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第1話 窓辺の傍観者

初めまして、本作を開いていただきありがとうございます!

今回が初めての小説投稿ということで、今ものすごくドキドキしながら公開しています……。

まずは物語の雰囲気を知っていただくため、序盤のキリが良いところまでは一気に連続で投稿していく予定です!

ちょっとズレた少年の異世界ライフ、少しでも楽しんでいただければ嬉しいです。よろしくお願いします。

 放課後の教室には、特有の匂いがある。

 チョークの粉っぽさと、誰かが置き忘れた体操着の汗の匂い。

 そして、半開きの窓から吹き込む生ぬるい風が混ざり合った、酷く停滞した空気だ。


 僕は自分の席に座り、文庫本を開いたまま、斜め前のグループが放つ眩いばかりの「青春」を観察(盗み聞き)していた。


「……でさ、駅前の新しいカラオケ、週末行かない?」


 声の主は佐々木君。クラスの太陽系、その中心で常に核融合を起こしているような、圧倒的な『陽』のオーラを放つ男子だ。


「あー、いいかも。田中も行くっしょ?」


「えっ、あ、うん。行く行く」


(……出た、田中さんの「〇・五秒の沈黙」。あれは心からの承諾じゃない。社会的な死を回避するための、防衛本能による反射だ。お察しします、田中さん。僕もその愛想笑いというダンス、踊りすぎて精神がもうボロボロだよ)


 視線は文庫本に固定したまま、脳内では勝手に分析のペンが走る。

 田中さんの引き攣った笑顔を、筋肉の動きや声のトーンから『構造化』して捉えてしまうのは、僕の昔からの悪い癖だ。

 おかげでこめかみの奥がちりちりと熱い。入ってくる情報が多すぎて、思考の処理能力が常に限界スレスレで稼働している。


(……でもいいな、誘われるだけ。僕なんてこの黒い学生服ブレザーを着たまま座ってたら、明日の朝まで誰にも気づかれずに、この教室の地縛霊として定着する自信があるよ)


 自嘲気味に息を吐いた、その時だった。


「お、黒沢。お前もこれから帰るの?」


 不意に、真上から声が降ってきた。

 心臓が口から飛び出しそうになるのを、僕は『規律正しい背景』としてのプライドで必死に押さえ込んだ。


 顔を上げると、鞄を肩に引っかけた佐々木君が、屈託のない笑顔でこちらを見ている。


(待て、落ち着け僕。これは抜き打ちの対人テストだ。佐々木君にとって僕は「視界に入ったから声をかけた」程度の存在、いわば村人A。ここで挙動不審になれば、明日からの僕の立ち位置は「無害なモブ」から「挙動不審な黒沢」へと変質してしまう……!)


「あ、うん。……そうだね。佐々木君も、これから帰る、の?」


 必死に脳内の辞書をめくり、最も「普通」で、かつ「友達になりたがっている感」を完全に隠蔽した、無難な言葉をひり出した。


「おう。じゃあな、また明日!」


「うん、バイバイ」


 ……終わった。


 佐々木君は軽く手を挙げると、それ以上僕に興味を示すことなく、自分のグループへと戻っていった。

 会話のラリーは、たった一往復。しかも相手の言葉をオウム返ししただけの、実質的な敗北だ。


 少し離れた廊下から、彼らの楽しげな笑い声が遠ざかっていく。

 誰もいなくなった教室で、僕は机に額を突っ伏した。


(……『バイバイ』って何だ。幼稚園児かよ。せめて「お疲れ」とか、もうちょっと高校生らしい語彙があっただろ、僕の馬鹿。今の不自然な間合い、佐々木君には「こいつ喋りにくいな」って認識されたに違いない。ああ、消えたい。今すぐこの教室の床の分子の隙間に分解されて吸い込まれたい)


 猛烈な自己反省会が始まり、精神の許容量が限界を迎える。

 他人の感情の矛盾や、その場の空気の『法則』は痛いほど見抜けるくせに、自分の出力はいつだって不器用で、一歩遅れる。


(……はぁ。ファンタジーの魔法とか使えたら、今の会話も時間を巻き戻して「あー、駅前のあそこ? 評判いいよね」とか格好良く返せるんだろうな……。いや、魔法があっても、結局コミュ力がなきゃ意味ないか)


 窓の外から、校庭の砂埃の匂いがした。

 パタン、と文庫本を閉じ、僕は重い通学鞄を手に取った。

 今日もまた、憧れた「青春」の輪には一歩も近づけないまま、僕の平穏で退屈な日常は終わる。


【読者の皆様へ】

誰かがこの物語に目を留めてくださったこと、そして「面白かった」「続きが気になる」と楽しんでいただけることが、今の私にとって何よりの喜びであり、執筆の大きな力になります。

もしよろしければ、ページ下部にある星マーク(☆☆☆☆☆)から評価をつけていただいたり、ブックマークで応援していただけると本当に嬉しいです!

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