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come read・・・0003 通り雨の約束
その日は少しだけ風が強かった。
海がざわめくたびに、夏海の髪は頬にまとわりついた。
「今日は、会えないかと思ったわ・・・」
防波堤の先に立つ雪乃が少し意地悪そうに言った。
「朝、迷って・・・ でも足が防波堤に向かってました」
「通ったら自然と風の声がわかってくるのよ」
雪乃の袋は空っぽだった。
「落とし物はゼロですか?」
「ひとつだけ拾ったよ」
彼女がポケットから取り出したのは小さなメモ用紙だった。
メモの端は雨に滲み、文字はほとんど、読めない。
「これ?」
「雨の日、誰かが書いた約束のメモ、置きざりにされて、濡れてしまったのだろうね」
夏海はメモの端に残った文字を見た。
《七時、防波堤で》
「待ち合わせだったのかな」
「でも来なかったけど、通り雨が全部洗い流した」
風の音に混じって潮の香りが強くなっていた。
「雪乃さん、そーゆーのは寂しくないの?」
「寂しいよ、でも思いがこぼれるのは誰かが本気だった証 私はそれがうれしい」
遠くの雲から光が差していた。
いつの間にか防波堤の上にあった寂しさは少しだけ薄らいでいた。




