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第17話 変な男

本日の連続投稿1話目

 男が目を覚ましてから、数時間が経過した。

 洞穴の中には、気まずい沈黙と焚き火が爆ぜる音だけが流れている。


(……お腹、空いた。でも、こいつの前で無防備に食べるわけにはいかないし……)


 僕は男から少し離れた岩場に座り、膝を抱えたまま男の様子を伺っていた。


 男――ノクスと名乗ったらしい人物(名前かどうかすら不明だが、先程までやたらと自分を指さしてその単語を連発してた)は、大人しく座っている。


 だが、その視線がずっと僕を追っているのがわかる。刺すような殺気はないが、なんだか「熱」のこもった、妙に重たい視線だ。


(……あ、そうだ。死なれたら困るんだった)


 洞穴の中で行き倒れになられたら、衛生的にも精神的にも最悪だ。僕は重い腰を上げ、備蓄していた干し肉と、薬草を煮出したスープを土器の器に盛った。

 もちろん、毒なんて入れていない。そんな余裕はない。


「……はい、これ。食べてください」


 僕は男の数メートル手前で立ち止まり、器を地面に置いて、それを足でズズズ……と男の方へ押し出した。

 近づきすぎて、いきなり首を掴まれたりしたら堪らないからだ。


「ーーー……。ーーー、ーーー?」


 男は僕のその失礼な態度を気にする様子もなく、器を見つめ、それから僕の顔をじっと見た。


(なんだよ、文句あるのか? 野蛮な盗賊の分際で、栄養バランスとか気にするタイプ?)


 すると男は、何を思ったか震える手で器を拾い上げ、一口もつけないうちに、それをまた僕の方へ差し戻してきたのだ。


「ーーー、ーーー。ーーー」


(……え!? 何、何してるの!?)


 僕は思わず後ずさった。

 男は穏やかな、どこか悲しげな瞳で僕を見つめ、自分の腹を叩くようなジェスチャーをしてから、また器を僕に差し出す。


(……まさか、『毒見をしろ』って言ってるのか!? それとも、『こんな不味いもん食えるか、お前が食え』ってことか!?)


 せっかく貴重な食料を分けてあげたのに、なんて傲慢な奴なんだ。

 僕はカチンときて、思わず語気が強まった。


「いいから、あんたが食べろって言ってるんです! こっちはもう食べたんです(嘘だけど)!」


「ーーーッ! ーーー……」


 僕の剣幕に驚いたのか、男は今度こそ器を口に運んだ。

 そして、一口飲んだ瞬間。


「ーーーッ!!」


 男の目が見開かれ、ボロボロと大粒の涙が器の中に落ちた。


(……ええっ!? そんなに不味かった!?)


 僕は衝撃を受けた。確かに、ただの薬草と魔物の肉を煮込んだだけの、味気ないスープだ。でも、涙を流すほど酷い味だっただろうか。


 男は泣きながら、必死に

「ーーー! ーーー!」

 と叫び、何度も僕に向かって深々とお辞儀をしている。


(……な、何なんだ、一体。不味すぎて情緒不安定になったのか? それとも、実はめちゃくちゃ感謝されてる? ……いや、そんなはずない。きっと、スープに文句を言いながら『次はもっと良いもん出せ』って脅してるんだ)


 僕は男の理解不能な反応に、完全に呆気に取られていた。

 さらに追い打ちをかけるように、食後、男は折れた肋骨を押さえながらふらりと立ち上がった。


(……っ、くるか!? 反撃か!?)


 僕はとっさに黒鎌の柄を握る。


 だが、男は僕の方へは来ず、おぼつかない足取りで洞穴の隅――僕が脱ぎ散らかしていた獣の毛皮や、素材の残骸が積み上がったコーナーへ向かった。


「ーーー、ーーー」


 男は吐息をつきながら、なんとその汚れた毛皮を一枚ずつ手に取り、慣れた手つきで「畳み」始めたのだ。


(…………はあぁ!?)


 思わず、素の声が漏れそうになった。

 何をしているんだ、この男は。


 瀕死の重傷を負っている奴が、他人の家の洗濯物みたいなものを勝手に整理し始めている。


 重傷なんだから寝ていろと言いたいのに、男は誇らしげに、整然と積み上げられた毛皮の山を指差し、僕を見て力強く親指を立てた。


(……怖い。この人、本当になんなの……!?)


 これまで出会った、問答無用で殺しにかかってきた連中とは全く違うベクトルで、この男は「予測不能」だった。


 警戒を緩めるわけにはいかない。でも、整頓された毛皮の山を見て、ほんの少しだけ

「あ、ちょっと綺麗になったな」

 と思ってしまった自分が、最高にしゃくだった。


 僕は男から目を逸らし、火の粉を散らす焚き火を睨みつけた。

 静かだった僕の城が、このわけのわからない「お節介な盗賊」のせいで、少しずつかき乱され始めている。


【読者の皆様へ】

誰かがこの物語に目を留めてくださったこと、そして「面白かった」「続きが気になる」と楽しんでいただけることが、今の私にとって何よりの喜びであり、執筆の大きな力になります。

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