第2話 出会い
少し前から、夫の機嫌が良い。もちろん、怒ったりしないけど前から。でもそんなんじゃなくて、ずっとにこにこしている。なにも言わなくても家事は前からしてくれるけど、それさえ嬉しそうにしている。
地元に戻って来てよかった、と思う。F県に、きっと夫は良い思い出がないから。地元の昔からの知り合いに会って、夫が元気になるのは嬉しい。顔も知っているし安心できる。「ちょっとごめん行ってくる、ボール蹴ってくるわ」って申し訳なさそうに夫は出て行く。
F県では一切、サッカーをやめていてボールさえ触れなかったから本当によかった。感謝だ。
わたしたちが出会ったのは、夫が高校卒業後の春休みだった。わたしの親戚がやっている居酒屋で夫はバイトをしていた。夫は2つ下だけど、年下じゃないみたいな雰囲気だった。一瞬で、あ、かっこいいやばって思ったけど、叶わないってわかっていた。
夫は地元で有名なサッカーの強豪校に通っていて、キャプテンだったということも知っている。大学への推薦入学も決まっていると聞いていた。なによりも叶わないオーラというか有名人オーラというか、もう住む世界が違うひと感しかなかった。はなっから叶わない、試合に挑む気はない。
なんか熱さが違う、人生に対する、輝きとか希望とか。根っこにある強い想いとか。サッカーというよりも他にも理由がある気がしたけど、そんなこと軽々しく聞ける気もしなかった。
だけど、居酒屋の店長のおっちゃんが「しばらくうちでバイトしてくれない?」って急にお願いしてきたから、どうしたんやろって思ってたら、夫が大怪我をして病院に搬送された、ということを聞く。
ハテナで頭がいっぱいなのに、おっちゃんもよく知らないだろうし、わたしは何も聞けなかった。
「わかった、いいよ」
わたしは困っているおっちゃんの顔を見て断れなくて、なんとなくOK出した。わたしはバイトもせず、ただ大学で遊んでただけだったから。
おっちゃんっていうよりも、わたしのお母さんから夫の怪我の状態を聞く。
「サッカー教室の教え子が帰り道にボール追いかけて走って行った先にちょうど車がきて、類斗くんがその子をかばって、事故にあったみたいよ」
「え」
「かわいそうになあ。推薦もきてたらしいやん。もうサッカーできひんやろなあ。頭も体も強く打ったみたいで。男の子はかすり傷で済んだみたいやけど……」
「ええ! あんまりやなあ……」
「ほんまに。類斗くんとこシングルやろ? お母さんのためにもがんばってたやん。楽させたろうって思ってプロ目指してたんやろなあ、ほんまにドラマみたいな話やで」
わたしは夫の真っ直ぐな、綺麗な瞳を思い出す。




