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4話 夜の風

 石畳の通りを、俺とリリィは手を繋いで歩く。


 道端の露店。

 魔法道具を並べた行商人。

 金属音を響かせるドワーフの工房。


 それらすべてが溶け合い、街全体が穏やかな賑わいに包まれていた。


「すごい……きらきらしてる……」


 リリィはきょろきょろと忙しなく視線を巡らせ、小さく感嘆の声を漏らす。


 どれもこれも珍しいのだろう。

 そのたびに俺の袖を引っ張っては、目を輝かせる。


「イブ! あのパン! さっきのおじさんのと似てる!」

「本当だな。腹、減ってきたか?」

「……ちょっとだけ」


 控えめに言いながら、視線は完全に釘付けだった。


 思わず苦笑する。


「後で宿屋に行こう。ちゃんとしたご飯、食べような」

「ほんと!?」

「ああ」


 ぱぁっと花が咲いたように笑うリリィ。

 だが、次の瞬間、その表情がふと曇る。


「……でもイブ。私たち、お金ないよ?」


「大丈夫。ここは俺に任せておけ」


 そう言って、システムウィンドウを開く。

 右上の通貨表示――《124,000マル》。


「え!? イブ、お金持ち!?」

「まあな」


 ミスティア・オンラインでは、もっと持っていたはずだが。

 とはいえ、当面の生活費としては十分すぎる。


「すっごーい!!」

「ふふ。ここはお兄さんに任せなさい」


 そのまま、近くの宿へと向かい、受付で二人分の料金を支払う。

 一瞬だけ不思議そうな顔をされたが、構わず二人分。


 リリィの存在を、否定したくなかった。


「ごゆっくりお過ごしくださいませ」


 部屋の鍵を受け取り、扉を開ける。

 ふわりと、木の香りが鼻をくすぐった。


「わ……」


 思わず、声が漏れる。


 部屋は想像以上に広く、壁も床も温かみのある木材で統一されている。

 天井近くには淡い光を放つ魔法灯が浮かび、柔らかな明かりが部屋全体を包み込んでいた。


 奥には、ふかふかそうな大きなベッドが二つ。

 白いシーツは清潔で、枕からはほのかな洗い立ての香りが漂う。


「……すごい。おうちみたい」


 リリィが目を輝かせながら、部屋を見回す。


「ここなら、安心して休めそうだな」

「うん!」


 迷うことなくベッドへ駆け寄り、ぽすんと腰を下ろす。


「ふかふか……」


 そのまま倒れ込む姿に、思わず笑ってしまった。


―――――――


 その後、宿屋の一階にある食堂で食事を取った。


 リリィは、この小さな体のどこに入るのかと思うほど、よく食べる。

 俺の倍近い量を、嬉しそうに頬張る姿は、まるで小動物のようだ。


「美味しかった?」

「うん! 今まで食べた中で、一番美味しい!」

「はは……大袈裟だな」

「ほんとだよ!!」


 ―――――――


 部屋に戻ると、リリィはそのままベッドに飛び込んだ。


「もう寝るか?」

「……うん」


 あれだけ歩いたのだ。

 無理もない。


 俺も腰を下ろした瞬間、どっと疲れが押し寄せる。


 すると


「……一緒に、寝るの」


 気づけば、リリィが俺のベッドに潜り込んできていた。


「え」


 可愛すぎて、思考が止まる。


「そんなにくっつかなくても、どこにも行かないぞ」

「……わかってる。でも、不安なの」


 小さな声。


「また、ひとりになっちゃうんじゃないかって」


 胸が、ぎゅっと締め付けられた。


 この子には、今のところ俺しかいない。

 もし俺が消えたら、またあの森で、たった一人、誰かを待ち続けるのだろう。


「……どこにも行かない。約束する」

「……うん。約束」


 リリィは小指を差し出し、俺もそれに絡める。


 指切り。


 それが終わると、満足そうに俺の胸へと顔を埋め、すぐに小さな寝息を立て始めた。


 俺はその髪を、そっと撫でる。

 必ず、守ると、再度決意を固める。


 明日になったら、ハーモンドの領長に会いに行こう。

 何か、呪いの手がかりが掴めるかもしれない。


 うまくいく保証なんてない。

 けどなんとかなるだろう。

 それ以外の選択肢は、最初から存在しなかった。

 そう心に誓いながら、俺も静かに眠りへと落ちていった。


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