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第99話 式の準備

 週末、聖君と私は早速緑川さんと会った。そして、打ち合わせはあとにして、まず、衣装選びをすることになり、待ち合わせの場所から、緑川さんの運転する車に乗り、レンタルショップに連れて行ってもらった。


 ドキドキドキ。聖君の紋付き袴や、タキシードが見られるの?!嬉しい!と喜びながら、私は自分のドレスも、ほとんどうわの空で試着していた。

 白のウエディングドレス。いろいろと着てみたが、大人っぽいのは似合わないので、かなり可愛いデザインのものをお店の人が用意してくれた。


「サイズも大丈夫ですし、可愛くてとてもお似合いですよ」

「そうですか?」

 自分で見て似合っているのかどうか、よくわからない。ただ、他のシンプルなデザインは、スタイルが良くないから似合わなかったり、大人っぽすぎるデザインも似合わないので、これになったって言う気もしないでもない。


 緑川さんは、

「似合う。とっても可愛い花嫁さんだわ。髪はアップして、可愛い小花でも散らしてもいいし、可愛いティアラをつけてもいいわね。ブーケも思い切り可愛いものにしましょう。ああ、楽しみ!」

と一人浮かれていた。


 私は、聖君が早く見たい。見たいったら見たい。

「あの、聖君ももうタキシード着ているでしょうか?」

「あら…。新郎のほうはもう、とっくに決まっちゃって、一階の受付で待っていますよ」

 今やってきた、お店の人がそう言った。


「え?」

 うそ。じゃあ、今日は聖君のタキシード姿見れないってこと?!

「いつの間に?」

「新婦のドレスは当日まで内緒にしておきましょうか?ね?」

 緑川さんにそう言われ、私はドレスを脱いだ。


 そうか。一階の奥にタキシードが並んでいたっけ。そこでもう選んじゃったんだな。聖君、自分に合うのをすぐに見つけたんだ。何でも似合うし、きっとすぐに決まっちゃったんだ。

 がっかり。


「あの、白無垢や、紋付袴は?」

「それはまた、階が違うんですよ。この上になります」

 お店の人がそう言った。じゃあ!紋付き袴は、見れるの?


「あの…。じゃあ、聖君の紋付き袴…」

「それも、もう決まっちゃいましたよ?」

 え~~~~~~~~~~~~~~!!!

 

 がっくりしながら、私は上の階に行き、白無垢を着た。ああ、本当にがっかりなんですけど。

 そして、お店の人や緑川さんの言われるがままに決まっていった。


 がっかりしたまま一階に行くと、聖君はお茶を飲みながら、何やら雑誌を読んでいた。そして私に気が付き、なぜかがっかりしていた。


「桃子ちゃん、なんで俺を呼んでくれなかったの?」

「え?」

「ドレスや白無垢!俺も一緒に選んだのに」

「だって、緑川さんが当日まで内緒にしましょうって…」


「ええ?!」

 聖君は今、切れたらしい。眉間にしわが思い切り寄った。

「俺さ、自分のはとっとと決めて、桃子ちゃんと一緒に桃子ちゃんのを選びたかったんだよ?」

「私だって、聖君のタキシードや紋付き袴見たかったよ。タキシード、一緒に決めたかったのに」


 そんな会話を聞いたのか、緑川さんがやってきて、

「あ、あの…」

と困った顔をした。でもそんなの気にとめず、私は聖君にくいつくように聞いた。

「聖君、白のタキシード?!」


「うん。桃子ちゃんが白のタキシードってやたら言っていたから、ちゃんと白のにしたよ。あ、ベストだけダークグレイだけど」

「とってもお似合いでしたよ!もうモデルさんかと思うくらい。うちの店のウェブサイトに載せたいくらい、本当にかっこよかったです!」


 一階の担当の人かな?目を輝かせそう言ってきた。

「み、見たかった」

 私はもっとがっくりとしてしまった。


「式の当日見れるよ。それより、桃子ちゃんはどんなドレスにしたの?」

「可愛いやつ。袖もふわっとしてて、このへんにフリルがあって、後ろに大きなリボンがあって、裾もふわふわ~~~ってなってて」

「…イメージつかない。でも、可愛いんだ」


「ええ。そりゃもう可愛いドレスが、とっても似合っていたから。それに合わせて、ティアラやベールも可愛いのにして、ブーケも可愛いブーケにする予定です」

 今度は緑川さんが目を輝かせた。


「ティアラ?わ。桃子ちゃん、そんなのするの?」

「変かな」

 聖君がびっくりしたからそう聞くと、

「ううん。きっと可愛いと思う」

と聖君が目を輝かせてそう言った。


「すげえ!楽しみだ」

 あ。もっと目が輝いちゃった。でも、私も…。白のタキシードの聖君をずうっとイメージしていたの。でも、やっと本物が見れるんだね。


 いよいよ、タキシード姿の聖君が…。

「あ!紋付き袴も着たの?」

「ううん。サイズ図って、それに合うのをお店の人が決めてくれておしまい」

「え?」


「だって、どれも同じようなもんだし。桃子ちゃんは白無垢も着たの?」

「羽織ってみたよ」

「く~~~~。見たかった!」

「当日のお楽しみにしてくださいね。新郎さん」

 緑川さんがそう言うと、聖君は素直に、はいとうなづいた。


 クスクス。なぜかお店の人がいつの間にか集まっていて、みんなして笑っている。

「可愛らしいご夫婦なのね。まだお若いのねえ」

「素敵な新郎ね。タキシード本当に似合っていたわ」


「可愛らしい新婦さんなのね。お似合いだわ」

 そんな声があちこちから聞こえてくる。

「あ、えっと」

 私と聖君は困って、緑川さんを見た。


「さて、衣装合わせも終わったし、場所を変えていろいろと決めて行きましょうか」

 緑川さんの言葉に私たちはほっとして、そのお店を出た。

「これから、うちの事務所にいって打ち合わせしましょう」

「はい」


 緑川さんの車で移動した。そして事務所に入ると、例の若い女の子が待っていましたとばかりに、冷たいお茶を持って来て、聖君に声をかけた。

「衣装合わせはどうでしたか?」

「あ、もう済みました」


「楽しみですね。きっと素敵な新郎さんなんでしょうねえ」

「これから打ち合わせをするから、向こうに行っていてね」

 緑川さんが注意して、その子はその場からいなくなった。


「ごめんなさいね。さ、話を進めて行きましょうか」

 招待状は、聖君のお父さんがデザインしてくれることになっていた。あとは、引き出物や、お料理、それから、司会や誰かに出し物をしてもらったり、スピーチをしてもらうかどうか、そんなことを話しあった。


「披露宴は、身内だけでするので、そんなに出し物は…。あ、うちのじいちゃん…、祖父が歌を歌うかも」

「…」

 緑川さんは一瞬、メモを取っている手を止めた。

「どういった出し物ですか?それに合わせて、曲を用意したり、楽器を用意したりしないとならないのですが」


「ああ、カラオケでいいと思いますよ。多分、結婚式でよく歌われる歌を熱唱するだけだと思うんで」

「え?」

「最近の流行の曲だから、カラオケでもありますよね?」

「流行の?」

「はい」


「お若いおじいさんなんですね」

「はい。まだ若いです」

 聖君はにこりと笑ってそう言った。


「あとは…?」

「う~~ん。妹が何かしたがるかもなあ」

「あ、ひまわりも」

「じゃ、2人で何かしてもらう?」

「うん」


「それと…。父さんが変な趣味を持ってて。ジャズだか何かを流してもらって、ダンスでもしたいって言い出すかも」

「ダンス?社交ダンスみたいなものですか?」

 緑川さんが聞いた。


「いえ。ただのチークダンスです。出し物ではなくて、みんなで会場で音楽流して、踊りたいって言い出しそうで…」

「まあ、素敵。映画にでも出てきそうな感じですね」


「そんなかっこいいものじゃないです。ほんと、ただの酔っ払いが、気分よく踊るってだけですから」

 そう聖君が言うと、緑川さんは顔を引きつらせた。

「あ、大丈夫です。飲んで酔っ払って、はめ外したりはしませんから。うちの親戚、パーティ好きで、結構そういうノリで今までも、結婚式の披露宴をしてきたそうだから」


「パーティ好き?」

「はい。なにかっちゅうと、パーティしちゃうんです。だから、今回もそのノリで、みんなやってくると思います。だからそんなに、司会進行とか、出し物とか、いろいろときっちり決めないでも、アバウトで大丈夫ですよ。慣れてますから。司会もじいちゃんか、じいちゃんの弟さんがしてくれるんじゃないかな」


「えっと。でも…」

「あ、そっか。いろいろと前もって、緑川さんも準備しないとならないわけだから、そんなにアバウトじゃ駄目ですよね?」

「ええ、まあ。あ、でも、何の歌を歌うかを先に言って下さったりすれば、用意できますし。司会もこちらで用意しないでもいいんでしたら、それもそれで、全然かまいませんよ?」


「そうですか?すみません。勝手に決めちゃって」

「いいえ。お二人の式なんですから、どうぞどんどん意見を言って下さってけっこうですよ」

「はい…。あ、2次会の場所なんかは、調べてもらったりできますか?」


「ええ。そういうのも請け負っています。どのあたりで予算はいくらくらいがいいか、いろいろと教えてくだされば、それに合った場所を予約しておきますよ?」

「ああ、すごく助かる。あ、バンドが歌える店がいいんですけど」

「バンド?」


「知り合いでバンドをしているのがいて、呼ぶ予定なんです」

「どんなバンドですか?」

「ロックです」

「ロック?!」


 緑川さんが驚いている。

「あ、そういううるさいのは、できる場所ないですかね?」

「そうですね。レストランとかですとちょっと。でも、ライブハウスとか、ライブを聞きながらご飯が食べられるようなお店もありますから大丈夫ですよ」


「そっか。そういうところなら、大丈夫ですよね」

「人数は何人くらいですか?」

「え?えっと…。何人になるかなあ。2次会のほうが式よりもずっと多くなりそうだな」

「お友達、多いんですね」


「…少ないです。…あれ?多い方かな。高校の奴らと、大学の奴らも呼ぶし。サークルの連中はみんな来たがっていたし。でも、桃子ちゃんのほうが少なくなっちゃう?」

「う~~ん。10人はいるかな」

「けっこういるね」


 そんな会話をしながら、どんどん私たちは話を進めて行った。私はあまりにも、早くにいろいろと進むので、めまいがしそうになっていた。

 でも、緑川さんに言われてしまった。

「10月だから、もうあと、3ヶ月もないですね。どんどん決めて、どんどん進めましょう。招待状ができしだい、送ってください。出席する人が決まったら、すぐに今度は、座席表を作らないとならないですしね」


「忙しそうですね」

 聖君は、そう言いながらも嬉しそうにしている。

「あ、そういえば、新婚旅行には行かれないんですか?」

 緑川さんが聞いてきた。


「…そうですね。凪も連れて、沖縄に行こうかと思っていたんだけど、10月ってどうなんだろう」

「いい季節じゃないですか?赤ちゃんが一緒なら特に、もうそんなに暑くないし」

「そっか~。桃子ちゃん、どうする?式の後、そのまんま新婚旅行にも行っちゃう?」


 新婚旅行…。その響がもう、すでにクラクラしてくるくらい、嬉しい。

 私が頬を染め、ぼけ~~っとしていたからか、聖君は、

「あ、いいです。それはまた、帰ってから両親にも相談して決めます」

と、私の返事も待たずに緑川さんにそう言った。


「はあ…」

 緑川さんが、変な顔をして私を見ている。そこで私は我に返った。

「あ…」

「桃子ちゃん、戻ってきた?今、妄想の世界に浸ってたね」

「うん」


 そう言うと、緑川さんに笑われてしまった。

「本当に可愛いカップルですね。とてもお似合いですよ。ご夫婦になってもきっと、お似合いのご夫婦に…」

 緑川さんが笑いながらそう言うと、聖君は、

「もう夫婦です」

とひょうひょうと答えた。


「…あ。そうでしたね。すでに籍は入れているんでしたっけ」

「はい。もう結婚して1年になろうとしています…。あれ?それで新郎新婦って言ってもいいんですか?」

「全然いいですよ」

 緑川さんはそう言って、にっこりと笑った。


 そっか。もう、7月で結婚して1年になるのか。

 きゃ~~~。もう1年!なんだか、信じられな~~~い。

「桃子ちゃん。またどっか行ってる?帰って来てね」

 すぐに聖君に気が付かれて、私ははっと我に返った。


「くすくす」

 また緑川さんに笑われてしまった。


 事務所をあとにして、私と聖君は電車に乗った。

「ああ、なんだか、一気に話が進んでいくね」

 シートに腰かけ、私がそう言うと、聖君は何も答えてくれなかった。

 顔を見ると、ちょっと不機嫌。なんで?


「聖君?」

「ちぇ」

「え?」

「ドレス、一緒に選びたかったのに」


 あ、まだそれ、考えてたの?

「ごめんね?まさか、聖君が一緒に選びたかったなんて知らなかったから」

「…前もって言っておけばよかったのかあ」

「…でも、当日のお楽しみだって、緑川さんが」


「そうだね」

 聖君はそう言いながらも、まだ口を尖らせ、そして、

「凪のドレスは、一緒に選ぶからね」

と言い出した。


「え?気が早いよ。凪の結婚なんて何年先になるか」

「違う!俺らの結婚式で、凪だってドレス着るでしょ?」

「へ?」

 ドレス?


「もう、着れるよね」

「凪、まだ、7か月だよ?」

「着れる。うん。今度凪を連れて、ドレスを借りに行こう」

「そんな小さい子のは、ないと思うけど」


「え?まじで?」

「うん」

「う~~~~ん。じゃ、買うか~~~」

「そんなの売ってるかどうかもわからないよ?」


「まじで?」

「あ、あるかな?もしかして」

「え~~~~。可愛いのを着せたいのに」

 聖君って、面白い。こりゃ、凪が大きくなったら、一緒に服とか買いに行っちゃうんじゃないの?それで、高いのを買わせられる羽目になったりして。ありえる。


「もしなかったら、母さんに作ってもらう」

「え?」

「母さん、絶対に喜んで作りそう」

 ああ。もう…。聖君、絶対にマザコンだ。ま、いいけど。


「聖君」

「ん?」

「いろいろと楽しみだね」

「…だね」

「沖縄も楽しみだね」


「だね~~~!!!」

 聖君はにんまりと笑い、

「やばい。旅行会社にパンフをもらいに行こうと思っていたのに、電車乗っちゃったよ。江の島にはないもんなあ。ああ、ネットで調べてみるかあ」

と、目をキラキラさせてそう言った。


 そして、お店に着くと、聖君は満面の笑みでドアを開け、

「ただいま~~~。凪!母さん!父さん!」

と叫んだ。お店には、3組のお客さんがいた。みんないっせいに、私たちを見ている。


「聖君。なんだかご機嫌ね。何かいいことあった?」

 常連のお客さんが聞いてきた。

「はい。10月に式を挙げるんですけど、その打ち合わせに行ってたんです。もう、それが楽しみで!」

「まあ、式を?」


「あ、みなさん、ごゆっくり」

 聖君は最上級の笑顔でお客さんにそう言うと、早足で私の手を取ってお店の奥に行った。

「母さん、相談があるんだ。後で聞いてね」

 それから家に上がると、

「父さん!招待状できた?」

とリビングで凪のことを抱っこしているお父さんに聞いた。


「ああ、だいたいできたよ。パソコンに入っているから、見てみて」

「うん!」

 聖君はパソコンを起動させ、うきうきしている。でも、凪が、

「あ~~」

と聖君に話しかけたので、

「凪~~~。ただいま~~~」

と目じりを下げて、凪のほっぺを突っついた。


「ああ、凪には白のドレスが似合うかな。いや、やっぱりピンク?!」

「なんだよ、それ?」

「俺らの式で、凪もドレス着なくっちゃ」

「ああ、そっか~~。凪ちゃん、ドレス着るのかあ」

 お父さんまでが、目じりを下げて喜んでいる。


「あ、これ?招待状って?」

「うん。いいだろ?」

 聖君と一緒に私もパソコンの画面を見た。わあ!なんだか、夏らしくて、聖君のように爽やかな招待状だ。

「いいじゃん。父さん、やっぱりセンスいいよ」

「当たり前だろ。お前の夏らしい爽やかさと、桃子ちゃんの可愛い感じをミックスしたんだぞ」


「うん。わかる、わかる」

 あ、そうだったの?

「いいよ。うん。じゃ、さっそく印刷して、招待状送らなくっちゃ!」

「もう?」


 お父さんがびっくりして聞くと、

「当たり前だろ?あと3ヶ月もないんだよ?」

と聖君はそう言って、それからにんまりと笑った。


「桃子ちゃん、楽しみだね」

「うん!」

 聖君が、式を楽しみにしてくれて嬉しい。

 やっと、私は聖君と、結婚式を挙げられるんだね…。だんだんと実感が湧いてきて、私は感動していた。

 


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