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第15話 ライブ

 聖君の大学が始まった。そして朝、聖君は大学に行くまでの時間が大変なことになってしまっている。

「凪、パパ行ってくるね」

と抱っこしていた凪を私に手渡しそう言うと、上着を着てカバンを持つ。

「凪、パパ行ってくるね」

 私が抱っこしている凪に向かって、もう一回そう言うと凪のほっぺをつっつく。


 玄関まで凪を抱っこして見送りに行くと、

「凪、パパ本当に行っちゃうよ」

と言って、凪の顔を覗き込む。それから10秒くらいは凪の顔を見て、頬やおでこや鼻を触り、

「あ~~~。行きたくない」

とぼやく。


 聖君、気づいてる?さっきから私の名前は一回も出てこないし、一回も私の顔を見ていないってことを。

「は~~。行ってくるかな」

 聖君は力なくため息をつき、ようやく私の顔を見て、

「じゃ、桃子ちゃん、凪を頼んだよ」

と言う。


 で、私には何もないの?と思いながら黙って聖君を見ていると、聖君は、私の頬に軽くキスをして、

「じゃあね、凪」

と凪の顔はじっくりと見て、凪の指と握手して、悲しそうな顔でドアを開ける。

「いってらっしゃい」

「いってきます」

 悲しそうな声で聖君はそう言うと、とぼとぼと玄関を出て行く。


 いったい私って、何?!

 っていうのをここ数日、毎朝繰り返している。


「私って、凪の付属品?とか思っちゃうよ」

 小百合ちゃんがうちに和樹君を連れて遊びに来た。リビングでお茶を飲みながら、2人でそんな話をした。小百合ちゃんはくすくす笑って、

「それだけ凪ちゃんが可愛くてしょうがないのよ」

と私に言う。


「輝樹さんもそう?」

「ううん。輝樹さんは私と和樹が仲いいから、ちょっと妬いてるみたい。娘か息子かで旦那の態度も変わるんじゃない?」

「そうか。凪が男の子だったら、違ってたのか」

 は~~~~。ため息。こうなる予感はしていたものの、ここまで聖君を凪に取られちゃうとは思わなかったな。


 凪と和樹君はさっき、おっぱいを存分に飲んだので、すやすやと気持ちよさそうに寝ている。

「寝ていると天使よね」

 小百合ちゃんがボソッとそう言って、

「でも、起きてると和樹は本当によく泣くから、最近疲れちゃって…。は~~」

とため息をついた。

「大丈夫?」


「凪ちゃんは泣かない?」

「うん。わりかし起きていても機嫌いいかな。夜中も3時間おきじゃなくなってきたし」

「もっと寝てくれるの?」

「うん」

「いいな~~」


「寝かしつけるのはたいてい聖君だし、聖君が寝かしつけるとすぐに寝ちゃうし」

「楽なんだね」

「そうかも…」

「昼間、聖君がいなくっても?」

「うん。パパがいないから寂しいって、そういうのはまだ目覚めていなさそうだし。私も特に困らない。お風呂も聖君がこの前から入れてくれてるし」


「ああ、そうだよね。もうベビーバス卒業だもんね。うちも早くに輝樹さんが帰ってきた日は入れてもらってるの」

「そうなんだ」

 小百合ちゃんは嬉しそうにそう言った。

 そうだよね。普通は赤ちゃんを旦那さんにいれてもらったら、嬉しいものだよね。


 そうだよ。私くらいだよ、きっと、残念がっているのなんて。何を残念がっているかっていうと、もう聖君が私とお風呂に入らなくなったことだ。

 聖君は先に自分の体や髪を洗うと、凪を呼ぶ。私が凪を裸にさせ、お風呂に連れて行くと、嬉しそうに凪を受け取る。


 それから凪を洗い、一緒にお風呂に入ると、

「桃子ちゃん、凪でるよ~~」

と私を呼び、凪を私が受け取って、体をふいたり服を着せたり、白湯をあげたりする。聖君は聖君で自分の体を拭いたり、髪を乾かしてから和室に来る。


「凪、気持ちよかった?」

 その頃凪は、お風呂で気持ち良かったせいか、すごく機嫌がいい。その凪を聖君は抱っこする。

 で、私は?

 と毎日思う。


 なんだか、私の存在って?


 夜は夜で、聖君はいまだに凪が泣いて起きると、一緒に起きてくれる。オムツを替えるのも聖君だし、寝かしつけるのも聖君だ。凪が寝てしまうと、聖君はさっさとベッドに横になり、すうって1秒で寝てしまう。


 で、私は…。


「なんだか、悲しくなってきた」

「え?」

 小百合ちゃんが驚いて私を見た。

「何が悲しいの?喧嘩?」

「ううん。聖君にあまりにもほっておかれていて…」


「そうなの?ちょっとうちと反対なのね」

「輝樹さんのことほっておいてるの?」

「うん。だって、本当に和樹、泣いてばかりだから、私ずうっと抱っこしてるし、和樹が寝たらつい私も添い寝しちゃって、輝樹さんのことなんかほっておいてるし」


「そうなんだ」

「桃子ちゃんはちゃんともう、聖君と夜の生活再開してるの?」

「え?!」

「うちはまだなの。私、どうしても和樹と寝ちゃうんだよね。輝樹さんに朝、ごめんねって謝るんだけど、輝樹さんも疲れてるんだからしょうがないよって言ってくれてはいるんだけど…」


 ま、待って。夜の生活っていうのはあれだよね?で、それってもう再開して平気なわけ?

「桃子ちゃんはちゃんと、聖君と」

 ブルブル。私は首を横に振った。

「やっぱり疲れちゃって、そんな気にはなれないよね?」


 ううん。違う。聖君のほうがそんなの、まったく求めてこない。

 そういえばそうだ。前は「早くに桃子ちゃんを抱きたいな」なんて言ってた。でも、最近はまったくだ。

 あれ?そういえば、キスだって寝る時に口に軽くしてくれるくらいだ。


 それに凪のことばっかり抱っこしていて、私を抱きしめてくれることも少なくなった。それに、寝る時も凪を見て満足すると、さっさと横になってく~~って寝ちゃう。


 わ、わ、わ、私の存在って~~~~?!

「か、悲しい。小百合ちゃん」

「え?」

「ちょっと落ち込んできた」


「…。あ、そうだ!」

 小百合ちゃんが突然、大きな声をあげた。

「何?」

「今度花ちゃんの彼のライブあるじゃない」

「うん」


「あれ、誘われたのに私たち、断っちゃったでしょ?」

「うん」

「でもね、輝樹さんが気分転換に行ってきたらって言ってくれたの」

「そうなの?」

「うん。桃子ちゃんも行こうよ。凪ちゃんって哺乳瓶も大丈夫でしょ?聖君にあずけて、ライブ行っちゃおうよ」


「…聖君、行かせてくれるかな」

「いいよ。そんな桃子ちゃんのことほっぽいてるなら、凪ちゃんの世話をさせて、楽しんできちゃおうよ」

 え?今のって小百合ちゃんの口から出たセリフ?ちょっと驚き。

「そ、そうだよね?いいよね?うん。聖君だって凪がいたらいいんだもん。私がライブに行ったってどうってことないよね?」


 というセリフを言って、また落ち込んだ。

「だ、大丈夫だよ。もしかしたら寂しがっちゃうかもよ?そんな桃子ちゃんのことどうとも思ってないわけじゃないんだから」

 小百合ちゃんが必死に慰めてくれた。

「うん。とにかく行ってもいいか聞いてみる」


 昼ご飯をうちで食べ、小百合ちゃんは迎えの車が来て帰って行った。運転手がいるっていうのは便利だよなあ。その運転手さんも和樹君のことをすごく可愛がっているらしい。


 理事長も暇があると和樹君を見に来るって言ってたな。うちも父は休みの日は凪にべったりだ。聖君がいる時には遠慮をしているようだが、聖君がお店に行ってしまうと、父が凪をお風呂に入れたり、寝かしつけたりして、でれでれになっている。


 だから、私はきっとすごく楽な子育てをしているんだろうなあ。

 一ヶ月検診を終えてから、悪露もなくなった。おっぱいも凪がよく飲んでくれていて、張って大変な思いもしていないし、乳腺炎にも今のところなっていない。

 いたって、順調だ。


 しいて言うなら、体重があまり減ってくれないことくらいかな。お腹のだぶつきも前と変わり映えしていないし。これ、大丈夫なんだろうか。


 8時過ぎ、聖君が元気に帰ってきた。

「ただいま~~」

 凪を抱っこして私は迎えに行く。凪が寝ている時は、抱っこしていけないが、起きている時には必ず凪を連れて出る。


「ただいま、凪、桃子ちゃん」

「おかえりなさい」

「凪、いい子にしてた?」

「うん」

 聖君はにこにこ顔で凪の顔を覗き込む。そしてその辺に自分のカバンを置き、凪を私から受け取って抱っこをする。私は聖君のカバンを持って、リビングに行く。


 もし凪を連れていかないと、聖君は、

「ただいま。桃子ちゃん、凪は?」

と私の前をあっさりとスルーしていく。ただいま、おかえりのあのハグは、もう何週間もしていない。

 スルーしていく時には、きっと私の顔も見ていないはず。それが悲しくて、凪を抱っこして玄関に行くのだ。


 う。また落ち込んできちゃった。

「聖君、今日小百合ちゃんが来たの」

「あ、そうだよね。どうだった?和樹君」

「元気だったよ」

「凪にちょっかいだしていなかった?」

「しないよ。まだ、2人とも寝てるだけなんだし」

「そっか。そのうちちょっかい出すようになるのかな。心配だな」


 ムス。何それ。

「それでね、今度籐也君のライブがある話したでしょ?あれ、一緒に行こうって誘われたの。行ってもいい?」

「いつだっけ?」

「今度の水曜」


「ああ、なんだ。じゃ、俺お店休みだし、全然いいよ。行っておいでよ。凪なら俺がちゃんと面倒みるからさ」

「…いいの?」

「いいよ。なんで?」

「ううん。じゃ、行ってくるよ、みんなで」


「みんなって?」

「花ちゃん、小百合ちゃん、蘭、菜摘」

「いいんじゃない?みんなで会うのも久々でしょ?」

「うん」


「凪。その日はパパと仲良くしていようね?」

 何、その仲良くって言うのは。

「ありがとう、聖君」

「え?」

 聖君はきょとんとした顔で私を見た。


「聖君が凪の面倒をよく見てくれるから、私もすごく楽だし、助かる。友達と出かけるのもOKしてくれてありがとうね」

「うん!」

 聖君はニコって微笑むと、また凪を見て凪に話しかけている。

 今のほんの少しだけ嫌味が入っていたんだけどな。わかんないよね。


 とぼとぼ。私はリビングに行き、小百合ちゃんと花ちゃんにメールを送った。花ちゃんからはすぐに返信が来て、

>一緒に行けるの?嬉しい。

と喜んでいるようだ。

>やっぱり、行ってもいいって言ってくれたんだ。その日は思い切り楽しもうね。

 5分後、小百合ちゃんからもそんなメールが届いた。


 そしてライブの日がやってきた。私は出る寸前凪におっぱいをあげた。でないと途中でおっぱいが張ってしまうかもしれない。

 凪はそのまますやすやと、気持ちよさそうに寝てしまった。

「寝ているし、大丈夫だから」

 聖君はなぜか優しくそう言うと、私のほっぺにキスをした。


「楽しんできて、桃子ちゃん」

「う、うん。行ってきます」

 聖君は寝ている凪を抱っこしたまま、玄関で私を見送ってくれた。


 とぼとぼと私は駅に向かって歩き出した。聖君は優しい。そりゃ、凪に夢中になっているけど、本当に凪の世話をよくしてくれているし、もしかしたら申し分のない旦那さんなのかもしれない。

 ただ、私が甘えん坊で寂しがり屋なだけで。


 寂しいって言うのも変かな。毎晩ちゃんと早くに帰ってくるし、うちにいる時にはほとんど、私や凪と一緒に聖君はいる。ただ、私にべったりだった聖君が今は、凪にべったりなだけだ。

 そう、それだけだ。


 なんとなく駅で待ち合わせをしたみんなに、そんな話をしてしまった。

「ええ?兄貴、桃子のことほっぽらかしなの?」

「う~~ん、親ばかもそこまでくると困ったもんだね」

 菜摘と蘭はそう言ってくれた。でも、花ちゃんは、

「いい旦那さんじゃない。いいパパになるよ」

と聖君を褒めた。


「今日はそういうことも忘れて、楽しんじゃおうよ。私も今日はお母さんだって言うことを忘れて、はしゃいじゃうから」

 小百合ちゃんがそう言った。え?みんなして小百合ちゃんを見た。今の小百合ちゃんのセリフ?なんか、赤ちゃん産んでちょっと変わったんじゃない?


「そうだよ。うん。楽しもう。籐也君もみんなが来てくれるの楽しみにしているって言ってたよ」

「楽しみだね~~。メジャーデビューしてから、籐也にもあまり会えてないしさ」

 菜摘、なんで籐也君のこと呼び捨てなのかな。ま、いっか。うん、私も今日は楽しんじゃうぞ!


「そうそう。メグちゃんと咲ちゃんも今日来るって」

 花ちゃんが嬉しそうに言った。

「ほんと?久々に会える!嬉しい」

「二人とも桃ちゃんに会いたがってたよ。凪ちゃんにも。だから、今度遊びに行きたいって」

「うん。ぜひ来て」


「そうだ。あの3人も来るんだよね」

「3人?」

「椿、果歩、苗」

 菜摘がそう教えてくれた。

「本当?」


 私がびっくりすると、菜摘はニコって笑って、

「久しぶりにみんなに会えるね。楽しみだよね」

と私の肩を抱き、そう言った。

「うん!」

 ああ、本当にわくわくしてきた。こんなのどれくらいぶりだろう。


 そうだよ、ライブだって、妊娠してから凪に悪いと思って行っていなかった。友達とみんなで遊びに行くのだって、すごく久しぶりだ。

 そうか、聖君は優しい顔で行ってきていいよって言ってくれたけど、反対するわけがないんだ。こういうのには、絶対に賛成してくれるもん。


 ライブ会場に着いた。驚いたことにファンの子が大勢そこにいて、バンドの子の写真を貼ったうちわを持っている。

「籐也、かっこよかったね」

「私、ちょっと背中触れちゃった」

 どうやら、楽屋に入る時の話をしているようだ。


「すごいね。ちょっとアイドルみたいになってない?」

 蘭が目を丸くしてそう言うと、花ちゃんは赤くなりながらうんとうなづいた。

「メジャーデビューしたとたんに、こうなの」

「ひゃあ。花も大変だね」

 蘭がそう言うと、また花ちゃんはうんとうなづいた。


 ファンの子はそのあともどんどんと増え、チケットを売る子、買う子までが現れている。

「そろそろ会場に入ろう」

 花ちゃんに言われ、私たちは中に入った。

 ライブハウスの中はすでに、熱気むんむんだ。


「どの辺で見る?前のあたり?」

「後ろのほうでいいよ」

 花ちゃんがそう言った。

「え~~。どうせなら前に行こうよ」

 菜摘がそう言ったが、

「前、大変だよ。ものすごく激しいファンもいるし」

と花ちゃんが眉をしかめた。


 どんな?!

「じゃあ、真ん中あたりにする?」

「うん」

 席はカウンター席が数個。あとは壁際にちょっとだけ椅子とテーブルがあるが、スーツを着た男の人と、女の人が座っている。事務所の人か、レコード会社の人じゃないかなと花ちゃんが教えてくれた。


 ファンの子は、まだかまだかとそわそわしながら、待っているのがわかる。そして数分後、会場が暗くなり、みんながいっせに「きゃ~~」という雄たけびを発した。

 うわ。なんだ、これ。聖君のステージを思い出すな。すごい女の子の黄色い声。


 パッとステージに明かりがつく。するともうそこには、バンドのメンバーがいて、ドラムの音と、ギターの音が鳴りだした。

「籐也~~~~!」

「晴樹~~~~!」

「きゃ~~。潤一、かっこい~~!」

「晃~~~~。きゃ~~~!」

 

 すごい。メンバーの名前か。鼓膜が破れそうなくらいの黄色い声援。頭の中がぐわんぐわんしている。

 籐也君が歌いだすと、さらに周りはヒートアップした。跳ねたり、踊ったり、会場全体が揺れている。

「目、回りそう」

 私がそう言うと、小百合ちゃんも、

「後ろに行かない?」

と言ってきた。


「花ちゃん、私ら、後ろにいるね」

「うん。大丈夫?」

「なんとか…」

 花ちゃんの言ったことがうなづけた。真ん中でもそんなだから、前のほうなんてもっと大変なことになっているだろう。


 どうにかものすごい揺れの中から抜け出し、カウンターのほうに行くことができた。椅子がちょうど二個あいていて、私たちはそこに座った。

「すごいね」

「蘭と菜摘はあのノリについていってるよ。さすがだ」

「本当だ」

 小百合ちゃんとそんなことを言いながら、客席を見た。花ちゃんはというと、動くことなくただ、籐也君を見つめているようだった。

 いつもああやって、ライブを見ているんだろうか。


 籐也君は、このキャ~~キャ~~騒いでいる中から、花ちゃんを見つけ出したようだ。時々、花ちゃんのほうを見ている。

 曲が2曲続いて、それから籐也君が話し出した。すると会場が一瞬静まったが、

「今日は来てくれて、どうもありがとう」

と言うと、また歓声があがった。


 籐也君は自己紹介と、メンバー紹介をした。面白いことに、籐也君は会場全体を見渡して、必ず花ちゃんのことを最後に見る。そして何かアイコンタクトをしているようにも見えた。

 メンバー紹介が終わり、次の曲の紹介をしている時に、籐也君はカウンター席のほうを見た。そこで私がいることに気が付いたらしく、

「あ…」

と途中で、話が途切れた。


 でもすぐに視線を他に向け、曲を紹介してすぐに、ドラムの音が始まった。

 ダダダン…。ダダダダ…。そのリズムの音とともに、また会場が揺れ出す。

「は~~~。すごいね」

 小百合ちゃんが目を丸くしている。

「こういうのは初めて?小百合ちゃん」


「うん。ライブってジャズのしか見たことがないの」

 ああ、そっか。親がジャズシンガーなんだもんね。

「それにしてもさ、籐也君ってめちゃかっこいいのね」

 小百合ちゃんがそう言ってから、

「あ、聖君もイケメンだけどね」

と私のほうを向いてそう言った。


「ふ…。今じゃ、単なる親ばかになってるけどね」

「あはは」

 そんなことを2人で笑いながら言っている時、いきなり私たちは声をかけられた。

「二人で来てんの?」

 大学生くらいの男子が2人。恰好はかなり派手。もしかすると高校生かもしれない。


「友達と数人で」

 小百合ちゃんがそう答えた。

「へえ。俺らも、5人で来てるんだ。よかったら帰りにドッカに寄らない?」

 ナンパ!ナンパだ、これ。


「い、いい。ライブ終わったらすぐに帰るし」

「ふうん。そんな感じだよね。こういうところに来る感じしないし。今日は何できたの?」

「知り合いが出ているから」

「え?もしかしてメンバーの誰かと知り合い?」

「籐也君」

 私がそう答えると、その二人はびっくりしていた。


「なんだ。俺らも籐也とダチなんだよ。高校一緒なんだ。じゃあ、帰り、籐也なんかも一緒に飯でも食いに行こうぜ」

「でも、本当にすぐに帰らないと」

「なんで?いいじゃん」

 2人がもっと私たちに近寄ってきた。


 うわ。どうしよう、こういうの小百合ちゃんもなれていないみたいで、2人して困って固まってしまった。

 こんな時、聖君がいたら…。絶対にこの二人をけちらかしてくれるのに、でも、今日はいないんだ。

 困ったよ~~~。

 


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