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第7話 入院生活

「痛いっ」

 初めての授乳後、おっぱいが張っちゃって、凪に飲んでもらわないと、大変なことになってしまう。はあ…、まさか出産後、こんな大変なことが待っているだなんて…。


 それだけじゃない。中腰でオムツを替えたりしているからか、それとも、妊娠中にすでにやられていたのか、腰がとても痛い。

 ペンギン歩きは、今日の午前中、抜糸をしたおかげで普通に歩けるようになった。だけど、それまではずっとペンギン歩きだったし、座るのも痛くってドーナツ座布団を使っていた。


「大丈夫?看護師さん、呼ぼうか?」

 聖君がカーテンの外から聞いてきた。

「ううん。きっと今、忙しいだろうから」

 助産師さんに一回、おっぱいマッサージをしてもらったが、その後は自分でしているんだけど、自分だとどうも痛いし、なかなかうまくできない。


「桃子ちゃん、中に入るよ。いい?」

「うん」

 私はベッドに腰掛けて、胸のマッサージをしていた。右側の乳首が陥没しているせいか、あまり凪が飲んでくれず、張ってしまっている。


「……」

 私は胸をちょっとパジャマで隠した。だけど、聖君の目をじ~~っと見た。聖君、胸のマッサージ手伝って…と、口ではなかなか言えないもん。

「え?俺?」

 あ、通じた?

「でも、痛いんでしょ?俺がやっても痛いよね?」


「自分だと手加減しちゃうし、駄目みたい」

「…俺も手加減するよ?」

「…わかった。自分でする」

 私は聖君に背を向けて、またぎゅって胸を押した。


「いた…」

「痛い?」

「ふえ~~ん、聖君。辛いよ」

「え?」

 私は本気で泣きそうだった。


「マッサージより、張っているのが辛いの…」

「そ、そっか。分かった。手伝うよ」

 聖君は私の隣に座った。カーテンの向こうには、小百合ちゃんはいなかった。私は午前中に診察を済ませたが、小百合ちゃんは今、診察と抜糸をしている頃だろう。


「痛かったら言ってね?」

「…痛いって言っても続けてね?」

「う…うん」

 聖君はそっと、胸に触ってきた。


「わ、硬いね?」

「でしょ?すごく張っちゃってるの」

「こりゃ、痛そうだ」

 聖君が、ギュって固いところを押した。

「いっ」

「痛い?」

 聖君までが、まゆをしかめた。


「俺、桃子ちゃんをいじめてるみたいだ」

「そんなことないよ。大丈夫だから…」

 そのあとはなるべく、痛いと言うのも我慢して、マッサージを続けてもらった。

「痛くないの?」

「痛いけど、平気…」

 不思議だ。本当に痛いんだけど、聖君のオーラが優しいからかな。手があったかいからかな。それとも、ちょっと私がときめいてるからかな。って、まじで私は変態じゃないか。


 だけど、聖君だと、なぜか痛みにも我慢することができる。

「ふ~~~~」

 私が思い切り息を吐くと、

「そんなに辛かった?」

と、心配そうに聖君は顔を覗き込んできた。


「ううん。すご~~く楽になった。ありがとうね、聖君」

「ちょっと赤くなってるね」

「うん。少し冷やしたほうがいいのかな。あとで、看護師さんに聞いてみる」

 私はそう言いながら、パジャマのボタンをはめた。


「本当に大変なんだね」

 聖君はまだ、心配そうな顔をして私を見ている。

「聖君、手、これで拭いて」

 私はウエットティッシュを渡した。聖君の手は、母乳がついてしまっている。

「あ、うん。…母乳って、べたべたするんだね。もっと、さらっとしてるのかと思った」

 聖君は指をふきながらそう言った。


「最初の頃の母乳は、べたべたするみたい」

「へえ。そうなんだ。濃厚ってこと?一回、俺もなめてみようかな。美味しいのかな」

「え?!」

「あ、今、俺、もしかしてとんでもないこと言った?」

「…」

 私が真っ赤になったから、聖君まで真っ赤になった。


「聖君。しばらくは、右も左も、私のおっぱいは凪のものだからね?」

「え?」

「我慢してね?」

「うん。もちろん」

 聖君はうなづいた。でも、しばらく黙り込むと、

「しばらくってさ、いつまで?」

と聞いてきた。


「さあ?いつまでかな」

「…やっぱり、凪のものになるの、寂しい!」

 わ。聖君が抱きついてきた。

 トントン。

「はい!」


 ドアのノックの音で、私と聖君はぱっと離れた。とはいえ、私のベッドの周りはカーテンを閉めていたから、誰かが入ってきても、私たちが何をしてるのかも見えないんだけども…。つい条件反射のように、離れちゃったな。


「桃子ちゃん。従弟が来てるから、一緒に和樹を見てくるね」

小百合ちゃんの声がして、また部屋を出て行ったようだ。

「なんだ。小百合ちゃんか」

 聖君がほっと溜息をついた。


「診察終わったんだ。今日、抜糸したのかな」

「桃子ちゃんは?今日の午前中の診察で抜糸したんだっけ?」

「うん。抜糸したよ」

「痛かった?」

「ううん。全然。それに、そのあと歩くのが快適になったんだ!」


「ペンギン歩きじゃなくなった?」

「うん。もう、ドーナツ型の座布団もいらないかも」

「よかったね。でも、俺、聞いた時にはびっくりしたよ。赤ちゃん産むのに、切ったり縫ったりするなんて、知らなかった…」

 聖君はそう言いながら、顔が青白くなっていく。


「聖君、話題をかえよう。今日、桐太が麦ちゃんと来てくれるって、メールが来たんでしょ?」

「うん。3時過ぎって言ってた」

「そっか~~。桐太、聖君の赤ちゃん見るの、楽しみにしてるだろうな」

「…それ、あまり麦ちゃんの前では言わないほうがいいよ?」

「え?」


 なんで?

「麦ちゃんって、桐太と俺は純粋に親友だって思っているから」

「?違うの?」

「だ、だからさ、桐太が俺に…、その、友達以上の思いを寄せてたこととか知らないんだよ」

「あ!そっか。知らないのか」

 そ、そうだよね。桐太だって、わざわざ言わないよね。


「わかった。そういうことは麦ちゃんの前では言わないようにする」

「うん」

「喉乾いちゃった。聖君もなんか飲む?」

「うん。あ、俺が取るよ」

 聖君はベッドの横の冷蔵庫から、オレンジジュースを取り出し、コップについでくれた。それから自分には、コーラの小さな缶を取り出した。


「杏樹、凪のこと、毎日見に来たいって言ってたよ」

「でも、生まれた次の日にしか来てないよね?」

「うん。学校あるし、塾もあるしね。でも、凪のこと写真に撮って、メロメロになってたよ。可愛い可愛いって」


「早く抱っこしたいって言ってたもんね」

「俺だって!いまだに抱っこできてないんだよ?」

「新生児室から、出せないもんね。残念だよね」

「くすん」

 聖君が悲しそうな顔をしている。うわ。その顔も可愛いんだから。


「明日には退院だもん。明日には思う存分抱っこできるよ?」

「うん」

「沐浴もしてくれるんでしょ?」

「昨日、沐浴の練習したんだよね?桃子ちゃん」

「した。実際に凪で。でも、怖かった!」


「ほんと?」

「耳に水を入れないように気をつけなくちゃならないし、おへそはまだへその緒がついているし、なんかもう、ただただ怖かったよ」

「そ、そうなんだ」


「でも、泣かなかったし、動かなかったから、洗いやすかったけど」

「動かないの?」

「うん。手をね、このへんでぎゅって握ってるの。あ、ガーゼもにぎっちゃうんだよ。赤ちゃんって、羊水に入ってたくせに、水の中怖がるんだよね」

「そうなんだ。凪も怖がってたんだ」


「あ、私が怖いの、伝染したのかな?看護師さんが沐浴するのを見させてもらったんだけど、気持ちよさそうにしてたかも」

「ああ、そうか。怖いのって伝染しそうだね?じゃ、俺も怖がらないで、いれるようにしなくっちゃね」

「…明日だね。いよいよ。あのベビーベッドで、凪、寝るんだね」

「うん」

 聖君が嬉しそうにうなづいた。


「桃子ちゃん、ゆっくりできるの、今日までかもしれないよ。寝れるだけ、寝たらいいよ」

「だけどもうすぐ、桐太と麦ちゃん、来るよね?」

「そっか。今日、あいつのバイトの休みの日だし、デートがてら来るんだろうなあ」

 そんなことを言いながら、聖君はコーラをゴクンと飲んだ。


 聖君は大学が春休みだし、バイトは夜からだからって、4時ころまで病室にいてくれる。かなり長い時間、病院にいるので、飲み物だのおやつだの、結構買い込んできて、冷蔵庫に入っている。

 とはいえ、ずっと病室にいるわけではない。新生児室と病室を往ったり来たりして、たまに長い時間戻ってこない時もある。


 そして凪を見て帰ってくると、うっとりとしている。

「可愛かったな~~~」

と必ずそう言って、しばらくは意識がどこかに飛んで行ってしまう。

 聖君は家で、凪に日記をつけているようで、毎日写真を撮っては、その日記に貼りつけているらしい。


 凪は最近、手や足の皮がむけてきている。一度はそうやって、皮膚がむけるそうだ。

 最初、それを見た時に聖君は驚いていたが、看護師さんの説明を受け、安心していた。体重も生まれた時から減ったので心配していたが、これまた、一度は減るらしく、そのあと体重は増えていくらしい。


 昨日だっけな。聖君と凪を一緒に2人で見に行った。ガラスにべったりと張り付いて、ずうっと凪から目を離さない聖君は、ちょっと周りから見るとやばいかもっていうくらい、凪に夢中だった。

 いつも新生児室の前では、この勢いで凪を見ているんだろうか。


 凪があくびをすると、

「あくびした。可愛い」

 横を向くと、

「あ、横向いちゃった」 

 手を動かすと、

「あ、手を動かしたよ。桃子ちゃん、見てた?」

といちいち反応している。


 これ、一人で見に来てても、こうやって独り言を言ってるんじゃなかろうか。

「そんなに可愛い?」

 思わずそう聞くと、

「あったりまえじゃん!桃子ちゃんは可愛くないの?」

と驚かれた。


「可愛いよ」

 でも、聖君、半端ないよね。と、私は内心驚いていた。

 今日の午前中に聖君のお父さんが一人でやってきて、私と聖君と凪を見に行った。すると、まったく聖君と同じ反応を示していたから、なんだ。聖君のお父さんもかって、ちょこっと安心したんだ。


「可愛い~~。凪の寝顔」

「うん。凪ちゃん、ほんと可愛い」

と2人で目を細め、食い入るように見ている。

 ああ、この二人はきっと、凪をどっちがお風呂に入れるかで、喧嘩するんだろうな。それも、毎回していそうだ。


 3時になり、トントンとドアをノックして、桐太がやってきた。

「よ。桃子、聖。凪、見に来たよ」

 そう言いながら、桐太が先に入ってきて、その後ろから麦ちゃんも入ってきた。 


「お前なあ、凪のこと呼び捨てにするなよ」

 聖君が怒った。

「え?いいじゃん。凪は凪で…」

 桐太がそう言うと、聖君は、もう凪のこと見せてあげない!と口をとがらせ、すねてしまった。


「実はもう見てきちゃったんだ」

 麦ちゃんがそう言った。

「え?」

「可愛かった。ね?桐太」

「おお。桃子に似てるよな。女の子だから、桃子に似てよかったよな?」


「なんで、女の子だと、桃子ちゃんに似てるといいんだよ?」

 聖君がムッとしながら聞くと、

「そっちのほうが可愛くなりそうじゃん。お前に似たら、やたら男っぽい女になりそうだろ?」

と、桐太はしれっとした顔でそう言った。


「そうかな。聖君に似たら似たで、美人さんになったと思うけど。桃子ちゃんに似たら、すごく可愛い女の子になりそうだよね?」

 麦ちゃんがそう言うと、ほら見ろって顔をして、聖君は桐太のことを見た。

「どっちにしろ、男がほっておかないか」

「え?」


 桐太の言葉に聖君が反応した。あ、顔が青くなってる。

「くす。聖君、もう心配してるんだ」

 麦さんがそれを見て笑うと、

「こいつ、大変な親ばかになりそう」

と桐太が笑った。いや、もうすでに、親ばかなんだってば。


 小百合ちゃんは従弟が来てから、まだ病室に戻ってきていない。麦さんと桐太はそのあとも、聖君とあれこれ話し、それからデートの続きがあるからと、病室を出て行った。

「デートか。あいつらも仲いいよな」

 聖君はちょっと嬉しそうに言った。2人が仲がいいのが、嬉しいようだ。


「ただいま」

 小百合ちゃんが帰ってきた。

「ずいぶんと従弟と長く、話していたんだね」

 聖君がにこにこしながらそう言うと、小百合ちゃんは顔を暗くさせた。


「あれ?どうした?」

「うん。なんか、いろいろと言われちゃって」

「従弟に?」

「一つ上の女の子なの。あ、お父さん側の親戚なんだけど、今、短大行きながら軽音楽部でバンド組んでるんだって」

「へえ、さすが、音楽一家なんだね」


「そうなんだよね。キーボードをしてるらしいんだけど、昔はピアノを習ってたんだ。今もすごく楽しいらしくって、時々大学生とコンパもしてるんだって。彼女、彼氏いないんだけど、可愛いからもてるみたい」

「ふうん」

 聖君が相槌をうった。


「それでね、こんなに早く子供産んだり、結婚したりして、絶対に後悔するよって言うんだよね」

「なんだよ、それ。お祝いをしにきてくれたんじゃないの?」

「うん。お祝いも持ってきてくれたけど、和樹を見ても、可愛いともなんとも言ってくれなかったし」

「え?」

 聖君がちょっと眉をしかめた。


「サルみたいって言われた」

 あちゃ。それはひどい。

「そんなの気にするなよ。あんな可愛い赤ちゃんを、可愛いと思えない人の言葉なんて」

「…でも、サルと言われたらそうかもしれないかな」

 え?私も聖君も、小百合ちゃんの言葉にびっくりした。


「和樹が生まれてすぐ、人間よりもサルっぽいって、私も思ったもん」

「うそ~~。あんなに可愛いのに?!」

 聖君が目を丸くした。

「聖君は特別だよ。みんながみんな、可愛いって思うわけじゃないよ。きっと輝樹さんだって…」

 小百合ちゃんの顔がまた、暗くなった。


「ちょ、ちょっと待った。でも、赤ちゃん可愛いんでしょ?」

 聖君が小百合ちゃんに聞いた。

「私?」

「うん」

「可愛いよ。だけど、輝樹さんはあまり、和樹を見ても可愛いって言ってくれないし」


「む~~~~~」

 聖君はうなってしまった。

「輝樹さんは、会社のあとに寄るの?俺、ずうっと顔見てないけど」

「うん。仕事の帰りだからいつも、7時過ぎる」

「そっか。会えたら俺、いろいろと聞くんだけどなあ」


 私は何も言えなかった。実は、輝樹さんが来ても、和樹君の話題が出ることは本当になくて、小百合ちゃんは自分がいない間、食事はどうしてるの?洗濯は?と気にしているだけだし、輝樹さんも輝樹さんで、心配しなくても一人暮らしが長いんだから、一人でもできるよって、優しく言うだけで、それで帰っちゃうんだよね。さっさと…。


 やっぱり、聖君の凪に対する思い入れのほうが、異常だったりして?小百合ちゃんも聖君と輝樹さんのことを比べちゃうから、あれこれ思っちゃうんじゃないのかなあ。


 聖君は4時になると、

「じゃあ、明日ね。明日は退院だから、俺、早目に来るからね」

とそう言って、帰って行った。

「明日、輝樹さんも会社休みでしょ?」

「うん、ちょうど、土曜だしね」


「良かったね。輝樹さん、迎えに来てくれるんだ」

「うん。それに多分母も来てくれるはず」

「うちも、お母さんと聖君とで来るって言ってたな」

「なんだか、ドキドキするね。ちゃんと子育てできるかな」


「…時々会いたいね、赤ちゃん連れて」

 私がそう言うと、小百合ちゃんはニコって笑った。

「うん。絶対ね」

 いよいよ明日、退院する。聖君と凪と3人の生活が始まる。


 あれ?違うか。うちにいる間は母も父も、ひまわりもいる。それに、聖君の家に行ったとしても、みんないるし、いつでも凪の周りには人がたくさんいて、にぎやかなんだろうな。

 私はつねに助けてくれる人がいると思うと、安心できた。それに、凪を目に入れても痛くないほどの聖君がいてくれるんだし。


 夜、7時に輝樹さんが来た。私は2人の邪魔をしたら悪いと思い、いつもカーテンを閉めている。

「明日だね、退院」

「うん。輝樹さん、車でお母様と来るの?」

「うん。来るよ。もう今日しっりと、おばあさんとお母さんとで、部屋を整えていたよ」


「部屋?」

「ベビーベッドのマットを干したり、オムツの用意から、肌着の用意から…」

「そうなんだ」

「だから、小百合はただ、和樹を連れて帰ったらいいだけだ」


「…輝樹さん、和樹と一緒の部屋で寝泊まりするの、大丈夫?」

「え?なんで?」

「夜、何度も起こされるかも。授乳で」

「3時間おきでしょ?全部、母乳?哺乳瓶であげるなら、俺もしてあげられるんだけどな」


「え?」

 小百合ちゃんが驚いた声を出した。

「で、でも、会社もあるし」

「大丈夫だよ。ちゃんと、世話するから安心して?」

「だけど…」


「お母さんが、もし、どうしても寝不足になって大変になったら、交代してくれるらしい。だけど、それまでは俺がちゃんと世話をするよ」

「なんで?」

「なんでって、そりゃ、俺も和樹の父親なんだしさ」

「…」


 小百合ちゃんが黙った。

「ごめんね?頼りにあまりならないかもしれないけど、これからいろいろと、できるようになるから」

「え?」

「オムツ替えとか、ミルクあげるのとか…」

「してくれるの?」


「え?しないと思ってたとか?」

「うん」

「ひどいな。これでもいろいろと、本読んで勉強してるのにな」

 なんだ。輝樹さんも、ちゃんと和樹君のこと思ってたんじゃない。


「ありがとう」

「うん。2人で頑張って、育てていこうね?あ、2人じゃないかな。お母さんもおばあさんも、世話をする気満々でいるから」

 輝樹さんがそう言うと、小百合ちゃんがクスって笑ったようだ。そして二人して、何やら仲良く話をして、輝樹さんは帰って行った。


 いつも思うんだけど、こうやって盗み聞きをしているようで、悪いなあ。だけど、輝樹さんが帰っていくと、小百合ちゃんは嬉しそうに、

「桃子ちゃん、聞いてた?輝樹さん、和樹の世話をしてくれるって」

とそう話しかけてきた。



「よかったね」

 そう言うと、小百合ちゃんは嬉しそうにうんってうなづいた。

 いきなり、父親になれって言っても、やっぱり無理があるのかもしれない。

 私や小百合ちゃんだって、何から何まで初めてづくしで、おっぱいをあげるのも、オムツを替えるのも、ようやく慣れてきたかなって感じだし。

 そうやって、新米のママもパパも育っていくんだよね。


 私は明日からの毎日を思うと、わくわくドキドキしてしまい、その日の夜はなかなか寝付けなかった。それは小百合ちゃんも同じようで、私たちは12時近くまであれこれ、話をしてしまった。

 小百合ちゃんの返事がないなって思ったら、寝息が聞こえてきた。それから私も目を閉じて、眠りについた。




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