「そうなんだ」

「変な奴もいるんだから、まじで桃子ちゃん、頼むからふらふらしないでね」

「うん。もう大学にも行かないし、大丈夫だよ」


「え?もう来ないの?」

「うん」

「なんだ。今度は凪を連れてきたらいいのに」

「い、いいよ。これ以上、注目浴びたくないし」

「なんだ~~~」

 残念がってるの?聖君。


「あ~~あ、俺、今日かなり浮かれてたんだけど」

「え?」

 聖君はちらっと私を見て、私の太ももに手を乗せ、

「奥さんを連れてキャンパスを歩くの、楽しかったし」

とそう言った。


「…そうなの?」

「うん。みんな羨ましがってたし」

「…」

 それを喜んでたの?


「早くに結婚して、バカじゃないかとか、もったいないとか、俺だったらもっと遊ぶだとか、一人の子にもう縛られるの?結婚なんて人生の墓場だよとか、言いたい放題言われてたから」

 え?!

「あ、野郎どもにね。たとえば、さっきの高木とか」


 ええ?

「でも、あいつ、思い切り羨ましがってた。ふっふっふ」

 聖君は変な笑い方をして、そのあとにんまりとした。

「そりゃそうだよなあ。家に帰ったら、こんな可愛い奥さんが待ってるのかよって言ってたけど、そりゃ、羨ましいだろうなあ」


 え?

「でへ。可愛い奥さんに、めちゃ可愛い娘まで待ってるんだよ。そりゃ、もう天国だよ。天国。あ、やっぱり、凪も連れて大学来ない?きっと、可愛い奥さんと娘がいて、榎本、超羨ましいって、もっとみんなが羨ましがるから」


「……」

 なんだか、そんなことを言ってる聖君、可愛いけど、珍しいかも。そういうこと、今まで言ったことなかったよね?

 

「そんなにみんなが羨ましがるのが嬉しいの?」

「うん」

「…」

 そうなんだ。

「桃子ちゃんが俺の奥さんだって、自慢するのけっこう楽しい」


「じ、自慢?」

 こんな奥さんで自慢になるの?

「みんな、まじで羨ましがるし。高校の頃も、桃子ちゃんが文化祭で来たじゃん。あのあと、あんな可愛い子が彼女だなんて、羨ましいぞって何人も言って来たし。ちょっと、鼻高々だったな、俺」


 え?

 そうなの?そんな話、初めて聞いたよ。聖君を見ると、ご機嫌な顔をして鼻歌を歌っている。

「一回、聖君との学校生活って、経験してみたかったな」

「ん?」


 聖君が、また私を見た。そして、私の太ももにまた触ってきた。

 そういえば、前に菜摘、葉君が太ももに触ってくるって言ってたっけ。聖君、前はそんなことしなかったのになあ。


「じゃ、来年あたり、俺の大学、受験する?そうしたら、一緒に通えるよ」

「…しないよ。来年は多分、お料理の学校に行くと思うし」

「え?ほんと?行きたいの?」

「駄目?」


「まさか!俺、応援しちゃうよ。凪の世話だって、ちゃんとするし…。あ、でも、それじゃ、2人目を作るわけにはいかないよね」

「…すぐに欲しかったの?」

「ううん。すぐってわけじゃないけどさ」

 そう言うと、聖君は私の太ももを撫でた。


 なんで撫でてるのかなあ。それも、生足を直に…。ちょっとエッチだけど、その手つき。

「聖君」

「ん?」

「なんで、私の足、撫でてるの?」


「あ、本当だ。無意識でしてた」

 うそ。

「なんか、気持ちよかったからかなあ」

「え?そんなにふくよかな太ももしてないよね?私」


「でも、あったかいし、柔らかいし。ああ、桃子ちゃんのぬくもりを直に感じたかったのかなあ。俺」

「だから、わざわざ生足のところを撫でてたの?」

「…あ、ごめん。スカート捲れちゃってたね。これ、もしかして俺が撫でたから?」

「無意識だったの?」


「うん。そうみたい」

 聖君が手を離したので、私は捲れちゃったスカートを直した。

「あのさ、聖君。こんなこと、他の人には…」

「するわけないでしょ。桃子ちゃん」

「う、うん」


「可愛いよね。今日の桃子ちゃんの格好。靴は誕生日プレゼントのスニーカーだね。やっぱりそれ、スカートにもあったね」

「…こんな格好していったから、妹だの、高校生だの言われたのかな」

「…でも、可愛いんだから、いいじゃん」


 あれ?なんで聖君がほっぺを膨らませて怒ってるのかな。

「ロリコンってさ~~。桃子ちゃん、そんなに幼くないっつうの。十分色気もあって、俺なんかその色気にまいってるって言うのに」

「……」

 それは、聖君から見たらってだけだと思うんだけど。


「それだけ、可愛いってことかな。うん、そう思っておこうっと」

「……」

 面白いなあ。聖君って。それにしても…。聞いていいかな。


「ねえ、聖君」

 信号待ちをしている時に、聖君の手に私の手を乗せて、ちょっと顔を聖君に近づけ、聞いてみた。

「ん?」

「聖君って、もしかして、そんなに私のこと好きなの?」


「は?」

 聖君が目を丸くして私を見た。

「私のこと、自慢したり…。そんなに私のこと」

「…あ、あったりまえじゃん。なんで今さら、そんなこと聞いてんの?」

「だ、だよね?」


 ちょっと気になっちゃって。

 チュ。

 え?キス?


 信号が変わり、聖君は車を発進させた。

「ななな、なんで今、キス?それも、車のこんな多いところで」

「だって、桃子ちゃんが誘って来たから」

 グルグル。首を横に振った。


「うっそだ~~。俺の手に手を乗っけて、顔近づけて、キスしてって」

「言ってないよ」

「仕草でわかったもん、俺」

「そんなつもりなかったよ」


「…色っぽい声で、俺のこと呼んだじゃん」

 呼んでないよ~~。

「そんで、私のことそんなに好き?なんて、口説いたりして」

「してない。今のは素朴な疑問」

「うっそだ~~~」


 本当だもん~~~!

「聖君がいつも言わないようなことを言うから」

「俺が?」

「私を自慢してるなんてこと…」

「え?だって、自慢だもん」


「そんなこと一回も聞いたことなかったから、そ、そんなに好きなのかなあって思って」

「………。俺、すんげえ、桃子ちゃんに惚れてんの、知ってるよね?」

「う…。うん」

 恥ずかしいなあ。そんなことを言われると。

「じゃ、自慢くらいしてるの当たり前でしょ?」

「当たり前なの?」


「桃子ちゃんは俺のこと、自慢したりする?」

「する。もうしょっちゅう!」

「ほら。おんなじだよ」

 そ、そうなの?


 そうなんだ。そっか。知らなかった。

「でもね、私の場合は事実だから。たとえば、大学でいっちばん、聖君がかっこよくって、光ってたとか」

「…そう?」

「うん。他の人なんて、目にも入らないとか」

「…そう」


「うん!それから…」

「わかった。もういい。でも、それ、俺も思ってたから」

「大学で俺が一番光ってるって?」

「違うよ。なにをとんちんかんなこと言ってるの。今日、大学に桃子ちゃんと一緒に行って、俺の奥さんがいっちばん、可愛いなってさ」


「……」

 ボボボ。顏、熱い。

「あはは。真っ赤になってるし」

「聖君だって、さっき、照れて真っ赤になってたもん」


「え?」

「赤くなってたよ」

「それは、桃子ちゃんが照れるようなこと言うから」

「……」

 聖君はまた、私の太ももを触ると、

「ああ、やっぱ俺たちって絶対に、バカップルだよなあ」

と、にやけながらそう言った。


 今も、無意識で触ってるのかなあ。ま、いっか。ちょっと、エッチな手つきの気もするけど、夫婦なんだし。

「…桃子ちゃん」

「え?」

「もうちょっと、ドライブ楽しまない?」


「いいけど?」

「……桃子ちゃん」

「え?」

「その辺の海辺に車停めてもいい?」


「…いいけど?」

「それも、人のいないところ」

「え?なんで?」

「俺、その気になってきたかも」


「駄目!駄目ったら駄目!」

「駄目?」

「もう!スケベ親父!凪も待ってるし、とっとと帰る!」

「…ちぇ~~~~」


 もう~~~~。ちょっと気を許すとこうなんだから。ほんと、スケベって言うか、やんちゃ?

「あのさ。桃子ちゃん。いっつもこういうこと言ったりしたりすると怒るけど、けっこう恋人同士だったら、こんなことしてると思うよ?」

「え?」


「俺ら、さっさと結婚して一緒に住んじゃったから、そういうことしてないだけで」

「……そうなの?」

「…うん。だから、凪を預けてる間は、恋人気分でさ。ね?」

「……」

 え、そうなの?そういうものなの?世間の恋人同士って、そんないちゃついたりしてるの?


「だから…ね?」

「ドライブは楽しんでもいいけど」

「うん」

「……」

 私が黙っていると、聖君はそのまま、海辺を走り出した。


「…夕焼け、綺麗だね」

 聖君がそう言った。

「本当だ…」

 すごく綺麗。夕焼けに染まった空も海も…。


「ロマンチックだね、桃子ちゃん」

「うん」

 ちょっと感動的。ああ、それに横には聖君がいて…。って、あれ?なんで、横道に入って海辺のほうに行くのかな。


 聖君は坂を下り、浜辺近くのなんだか、人けのない道を入って行った。

「ひ、聖君?どこに行くの?」

「うん。人けのないところ?」

 え~~~!


「聖君、今日もバイト」

「うん。出るよ」

「それじゃあ、早くに行かないと」

「でもまだ、時間あるよ」


 聖君は車を止め、シートベルトを外すと私に抱きついてきた。

「聖君!もう帰ろうよ」

「ちょっとだけ」

「駄目だよ。帰ろうよ」


 なんで、太もも触ってるの?スカートまくしあげてるの?

「聖君!」

 なんで、胸まで触ってるの~~~!

「桃子ちゃん。帰ったらすぐ、バイトだから」

「だから?」

「桃子ちゃんといちゃつけないから」


「だ、だから、なに?」

「今だけ、桃子ちゃんのぬくもり、感じたいなって思って」

「…な、なんか落ち込んでるの?」

「ううん。なんで?」


「だって、落ち込んでると、甘えモードになるから」

「…さっき、帰ったら甘えていいって言ってたじゃん」

「だから、あれは家で…」

 って、なんで胸に顔をうずめてるの~~~!


「桃子ちゃん」

「な、なに?」

「…」

 聖君はなぜか私を熱い視線で見て、キスをしてきた。

「今だけ、恋人に戻って?」


「……」

 そんなことを言われても。恋人だった時だって、こんなことは。こんな…。いや、待てよ。車ではないけど、家の中では、あったかも?たとえば、休憩時間とか…。そういえば、聖君の部屋でいちゃついたり、リビングでだって、キスしたり。って、あれは結婚してからだったっけ?


 ドキドキドキ。わあ。なんだか、いきなり胸がドキドキしてきちゃった。こんなにドキドキしたの久しぶりかも。聖君と初めて結ばれたときのこと思い出しちゃう。


 キス…。とろける。駄目だ~~~。ああ、またノックアウトしてるのかも、私。

「桃子ちゃん?」

「え?」

「その気になっちゃった?桃子ちゃんも」

「え?」

 なんで?


「手、俺の首に回してるけど」

 あ!無意識で!

「なんだ。もう、桃子ちゃんってば、エッチ」

「ち、違うよ。これは、無意識で!」

「無意識で?もう。俺のこと抱き寄せたりして。エッチ」


「だから、もう~~~」

「あははは」

 聖君は爽やかに笑うと、運転席にちゃんと座り直し、シートベルトを締めた。


 あ、あれ?もしかして、もうおしまい?

「じゃ、行こうか。桃子ちゃんもシートベルト締めてね?」

「え?」

「ん?」


「う、うん」

「………。あれ?物足りなかった?もう少しエッチしてる?」

「し、しないよ」

 か~~~~~。顔が熱くなってきちゃった。私は慌ててシートベルトを締めた。


 聖君は車を発進させた。でも、本当は物足りなかった…かも。

 聖君が言うように、かなりその気になっていた…かも。

 でも、聖君には恥ずかしくってそんなこと言えない。


 聖君を見ると、すごく涼しげな顔をして運転している。

 ずるい。さっきまで、熱い視線で私を見てたくせに。

 ああ、もうすぐれいんどろっぷすに着く。そうしたら、私は母親に、聖君はウエイターになるんだね。

 恋人の時間は終わっちゃうんだ。


「聖君」

「ん?」

 信号待ちの間に、私は聖君の手を取って、私の太ももに乗せた。

「家まで、聖君の手、ここに置いておいてね?」

「…え?なんで?」


「…なんとなく。そうすると、落ち着くから」

 私がそう言うと、聖君は私のももを撫で、

「もう、桃子ちゃんのスケベ」

とにやっとしてそう言った。


 う。そ、そうなのかな。反論できないかも。でも…。聖君の手のぬくもり、直に感じていたいんだもん。

 触ってもらってると落ち着くなんて、スケベなのかな。

 なんて、そんなことを思いながら、私は聖君の横顔を見ていた。聖君はそんな私を、呆れてるかなあって思いながら。


 ………。呆れてないね。だって、ずうっとにやけてるもん。聖君。



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