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第16話 仮面の強者

(……うわっ、起きた。どうしよう……!)


 焚き火の向こう側で、灰色の髪の男が呻き声を上げた瞬間、僕の心臓は跳ね上がった。

 心臓の音がうるさすぎて、男に聞こえてしまうんじゃないかと本気で焦る。


 僕はツギハギの毛皮の下で全身を強張らせ、可能な限り無表情を装った。


 これまでの経験上、この世界の人間は出会い頭に問答無用で攻撃してくる野蛮な奴らばかりだ。下手に怯えを見せれば、一気に畳み掛けられて殺される。


 だから、僕は『識の原典アーキタイプ』をいつでもフル稼働できる準備を整え、没収した長剣を隠した場所を意識しながら、じっと男を睨みつけた。


「ーーー……?」


 男が何かを呟き、周囲をキョロキョロと見渡している。

 装備がないことに気づいたのか、その鋭い視線が僕を捉えた。


(くるか!? 武器がないのを承知で、飛びかかってくるか!?)


 僕は喉の奥で冷や汗を流しながら、男の指先の動き一つも見逃さないように凝視する。


 男は長身で、座っていても僕より頭一つ分は高い。俳優みたいな綺麗な顔をしてるけど、その体躯に詰まった筋肉の密度は、僕のようなガリガリとは比較にならない。


 素手でも、僕の首を簡単にへし折れるだけの「暴力」がそこにある。

 だが、男は飛びかかってくる代わりに、ゆっくりと両手を開いて見せた。


(……手の内を見せて、こっちを油断させるつもりか? いや、あの手の角度は、隠し持っている魔法の触媒か何かを即座に引き抜くための構えかもしれない)


「ーーー、ーーー。ーーー?」


 また、聞き取れない言葉。

 多分、僕の正体や、奪った剣のありかを問い詰めているんだろう。


 僕はあえて答えず、ただ「これ以上動けば容赦はしない」という意思を込めて、鋭い視線を向けたまま低い声で威嚇した。


「……勝手に動かないでください。これ以上近づいたら、泥沼に沈めますよ」


 もちろん、相手には意味不明な音の羅列にしか聞こえていないはずだ。

 それでも僕のトーンが伝わったのか、男はビクッと肩を震わせ、困惑したように黙り込んだ。


(よし、少しは牽制になったか。……っ、今度は何だ?)


 男は突然、座ったまま深く頭を下げてきた。


(お辞儀……? いや、まさか。これまで出会った連中を見れば、この世界にそんな礼節があるとは思えない。……分かった、頭を下げて視線を外したと見せかけて、床に何か細工をしようとしているのか? あるいは、僕の足元を狙った奇襲の予備動作か!)


 僕はさらに警戒を強め、男のわずかな重心の移動を『識の原典(アーキタイプ)』で観察する。


 だが、男はしばらく頭を下げたまま、何やら穏やかなトーンで「ーーー、ーーー」と呟き続けている。


(長い。何をブツブツ言ってるんだ。呪文の詠唱か? それとも、外にいる仲間に向けた合図か?)


 ようやく頭を上げた男は、僕をじっと見つめ、そして――。

 その端正な顔立ちを、力なく歪めるようにして微笑んだ。


(……笑った? この状況で? 瀕死の重傷を負って武器も奪われたのに、こっちを見て笑う余裕があるっていうのか……?)


 その笑みを見て、僕の背中に冷たいものが走った。


 これまでの魔物との戦いで学んだことがある。格上の強者ほど、獲物を前にした時に焦りを見せない。


 あの笑みは、僕のような「弱そうなやつ」の威嚇など、最初から全く脅威に感じていないという自信の表れなんじゃないか。


(……笑ってられるのも今だけだぞ。ここは僕の城だ。いざとなったら、出口の構造を崩して一生閉じ込めることもできるんだからな)


 僕は内心で震えながらも、表面上はどこまでも冷徹で、感情を一切排した「冷たい生存者」を演じ続けた。


 焚き火の爆ぜる音だけが響く中、男はそれ以上動く気配を見せず、ただ静かに僕の出方を伺っているようだ。


 僕は自分自身の正体をどう見せるべきか――圧倒的な力を持つ「森の主」として振る舞うべきか、それとも隙を見せない「狩人」で居続けるべきか、必死に悩み続けていた。


いかがでしょうか。

男を救っておきながらも、言葉が通じないことや過去の経験からユウは過剰に警戒してしまいます。

だからといって男に明確な害意があると断言できない状況では手出できないという状況を前エピソードのノクス視点と対比する形で描写しました。


【読者の皆様へ】

誰かがこの物語に目を留めてくださったこと、そして「面白かった」「続きが気になる」と楽しんでいただけることが、今の私にとって何よりの喜びであり、執筆の大きな力になります。

もしよろしければ、ページ下部にある星マーク(☆☆☆☆☆)から評価をつけていただいたり、ブックマークで応援していただけると本当に嬉しいです!

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