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第107話 ママ友

 それからも、凪は寝返りをうってリビングのいたるところに行ってしまい、狭いテーブルの下にも潜り込んでみたり、洗面所や、階段の真下までやってきていることもあった。

 そのたびに、私も聖君もお父さんも、

「うわ、凪!そんなところに行っちゃ駄目」

とか、

「うわ!凪ちゃんがいた。ふんづけるところだった!」

とか、大騒ぎをしている。


 クロが、凪が移動できないよう阻止してくれようとしたり、ワンワンと吠えて教えてくれているが、クロの手にも負えなくなる日は、間近なような気がする。


 そんなこんなで、さすがに聖君もお父さんも、凪の寝返りを喜んだり、写真やビデオを撮ったりしている場合じゃなくなったようで、

「凪、もうちょっと大人しくしてて」

と聖君も言うようになってきた。


「ハイハイや、たっちができるようになったら、もっと大変なことになるんだな」

 お父さんが凪を抱っこして膝の上に乗せ、そう言った。

「これ、誰に似たの?やっぱり、俺?」

 凪とお父さんを見ながら、聖君が聞いた。


「…そうだなあ。そういえば、聖もじっとしていなかったよなあ」

 お父さんは目を細め、昔を思い返しているようだ。

「やっぱね。桃子ちゃんはおとなしそうなイメージあるもんね」

「じゃ、大きくなっても聖みたいになっちゃうのかな」


「俺?…って、どんな女の子になるんだ?想像つかないけど」

「俺も想像つかない。ああ、杏樹みたいな感じかな。活発で物怖じしなくって…」

 お父さんがそう言った。そういえば、聖君と杏樹ちゃん、性格似てるよね。元気で明るくって。あ、聖君、女性の前じゃクールになるけど、本当は明るいもんね。


 そうか。凪もそんな子になるのかあ。私とは正反対の性格だなあ…。


 お父さんは凪をプレイマットに置き、メリーゴーランドのおもちゃのスイッチを入れた。そして、

「さ、仕事するかな」

と2階に上がって行った。


 凪はこのおもちゃが好きなようで、音楽がかかりおもちゃがくるくると回りだすと、じっとそれを見ていることが多い。私はそんな凪を、ボケ~~っとしながら見ていた。


「もうすぐだね、桃子ちゃん」

 いきなり聖君に話しかけられ、びっくりして聖君を見た。

「え?」

「伊豆だよ。楽しみだね!そろそろ用意しないとね」

「あ!そうだよね!」


 そうだった!やっとこ私は伊豆に行けるんだ。去年も行く予定が、妊娠してつわりもひどくて、行けなかったんだよね。

 ああ、楽しみだなあ。


 ひまわりは、かんちゃんが行かないと言うので、バイトもあるし、伊豆に行くのを断念した。かんちゃんと旅行ができるかもって、最初ははしゃいでいたが、かんちゃんに聞いたら、

「行けない」

と即答だったらしい。


 伊豆の海に、聖君と潜れたり泳いだりできるかも…と、ちょっと心は動いたようだが、でも、他にもたくさんの知らない人がいるとわかると、すぐに答えはでたようだ。かんちゃんって、人見知りするもんなあ。


 それに比べてやすくんは、伊豆に行くのを楽しみにしているのがまるわかりだ。

「伊豆の海、綺麗だろうなあ」

とか、

「砂浜は、真っ白なのかなあ」

とか、しょっちゅう口に出して言っている。


 でも、杏樹ちゃんと行けるのが、何よりも楽しみなのもまるわかりだ。

「杏樹、桃子ちゃんも、浴衣持って行きましょうね。あっちで、花火大会あるみたいだし」

と、お母さんが今朝、やすくんがまたお店にクロの散歩をしにやって来た時にそう言うと、やすくんは目を輝かせ、

「あ、杏樹ちゃんも浴衣着るんだ」

とそう言っていたし。


「うん。浴衣着るけど…。やすくんも着る?」

「俺?!俺は持ってないよ」

 やすくんの声は裏返った。でもすぐに、

「そっか。浴衣着るんだ」

と独り言のように言うと、顔を染めていた。


 なんだか、見ていてこっちが照れるくらいの反応。だけど、杏樹ちゃんには、それが伝わっていない。

「…私、色黒いし、浴衣着てもあんまり似合わないんだよね」

 杏樹ちゃんは、ちょっと暗い顔でそう言った。

「え?そ、そうかな。に、似合うんじゃないかな」

 やすくんがそう言うと、杏樹ちゃんは複雑な顔をして、

「う…。でも、本当に似合わないかも」

とそう言った。


「え?そ、そうかなあ」

 やすくんも、困っていた。

 ああ、この二人は…。伊豆で本当に進展できるんだろうかと、他人事ながら心配になってきた。



「もどかしい」

 思わず今朝のことを思いだし、リビングで聖君と一緒に、お昼ご飯を食べている時にそう言うと、

「え?え?」

と聖君がびっくりして私を見た。


「俺、なんかした?」

「え?あ、違う、違う。聖君のことじゃないよ」

「じゃ、凪?」

「ううん。杏樹ちゃんと、やすくん」


「ああ、あの二人ね。確かに見ててもどかしいけど、でもなんだか、面白いじゃん」

 あ、聖君は2人を見て、面白がっていたのか。

「やすって、すげえ鈍感だし。あ、杏樹も」

「だよね…」


「だけど、桃子ちゃん、人のこと言えるの?」

「え?」

「桃子ちゃんも、すんげえ、鈍感って言うか、俺、なかなか桃子ちゃんが俺の彼女だって自覚してくれなくって、もどかしかったんだけど」

「う…」


 そうだった!私、ずうっと、自覚できないでいたんだった。


「凪、気持ちよさそうに寝てるね」

 聖君が凪の寝顔を見て、ぽつりとそう言った。凪はメリーゴーランドの曲を聞いているうちに、一人でプレイマットの上でうとうとと寝てしまったのだ。


「こんなふうに、いつの間にかお昼寝してくれるようになると、楽だよねえ」

 そう私が凪を見ながら言うと、

「俺は、凪の横で絵本とか読んであげて、寝かしつけたりしたいなあ」

と聖君は、目を細めて凪を見ながらそう言った。


「…絵本を、聖君が、読むの?!」

「うん」

「わ、わわわ!私も!!」

「桃子ちゃんも、そんなに絵本読みたいの?」


「違う。私も、凪と一緒に聞いてもいい?!」

「俺が絵本を読んでいるのを?」

「うん!!!」

「いいけど。…そんなに目を輝かせるほど、楽しみなわけ?」

「うん!!!!!」


 聖君が絵本を読んじゃうなんて!聞きたい、聞きたい、聞きたい!

「ブ…。桃子ちゃんが子供みたいだ」

 聖君はそう言うと、しばらくご飯も食べずに笑っていた。


 わ~~い。嬉しい。パパをしている聖君を見れるのも、すごく嬉しいなって最近感じるんだよね。聖君のすぐ隣で、いろんな聖君を見れるの。これって、最高の贅沢!


 うっとりと、お茶碗を持ったまま意識が飛んでいると、

「桃子ちゃん、戻ってきて。まだ、昼飯の最中だよ」

と聖君に言われてしまった。


「クス。俺が絵本を読んでいるところを想像したの?」

「うん」

「あはは。面白いよねえ。っていうか、桃子ちゃん、俺に惚れすぎ!!」

 聖君は可愛い声でそう言うと、でへっと笑った。


 だって~、だって~。このかっこいい聖君が、そのうち凪と、おままごととかもしちゃうのかもって思ったら、もう、わくわくで。

 それから、凪を肩車して公園に行ったり、凪とボールで遊んだり、滑り台滑ったり、ブランコ乗ったり。


 あ、ブランコはこの前の公園でも、凪を膝の上に乗せて、ゆらゆらこいでいたっけね。不思議と絵になっていたよなあ。

 結局、聖君はきっと何をやってもさまになるんだろうなあ。


 聖君とは時々、朝、凪とクロを連れ、近くの公園に行った。でも、だんだんと近所の子供を連れたママさんたちの数が増えて行き、聖君を取り囲むようになってきたので、聖君は公園に行かず、お店の手伝いをすることにしたようだ。


「なんだか、公園行っても、俺が話しかけられるばかりで、凪と遊べないんだもん。桃子ちゃんと凪だけで行ってくれる?お母さんたちの相手してるのも、そろそろ限界かも、俺」

 聖君は、公園で凪と遊べないのは、本当に寂しいようだったけど、それよりもたくさん集まってきたお母さんたちに、さすがにストレスを感じてしまったらしい。

 まだまだ、女性が聖君は苦手なのかもなあ。


「わかった。凪、ママと今日は二人で公園に行こうね。あ、クロ、ごめんね?ベビーカーで行くし、クロは連れていけないかな」

 お店のドアまで尻尾を振ってついてきていたクロは、がっくりとしながら家の方に戻っていった。


 公園には、また子供を連れたママさんたちがいっぱい来ていた。なんだか、みんなおしゃれだし、お化粧もばっちりしているような気がするのは、気のせいじゃないよね。


「今日は、旦那さん来ないの?」

 私と凪が、しばらくベンチに座ってぼけっとしていると、その中の一人が聞いてきた。

「え?あ、はい。お店の手伝いが忙しくなってきて」

「お店混んでるの?」

「はい。夏休みだから、けっこう…」


 ああ、言い訳するのも大変だ。みんな聖君目当てだったようで、がっかりしているのが見てわかる。

「明日は、うちに集まらない?」

「そうね。もう外は早い時間でも暑いしね」

 なんて、会話をみんなが繰り広げている。


 そして、10分もしないうちに、子供たちをベビーカーに乗せ、

「ねえ、私、車出すから、買い物行かない?」

などと言いながら、わらわらとママさんたちは公園を出て行った。


 公園に残ったのは、わずか私を含め3人のママだけ。

「凪ちゃんのパパがいないとわかると、みんなあっさりと帰って行くよねえ」

 日菜ちゃんママがそう言った。

「そ、そうですね」


「私も、聖君に会えないのはちょっと残念だけど。でも、桃子ちゃんとお話しできるのが嬉しいから、桃子ちゃんと凪ちゃんだけでも、公園に来てね?」

「はい」

 そう言ってもらえると嬉しいなあ。


「あ、よかったら、これからうちに来ない?」

「え?」

「まだ時間大丈夫?」

「はい」


「じゃあ、遊びに来てよ。実は昨日旦那がスイーツを買ってきてくれたんだけど、一人で食べきれなかったの。一緒に食べて。あ、ロールケーキなんだけど、甘いの好き?」

「はい、好きです」

「じゃ、麻里ちゃんママも、一緒にどう?」


 日菜ちゃんママは、もう一人公園に残ってブランコに乗っているママさんにそう聞いた。

「え?いいの?」

「いいよ~~。あ、紹介するね。麻里ちゃんって、今、7か月でやっぱり最近旦那さんの転勤で、こっちに越してきたんだって」

 日菜ちゃんママが、そう言って紹介してくれた。それから、私たち3人は子供をベビーカーに乗せ、日菜ちゃんママのおうちに向かって歩き出した。


「初めまして」

 私がそう麻里ちゃんママに言うと、

「私、昨日も一昨日も来ていたの。凪ちゃんのパパって、かっこいいね。すごいモテるんだね。近寄れなくて遠目で見ていたんだ」

と麻里ちゃんママが答えた。


「え?ごめんなさい。昨日もじゃあ、会っていたんですよね」

 慌てて謝ると、麻里ちゃんママは、

「いいの。本当に私と麻里、昨日は公園の隅っこのベンチに座っていたし。凪ちゃんパパって、今いくつなの?若いよね?」

と聞いてきた。


「…19です」

「え?!10代なの?!」

 麻里ちゃんママは、思い切り驚いている。

「うちの旦那も若いと思ったけど、もっと若い旦那さんがいたんだ。凪ちゃんママも19歳?」

「私は18」


「わ!若いね!」

 麻里ちゃんママはまた、驚いている。

「麻里ちゃんママは今いくつ?」

 日菜ちゃんのママが聞いた。


「私は23歳。大学卒業してすぐに結婚したの。あ、できちゃった婚なんだけどね。旦那は24歳。同じ大学の先輩。私たち、千葉に住んでいて、旦那は千葉支店に就職したんだけど、今年の春に藤沢支店に転勤になって、千葉から藤沢は遠いから、思い切って引っ越してきちゃったの」

「そうだったんですか」


「あ!ここが私の家!」

 日菜ちゃんママの家は、公園から5分歩いたところにあった。れいんどろっぷすからも、結構近い。

「どうぞ、入って」

 日菜ちゃんママが、玄関の鍵を開けた。縦長の家で、3階建てだ。玄関のすぐ横がガレージで、可愛いミニバンの車がそこにはあった。


「お邪魔します」

 私と麻里ちゃんママは、子供たちをベビーカーから下ろして抱っこすると、玄関の中に入った。

 なんだろう、アロマのいい香りがする。


「どうぞ~~」

 スリッパを出してくれて、それを履いて中に入った。凪はもの珍しそうにキョロキョロとしている。でも麻里ちゃんは、なんだかママに貼りついちゃっている。7か月ってもしかして、もう人見知りしたりする頃なんだろうか。


 みんなでリビングに行き、リビングのテーブルの周りに座った。リビングには榎本家のように大きなプレイマットが広がっていて、その上に子供たちは置いてみた。

 でも、麻里ちゃんだけは、ママから離れようとしないので、麻里ちゃんママは、麻里ちゃんを抱っこしてプレイマットに座った。


 リビングはお日様が当たる南向きの部屋で、ダイニングがつながっていて、テーブルと椅子が二つ、そして赤ちゃん用の椅子が置いてあった。


 ついつい、人の家に上がり込むことはあまりないので、見回してしまった。明るいカーテンの色、家具も明るいカントリーの家具。ただ、テーブルやチェストの上にはほとんど物が置いていなかった。ティッシュの箱ですら、高い戸棚の上に置いてある。


「もしかして、日菜ちゃんがいろんなものを触っちゃうんですか?」

 日菜ちゃんは、しっかりとプレイマットの上でお座りをしたまま、おもちゃで遊んでいる。

「そうなのよ。つかまり立ちができるようになってから、大変なの。伝い歩きも、最近できるようになっちゃって、目に見えるものは全部手にしないと気が済まないみたいで…。だから、テーブルにも何にも置けないの」


「大変なんだね」

 麻里ちゃんママがそう言った。

「本当よ。麻里ちゃんはハイハイはまだ?ハイハイができるようになると、本当に大変よ。この子、テーブルの上もよじのぼることもあるし」


「麻里はまだ、ハイハイはできないんだ。ずりバイならほんのちょっとだけ。それに、あんまり動かない子だから」

「動かない?」

 私が不思議そうに聞くと、

「そうなの。公園に行っても、砂場でじっとしているだけだし、家でも一か所で遊んでいるだけ。ただ、必ず夕方になると泣くから、抱っこしていないとならなくって、大変なんだよね」

とそう、ため息交じりに言った。


「ちょうど、夕飯を作る時間じゃない?」

「うん。だから、夕飯の準備も、昼間のうちにちょっとしたりしてるの」

 うわ。えらいなあ。

「凪ちゃんは?」


 2人に同時に聞かれた。

「凪は、寝返りができるうようになったら、リビングの隅から隅までごろごろ動き回って大変で」

「へえ。じゃあ、ハイハイができるようになったら、もっと大変だね」

 日菜ちゃんママに言われた。


「そうですよね。階段やお店のほうにつながる廊下には、もうガードも置いたんですけど」

「…あのお店に住んでいるんでしょ?」

「はい」

 麻里ちゃんママが聞いてきたから、うなづいた。


「っていうことは、同居だよね?」

「はい。だから、いろいろと凪の世話もしてくれているし、私、かなり楽しているかも」

「え?同居って、気を遣ったりして大変じゃないの?家事とか全部、まかされているの?」

「いいえ。聖君やお父さんも、家事をすることもあるし…。凪の世話は、本当に家族みんなでしてくれるから、私、本当に楽で…」


「へえ。私も実は、千葉では同居してたの。それも嫌で、藤沢に転勤になってほっとしてるんだ。だから、こっちに来てからは気が楽で。ただ、麻里の世話から、家事まで全部をしないとならないのが苦痛で」

「苦痛?」

「うちの旦那、実家だったし、家事な~~んにもしなかったでしょ?それが今でもそうだから、本当に嫌になっちゃう」


「そんなの、あれやって、これやってって、頼んじゃえばいいじゃない」

 日菜ちゃんママがそう言うと、

「言うけど、休みの日まで予定入れて、どこかに行くようになっちゃったんだよ。あんまりうるさく言い過ぎたみたい」

と、麻里ちゃんママはそう言って、溜息をついた。


「うちの旦那は、けっこうマメだよ。一人暮らしもしていたから」

 日菜ちゃんママはそう言ってから私を見た。

「聖君は?」

「まだ若いし、何もしてくれないんじゃないの?友達と遊びに行ったりしちゃわない?」

 日菜ちゃんママと、麻里ちゃんママがほとんど同時に聞いてきた。


「いいえ。凪の世話が大好きだし、店の手伝いも家のことも、けっこうしてくれて…。まだ結婚する前から、いろいろと家の手伝いはしてたみたいです」

「へ~~~。そうは見えないのにね~~」

 そうは見えないって、どういうふうに見えていたんだろう。


「すごく人気があるよね。私、大通り沿いのマンションに住んでいるんだけど、隣に住んでいる人がよく、れいんどろっぷすに行くって言ってたよ。かっこいい店員さんがいて、友達とよく行くって」

 麻里ちゃんママがそう言った。


「うんうん。噂の的だよね。れいんどろっぷすの聖君って言ったら、この界隈じゃ、知らない人はいないんじゃないの?」

 日菜ちゃんママまでがそんなことを言う。

「そ、それは大げさだと思います」

 私がそう言うと、2人して、

「ううん。本当によく、耳に入ってくるんだよ、聖君の噂話」

と言われてしまった。


「ど、どんな噂ですか?」

「とにかくかっこいい。イケメン。クールで手に届かない存在。でも、結婚もしていて、子供もいて、奥さんのことは大事にしているみたいって」

 うわ。なんだ、その噂。


「でも、本人見たらびっくりだった。まじで、かっこいいんだもん」

 日菜ちゃんママがそう言うと、麻里ちゃんママまでが、

「俳優か、モデルみたいだよね。私も、チラッと見ただけで、ドキドキしちゃった」

 なんて言っている。


「桃子ちゃん、ぜひ、どうやって出合って、どうやってあんなかっこいい人をものにしたのか、教えて」

 2人は、目を輝かせてそう聞いてきた。

 ちょっと怖いかも。


 ああ、これはいったい、何時になったら私は家に帰れるかな。お店の手伝いがあるって言って、そろそろ抜け出そうか。

 なんて、尻込みしていたら、麻里ちゃんがどんどんぐずりだし、

「ごめん。なんだか眠いみたい。家に帰ってお昼寝させるね」

とそう言って、麻里ちゃんママが帰ることになり、私も「うちの凪もお昼寝の時間だ」と、一緒に帰ることにした。


 ああ、助かった。

 

「じゃあ、今度また、詳しく教えてね」

 日菜ちゃんママにそう言われ、私は顔を引きつらせながら笑顔を作り、日菜ちゃんママの家をあとにした。

「いいな~」

 帰り道、麻里ちゃんママに何度も羨ましがられた。


「あんなにかっこいい素敵な旦那さん。ねえ、優しいの?」

「え?はい」

「うわ~。性格が最悪っていうなら、ここまで羨ましくないんだけど、性格までいいのか。それに、子供の面倒も見てくれるんでしょ?」


「はい。もうすでに、親ばかで…」

「うわ。羨ましいな~~~~」

 麻里ちゃんママはそう言うと、溜息をついた。


「あ、それじゃ、ここで」

 麻里ちゃんと、さっきの公園の前で別れ、私はお店に行く道を歩き出した。麻里ちゃんママは、公園からまっすぐ大通りに向かって歩いていった。


「あ!今度、子供連れでお店に行っても平気かな?」

 しばらく行ったところで、いきなり麻里ちゃんママは大声で聞いてきた。

「はい。あ、お母さんに聞いてみます」

 私もできるだけ大きな声でそう答えた。


「よろしくね」

 麻里ちゃんママはそう言って手を振り、ベビーカーを押して坂道を上って行った。

 麻里ちゃんはその間もずっと、ベビーカーでぐずっていた。


 私は凪の顔を見た。凪はおしゃぶりをしながら、のほほんとベビーカーで寝ていた。

「あ、いつの間に寝たんだ…?」

 ほんと、凪は手のかからないいい子だよなあ。なんて思いつつ、聖君にやたらと興味を持った麻里ちゃんママが気になりながら、私はれいんどろっぷすに帰って行った。


 


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