1話 始まりの空
――目の前に広がるのは,眩しい光だった。
草の匂いがする。風が肌を撫でる。
視界いっぱいに広がる青空が、やけに広い。
「学校は……
ていうかここ……」
やけに馴染みのある情景が目の前に広がるが,まだ完全には信じきれちゃいない。
だってありえないだろ? 俺が365日毎日プレイしてきたミスティア・オンラインの中なんて。
しかし、見渡せば見渡すほど。
「どうみてもそうだよな」
俺はしばらくその場で考え込んだが、俺に残された選択肢は受け入れる事くらいしかない。
ゲームの…… それも人生を賭けたと言っても過言ではないほどやりこんだゲームに俺は転生したと考えるのが道理だろう。
「まあ…… 何も知らない世界に飛ばされるよりはいいけどさあ」
ここが本当に俺の知るミスティア・オンラインだとしたら、俺にはとっておきのアドバンテージが存在する。
世界最速でレベルカンストした報酬で得たユニーク種
速度と回復の象徴。誰も到達できなかった“最速”の証明。
それに加えて,365日で得た知識と経験。
最強プレイヤーすぎませんかね(笑)
「ととっ…… まずは色々確認だな」
システムウィンドウ画面の開き方がよく分からず苦戦を強いられたが、シンプルに指で空をなぞるのがシステムウィンドウの開き方らしい。
どれどれ。
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◆ Status : イヴ・リメン
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種族:ユニコーン(ユニーク種族)
HP:120
MP:180
属性適性:光
固有特性:
・聖角(封印中)
・極光治癒(潜在)
・敏捷強化(潜在)
スキル:なし
称号:
・世界最速の到達者
異能覚醒度:0%
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レベル表記がない……?
それに、封印中? 潜在?
スキルもレベルもリセットされてるのか?
「まさか俺のセーブデータから、引き継ぎできたのは,プレイヤー名と種族だけ?」
上から下まで何度見直しても,それらしい情報は記されていない。
「……いた」
突然背後から小さな声がした。
振り向くと、丘の影に少女が膝を抱えて座っていた。
歳は10歳ほど。
白いワンピースの裾が草に触れて揺れる。
金色の髪は風に流れ、淡い紫の瞳だけがまっすぐ俺を見る。
「遅い!! ずっと待ってたのに」
少女は頬を膨らませ、身体をくねらせる。
まるで俺がこの世界に来ることを知ってたような話し方だな。
「きみ、名前は?」
少女は一瞬俯き、どこか泣きそうな顔で、それでも笑う。
「リリィ・リメン。私はイブのこと忘れてないよ」
言葉の意味が分からなかった。
俺たちは初対面だ。見覚えなんてあるはずがない。
なのに、俺の胸だけが強く脈打つ。
「みんな……私のことを忘れちゃう
けどね。信じられる? イブだけは私の事覚えて居られるんだよ! 本当に」
「えっと… 言いにくいんだけど,君と会うのは初めてじゃないか? 確かにこの世界の俺の名前はイブだけど」
リリィは俺の話に半ば被せるように話を始める。
「大丈夫だよ。 これからは私の事を忘れない。 だってそれが私たちの約束だから」
世界が静まったように感じた。
少女の瞳に映る俺はひどく頼りない。
が、彼女の瞳には俺しか映ってないように感じる。
疑問点はかなり多い。彼女は何故俺を知ってるんだ?
それに "リメン" という名前は、ゲーム内の名前検索でもヒットしたことのない俺だけの名前だったはず。
そもそもこの世界に転生させられたのが、俺以外にも存在するのか?
猜疑心に駆られながらも目の前のリリィが嘘をついてるようには見えない。
まずは現時点の状況から確認しよう。
「教えて、リリィ。ここは……どこなんだ?」
少女はゆっくりと空を見上げた。
青空は果てしなく広い。
まるで“新しい世界”が、俺たちを試しているようだった。
「――ここは、本当の世界だよ。
ゲームじゃない。夢でもない。
私が忘れられる“呪い”がある場所」
「本当の世界?」
「そう。私とイブ、2人の本当の世界」
どのくらいの知識、攻略、経験が役に立つかは分からない。俺は無力な一般人にしかなり得ないかもしれない。
しかし直感が、この子を守りたい信じたいって告げている。
「お願い、イヴ。
私を“忘れない世界”を、作って」
小さな手が俺の手を掴んだ。
その温度だけが、本物だった。




