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第34話 胃痛の剣士

(Sideノクス)



 オレは、冷や汗を流しながら大通りの人混みを掻き分けていた。


 「おい、ちょっと通してくれ! ……くそっ、どこに行きやがった!」


 灰色の髪を振り乱し、背中の長剣が周囲の邪魔にならないよう気を配りながら、必死に視線を巡らせる。


 だが、どれだけ探しても、あのブカブカの外套を着た小柄な少年の姿は見当たらない。


 発端はほんの些細なことだった。


『踊る猪亭』で腹ごしらえを終え、店を出た直後。


 オレが今後の宿の手配について考えを巡らせ、ほんの数秒だけ視線を外した隙に、ユウはまるで煙のように人混みへと消えていたのだ。


 (オレとしたことが、なんて失態だ……!)


 ユウが魔獣に襲われて死ぬようなタマではないことは、オレが一番よく分かっている。


 あいつは無詠唱で地形を変え、強大な魔獣すら大地ごと空高くカチ上げる、化け物じみた天才魔導師だ。


 だが、あいつには『人間の街の常識』が致命的に欠落している。


 もし、路地裏で柄の悪いゴロツキに絡まれでもしたらどうなる?


 容赦のないあいつのことだ、「面倒ですね」とかなんとか言いながら、あのデタラメな土魔法で、ゴロツキごと街の区画を一つ隆起させて吹き飛ばしかねない。


 あるいは、その世間知らずなところを悪徳商人に目をつけられ、法外な借金を背負わされたりでもしたら……。


 (頼むから、面倒事だけは起こさないでくれよ……!)


 オレはキリキリと痛み出した胃の辺りを押さえながら、スラムへ繋がる裏路地の方へと向かおうとした。


 その時だった。


 「――いたぞ! ノクスだ!!」


 「ノクス! 無事だったか!!」


 突如、大通りの向こうから槍を構えた複数の衛兵たちが、血相を変えてオレの元へと駆け寄ってきた。


 皆、周囲を鋭く警戒している。


 「衛兵隊……? いったいどうしたんだ、こんな大仰な武装で」


 「どうしたじゃない! お前こそ、怪我はないか!? 追っていた連中はどこに消えた!」


 恰幅の良い衛兵が、オレの肩をガシッと掴んで叫んだ。


 「は……? 追っていた連中?」


 「隠さなくてもいい! お前が保護したというあの黒髪の少年が、先ほど我々に事態を知らせてくれたんだ!」


 オレはピタリと動きを止めた。


 ユウが? 衛兵に知らせた?


 「あ、あいつは無事なのか!? 今どこにいる!」


 「安心しろ。少年は我々の詰所で安全に保護している。お前が忽然と姿を消したと聞いた時は肝を冷やしたが……」


 衛兵はさらに熱を込めて言葉を続ける。


 「お前ほどの剣士が、自分の拠点で迷子になるはずがない。つまり、お前は少年を危険から遠ざけるため、単独で街の怪しい輩の追跡に当たっていたのだろう!?」


 オレは思わず天を仰いだ。


 頭の中で、すべての点と点が、最悪の形で繋がった。


 (あの野郎……!)


 間違いない。


 あいつはオレとはぐれた後、自分が迷子になったとは微塵も思わず、こともあろうにこのオレを『迷子』として衛兵に捜索願いを出したのだ。


 そして、この生真面目な衛兵たちは、「ノクスが迷子になるわけがない」と勝手に深読みし、ありもしない追跡劇をでっち上げて、緊急配備を敷いてしまった。


 「ち、違う……! 頼むから落ち着いてくれ。追っている連中なんていない! オレはただ……その、連れの少年と、はぐれただけで……」


 「無理をするなノクス! お前が森の深部で二ヶ月近くも過酷な遭難生活を強いられていたのは知っている! 疲労を隠して危険な役目を一人で抱え込もうとするお前の悪癖だぞ!」


 ダメだ。完全に火がついてしまっている。


 オレが否定すればするほど、衛兵たちは「オレが街の治安を守るために孤軍奮闘し、彼らに気を使っている」という熱い勘違いを加速させていく。


 「……あー、くそっ……胃が……」


 「見ろ! やはりどこか不調を抱えているんだ! 早く彼を詰所へ! 少年も待っているぞ!」


 オレは激しい胃痛に呻きながら、衛兵たちに両脇を抱えられ、半ば引きずられるようにして大通りを歩かされる羽目になった。


 周囲の通行人たちが、「おお、あの“餓狼(がろう)”のノクスが……」「なんて痛ましい……」と、同情と尊敬の入り混じった視線を向けてくるのがたまらなく恥ずかしい。


 (ユウ……お前という奴は、本当に……!)


 あのマイペースで図太い少年の顔を思い浮かべる。


 おそらく今頃、自分を迷子だと微塵も疑わないあいつは、詰所の椅子にでも座って、のんきにお茶でも飲んでいることだろう。


 だが、この時のオレはまだ知らなかった。


 あの常識外れの少年が、オレが目を離したわずかな間に、スラムで没落貴族の少年と接触し、勝手に『オレの弟子』としてスカウトするという、さらなる頭痛の種を仕込んでいたことなど――。

【読者の皆様へ】

誰かがこの物語に目を留めてくださったこと、そして「面白かった」「続きが気になる」と楽しんでいただけることが、今の私にとって何よりの喜びであり、執筆の大きな力になります。

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