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第33話 大袈裟な巡回兵

 ボロ小屋を後にし、僕は再び活気に満ちた大通りへと戻ってきた。


 すれ違う人々は忙しなく行き交い、道の両脇には得体の知れない肉の串焼きや、色鮮やかな果実を並べた屋台がずらりと並んでいる。鼻腔をくすぐる香ばしいスパイスの匂いに、さっき食堂でステーキを二枚も平らげたはずの胃袋が再び小さく主張を始めた。


 (……とはいえ、まずはあの迷子を見つけないとな)


 僕は人混みを見渡しながら、小さく息を吐いた。


 灰色の髪という特徴はあるが、この入り組んだファンタジー世界の街並みで、あてもなく人探しをするのは極めて効率が悪い。下手をすれば僕まで道に迷ってしまい、コスパが最悪だ。


 地球にいた頃なら、こういう面倒なタスクはすぐに「交番」に丸投げするのが一番賢いやり方だった。餅は餅屋、迷子は警察だ。


 (この世界にも、お巡りさんみたいな人たちはいるよね)


 僕は周囲を見回り、広場の角で槍を持って立っている、革鎧を着た二人組の男たちを見つけた。門番と同じような装備をしているから、おそらくこの街の治安を維持する衛兵だろう。


 僕は彼らの元へと歩み寄り、大人の余裕を持った極めて理路整然とした態度で声をかけた。


 「すみません、少しよろしいですか。お仕事中に申し訳ないのですが」


 「ん? どうした坊主。親とはぐれたのか?」


 恰幅の良い衛兵が、少し身を屈めて尋ねてくる。


 僕はその呼び方をさらりと聞き流し、淡々と本題を切り出した。


 「いえ、迷子になったのは僕の連れの方です。二十代手前くらいで、灰色の髪をした青年です。背中に長剣を背負ってて、『踊る猪亭』という食堂を出たあたりではぐれました。剣士で背は高いんですけど、方向音痴みたいで……今頃、道に迷って心細い思いをしてると思うので、見つけたら保護してあげてくれませんか?」


 僕が地球のお巡りさんにお願いするような感覚で特徴をスラスラと述べると、二人の衛兵は顔を見合わせ、ピクリと眉をひそめた。


 「二十代手前で、灰色の髪……長剣を背負った冒険者?」


 「ええ。名前はノクスって言います」


 その名前を出した瞬間。


 衛兵たちの顔色が変わった。


 「ノ、ノクスだと!? お前まさか……門で報告のあった、ノクスが森から連れ帰ったっていう“孤児”か!?」


 衛兵が弾かれたように僕の肩を掴む。


 (なんだ、門番の人がもう情報を共有してくれてたのか。仕事が早いな)


 「はい、その孤児です。彼、ちょっと目を離した隙にどこかに行っちゃって。僕はこの街の地理に詳しくないので、衛兵の皆さんに探してもらえればと」


 僕が事情を説明すると、衛兵たちは信じられないものを見るような目で僕を見つめ、やがて険しい顔でひそひそと言葉を交わし始めた。


 「おい……ノクスが自分の拠点であるこのデュグラスの街で、道に迷うわけがないだろう」


 「ああ。それに、彼は面倒見のいい男だ。保護したばかりの子供を、こんな人混みに放置して姿を消すなんてあり得ない」


 衛兵たちが、急に深刻な顔で頷き合う。


 「つまり、迷子じゃない。目を離さざるを得ない“急を要する事態”に巻き込まれたに違いない。例えば、質の悪いスリやゴロツキを見つけて、単独で追跡しているとか……!」


 「あり得るな。最近、大通り周辺で怪しい連中がうろついているという報告もあった。もしノクスがそいつらと揉めているなら、加勢が必要だ!」


 (……え?)


 僕は思わず目を丸くした。


 なんだその飛躍した推理は。いくらなんでも深読みしすぎだ。方向音痴の迷子だって言ってるのに。


 「あの、普通に僕とはぐれただけで……」


 「心配するな坊主! ノクスは我々衛兵隊が必ず見つけ出す。お前はこれ以上ウロウロしてはいけない。俺たちの“詰所”へ来なさい。そこで安全に待っているんだ」


 恰幅の良い衛兵が、有無を言わさない保護者の顔で僕の背中を押した。相棒の衛兵は、すでに他の巡回兵を呼ぶために広場の奥へと駆け出している。


 (……ただの迷子の手配をお願いしただけなのに、なんであんなに大騒ぎしてるんだろう。この世界の人たちは、どうしてこう想像力だけは無駄に豊かで大袈裟なんだ)


 僕は衛兵に手を引かれながら、内心でやれやれと首を振った。


 とはいえ、プロの衛兵が本気で探してくれるなら、僕が歩き回る手間が省けた。しかも、安全で座れる詰所で待たせてもらえるなら、極めて好都合だ。まさに最高のコスパである。


 僕は衛兵にノクスの捜索を完全に丸投げできたことに深く満足し、図太く詰所でお茶でもご馳走になりながら待つことに決めた。


 今頃、あの迷子の戦士はどこでどうしているのか。僕には知る由もなかった。


【読者の皆様へ】

誰かがこの物語に目を留めてくださったこと、そして「面白かった」「続きが気になる」と楽しんでいただけることが、今の私にとって何よりの喜びであり、執筆の大きな力になります。

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