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第11話 野蛮な現地人

 森の空気の匂いが、微かに変わった。


(……獣の脂じゃない。鉄の錆と、なめした革……それに、人間の汗の匂い?)


 獣道を歩いていた僕は、ピタリと足を止めた。


 息を殺し、常時発動できる程度に薄く開いた『識の原典アーキタイプ』で、風に乗って運ばれてくる微小な粒子の乱れを読み取る。


 間違いない。

 僕以外の「人間」が、この森に入り込んでいる。


(……助かった。やっと、言葉が通じるまともな人間と……!)


 胸の奥で、冷え切っていた感情が熱く跳ねた。


 この狂った森に落ちてから、何ヶ月経ったか分からない。

 泥と血を啜ってきた孤独な日々に、ようやく終わりが来る。


 僕ははやる気持ちを抑え、気配を殺して匂いの元へと近づいていった。


 巨大なシダ植物の葉をそっと掻き分けると、少し開けた場所に三人の人影があった。


 革の鎧を着た大柄な男、弓を持った小柄な男、そして杖を持った女。

 地球のゲームで見たような、絵に描いたような冒険者の姿だ。


(……よし。まずは敵意がないことを示して、助けを求めよう)


 僕は安堵の息を吐き、茂みから一歩、彼らの前へ歩み出た。


「あ、あの……すみま――」


 その瞬間。


 僕の姿を見た三人の動きが、文字通り完全にフリーズした。


「――ッ!?」


 大柄な男の喉から、ヒュッと空気が漏れる音がした。


 彼らの視線が僕を捉え、極限の警戒と敵意へと染まっていくのが分かる。


「ーーーッ! ーーー、ーーー!!」


 大柄な男が、僕には全く理解できない言語で狂ったように叫び、腰の剣を引き抜いた。


 弓の男が震える手で素早く矢をつがえ、女が杖を掲げる。明確な殺意。


(……え? なんで武器を抜くの? まさか、盗賊……!?)


 僕は戦慄した。


 言葉が通じないのは異世界だから仕方ないにしても、丸腰(に見えるはず)のただの遭難者に向かって、いきなり問答無用で斬りかかろうとするなんて。


 地球の常識が通じない、血も涙もない野蛮な略奪者たち。


「ーーーッ!」


 弓の男が叫び、弦が弾かれた。


 空気を裂いて、鋭い鉄の矢尻が僕の眉間へと真っ直ぐに向かってくる。


(……やられる前に、やるしかない!)


 僕は『識の原典(アーキタイプ)』の焦点を絞り、迫り来る矢の運動エネルギーと大気中の粒子の流れを観測する。


 彼らは甲獣と違って思考できる人間だ。

 あの時のように反動を利用した攻撃法を使うには彼らの警戒心と心の防衛本能は強固過ぎるため僕の理は弾かれてしまうだろう。


 だが、それはあくまで直接肉体や生命に干渉する場合である。

 間接的に干渉する分には問題ない。


 ただ粒子を操作するだけでも防げるが、せっかくの「魔法使いデビュー」だ。

 それに、言葉が通じない相手には、圧倒的な力を見せつけて戦意を削ぐのが一番安全な防衛策だ。


 (……やってみたかったんだよね、こういうの)


 僕は右手の黒鎌を大きく横に薙ぎ払いながら、サブカルの知識(中二病)をフル活用して、あえて日本語で高らかに叫んだ。


「吹き荒れろ、不可視の刃――『ソニックブーム』!」


 もちろん、言葉自体に意味はない。


 黒鎌を振り抜いた物理的な「風圧」を起点とし、そこに風向操作のベース方程式を即座に代入する。


 粒子が流体力学を模倣して気圧差を強制的に圧縮し、鋭利な真空の刃へと変貌させたのだ。


 ガンッ!!


 僕の顔面に突き刺さるはずだった矢は、見えない風の刃に真っ二つに両断される。


「ーーーッ、ーーー!!」


 大柄な男が半狂乱になって、剣を振りかぶりながら突進してくる。


「大地の理よ、泥濘でいねいあぎとを開け――『マッドスワンプ』!」


 僕が視線を向けると同時、土壌操作のベース方程式が展開される。


 大柄な男のと弓の男の足元の土の粒子結合が粒子によって強制的に解かれ、一瞬にして底なしの泥沼へと変貌した。


 さらに後方にいた女が、必死に杖を振り魔法を使おうとしているのが見えた。


「凍てつく絶対零度の棺――『アイスコフィン』!」


 大気中の水分を女の杖の周囲に集め、粒子に強制的な「吸熱反応」を模倣させる。


 急激に熱を奪われた空間は一瞬で凝固し、パキィィン! という音と共に、女の杖と両手が分厚い氷の塊に包まれた。


「ヒッ……、ーーー……ッ」


 完全に無力化された三人。


 彼らは泥と氷に囚われながら、絶望に染まった目で僕を見上げている。


 ダメ押しだ。

 二度と僕を襲おうなんて気を起こさせないために、最大の威嚇を見せてやる。


 僕は大きく息を吸い込み、黒鎌を天高く掲げた。


「万物を灰燼かいじんに帰す、冥界の炎――『蒼炎』!!」


 対象は彼らではない。

 彼らのすぐ横にある、巨大な岩だ。


 僕は空気中の粒子を極限まで圧縮し、一点に摩擦熱を暴走させた。


 轟音と共に、岩の表面に数千度にも達する『青白い炎』が吹き上がる。


 圧倒的な熱量が周囲の空気を歪め、巨大な岩がドロドロの溶岩のように融解していく。


 熱波に当てられた三人の盗賊達は、ついに声すら出せなくなり、ガチガチと痙攣しながら白目を剥きそうになっていた。


(……ふぅ。ちょっとやりすぎたかな。でも、これで僕がただの獲物じゃないって分かっただろ)


 僕は「これ以上手出しするな」という意思を込めて、わざとゆっくりと黒鎌を肩に担ぎ、冷たい視線のつもりで彼らを見下ろした。


「ーーー、ーーーッ!!」


 女が泣き叫びながら、自らの手の皮が剥がれるのも厭わずに氷から手を引き抜き、泥から這い出た男たちと共に、なりふり構わず森の奥へと逃げ去っていく。


 武器すらその場に投げ捨てての、文字通りの命からがらな逃亡だった。


「……行っちゃった。はぁ、本当に異世界の人間って野蛮だな。いきなり襲いかかってくるなんて」


 僕は砕けた剣や投げ捨てられた杖を見下ろしながら、大きくため息をついた。


 もし僕が魔法を開発していなかったら、あの好戦的な盗賊たちに身ぐるみ剥がされて殺されていたかもしれない。命がいくつあっても足りない。


(……もっと魔法の精度を上げないと。こんな野蛮な世界じゃ、いつか本当に殺される)


 僕は身震いしながら、自分を守るための『理』の設定を誰もが付け入る隙が無いほどに完璧に磨き上げる決意を固めた。


魔法の詠唱や魔法名はユウのその場の思いつきです。

サバイバル生活にも慣れてきて余裕が出てきたユウは、魔法使いとしての雰囲気を楽しみたいから詠唱と魔法名を唱えてるだけです。

それらは魔法の発動や効果に対して全く意味はございません。


【読者の皆様へ】

誰かがこの物語に目を留めてくださったこと、そして「面白かった」「続きが気になる」と楽しんでいただけることが、今の私にとって何よりの喜びであり、執筆の大きな力になります。

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