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第16話 ナンパ

「私たち、ライブ終わったらすぐに帰るんです」

 もう一回小百合ちゃんが2人に言った。だが、まったく聞いてくれない。

「籐也とどこで会ったの?」

「本当に知り合い?実はファン?」


 もう~~。2人とも私たちの横にぴったりくっついて離れない。

 ライブは中盤にさしかかった。さらにライブは熱くなる。わ~~、きゃ~~って騒いでいる中から、3人が抜け出してきた。


「暑い」

「目、回る~~」

 その3人は、椿ちゃん、苗ちゃん、果歩ちゃんだった。

「あ、桃子ちゃん、小百合ちゃん」

「あ、一緒に来た友達?」

 2人の男が3人を見た。


「誰?この人たち」

 椿ちゃんが聞いてきた。

「俺らも5人で来てるんだ。3人はライブで盛り上がってるけどさ、帰り一緒に帰ろうよ」

「…もしや、ナンパ?」

 果歩ちゃんが顔を引きつらせた。


「私たち、もっとたくさんで来てるの。全員で8人」

 椿ちゃんがそう言った。

「ううん、10人いる」

 私が咲ちゃんとメグちゃんのことも数に入れた。


「10人?」

 さすがにびっくりしたでしょ?あきらめるでしょ?

「ちょうどいいんじゃね?あいつらも5人だし」

 あいつら?あいつらって?


 ライブが終わった。その二人はずっと私たちに話しかけ、全然ライブを楽しむどころじゃなかった。

「あれ?この子たちどうしたの?」

 まだきゃ~きゃ~女の子が騒いでいる中から、3人の男がやってきてそう言った。

「声かけたんだ。一緒にこれから飯、食いに行こうぜ」

「へえ、ちょうどいいじゃん。5人なんだ」


「10人だって」

「え?」

「ウィステリアのメンバーも入れたら、ちょうどいいだろ?」

「あいつら行かないだろ?」

 後から来た男の一人が、そう言って持っていたペットボトルの水をゴクンと飲んだ。


「あんたたち、そんなにメンバーと仲良くないんでしょ?私ら帰るからそこどいてよ」

 椿ちゃんがちょっと怖い声で男たちに言った。いつの間にか私たちの前に5人は立ちふさがり、私たちはカウンターから一歩も動けない状態だ。

「待てよ。メンバーに今声かけてくるからさ。ちょっと俺行ってくるから、引き留めておいて」

 一人の男がそう言って、楽屋のほうに向かって行った。


 ライブは終わり、会場に明かりがつくと、いっせいに女の子たちはライブハウスから外へと流れだした。

「楽屋から出るのを待とうよ」

「早く行こう!」

とそんなことを言って走って出て行く女の子もいる。


「あつ~~~い」

「いや~~久々、燃えた」

「籐也、最高じゃん。ね?花」

 蘭と菜摘は花ちゃんの肩をたたきながら、やってきた。そこにどこからともなく、咲ちゃんとメグちゃんも来た。


「桃ちゃん、久しぶり」

「咲ちゃん」

 再会を喜ぼうとしたが、

「これで全員?本当だ。全部で10人だ」

と一人の男が言い出して、私と咲ちゃんの間に入り込んできた。


「みんな籐也の知り合い?同じ高校じゃないよね?見ない顔だし」

「本当はファンだろ?俺らがどうにか取り持ってやってもいいけど」

 何て言いながらにやついているやつもいる。

「何、こいつら」

「ナンパしてきたみたい」

 蘭の質問に椿ちゃんが答えた。


「桃子、ナンパされたの~~?もう~~。兄貴がいない時にナンパなんかされちゃって!」

 菜摘はそう言うと、私の前にいた男に、

「私ら帰るから、桃子の前からどいてよ」

とすごんで睨みをきかせた。


「いいじゃん。一緒に飯食いに行こうぜ。今、ウィステリアの連中も誘ってるからさ。あいつらと一緒に行きたいだろ?仲良くなりたいんじゃねえの?」

「何言ってるの。とにかく遅くなっちゃうし、もう帰るよ」

「遅くなったら送ってやるって」

 またにやついてた男がそう言って、もっとにやついた。


「おい。あいつらはあいつらで、帰るってさ。どうする?」

 楽屋に行っていた男が戻ってきてそう言うと、

「なんだよ。じゃ、しょうがねえな。15人でどこか行くか?」

とさっきにやついてた男がそんなこをと言い出した。


「それか、誰か呼ばねえ?なんならどっかでみんなで、パーティでもしようぜ」

 一人の男がこれまた、にやつきながらそう言うと、

「帰るからそこどいて!」

と、蘭が私の手を取って男のことをけちらそうとした。と、その時、籐也が楽屋からやってきた。


「…何してんの、お前ら」

「あ、籐也。だから、さっき言ったひっかけた女の子だって。お前らが来ないなら誰かほかの奴呼んで、パーティでもしようかって話になってさ。ここらへんでいい店知らない?」

「冗談だろ?お前の隣にいる子誰だか知んないの?」


「え?」

 籐也君が私を指差した。

「誰だよ」

「聖さんの奥さん」


「……え?!!!」

 隣にいた男が、一気に青ざめた。

「嘘。聖先輩の?嘘だろ。だって、なんでこんなとこにいるんだよ」

「俺の彼女の友達なんだ。一緒にライブ、観に来てくれたの。俺、ライブ始まる前に電話もらってて、聖さんが今日奥さんが見に行くから、絶対変な奴にからまれないようちゃんと見ててくれって」


「…聖君が?」

 そんな電話をしてくれてたの?

「もし、変な奴に絡まれてたら俺のことすぐに呼んでってさ。お前の名前出してもいい?知ってるよね。聖さん」

「や、やめろよ。聖先輩の彼女だって知ってたら、声かけなかったよ」

「彼女じゃないよ。奥さん。聖先輩、結婚したの知らないの?お前」


「結婚?!」

「嘘。人妻なの?」

「小百合ちゃんもだよ」

「子供だっているよ」

 花ちゃんと蘭がそう言った。


「あ、それに籐也の彼女って…」

「うん、この子。知らなかった?まさか、俺の彼女にまで手、出そうとしてた?」

「い、いいや。あ、もしかすると、お前の彼女のダチってこと?この子ら全員」

「ああ、そうだけど?」

「は、ははは。なんだ。早くそれを言えよ」

 そう言うと5人は苦笑いをしながら、足早にその場を去って行った。


「兄貴の名前を出した途端に、顔色変わったけど、なんで?」

 菜摘が聞いた。

「聖さんの中学の後輩だよ。それもかなり聖さんに入れ込んでた」

「入れ込んでたって?」

 今度は蘭が聞いた。


「聖さんが高校入ってから、あいつら違う高校になったけど、やたらと聖先輩を慕ってて、江の島で会った時なんか、媚び売っちゃって大変だったんだ」

「…何それ」

「俺もよくわかんないけど、聖さんって男から見てもかっこいいじゃん?慕ってたやつってけっこういるみたいだよ」


 すごい。そうなんだ。じゃあ、私、結局は聖君に救われたってこと?

「籐也君。聖君から電話あったって本当?」

「本当。絶対に守れよなって念押された。ステージからあいつらが桃子ちゃんにちょっかい出してるのが見えて、それで見に来たんだ。よかったよ。何もないうちで」


 そう言うと籐也君は花ちゃんに近づき、

「花も、ナンパされなかった?」

と心配そうに聞いた。

「うん。私はライブに夢中になっていたし」

「ああ、見えてたけど。ステージから」


「今日もかっこよかったよ」

「そう?だから、目、ハートにしてたの?」

「わ、わかっちゃった?」

「わかるって」


 あれ?何?私たちのことほっておいて、2人の世界?

「私ら帰るね。花は籐也が送ってくんでしょ?」

 菜摘がそう言うと、

「ああ、今日はみんなで来てくれてサンキュ」

と籐也君がこっちを向き、にこっと笑った。


「桃子ちゃんも、来てくれてありがとう。れいんどろっぷすには来ないの?来たら凪ちゃんを見に行くのにな」

「…そのうち、泊りに行くかも」

「うん。そうして。聖さん、凪ちゃんの写真は送ってくるし、すげえ可愛いんだってメールよこすしさ、一回は凪ちゃん見てみたいって思っていたんだよね」


 うそ~~~~。凪の写真を送ってるって?嘘でしょう~~。

「桃子ちゃんは聖さんが迎えに来るの?」

「ううん。来ないと思うけど」

「何だ。聖さんのことだから来るかと思ったよ」

 籐也君はちょっと首をかしげてそう言った。


「凪のことみてるから、来ないよ」

 ちょっと私は暗くそう言った。すると籐也君は、

「でもなあ。あいつらまだ外にいるかもしれないしなあ」

と眉をしかめた。


「兄貴の奥さんなんだもん。もう手を出しに来たりしないでしょ?」

「手はね。だけど、聖さんびいきだから、あれこれしつこく言い寄って媚び売ってくるかも。やばいな。俺がついて行けたらいいんだけど、ファンの子もいるだろうから、顔出せないし」

 籐也君はそう言ってから、ポケットから携帯を取り出し、

「聖さんを呼ぶのが一番だよね」

と聖君に電話をかけだした。


「無理だよ。凪のことみてるんだから、絶対に来れないよ」

「家に誰かいないの?」

「お母さんいるけど」

「じゃ、大丈夫じゃん」

 もう籐也君は携帯を耳に当て、聖君が出るのを待っている。


 凪から聖君が離れるかな。菜摘や蘭もいるんだし、二人に私を任せて聖君は来ないんじゃないのかな。だって、迎えに行くともなんとも言ってくれなかった。


「あ、聖さん?俺。うん、さっきライブ終わった」

 籐也君が話し出した。あ、聖君、電話に出たんだ。

「桃子ちゃん、やっぱりナンパされてた。俺と高校一緒だった奴で、聖さんの中学の後輩。知ってる?青木ってやつ」


「ナンパ?!」

 聖君の声が聞こえた。ちょっと離れているところでも聞こえたから、相当でかい声をあげたんだろうな。

「もう俺が、そいつのこと帰らせたけど。でも、駅で待ち伏せしてるかもしれないし、俺、ファンの子たちに見つかるとえらいことになるし。聖さん、桃子ちゃんのことを迎えに来れない?」

 

 行くって言うかな。

「大丈夫だよ。桃子ちゃんだったら、私、さっき車呼んだから一緒に送っていく。そう聖君にも伝えて」

 小百合ちゃんが籐也君の肩をつんつんとつっつき、そう言った。


「あ、なんか桃子ちゃんの友達が車で送っていくって」

 籐也君はそう聖君に言うと、

「あ、はい」

と何やら返事をして、すぐに電話を切った。もしや、じゃあ、そうしてって聖君はそう言って、あっさりと電話を切ってしまったんだろうか。


「迎えに行くから、それまでは桃子ちゃんのこと見ててって言われた」

 籐也君は携帯をポケットにしまいながら、私にそう言った。

「え?!聖君、来るって?」

「うん。心配だからすぐに行くってさ」

 嘘。凪は?


「喉乾いた。マスター、なんか飲み物ちょうだい。あ、みんなもなんか飲む?俺、おごるけど」

「飲む!ジュース」

「私ウーロン茶でいい」

 蘭と菜摘が籐也君の言葉に、すぐさまそう言った。


「私、車がそろそろ来るから帰るね」

「どこに来るの?」

「駅前のロータリー」

「そこまで大丈夫?」

「うん。大丈夫だよ」

「私たちがしっかりとガードしていくから」

 椿ちゃん、苗ちゃん、そして果歩ちゃんがそう言って小百合ちゃんの横に立った。


「私たちも一緒に帰ろうよ、ね?メグちゃん」

 咲ちゃんがメグちゃんのそばに来てそう言うと、

「うん。でも、聖君に会いたかったな」

とメグちゃんはそう返事をして、ちょっと残念がっている。


「今度お店にでも顔を出そう。じゃあね、桃ちゃん」

「うん。またね、メグちゃん、咲ちゃん」

「それから花ちゃんもまたね」

 メグちゃんは花ちゃんにそう言うと、籐也君の顔を見て、

「籐也君もかっこいい、いいな、花ちゃん」

とぶつくさ言いながら、咲ちゃんのあとを追ってライブハウスを出て行った。


「気を付けてね、小百合ちゃん」

「うん。またね、桃子ちゃん」

 小百合ちゃんもみんなと一緒に出て行った。

 

「籐也、どこか飯食いに行く?」

 他のメンバーが現れた。

「ああ、花、どうする?あまり遅くなれないだろ?」

「うん」

「俺、花のこと送っていくからパス」


「そう。お前だけずるいよな。いつも彼女と帰っちゃって」

「じゃ、お前らも彼女作れば」

「そんなに簡単に言うなよ。ファンは手を出せないしさ」

 メンバーの中の一人がそう言った。

「お前の従弟の彼女の友達、どうなったんだよ。潤一。なんだっけ?名前」


「司の彼女?え~~と確か結城さんだっけ」

「そう、その友達。紹介してもらったんじゃないの?」

「………」

「なんだよ。駄目だったの?」

「う~~ん。いい線行きそうなんだけど、今日誘っても来なかった」


「はは。それ、駄目なんじゃね?」

 他のメンバーがその潤一って人に肩をたたきながら言った。

「そっか~?でも仕事だから、休めないって言ってたんだよ?」

「仕事?年上?」


「いや、タメ。高校卒業して仕事してるんだって。花屋で働いてるらしい。フラワーアレンジとかってのをしてるとか」

「いいじゃん。可愛い子?」

「うん、けっこう好みだった」


「名前なんての?」

「美枝…」

「美枝ちゃんかあ。ふうん」

 そんな話を籐也君はしているが、ほとんど右の耳から左に抜けてるらしく、籐也君はさっきからちらちらと花ちゃんを見ている。


「花、髪、切った?」

 小声で籐也君が花ちゃんに聞いているのが聞こえた。

「うん。わかった?」

 花ちゃんが籐也君に顔を赤くしながら聞いた。


「わかるって」

 籐也君がまたそう言った。それからはじっと花ちゃんを見て、にやにやしている。

「変?」

「似合う」

 ああ、また二人の世界だな。本当に籐也君ってば、花ちゃんのことが好きなんだな。さっきから目が垂れっぱなしだ。


 しばらくみんなで和気あいあいと、ジュースを飲みながらしゃべっていた。すると、聖君がやってきた。

「あ、聖さん」

 籐也君が聖君に声をかけた。聖君は籐也君に、

「電話、サンキュー」

と言って、私のほうにつかつかとやってきた。


 顔、怖い。まさか怒ってる?

「ナンパされたの?」

「う、うん」

「……」

 無言だ。


「兄貴。しょうがないよ。ここじゃ逃げ場はないんだしさ」

「菜摘は一緒にいたの?」

「ごめん。ライブに夢中で…」

「そう」


 聖君はため息をつき、私のすぐ横に来た。

「帰ろう。凪、待ってるよ」

「……」 

 それだけ?

 ううん。私、何を期待してたのかな。


「一緒に飯、食いに行きませんか?聖さん」

「俺はもう桃子ちゃんちで食った。桃子ちゃんの分も用意してあるよ。それに、そろそろ桃子ちゃんも限界でしょ?」

「え?」

「胸。張ってるんじゃないの?」

 大当たりだ。


「胸?」

 みんながちょっと驚いて私を見た。

「凪のおっぱいの時間なの。籐也君、ライブよかったよ。花ちゃん、またね」

 私はそのあと、菜摘と蘭にも声をかけ、聖君に手を引かれ、ライブハウスをあとにした。


「……」

 聖君、ずっと黙ってる。私が助手席に乗り込むと、シートベルトをするのを黙って待ち、それからエンジンをかけた。

「久々にみんなに会えた?」

車を発進させてから聖君が聞いてきた。


「うん。椿ちゃんも果歩ちゃんも、苗ちゃんにも。それに咲ちゃんやメグちゃんもいたの」

「良かったね」

「うん」

 聖君の声は優しいのに、顔つきは暗い。


「複雑だな」

「え?」

「桃子ちゃんも、たまには友達にも会いたいだろうなって思ったんだけど」

「うん」

「でも、ナンパされちゃうのは、どうもなあ」


 う。やっぱり怒ってる。

「あいつに頼んでおいてよかったけど」

「籐也君?」

「うん。まさかの時のために。でも、そのまさかのことが起きるとはね」

「ごめん」


「桃子ちゃんが謝ることじゃないけど。ああ、そっか。今まで妊婦さんだったから声もかけられなかったのか」

 聖君はそう言うと、ふうってため息をついた。

「俺の奥さんなのに」


「え?」

「もう結婚もしてて、子供もいるのに」

「そうだよね。なのにナンパって変だよね」

「それだけ、桃子ちゃんは可愛いのか」


「え?違うんじゃない?きっとスキがあるんだよ」

「可愛いからだよ」

 聖君はもう一回そう言った。それからしばらく黙り込んで、車を運転している。

 なんで黙っているのかなあ。それとも会話が続かないとか?ここに凪がいないのが寂しいとか?


「やっぱり、今度ライブに行く時には俺もついていく」

「え?でも凪は?」

「凪をお母さんか誰かに預けられるようになるまで、待ってもらってもいい?もう少ししたら、凪も預けられるようになるよね」

「う、うん」

「そうしたら、ライブに一緒に行こう」


「うん」

「二人でデート、ずっとしていないもんね?」

「うん…」

 聖君が私の手を握ってきた。こんなふうに手をつなぐのだって、久しぶりだ。

 嬉しいな。もうちょっとドライブを楽しみたいな。凪、ごめんね。お腹を空かせているかもしれないのに、こんなことを思ったりして…。


「それにしても…、青木の奴…」

「え?」

「もし今度会ったら、ただじゃおかない。俺の奥さん、ナンパするなんて」

「知ってる人?」

「ああ、後輩。なんだかどんどん腹が立ってきたなあ」

「…聖君の奥さんだって聞いて、青ざめてたよ?」


「………」

 聖君は無言になった。それから赤信号で車が止まると、私のほう向き、

「桃子ちゃんは、ちゃんと結婚してるとかって意思表示すること、しなかったんじゃないの?」

とちょっと怒って言ってきた。

「あ、そういえば」

「も~~。結婚してること、ほんと忘れてるよね?桃子ちゃん」


「ごめん」

「結婚式、挙げようね」

「え?」

 何?いきなり…。

「そんで、結婚指輪交換しよう」


 そうだ。そういうことも忘れてた。

「そうしたら、ちゃんと結婚指輪しておいて。すぐに人妻だってわかるように」

「人妻だってわかっても、ナンパしてきたらどうするの?」

「……!!」

 聖君は顔色を変えた。


「聖君、信号青になったよ」

 聖君は車を発進させて、前を向いたまま、

「やっぱ、もう俺と一緒じゃなかったら、桃子ちゃん外出禁止」

とぽつりと言った。


 え………。

 聖君が凪ではなく、私に意識が向いてくれていて嬉しいけど、これって喜んでいいものかどうか。

 とか言いつつ、すねてる聖君の横顔を見るのは久しぶりで、やっぱり私は喜んでいる。



 


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