5話 相棒探し
「おはよう」
二人で寝るには少し狭いシングルベッドの上で、リリィに起こされ、俺はゆっくりと目を開けた。
視界いっぱいに広がる、あまりにも可愛すぎる存在。
「……天使」
「寝ぼけてるの?」
半眼でそう返され、思わず苦笑する。
昨夜は半ば気絶するように眠りに落ちた。どうやら、ようやく朝が来たらしい。
開け放たれたカーテンの向こう、空は淡い茜色に染まり、朝の光が街を優しく包んでいる。
窓の外では、川面がきらめき、商人たちが静かに露店の準備を始めていた。
まだ完全には目覚めきっていない街の空気が、どこか心地いい。
「おはよう、リリィ」
「おはよ! イブ!」
リリィはぴょこんと俺の膝の上に座り、満足そうに笑う。
その頭をそっと撫でると、くすぐったそうに目を細めた。
「今日は何するの?」
「街の最北部にある領主に会いに行こうと思う」
「りょうしゅ?」
「この街と、この辺り一帯を治めてる一番偉い人だね」
リリィは少し考え込み、こくりと頷いた。
「そんな人、会ってくれるの?」
「さあな。でも、行くだけ行ってみる価値はある」
俺はそう言って立ち上がり、リリィの手を取る。
「まずは朝ごはんだ」
「やった!」
匂いに釣られて一気に目を覚ましたリリィは、満点の笑顔で宿を飛び出した。
朝食を済ませ、身支度を整え、街へ出る。
すっかり目覚めたハーモンドは、昨日以上の賑わいを見せていた。
商人の呼び声、金属を打つ音、焼き立てのパンの香り。
それらが入り混じり、街全体が生きているかのように脈打っている。
「領主に会いに行く前に、装備を整えたいな」
「装備?」
「俺の武器と、リリィの服も新しくしよう」
「ほんと!?」
「もちろん」
服屋では、店員に半ば押し切られる形で、群青色のフード付きポンチョを購入した。
鏡に映った自分の姿を見て、リリィは少し照れたように、でも誇らしげに胸を張る。
「どう?」
「すごく似合ってる」
その一言で、彼女は一日分の元気を充電したかのように笑った。
次は俺の武器だ。
四軒ほど鍛冶屋を回ったが、どうにも心に引っかかるものがない。
大剣。
装飾過多な観賞用剣。
派手すぎる魔剣。
「うーん……」
「どうしたの、イブ?」
噴水前のベンチに腰掛けながら、俺はため息をついた。
「悪くはないんだけどな……」
「?」
「派手じゃなくていい。ただ――“手に馴染む一本”が欲しいんだ」
言葉にしてみると、自分でも少し驚く。
命を預ける武器だ。
見た目より、信頼できるかどうか。
そんなことを考えていると――
「おう。にいちゃん」
低く太い声に呼び止められ、思わず肩を跳ねさせる。
「さっきから見てたが……ずいぶん目が肥えてるな。その歳で、あの店を全部見て回るとは」
振り返ると、身長一四〇センチほどのドワーフが立っていた。
無骨な腕、煤に汚れた服、鋭い眼光。
まさに職人、といった風貌だ。
「……見てたんですか」
「武器も持たず、鍛冶屋を巡る若造なんぞ、嫌でも目に入るわい」
俺の様子を一瞥し、ドワーフは満足そうに頷いた。
「どうじゃ。わしの工房を覗いてみんか? 良い出会いがあるかもしれんぞ」
少し胡散臭い。
だが、不思議と嫌な予感はしなかった。
「……見るだけなら」
「十分じゃ」
そう言って、ドワーフは先に立って歩き出す。
メインストリートを外れ、細い路地へ。
石壁に囲まれた裏通りを抜けた先――
「ここじゃ」
一見すると古びた建物。
だが、漂う空気が明らかに違う。
扉を開けた瞬間、むわりとした熱気が全身を包んだ。
鼻をつく鉄の匂い。
カン、カン、と規則正しく響く金属音。
赤く燃える炉と、飛び散る火花。
薄暗い室内の壁一面に、無数の武器と工具。
剣、斧、槍、短剣、戦鎚――
どれもが、静かに、しかし確かな存在感を放っていた。
「……すげぇ」
「すごい……」
思わず、二人の声が重なる。
「ガッハッハ! そう言われると、職人冥利に尽きるわい」
ドワーフは豪快に笑い、工房の中心へ腰を下ろした。
「好きに見ていけ。
お前さんの“相棒”、きっとここにある」
その言葉に、胸がわずかに高鳴る。
俺は一振り一振り、剣を確かめるように視線を走らせた。
そして
この出会いが、俺の運命を大きく変えることになると、まだ知る由もなかった。




