第2話:将軍家の幼い姫は、隣の神童を独占したい
足利義輝の愛娘、千代姫は困惑していた。 彼女の父である義輝は、日ノ本一の剣豪として知られる。そんな父が、最近やけに熱心に「五歳の子供」の言うことを聞いているのだ。
その子供の名は、細川家の聡明。 千代と同じ年に生まれたはずなのに、彼はすでに数手先、どころか数年先の未来を見ているかのような瞳をしていた。
「……さとあきさま、またむずかしいかおをしてる」
御所の庭。千代が駆け寄ると、聡明は地面に図形を描き、独り言をつぶやいていた。
「……うん、やはりこの角度なら三好の連中の火縄銃は届かない。あとは御所の壁を石垣からコンクリート、いや漆喰の厚塗りで耐火性能を上げて……」
「さとあきさま!」 「おっと、千代姫。どうしたんですか、そんなに頬を膨らませて」
聡明が顔を上げると、千代はぷいっと横を向いた。
「ちよ、のけもの。お父さまとさとあきさま、ふたりでこっそり『とれーにんぐ』とかいうのをやってる。ずるい!」
「あはは、あれは上様の体を守るための秘策ですよ。千代姫には必要ありません。あなたは、僕が一生守りますから」
「……!」
聡明は無自覚だった。前世のサラリーマン時代、後輩を励ます感覚で言った言葉が、純真無垢な五歳児にどれほどの衝撃を与えるかを。 千代の顔が、一瞬でリンゴのように赤くなる。
「い、いっしょう……まもる……?」 「ええ、上様が天下を平定し、あなたが安らかに暮らせる世を作る。それが僕の……俺の役目ですから」
(……さとあきさま、かっこいい。でも、ずるい。そんなこと言われたら、ちよ、もうさとあきさまのことしか考えられないじゃない!)
1. 姫の「内助の功」はチート級?
それからの千代の行動は早かった。 「さとあきさまの役に立ちたい」と考えた彼女は、聡明が書いた「軍記」や「内政計画書」を勝手に読み始めた。
本来、五歳の姫に読める内容ではない。しかし、聡明に近づきたい一心で、彼女は異能(?)を開花させる。 「聡明の書く、未来の言葉(カタカナや漢字)を直感で理解する」という、ヒロイン専用の解読スキルだ。
ある日、聡明が資金繰りに悩んでいると、千代がひょっこり現れた。
「さとあきさま。この『ぎんこう』っていうの、ちよもてつだう。おしろの女中さんたちにお金をあずけてもらって、利子をつければいいんでしょ?」 「……え、千代姫、なんでその仕組みを理解してるの?」 「さとあきさまの考えてること、ちよにはぜんぶわかるもん!」
2. 幼い婚約者(仮)の誕生
この様子を見ていた義輝と細川藤孝は、遠くから目を細めていた。
「藤孝よ。聡明と千代、なかなかに良い仲ではないか」 「はは。聡明のあのような顔は、私にも見せませぬな。……上様、いっそ今のうちに婚約の約束をば」 「うむ。余の娘を任せられるのは、あの神童しかおらぬからな」
本人が知らないところで、外堀がマッハの勢いで埋まっていく。 聡明は、未来の技術で千代に「金平糖(当時の超高級品)」をプレゼントしながら、 (よし、千代姫も喜んでるし、これで幕府の未来は明るいな!) と、能天気に笑っていた。
その背後で、三好の刺客が「なんだあのガキどもは……幸せそうすぎて近寄れねえ……」と戦意喪失していることにも気づかずに。




