第46話 どんな聖君も…
スウ…。寝息を立てた聖君の横顔を見た。ああ、かっこいい。
初めて会った時よりも、男らしくなったなあ。あの頃もかっこよかったけど、もっとかっこよくなっちゃった気がする。
いいなあ。聖君の眉毛。なんにもしなくったって、形いいし。それからまつ毛、けっこう長いんだよね。下のまつ毛も長いの。
鼻筋はすうっとしている。唇は…、ちょっと色っぽいかも。
うず。キスしたくなってきちゃった。寝てるし…、しちゃおうかな。
チュ。
「ん?」
あれ?キスしたのわかっちゃったかな。
「う~~ん。でへへ」
あ、夢見てるのか。でへへって、どんな夢?それにしても、今、にやけたけど、そんな顔も可愛いって思えるんだから、私ってやっぱり変態かも。
ビト…。聖君に思い切り抱きついて目を閉じた。
ああ…、聖君の匂い、安心するなあ……。
だから、ラブレターをもらっても安心だ。
安心…。
「先輩、ラブレター読んでくれましたか?」
あれ?ここどこ?大学?
「ああ、読んだよ」
聖君?誰と一緒にいるの?
「聖先輩が結婚していても、関係ないです。私、聖先輩の全部が好きなんです」
え?全部?でも、全部を知ってるわけないじゃん!
「じゃあ、たとえば俺のどこが好き?」
なんでそんなこと、聖君聞いてるの?
「えっと~~、眉毛の形や、まつ毛や、鼻、それから色っぽい唇」
え?!!!
「ふうん、あとは?」
「筋肉質な腕や、意外と厚い胸板。それに髪をかきあげる時の手も色っぽくて好きです」
なんで、そんなことを知ってるの?なんで?なんで?なんで?
「それだけ?」
「いいえ。時々見せる最高の笑顔も大好きです」
「へえ、そんなに俺のこと好きなんだ」
やめて!聖君もそんなこと言わないで!
「はい、全部好きです」
あ!聖君の胸に抱きついちゃ駄目!駄目ったら駄目!
「じゃあさ、俺がスケベでも、にやけていても、甘えん坊でも好き?」
え~~~!そんなことなんで聞いちゃうの?それに、その子から早く離れてよ~~~!
「え?」
「駄々っ子で、意地悪で、笑い上戸で、医者嫌いで、血とか見たらすぐに卒倒するけど、そんな俺でも好き?」
聖君。なんでそんなことをその子に言うの?
あれ?
なんか、相手の子、ひいてない?
「そんなかっこ悪い聖先輩は嫌です」
へ?
「かっこいい先輩が好きになったんです」
「俺、かっこ悪いところもいっぱいあるけど?」
「嫌です~~~!!」
あ…。
嫌ですと言いながら、思い切り去って行っちゃった。
「…」
なんだ。あの子…。どんな聖君だって、可愛いしかっこいいし、素敵なのに。
「ね?」
え?いきなり、聖君が抱きしめてきた。いつ、私のところに来てたの?
「だから、俺、言ったでしょ?かっこ悪い俺を好きなのって、桃子ちゃんぐらいだよ」
「…」
「そんな変態、他にいないから」
「うん」
「桃子ちゃんは、どんな俺でも好き?」
「うん。大好き」
「にやけてても?」
「うん、にやけてても可愛いもん」
「すけべでも?」
「うん、すけべでも可愛いもん」
「情けなくても?」
「うん、情けなくても可愛いよ。どんな聖君も大好き!」
ギュウ。聖君を思い切り抱きしめた。
「グエッ」
グエ?
「く、苦しい。桃子ちゃん、苦しい」
パチ。
あ!
目の前で私にギュウって抱きしめられ、苦しがっている聖君がいる。
「ごめん…」
思い切り抱きつきすぎたかな。あれ?でもなんでここ部屋?なんで布団の中?
「もう、なんの夢見てたんだよ」
夢?あ、夢だったのか。
「まあ、想像はつくけど」
聖君はじっと私を見てそう言ってきた。
「え?な、なんで?私、寝言言ってた?」
「言ってた。普通に話すから、寝言だって一瞬わかんないよね、いつも」
「ど、どんな寝言だった?」
「…え?」
あ、聖君の顔、赤くなった。
「どんな寝言?」
私、夢の中でなんて聖君に言ってたっけ?
「にやけても、すけべでも、情けなくても、どんな俺も可愛くて大好きって…。で、思い切り抱きしめてきた」
「ええ?」
きゃ~~。夢の中とはいえ、寝言とはいえ、なんだか恥ずかしい。
「夢の中でも桃子ちゃん、俺にベタ惚れなんだね」
「う、うん」
「あ、でも成長したね」
「何が?」
「夢が」
「?」
「前は片思いしていじけてたり、苦しんだりしてる夢見てたじゃん」
そうだった。そういえば。
「もしかして、夢の中で俺に抱きついてた?」
「うん」
「それ、やっぱり布団の中で、裸だった?」
「ち、違うよ。そんなシチュエーションじゃないもん」
「ほんと?」
「ほ、本当」
「俺のこと襲ったりしてない?」
「してないよ~~」
「な~~んだ」
もう、聖君、なんで残念がってるの?
「思い切り抱きしめてきたから、俺のこと襲ってるのかと思った」
「ち、ち、違うってば」
「あはは」
もうなんで、爽やかに笑ってるの?
「寝込み、襲ってきてもいいからね?」
「襲わないってば」
「俺、いつでもOKだからね?」
「だから、襲わないってば」
「桃子ちゃんから、迫ってきたもいいからね?」
「しつこいよ、もう~~~」
「桃子ちゅわん」
聖君から抱きついてきたぞ?
「なあに?」
「俺も夢見てた」
「どんな?」
「でへへ」
あ、さっき確か、寝ながら聖君、でへへって言ってたっけ。
「桃子ちゃんに襲われる夢」
え?!
「あんなの、現実にも起きたらいいよな~~」
ええっ?
「ど、どんな夢?」
「だから桃子ちゃんから迫ってくる夢」
「ど、どんなふうに?」
「……。きゃ、言えない」
もう~~~~!なんでそこで、はじらっちゃうの?時々聖君はこうやって、私をからかって遊ぶからなあ。
「いいよ、じゃあ、教えてくれなくても」
「え?聞きたくない?」
やっぱり、わざと恥らって見せたのね。
「恥ずかしいことなら聞きたくない」
「……桃子ちゃんがね?」
「いいよ、教えてくれないで」
本当に恥ずかしくなってきた。
「俺が駄目だって言ってんのに、服を脱がせるんだ」
で~~~?!
「そ、そんなことしないよ、私っ」
「で、俺が桃子ちゃん、今日は無理だよって言ってるのに、聖君の唇が色っぽいって言ったりして」
え?!
ドキ~~、そ、それは思ってたけど。
「それで、キスしてくるんだ」
はっ!もしや、さっき、寝ている聖君にキスした時だったりして。
「俺、そのキスでとろけちゃって」
「へ?」
「結局、桃子ちゃんに襲われちゃうんだ」
ま、待って待って。なんで私が襲うことになってるの?そのパターンは、いつも立場が逆!
「そんなのも、いいなって夢の中で思っちゃった」
え?
「いつも俺から、誘ってるけどさ。たまには、桃子ちゃんから誘ってくれてもいいのに」
ええ?
「あ、そうか!俺がいつも先に誘っちゃうからか!」
う…。
「今度、思い切りじらしたらいいのか」
「そ、そんなことされても、私からなんて絶対に誘えないから」
「なんで?」
「…前に、聖君が凪ばっかり可愛がっていた時だって、私、寂しかったけど、誘ったりできなかったし」
「……」
聖君は私の顔を思いっきり覗き込んだ。
「な、なあに?」
「誘いたかった?」
「え?」
「俺のこと襲いたかった?」
「ち、違うよ。ただ…、こっちを見てほしかっただけで」
「…やべ!」
何が?
「も、桃子ちゃん」
「なあに?」
「可愛すぎ」
え?
「今、思い切り、射抜かれた」
へ?
「可愛い~~~~!ムギュウ」
うわ。思い切り抱きしめてきた。
「な、なんでそうなるの?」
「なんでって、だって、桃子ちゃん、可愛いから!」
ええ?
「もう、これだから俺、あれなんだよな」
?
「桃子ちゃんのこと、襲いたくなるんだよな。しょうがないよな。桃子ちゃんから襲って来るの待ってる前に、俺から襲っちゃうのも」
「…でも、今は駄目だよ?」
「うん。大丈夫。さっき、思い切り愛しちゃったから、そんなにムラッてこないから」
「…」
ムラって、何?ムラって。もう、やっぱりスケベ親父だ。
「桃子ちゃん、愛してるよ」
「うん」
「桃子ちゃんは?」
「私も愛してるよ」
「ほんと?」
「うん。大好き」
「でへへ」
あ~~~。また聖君がにやけた。でも、可愛い~~~~。
スウ…。
スウ?聖君の寝息?もう寝ちゃった?
と思ったら、後ろから聞こえた凪の寝息だった。
「スウ、スウ…」
「凪、良く寝てるね」
私がそう言うと、聖君は上半身を起こして凪を見た。
「うん、寝てる。桃子ちゃんと同じ、可愛い寝顔で。ほんと似てるよね」
「そうかな」
「桃子ちゃんも、赤ちゃんみたいな寝顔なんだもん。めちゃ可愛い」
「…」
て、照れる。
「桃子ちゅわん」
あ、また抱きついてきた。
「可愛い」
「聖君だって、可愛いよ」
「うん。夢の中で言っちゃうくらい、俺のこと好きなんだもんね?」
「う、うん」
恥ずかしいな。それ。
それに…、実はその前に女の子が、聖君に抱きついていたりもしたんだけど、それは内緒にしておこうかな。きっと呆れられちゃうよね。
私は聖君に抱きしめられながら、いつの間にかまた眠っていたようだ。
朝、起きてからふと思った。
大学生の聖君を生で見たい。大学ではどんななの?
見たい。うず…。なんだか、絶対に見たくなってきた。
なんとか、大学に行く用事はないものかなあ。
「聖君」
「ん?」
「もうサークル活動してる?」
私は、おっぱいを凪に飲ませながら聖君に聞いてみた。
「うん、してるよ。なんで?」
聖君はパンツを履いて、Tシャツの袖に手を通すところだった。
「大学生以外も、サークルって入れるんだっけ?」
「…入りたいの?」
「ううん。見学とかもできるのかなって思って」
「え?サークルの見学?」
「うん」
「う~~ん、できるけど、でも、大学でのサークル活動はたいして面白くないよ?」
「そうなの?」
「あ!そうだ。部長が春休みに沖縄の海潜ってきたんだって。その時撮ったビデオを今日見せるって言ってた。来る?」
「え?」
「見に来る?それだったら、面白いかもよ?」
「見に行っていいの?いきなり」
「ああ、いいよ。部長も菊ちゃんも大歓迎だと思うけどな」
「…ほんと?」
「うん。麦ちゃんも来るって言ってたし。桃子ちゃん、麦ちゃんにも会ってないよね?きっと向こうは会いたがってると思うよ」
「麦さんが?」
「うん。桃子ちゃんのこと大好きみたいだから」
え?」
「多分、今は俺のことより、桃子ちゃんが好きなんじゃないの?」
「まさか~~」
「そうかな?私が男だったら、絶対に桃子ちゃんを彼女にするって、この前言ってたけど」
「え~~?」
「そうしたら、俺はライバルだねって笑ってた…。あれ?でもなんか、まじで桃子ちゃんを好きなわけじゃないよね?」
「まさか~~」
「でも、桐太のこともあるし」
「ま、まさか~~~」
「あそこのカップルちょっと変だし」
「…え?どんなふうに?」
「それより、もう凪、おっぱい飲み終わってるよ?」
「あ」
いけない、慌てて私は凪を布団に寝かせた。それからブラジャーをしようとすると、
「全部、凪、飲んじゃった?残ってない?」
と聖君が私の横に座って聞いてきた。
「うん。多分。…なんで?」
「俺の分残ってない?」
「…え?」
「……」
「な、なななに?」
なんで胸をじいっと見てるの?
「う~~ん、凪のよだれつきかあ。そのあとにしゃぶりつくのもな」
「え?!」
「やっぱり、俺は夜だけにするかなあ」
何を~~?!
「じゃ、俺、先に下に行ってるね」
聖君はにっこりと爽やかに言うと、颯爽と部屋を出て行った。
「…も、もう。本当にスケベ親父のくせして、爽やかなんだからっ!」
そんなことをぶつくさ言ってると、凪が私を見て、
「あ~~~、う~~~」
と話してきた。
「…凪、パパがスケベだってことは、やっぱりみんなには内緒にね?」
「あ~~~~~」
にっこりと笑ったぞ。まさか、言ってることわかっていたりする?まさかね。
それにしても。そうか。聖君の大学生姿、生で見れちゃうんだ。やった~~!!!
あ!ってことは、ラブレターを書いた人にも、会っちゃうってこと?
そ、それはなんだか、かなりドキドキだったりして。
「凪も、大学行く?」
「う~~~」
「パパの大学生姿、見たい?」
「あ~~~~」
見たいのかな?凪も連れて行っていいのかなあ。
でも、キャンパスを2人で歩いてみるのも、なんだかいいかも。なんて!
「ごめん、凪はおじいちゃんもおばあちゃんもいるんだし、家でお留守番しててね?」
「う、う~~~」
あ、怒った?やっぱり、私の言ってること、理解してたりする?