第4話 電話
しばらくすると、夫は短時間からバイトに復活するようになった。体力も少しずつ戻ってきているようだ。夜ではなく昼間に仕込みをするので、会えるのは開店準備の時間だけ。それでも隙あれば話をした。わたしから連絡先を聞くと、あっさりと教えてくれた。
少しずつだけど、以前みたいな元気のよさが戻ってきているような気もする。だけど強がっているだけのような気もするし、そんな風にしないと精神が持たないだけなのかな? とも思ったりする。
わたしは友達に教えてもらったネイルサロンで、マツエクをして爪もジェルネイルをしてもらった。ネットや雑誌で化粧の仕方とか、年下男子を落とし方を検索した。
メールをわたしが送ったら返事は確かにくれる。だけど、すぐにではない。それに内容もあまりない。怪我の影響もあるのかもしれない、と思ってあまり考えないようにする。
《今からバイトーだるいよー。今日金曜やし怖い》
返信は返ってこなかった。次の日も、その次の日も。しょうもない内容すぎたのかなって反省した。だけど数日ぶりに返事があった。
《ごめん、A市に戻って父さんと会ったりでバタバタやった。今からバイトがんばるわ》
なるほど、だからか、わたしは安堵する。夫はたまにお父さんに会うために地元に戻っていることをこの間聞いた。帰って来て元気な様子の時が1度だけ会ったが、その次は声をかけられないぐらい元気がなくなっている時があった。
何があったのか心配で、わたしはバイト先で直接聞けなかったことを電話で聞こうとして呼び出した。
「もしもし?」
「ごめん、少しだけ話していい?」
「うん」
「あのさ……今日元気なかったなーって思って。お父さんとなんかあったん?」
「そうかな? え、父さんといや特に。飯食っただけやし」
「そっか、よかった。心配やったから」
「あのさー今から会われへん?」
「え?」
わたしは慌てて時計を見る。もう夜の十二時手前だった。
「遅いよな、ごめんごめん」
「いいよ」
「まじで?」
「居酒屋の前まで行くわ。忘れ物したからって親に言うから」
わたしは徒歩すぐにある居酒屋に向かう。フード付きのパーカー姿の夫が現れる。
「どうしたん?」
「いや、会って話したくなって」
どういうこと? わたしはそわそわする。
「嬉しい。びっくりしたわ。地元戻ってて疲れてるのに大丈夫?」
「大丈夫。咲良さん、俺と付き合ってくれませんか」
わたしは驚きすぎて言葉が出てこない。
「すみません、いやっすよね。いや気持ち聞いてもらえてよかったす。またバイトでよろしくお願いします」
大きな背中の夫が去って行こうとする。この時、本当にわたしは呼び止めてよかったのだろうか。
「類斗くん!」
歩くのをやめたけど、夫は振り返らない。近所のコンビニから、ひとが出てくる。ふたりとも少しだけそのひとの動きを眺めた。
「わたしは会ったときから、類斗くんの彼女になりたいって思ってたよ!」
そこで、ハッとして夫が振り返る。
「まじっすか」
暗い夜なのに、ぱって花が咲いたみたいに夫の周りだけ明るくなった。ありえないのに、ありえる。
「俺、彼女とかできたことなくて。だから、色々迷惑かけると思いますけど、よろしくお願いします。あ、送って行きます」
夫の手にわたしから手を重ねる。少しだけ閉じたけど、受け入れてくれたのか柔らかく開いて、わたしの手をぎゅっと握ってくれた。




