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第100話 突然の…。

 聖君はすぐに、大学が夏休みに入った。その前には招待状が出来上がっていて、聖君は大学の友達に、直接渡しに行っていた。

 披露宴には、麦さんと菊ちゃんさん、それから大木戸さんを呼ぶ。


 2次会への招待状もあり、それはサークル全員に渡したらしい。もちろん、東海林さんにもだ。

 みんなは、2次会で何をするか、すぐに集まり考えだしたらしく、聖君は早速その日から、部室に来るなとしめ出されたらしい。

 いったい、どんなサプライズを用意する気だろうか。その話を聞いて私は、ほんのちょっと戸惑っている。


 披露宴には、桐太、菜摘、蘭。そして菜摘のご両親、葉君、基樹君、花ちゃん、小百合さんにも招待状を送った。あと、私からしてみたら、本当に恩師になった3年の時の担任の先生にも送った。できたら、スピーチもお願いしたい。


 出し物は、蘭と菜摘、花ちゃんの3人で何かしてくれるらしい。それと、ひまわりと杏樹ちゃんも、考えてくれているようだ。

 

 れいんどろっぷすでバイトをしてくれている、紗枝さん、やすくん、そして絵梨さんも披露宴から出席してもらうようにお願いした。絵梨さんも呼ぶの?と思わず聞いてしまったが、一人だけのけものにはできないと聖君に言われてしまった。


 やっぱり、れいんどろっぷすで働く人はみんな、聖君にとって家族同様の存在なんだね。

 それから、桜さん、朱実さんも呼ぶ。


 それから私の親戚。一応幹男君と、幹男君のご両親も呼ぶことにした。母は、顔をしかめていたけれど、さすがに呼ばないわけにはいかない。

 もちろんのこと、祖母と祖父は来てくれる。招待状を送るからよろしくねと電話をしたら、すっごく喜んでいた。


 聖君の親戚も、たくさんの人が集まるようだった。

「みんなお祭り好きなんだ。ちょっと覚悟しててね」

と聖君から言われた。そうなんだ。でも、楽しみだなあ。


 2次会には、ウィステリアのメンバーも来てくれる。そしてちゃんと、歌を披露してくれるらしい。その1曲は聖君が歌うと約束してくれた。

 わあ!めちゃくちゃ嬉しい、ただ、籐也君は複雑らしい。きっと、俺よりも聖さんのほうがみんなを魅了しちゃうよ…と、ぼやいていたそうだ。


 それを聞いて、私もかなり心配になった。また、聖君に惚れちゃう人が続出してくれては困る。

 でも、やっぱり、私が歌を歌っている聖君を見たいのだ。


 話がどんどん進んでいる間に、あっという間に聖君が合宿に行く日がやってきた。

「桃子ちゃん、寂しかったらいつでも電話してもいいし、メールくれてもいいからね?もう、俺は奥さんがいて、それもラブラブなんだってみんなにばれてるから、俺もどんどん電話するし、メールもするよ」

 聖君はそう言って、前の日の夜、思い切り抱きしめてきた。


「…うん」

 私は聖君に抱きしめられながら、うなづいた。

「俺以外の誰かと、仲良くなったら駄目だよ?」

「そんな人いないから安心して」


「お客とか」

「いない、いない」

「やすとか」

「やすくんは、杏樹ちゃんのことが好きなんだから、心配ないって」


「じゃ、えっと…。えっと?」

「ね?いないでしょう?聖君こそ、浮気しないでね」

「誰と?する人もいないし。っていうか、俺が浮気なんかするわけないじゃん」

 そう言って、聖君はするすると私のパジャマを脱がし始めた。


「明日早いんでしょ?もう寝ないと駄目なんじゃないの?」

「大丈夫。いざとなったら、行きの車で寝るから」

「運転しないの?」

「運転しないの。車、乗っていったら父さんが困るらしいから、俺、部長の車に乗せてもらうんだ」


「……」

 聖君はあっついキスをしてきた。ああ、それ、反則だよ。抵抗できなくなるんだから。

 そして…、そして、聖君は思い切り私を愛してくれた。

「他の奴のことなんか、考えられないようにするから。俺でいっぱいにさせちゃうから…」

と言いながら。


 もう…。聖君以外にだれがいるっていうの?それにもう、聖君以外の人のこと、考えられないよ。

 そんなことを思いつつ、その言葉に胸が熱くなった。


 聖君は時々、ドキってするようなことを平気で言う。さらっと言って、照れるのかと思ったら、照れるどころか、くすっと笑ったりする。

 あ、そうか。冗談で言ったのか。とあとで、気づくんだけど、どうやら私が真っ赤になったり、目をハートにしたりする反応を見て、喜んでいるようだ。


 悪趣味~~、って思うことがたまにあるけど、でも、やっぱり、ドキって胸を高鳴らせちゃうんだから、私も私だよね。

 そんなことを言う聖君も、好きなんだから。


 だけど、そんなセリフ、絶対に他の人には言わないで。冗談でも駄目。みんな本気にして、聖君に落ちちゃうから。


 そう聖君に言ってみた。そうしたら、

「言わないよ。こんなこと桃子ちゃんにしか…。あ、っていうことは、俺にそのたびに落ちちゃってるってこと?」

と聞いてきた。


「そうだよ。そのたびにハート射抜かれてるよ」

「あはは。そうなんだ。まいったな。じゃあ、桃子ちゃん、もうなん百回も俺にハート射抜かれてるね」

「そうだよ。それなのに、他の人のことなんて考えられるわけないじゃん」

「…だね?」


 聖君はそう言うと、私の鼻の頭にキスをして、それから優しく、

「おやすみ」

と言って私にタオルケットをかけてくれた。


「おやすみなさい」

 私は裸のまま、聖君の胸に抱きついて、そして二人ですぐに眠りについた。


 久々に夢を見た。

 聖君は、海にいた。聖君の周りには、数人の綺麗な女の人がいた。

 ああ!いたよ。浜辺に綺麗な人たちが。どうしよう。


 私は遠くからそれを見ていて、やきもきしていた。

 すると、一人の女性が聖君ににじりより、

「他の人のことなんか、考えられないようにして」

と言い出した。


 げ~~~!何を言ってるの?いったい、何を!!!

 私は走ろうとした。でも、足が重くて走れない。下を向くと砂浜で、足がどんどん砂の中にうずもれて行く。

「聖君!」

 声を出そうとしても、その声はとっても小さくて、聖君には届かない。


 やだ。やだやだ!聖君。他の人を熱い目で見たりしないで!

「聖君。私だけを見ててよ」

 周りの女の人が、どんどん聖君を取り囲んでいく。

「聖君!他の人なんかに触れないで。他の人なんか見たりしないで!」


 聖く~~~~ん!

「桃子ちゃん。俺、桃子ちゃんしか見ていないから安心して?」

 聖君はいきなり私の目の前に現れて、そう言った。

「だから、変な夢から覚めてね」

 え?


 ムギュ。聖君に鼻をつままれた。そして苦しくなって目が覚めた。

「あ!ゆ、夢だった~~」

「なんとなく、想像はつくけど…。久々にうなされてたね」

「……聖く~~~ん」


 ムギュ~~。聖君の胸に抱きついた。ああ、この素肌に他の人が触れるなんて、絶対に絶対に嫌!

「大丈夫。他の人に指一本触れさせないから」

 わ!なんで今思ったことが分かったの?

 びっくりして聖君の顔を見ると、聖君はチュッてキスをしてきた。


「だから、今度の夢では、俺に思い切り愛されている夢でも見てね?」

「…うん」

「おやすみ」

「おやすみなさい」


 私は目を閉じた。ああ、明日朝早いのに、聖君のこと起こしちゃった。申し訳ないなあ。

 なんて思っているうちに、また夢の中に入って行った。


「桃子ちゃん。桃子ちゃんだけは特別だよ。どんなに俺に触ってもOK。他の子には指一本触れさせないけど、桃子ちゃんならいくらでもどうぞ」

 聖君は素っ裸で目の前にいる。うわ~~~。思わず目を手で隠した。


「あれ?そんなことしてて、他の人がまた来たらどうするの?」

「困る!」

 私は慌てて聖君に抱きついた。

「ギュウ~~」

と言いながら。


 抱きついたまま、聖君の背中を触った。それから髪。それから顔、そして聖君にキスをした。聖君も私を思い切り抱きしめてきた。

 ああ、幸せだ。聖君の匂い、ぬくもり。

 私は一気に安心した。


 アラームの音で目が覚めると、私は聖君の腕の中にいた。聖君は私を抱きしめていた。

「おはよう」

 聖君は目を開けると、眠たそうな目で私を見て、それからアラームを止めた。


「おはよう」

「…桃子ちゃん、昨日、俺に思い切り抱きついて寝てたよ。もしかして抱き合ってる夢でも見た?」

「うん。見た」

「もう~~~。桃子ちゃんったら」


 聖君はそう言うと、私の胸に顔をうずめてきた。

「ああ、なんだか、もう一回桃子ちゃんを愛したい…」

「え?駄目だよ。もう起きないと」

「わかってるけど…」


 聖君はしばらく私の胸に顔をうずめ、それからやっと布団から起き上がった。

「あれ?凪、まだ寝てるんだ。珍しい」

「あ、本当だ」


 聖君はカーテンを開けに行った。私は、下着をつけ、洋服を着た。聖君はまだ素っ裸で、外を見ながら、

「ああ、いい天気だ」

と喜んでいる。


「う…」

 あれ?

「ん~~」

 凪?もしかして、うなされてる?まさか、凪まで変な夢見てる?


 そっと凪に顔を近づけると、凪の顔がいつもよりも赤いことに気が付いた。

 まさか!

 凪のおでこに手を当てた。熱い!


「聖君」

「ん~~~?」

 聖君は呑気にこっちにやってきた。

「凪、熱あるかも」

「え?!」


 聖君の表情が変わった。そしてすぐに凪のおでこや首に手を当てた。

「本当だ。熱い…」

 聖君は慌てて、パンツを履いてTシャツを着ると、

「母さん、呼んでくる」

と言って部屋を出て行った。


 ドタドタという足音がしてから、少しして、またドタドタトいう階段を上る音がした。お母さんと聖君が、慌てて階段を上ってきたようだ。

「熱があるの?凪ちゃん」

「はい。今、体温計で測ったら、38度も…」

「まあ…」


「ど、どうしよう。すぐに病院行った方がいいよね?」

 聖君がおろおろしながら聞いた。

「落ち着いて。とりあえず、汗をいっぱいかいているから、着替えさせて。それから…」

 お母さんは、考え込んだ。


 そこにお父さんもやってきた。

「凪ちゃん、熱?」

「はい」

「珍しいな。半年まではお母さんからの免疫をもらっているから、風邪とかひかないんだけどな」


 お父さんはすごく冷静だ。

「父さん、そんな呑気なこと言ってないでさ、車ですぐに病院…」

「小児科、まだ開いてないだろう」

「じゃ、救急病院は?開いてるんじゃないの?」


「落ち着け、聖。それよりお前、今日合宿だろ?」

「行かない」

「え?」

「行けるわけないじゃん。心配で海なんか潜れないよ。あ、そっか。部長、車こっちに回しちゃうから、メールしとかないと」


 聖君はすぐに携帯を持って、部長にメールを打ち出した。でも、相当慌てているのか、何回も間違えているようだ。

「あ、くそ。また間違えた」

「落ち着けって」

 お父さんにそう言われても、聖君はまだ落ち着いていない。


 それは私もだ。どうしよう。半年は免疫があるから大丈夫って、私も育児本で読んだ。なのに熱を出しちゃうなんて、悪い病気じゃないよね?


「手と足は、湿疹もないわねえ。お腹は…」

 そう言いながら、お母さんが冷静に凪のことを見ている。

「あ、お腹に湿疹…」

「お母さん、それ、アセモかもしれないです」

「あ、そうか。アセモ…」


 ドキドキ。この発熱は、なんなんだろう、いったい。

「白湯か何か持ってこようか?喉乾いているかもしれないね」

「そうね。おっぱいだと吐いちゃうかしら」

 そんなことをお父さんとお母さんは話している。


「俺、どうしたらいい?」

「聖は…。そうだな。とにかくズボンでも履け」

 お父さんにそう言われ、聖君はようやく昨日脱ぎ捨てていたカーゴパンツを履いた。


「あ、メール。部長からだ」

 聖君は携帯を開いた。

「凪ちゃんが熱があるなら、ちゃんとそばについてあげないとなって」

「そう…」

 お母さんはそう言うと、なぜか聖君の背中をぽんぽんとたたいた。


「合宿、残念だけど、やっぱり、凪ちゃんのほうが優先ね」

「当たり前だろ?それに、残念に思っていないから、安心してよ」

 聖君はそう言って、凪の顔を覗き込んだ。

「凪、苦しくない?」


 聖君のお母さんは、凪の着替えを取り出し、

「桃子ちゃん、着替えさせてあげて。オムツも替えてあげた方がいいわね。あと、汗は拭いてあげてね」

とそう言った。

「はい」


 私は凪を着替えさせた。お母さんは、

「お店の準備もあるし、下に行くわね。桃子ちゃんと聖は、順番に朝ごはん食べたら?」

とそう言って、一階に下りて行った。


「俺がここにいるから、聖、朝ごはん食ってきていいぞ」

「いいよ。ご飯なんて」

「あほ。親がちゃんと食っておかないでどうする?もし、今夜も熱がさがらなかったら、ずっと寝ないで看病することになるかもしれないんだぞ。ちゃんと食っておけ」


 聖君はそう言われ、眉をしかめて部屋を出て行った。

「あの…。熱、もっと上がったり、下がらなかったりするかもしれないんですか?」

「う~~ん。わかんないよ。でも、その可能性がないわけじゃないからさ」

「…」


「そんなに暗くならないで、桃子ちゃん。赤ちゃんって、高い熱出しやすいしさ。大丈夫。俺やくるみもついているんだから。ね?聖が戻ってきたら、桃子ちゃんがご飯食べに行っておいで。そのあとで俺も行くから」

「はい」


 一気に幸せ気分が消えた。ああ、子供が熱を出すだけで、心の底から苦しくなるくらい、心配なんだ。初めて知った。

 私は小さいころ、体が弱かったってお母さんも、お父さんも言ってたな。心配で夜も寝れなかったこともあったって。こんな気持ちだったんだね。


 子供を持って初めてわかる。親の気持ちが…。

 凪、早く元気になって!

 早く、いつもの笑顔を見せて!


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