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第25話 大袈裟な戦士

連続投稿9話目

 森を進み続けて数時間。

 陽が落ち始め、周囲は急速に不気味な暗闇と冷気に包まれ始めていた。


 「ユウ、そろそろ野営の準備をするぞ。この森の夜は、文字通り死神が徘徊する時間だ。……どこか少しでも安全な場所を探さないと」


 ノクスが険しい顔で周囲を警戒しながら立ち止まった。

 彼の言う通り、夜の森は昼間よりも活発にマナ――ノクスがそう呼んでいた未知の粒子――が淀み、凶悪な熱源があちこちで動き始めているのが『識の原典(アーキタイプ)』を通して視える。


 「あ、ノクス。あそこの岩陰なんてどうですか?」

 

 僕は適当な窪地を指差した。


 ノクスが「少し見てくる、ここから動くなよ」と剣を抜いて警戒しながら窪地の中へ入っていく。

 その間に、僕は野営の準備を済ませてしまうことにした。


 (……地面が湿ってて冷たいな。ちょっといじろう)


 僕は窪地の土壌の「水分の理」を弾き出し、地面を完全に乾燥させた。

 ついでに風除けになるように周囲の岩の構造を少しだけ隆起させ、落ちていた湿った木の枝の「燃焼条件」を書き換え、煙が出ないようにセットする。


 大掛かりな攻撃魔法なんて使えない僕でも、これくらいの「生活魔法」なら『識の原典(アーキタイプ)』でサクッとできる。

 魔導師の平均レベル以下の僕でこれなんだから、この世界の魔法使いはもっと快適な野営をしているはずだ。


 さて、次は火起こしだ。僕は手慣れた動作で二つの石を打ち合わせた。

 『蒼炎』のような魔法を使える僕が、なぜわざわざアナログな火打ち石を使っているのか。

 理由は単純で、「何もない空間から、ちょうどいい火力の焚き火を生み出す方程式」をまだ組んでいないからだ。


 僕の魔法は、事前に『理の方程式』を完璧に構築しておく必要がある。

 現在、僕がゼロから炎を生み出せるのは、対象を焼き尽くす超高火力の『蒼炎』だけだ。

 ベースとなる法則が同じでも、そこから用途に合わせて新しく方程式を派生させるのは、地道な試行錯誤が必要な骨の折れる作業なのだ。

 もし即興で方程式を組んで失敗したところで、理に弾かれて「何も起きない」だけだが、わざわざ時間をかけて新しい術式を編み出すのはひどく面倒くさい。


 だから、石を打ち合わせて物理的な火花を出し、そこに森へ落ちた初日に作った『酸素と熱の増幅』の小さな術式を乗せる。

 これが今の僕にとって、一番手軽で確実なのだ。


 カチッ――シュボッ!


 三度目に石を打ち合わせた瞬間、微かな火花は僕の構築した術式に乗って一瞬で増幅した。

 パチパチと心地よい音を立てて燃える、暖かく煙の出ない焚き火が完成する。


 「よし、安全確認は終わっ……」


 戻ってきたノクスが、窪地の中を見るなり言葉を失い、石像のように固まった。

 視線が、乾いた地面、不自然に隆起した岩壁、そして無煙の焚き火を何度も往復している。


 「……ユウ。なんだ、これは……」


 「なんだって、今夜の寝床ですよ。火も点けました」


 僕が干し肉を齧りながら答えると、ノクスはわなわなと震える指で地面を指差した。


 「いや、そうじゃなくて……! なぜこんなに地面が乾いている!? ついさっきまで泥濘ぬかるんでいたはずだぞ! それにこの岩壁……さっきまでは無かった! まるで自然の防壁じゃないか!」


 (……え? なんでそんな当たり前のこと聞くんだろう)


 僕は首を傾げた。


 「湿ってたから乾かしたんですよ。冷たい地面で寝たら風邪ひくじゃないですか。壁があった方が風も防げるし、安全で快適でしょ?」


 「か、快適って……! オレはほんの数秒、奥を見ていただけだぞ!? 詠唱の声どころか、マナを練り上げる気配すら一切なかったのに、どうやって一瞬で地形を変えたんだ!? なにか特別な魔導具でも使ったのか!?」


 ノクスの声が裏返っている。

 さらに彼は、パチパチと燃える焚き火に顔を近づけ、目を剥いた。


 「この火! 煙が一切出ていない! 煙を出せば一発で魔獣に見つかるから、オレは火起こしをせずに夜を明かす覚悟だったというのに……!」


 (……なんだこの人、うるさいなぁ)


 僕は心底呆れて、小さく溜息をついた。

 戦士であるノクスが魔法を使えないのは知っている。

 でも、だからってちょっと土をいじって火を点けただけで、魔導具だなんだと大袈裟に騒ぐことないじゃないか。


 「……魔導具なんて使ってませんよ。ただのちょっとした魔法です。煙が出たら危ないなんて当たり前なんだから、出ないように燃やすくらい普通でしょ?」


 僕がやれやれといった態度で言うと、ノクスは

「魔法……? 今の現象を、すべて無詠唱で……?」

と呟き、膝から崩れ落ちるように座り込んだ。


 (……この世界の戦士って、魔法のこと全然知らないんだな。僕みたいな底辺レベルの地味な魔法でこれなら、本職の魔導師が巨大な火の玉とか撃つのを見たら腰抜かすんじゃないか?)


 僕は少しだけノクスを可哀想に思いつつ、マイペースに焚き火にあたった。


【読者の皆様へ】

誰かがこの物語に目を留めてくださったこと、そして「面白かった」「続きが気になる」と楽しんでいただけることが、今の私にとって何よりの喜びであり、執筆の大きな力になります。

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