第28話 辺境都市デュグラス
連続投稿12話目です
本日分はこれで終了となります
デュグラスの街の防壁が目前に迫った頃、ノクスが突然立ち止まり、背負っていた荷物から予備の布とマントを取り出した。
「いいかユウ。門を通る前に、お前はその物騒な『黒鎌』をこの布で厳重に巻け。それから、このマントを被って、お前が着ているその魔獣の毛皮を隠すんだ」
「え? なんでですか。せっかくの僕の最高傑作の鎌が、ただの不格好な荷物になっちゃうじゃないですか」
「アホか! どこの世界に、そんな呪いでもかかってそうなドス黒い大鎌を剥き出しで持ち歩く子供がいるんだ! 衛兵に暗殺者か邪教徒だと疑われるだろ! いいから巻け! そしてお前は『森のごく浅い階層でオレを拾った身寄りのない孤児』という設定でいくぞ」
ノクスは僕の抗議を無視して、強引に『黒鎌』の刃を布でぐるぐる巻きにし、僕の上から少し大きめのマントをすっぽりと被せた。
(……全く、いちいち大袈裟なんだから)
僕は内心で文鎮のように重たくなった荷物に文句を言いながらも、大人しく「保護された哀れな子供」のフリをしてあげることにした。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
やがて、巨大な石造りの門へと辿り着く。
門の前に立っていた武装した衛兵たちが、僕たちの姿を見るなり目を丸くした。
「おい、嘘だろ……。ノクス!? “餓狼”のノクスじゃないか!!」
「よぉ。生きて帰ってきたぜ」
ノクスが片手を上げて笑うと、衛兵たちは信じられないものを見るような顔で駆け寄ってきた。
「てっきり、ギルドマスターが直々に手配した合同調査部隊ごと全滅したとばかり……! よく生きて……いや、血まみれの装備の一部だけが見つかったと聞いていたが」
「ああ、奇跡的にな。……部隊が強大な魔獣の群れに強襲されて散り散りになった後、命からがら森のごく浅い階層まで逃げ延びてぶっ倒れてたところを、この子に助けられたんだ。近所で薬草摘みをしてた孤児らしくてな」
ノクスが僕の肩に手を置く。
衛兵たちは、マントを被った小柄な僕を見て、納得したように頷いた。
「なるほど、浅層か。坊主、よくノクスを助けてくれたな。……しかしノクス、本当に運が良かった。お前らが調査に向かった例の標的……『白貌の死神』だが、お前が行方不明だったこの二ヶ月間で、街の噂がとんでもないことになっているんだ」
衛兵の言葉に、ノクスの顔つきがサッと険しくなる。
「……オレたちが消えた後でか。で、どんな噂になってるんだ?」
「ああ。お前らが行方不明になった後、森の様子を探りに行った別のパーティーや探索者たちが、森の中で『未知の魔法で異常な殺され方をした巨大な魔獣の死体』を次々と見つけたらしくてな。今じゃ誰も笑えない状況だ」
衛兵は声を潜め、周囲を警戒するように言葉を続けた。
「そいつは二足歩行の化け物で、見たこともない複数の獣が混ざり合ったような異様な胴体に、病的に白い『人間の顔』が張り付いているんだと……。しかも、獲物を惨殺する時に、この世界の言語ではない〈おぞましい呪いの言葉〉を叫ぶらしい。聞いた者は精神を病んでしまうほどのな。……本当に、そんな悪夢みたいなヤツに遭遇しなくて良かったな」
(……うわぁ、怖っ)
僕はマントのフードの下で、密かに身震いした。
複数の獣が混ざり合った胴体に、白い人面がついていて、わけのわからない呪いの言葉を叫ぶバケモノ?
そんなのがあの森の奥をうろついていたなんて。運良く僕の拠点周辺に来なくて本当に良かった。もし出くわしてたら、いくら僕の魔法(理の操作)でも無事じゃ済まなかったかもしれない。
「……確かに、そいつは背筋が凍るな。気を引き締めるよ」
ノクスも深刻そうに頷いている。
「よし、身元確認は問題ない。通っていいぞ!」
衛兵の許可が出て、僕たちはついにデュグラスの街の門をくぐった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「すごい……」
僕は思わず声を漏らした。
目の前には、石造りの家々が立ち並び、活気ある人々の声と、屋台から漂う肉や香ばしい油の匂いが満ちていた。
(塩とハーブ以外の匂いだ! やっぱり来てよかった!)
「ははっ、驚いたかユウ。これが人間の街だ。この街は防壁だけじゃなく、魔導師ギルドが張った強力な『多重結界』に守られている。どんな魔獣もこの街には入れない、絶対の安全圏さ」
ノクスが誇らしげに胸を張り、街を覆うよう空にうっすらと広がる半透明の光のドーム――結界を指差した。
(へえ、結界か)
僕は『識の原典』を起動し、その「強力な多重結界」を構成する純粋な情報(マナの編み目)を観てみた。
そして、数秒で解析を終え、内心で首を傾げた。
(……え? なにこれ)
確かにマナの量は多い。
でも、ただ無駄にエネルギーを垂れ流しているだけで、「物理的な衝撃の分散」も「熱源の遮断」も、構成式が穴だらけだ。
僕が洞穴の入り口に張っていた『理の固定化』による防衛フィルターの方が、よっぽど緻密で強固だった。この結界、さっきの『鉄甲熊』が本気で突進したら、三発くらいでパリィンと割れるんじゃないだろうか。
(……これが、人間の街の絶対の安全圏? 嘘でしょ?)
「どうだユウ、見惚れてるのか?」
「あ、はい。……すごいですね、色んな意味で」
僕は引きつった笑いを浮かべるしかなかった。
どうやら僕は、この世界の「平均的な魔法のレベル」について、とんでもない勘違いをしていたのかもしれない。
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