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第111話 ママ友の愚痴

 翌朝、またやすくんはクロの散歩をしにお店にやってきた。杏樹ちゃんは、お店でそわそわしながら待っていて、やすくんの姿を見つけ、赤くなって固まりながらドアの前に突っ立っていた。


「お、お、おはよう」

 やすくんがドアを開けると、杏樹ちゃんはそう言った。

「あ、おはよう」 

 やすくんも、照れくさそうにしている。ああ!なんて初々しい2人なんだ。


「クロの散歩だよね」

「うん」

 クロは2人の間で、嬉しそうに尻尾を振っている。

「じゃ、行ってきます」

 2人はそう私たちに言って、お店を出て行った。


「なんだか、可愛い2人よね」

 お母さんが、そう言いながら2人の背中を見ている。

「…いいね、青春してるよな」

 聖君もそう言いながら、カウンターに着いた。私はすでに凪を抱っこして、カウンターに座っていた。


「さ、桃子ちゃん、聖、朝ごはん食べちゃって。凪ちゃんは私が抱っこしてるから」

 お母さんが凪をあやしている間に、私と聖君は朝ごはんを食べた。

「もうすぐね、伊豆。そろそろ支度したら?」

「そうだな」

 聖君は美味しそうにハムエッグを食べながら、そう答えた。


 わくわくだなあ。楽しみだなあ。どんな家で、どんなカフェなんだろう。

 それに、春香さんには初めて会う。空君もだ。


 私も聖君も、伊豆に行くのが楽しみでワクワクしていた。

 だけど、そんな楽しんでいるばかりではいられないことがその日に起きた。なんと、日菜ちゃんママと麻里ちゃんママが、れいんどろっぷすに遊びに来たのだ。それも、突然に。


「こんにちは」

 11時を過ぎ、2人は赤ちゃんを連れ、いきなりやってきた。

「あら、いらっしゃいませ。もしかして、桃子ちゃんのお友達?」

「はい。公園で会ってそれから」

 日菜ちゃんママがそう言った。


「聖~~!」

 リビングで、凪と遊んでいる聖君をお母さんは呼んだ。私はお母さんの手伝いで、スコーンを焼いているところだった。

 今日はお店には紗枝さんが出ている。紗枝さんも、

「いらっしゃいませ」

と言ったものの、どうしたらいいのか迷っている。


「なに?」

 聖君が、凪を抱っこしてやってきた。

「あ、こんにちは」

「え?」


「すみません。赤ちゃん連れだと大変かと思ったんだけど、でも来ちゃいました」

 日菜ちゃんママがそう言った。

「あ、えっと。じゃあ、リビングにどうぞ」

 聖君が一瞬、躊躇したけどそう言うと、

「え?家に上がっていいんですか?」

と、麻里ちゃんママがものすごく驚いた。


「うん。プレイマットもあるし、こっちのほうがいいでしょ?凪とも遊んでもらえるし」

 そう言うと、2人を家に上げた。

「じゃ、お昼もそっちに持って行きましょうか。ランチのセットでいい?」

 お母さんがそう聞くと、

「すみません!」

と2人は同時にそう言った。


「桃子ちゃん、スコーン俺が焼くから、桃子ちゃんはリビングで相手してあげたら?」

「うん」

 私は聖君から凪を受け取り、リビングに上がった。

 残念なことに、お父さんは今日打ち合わせで出かけている。もしいたら、きっと凪や日菜ちゃん、麻里ちゃんのお世話を一手に引き受けてくれたんだろうけど。


「あ、犬がいるの?大丈夫?」

「クロはいつも凪のお守りをしてくれるの。きっと、日菜ちゃんと麻里ちゃんのお守りもしてくれるはず」

と私が言い終わる前に、麻里ちゃんはクロを見て、泣き出してしまった。


「やっぱり。うちの子、犬苦手なの」

「そ、そうなんだ。じゃあ、お店に連れて行くね」

 私は凪をプレイマットに寝かせ、クロをお店に連れて行った。


「ごめんね?クロ」

「く~~ん」

 クロはないたけど、理解してくれたようだ。そのまま、クロ専用のマットに丸まりに行った。

「あれ?クロ、追い出されちゃった?」


 聖君はエプロンをつけ、トレイに水を入れたグラスを3個乗せてクロを見てそう言うと、リビングのほうに上がっていった。

「とりあえず、お水で…。ランチが済んだら、飲み物持って来るけど、何がいいですか?」

 聖君はテーブルにグラスを置きながら、2人に聞いた。


「え、じゃあ、アイスコーヒー」

「私はアイスミルクティ」

「了解。桃子ちゃんは?」

「ソーダ水」

「オッケー」


 聖君はにこりと最上級の顔で笑うと、お店に戻って行った。

「うわ。い、今の笑顔最高」

 麻里ちゃんママがそう言って、真っ赤になった。日菜ちゃんママも、

「素敵よね」

とうっとりとしていた。


 麻里ちゃんは今日もまた、ママの膝の上だ。日菜ちゃんと凪は、プレイマットですでに遊んでいる。

「あ~~~」

「う~~」

 何やら2人で会話をしているようにも見えるから、面白い。


「いいな」

 麻里ちゃんママがそういきなり言った。なんだろう。凪と日菜ちゃんが仲良くしているからかな。

「あんな素敵な旦那さん。あの素敵な旦那さんが、いつもそばにいてくれるんでしょう?」

「え?」

 聖君のことだったか。


「羨ましい」

「でも、麻里ちゃんママも、結婚してまだそんなにたってないよね?旦那さんとラブラブなんじゃないの?」

 日菜ちゃんママが聞いた。

「え?私のところは、全然」


「…そ、そうなんですか?」

「うん。旦那、仕事仕事でいない時多いし。家にいてもテレビ観てたり、寝ていたり」

 そうなんだ。旦那さん、忙しくて大変なのかなあ。


「日菜ちゃんママは?旦那さんとラブラブなの?」

 麻里ちゃんママがそう聞いた。

「うち?そうねえ。旦那、年上で優しいからなあ」

「羨ましいなあ」

 麻里ちゃんママ、相当ストレスでもあるのかな。悩み事かな?


「麻里ちゃんママ、旦那さんとうまくいってないの?」

 日菜ちゃんママがストレートに聞いた。

「なんだかね、私のことどうでもいいみたいなんだよね」

「え?!」

 私はびっくりしてしまった。


 でも待てよ。凪が産まれてしばらくは、聖君もあんまり私にかまってくれなくなっていたっけ。

「私が浮気でもしたら、少しは気にかけてくれるかな」

「浮気?」

 今度は私と日菜ちゃんママ、2人でびっくりしてしまった。


「たとえば、凪ちゃんパパとか?」

「え?!」

 なな、何?ひ、聖君と?

「やだ~。何言ってるの、麻里ちゃんママは。ここに奥さんがいるっていうのに」

 本当だよ。私、今きっと真っ青だよ。


「でもさあ、あんなにかっこよかったら、浮気もしたことあるんじゃないの?」

「ないです」

 私は思わず、首を横に振った。

「でも、モテモテでしょ?」

「はい」

 今度は縦に振った。


「だったら…」

と、麻里ちゃんママが言いかけた時、聖君がランチのセットを持ってやってきた。

「お待たせしました」

 あ、すっかりウエイターモードだ。顔つきも、お店の聖君と同じ。


 聖君はトレイからお皿をテーブルに乗せ、

「桃子ちゃんのは待っててね」

と言って、またお店に戻って行った。


「やっぱり、素敵だよ」

「笑顔が最高だよね。ドキってしちゃった」

 麻里ちゃんママと、日菜ちゃんママは目をハートにしている。

「公園で会うのと、またちょっと雰囲気が変わるのね」


「営業用スマイルになるから」

 私がそう言うと、

「じゃ、いつもは違うの?笑わないの?」

と麻里ちゃんママが聞いてきた。


「いえ。よく笑います。笑い上戸だし。凪の前ではにやけているし」

「へ~~。でも、公園でも素敵だったよ」

「うん」

 2人は、また聖君が来てくれないかと期待しながら、リビングの入り口をじっと見ている。すると、

「桃子ちゃん、お待たせ」

と可愛い笑顔で聖君がやってきた。


「本当だ。さっきと笑顔が違ってる」

 日菜ちゃんママがそう言うと、聖君がびっくりした。

「え?な、何が?」

「凪ちゃんパパの話をしていたの。モテるんでしょ?って」

「…」

 あ、聖君、困ってる。


「浮気とかしないよね」

 いきなり、麻里ちゃんママがそんなことを聞いた。

「俺?しないですよ。え?なんで?」

 聖君はもっとびっくりして目を丸くした。


「ちょっと、聞いてみただけです。そんなにかっこよかったら、浮気とかしちゃったり、女遊びするかもなって」

「俺が?まさか」

 聖君は今度、目を点にした。それから私を見て、眉をひそめ、

「なんの話してたの?いったい」

と、私に聞いてきた。


「あ、なんでもないの。ただ、かっこいい旦那さんで羨ましいねって言ってただけ。ね?」

 日菜ちゃんママが、麻里ちゃんママにそう言った。麻里ちゃんママも、うなづいた。

「……。じゃあ、ごゆっくり」

 聖君は眉をひそめたままそう言って、お店に戻って行った。


「あ、行っちゃった。ここで一緒に話したかったな」

 麻里ちゃんママは残念がっている。

 なんだか、麻里ちゃんママは聖君目当てだったんじゃないかってそう思えてきた。聖君を見る目、あきらかに違っていたし。


「浮気は駄目だよ、浮気は。麻里ちゃんのためにも、旦那と仲良くしなよ」

 そんな麻里ちゃんママに、日菜ちゃんママがそう言うと、麻里ちゃんママは黙り込んだ。

 私はと言うと、ちょっと気が気じゃなかった。もちろん、聖君は浮気なんてしない。きっと、麻里ちゃんママのことも、苦手だと思うし。


 でも、やっぱり、こんなに明らかに聖君を狙う人が現れたら、私の心の中は穏やかではいられない。

「私、結婚早まったかな」

 麻里ちゃんママは、ぼそっとそう言った。

 麻里ちゃんは、ずっとママの膝の上で、不安げな顔をしていた。もしかしてもしかすると、ママがこんなだから、麻里ちゃんは不安になっているんだろうか。


 日菜ちゃんママは何も言わず、

「美味しそう。冷めないうちにいただきます」

と言って食べだした。


 私は凪を見た。凪は日菜ちゃんの横で、ガラガラで遊んだり、おしゃぶりをしてご機嫌だ。日菜ちゃんも、凪のおもちゃで遊んでいる。

「今のうちなら、食べれるよ」

 日菜ちゃんママにそう言われ、私も食べだした。でも、麻里ちゃんママは、麻里ちゃんを抱っこしているから、食べづらそうだ。


「あとで、麻里ちゃん抱っこしていようか?」

 日菜ちゃんママがそう聞くと、

「あ、この子、他の人だと絶対ダメなの。大丈夫。なんとか食べれるから」

と言って、抱っこしたまま食べている。


 大変なんだなあ。人見知りってやつかしら。凪も、人見知りをする時来るのかなあ。

 そんなことを思いつつ、私は凪を横目にクリームコロッケを食べていた。

「美味しいね」

 日菜ちゃんママは嬉しそうに笑った。


「はい。れいんどろっぷすのコロッケ、美味しいんです。ソースも自家製で」

 私は嬉しくなってそう言うと、麻里ちゃんママは、

「いいな。私、最近何食べても美味しく感じられないの。だって、いっつも麻里、べったりだから、ゆっくりも食べていられなくって」

と、暗い顔をした。


 う~~~~ん。私も暗い性格だと思っていたけど、麻里ちゃんママはさらにうえをいってるなあ。

 いや…。榎本家は本当にみんな優しくて、凪の面倒もみんなが見てくれるから、私は楽でいるけど、他のお母さんたちはこんなふうに悩みがたくさんあるんだろうか。


 つくづく、私は恵まれているよなあと思いつつ、麻里ちゃんママがちょっと、心配になってきた。

 聖君に色目使わないかの心配もあるけど、他にもいろいろと。

 ずっとママにべったりの麻里ちゃんも。


 育児っていうのは、本当は大変なんだなあ。

 そんなことをこれからも、私は日菜ちゃんママ、麻里ちゃんママと一緒にいることで、思い切り感じるようになっていった。



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